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第10話 好感度クラッシャーの称号を与えたいと思う。

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 「花束だけでなく、王室御用達の店のケーキも一緒にどうだい??今日新作が出たばかりなんだ」

 クリス様がにこやかにそう話した。
 ここで、自分の家の系列店のお菓子屋さんの新作の話題を出すなんて、流石は商人の息子。

 「サラディナーサは、商機を逃さないよね」

 エドガーさまが少しつまらなそうにそう言った。今日はこちらに向かって来るときから始終不機嫌そうだったけれど、何かあったのだろうか?

 「サラディナーサは次の代でも安心そうだな」

 アルがそう言えば、クリス様は思い出したように苦笑すると、首を振った。

 「あぁ、いえ……家は妹が継ぐんです。私は騎士になりたいので」

 「大商家の長男としてはめずらしいだろう?けど、俺とまともに打ち合えるから、期待してくれていいと思う」

 将来の護衛騎士にどうだ?とニヤリと笑ったベルナドット様が、クリス様の肩を叩いて楽しそうに笑う。
 
 ――あら、意外。

 クリス様はどちらかと言うと細身である。一見荒事には向かなそうな雰囲気だったので、てっきり商家の次代としてアルに顔繋ぎに来たのかと思っていたのだ。でも、考えてみたら彼の父親とはお付き合いがあるのだから、紹介されるとすればそちらからが普通か……。
 良く見れば、クリス様の手はゴツゴツとした剣を握る人の手である。
 ベルナドット様がわざわざ紹介しようとするのなら、クリス様は相当優秀なんだろう。アルもそう思ったんだと思う。営業用の王子様スマイルじゃなくて、楽しそうに笑って聞いていたのだから。
 
 「そうなのか。なら、君に守って貰う日が来る事を楽しみにしているよ――クリス――と呼んでも?」

 「っ!光栄です、殿下」

 家名で無く、名前を呼ぶという行為は「これから親しくしよう」という意味である。要は、学友としてこれから仲良くしようねって事。つまり、今この瞬間に、クリス様の将来は開けたといっても良い。
 実力と素行に問題が無ければ、アルはクリス様を自分の護衛騎士の一人にするだろう。
 クリス様は目元を少し興奮したよう赤く染めて、に勢い良く返事をしていた。とても嬉しかったんだと思う。

 「学園だし、アルフリードでも良いよ?」

 「――流石にそれは――せめてアルフリード殿下と呼ばせて頂いても?」

 暫くの押し問答の後、呼び捨ては無理と言い切られて、アルのアルフリード殿下呼びが定着した――私の方は、ローゼンベルク嬢と呼ばれる事になりました。令嬢の名前呼びは基本家族、婚約者や夫じゃ無いと不適切って怒られるんだよ。まぁ、致し方無い。それがこの世界の常識だし。
 私の方はクリス先輩と呼ばせて貰う事になった。それから、少し雑談した後アルがエドガー様にこんな質問をした。

 「そう言えば、エドガー。私はてっきり君が首席だと思っていたんだけれど、一体どうしたんだ??」

 確かにゲームの中で彼は首席に次ぐ次席だった筈だ。それで、首席になったヒロインに最初は反発しているって設定だったし。順当に考えればヒロインが首席じゃ無いのなら、次席のエドガー様が首席になるはず……。あれ?確かにどうしたんだろう……?
 アルの問いかけに、エドガー様は苦虫を噛み潰したような顔をして唸った。その様子を見たベルナドット様の肩が揺れている。どうやら笑いを堪えてるみたい?彼は理由を知っているようだ。
 そんなベルナドット様をエドガー様がキッと睨む。その後、不貞腐れた顔で、小さく叫んだ。

 「酷い目にあったんですよ!」

 思い出すのも苛立たしい。エドガー様はギリギリと歯ぎしりが聞こえそうな顔をして低く唸る。
 どうやら、試験の最後の教科を落したらしい。何でそんな事になったかって??

 答:エドガー様が落したペンを拾った女子がいたから。

 その女子が何かしたのか?と言えば、はいでありいいえだ。
 彼女がした事は、ペンを拾った後――エドガー様にしつこく迫った事だけ。婚約者がいるっていっても聞いてくれず、あまりのしつこさにエドガー様は逃げて彼女を撒いたらしい。
 そこで終われば良かったんだけど、撒けた事に安堵した瞬間、階段から足を踏み外して気絶――保健室へGO。結果最後の試験を受け損ねて首席の座を逃したそうな……。
 そこまで、話を聞いた私は思わずアルと顔を見合わせて目配せをし合った。
 
 ――これって絶対そうだよね?? 

 何やってるの?ヒロイン。
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