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閑話 エリシャ・ネージュ

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 あぁ、どうして……

 言葉はもう届かない。
 何故なら彼女は私の話を聞く気が無いから。最初は届いていた声も、成長して心が乖離していくにつれてどんどん届かなくなってしまった。もう一人の私――エリシャ・ネージュ。
 最初は認めたくなかった。あんな自分勝手な子が私自身だなんて。だから、身体を盗まれてしまったんだって思っていたの。けど、違った。彼女は私――私もまた彼女の一部……。
 二重人格に近い気もするけれど、正確には少し違う気がする。私達は元々一つだったけれど、互いを認められなくて分かれてしまった双子のような存在。しかも、分かれた癖にその魂は一つだけ――同じ魂の中に精神が二人……。
 もっと早くに思い出せていれば――何か違っただろうか……?変える事が出来たかな??

 私は、神様に願い事をしたのです。

 神様は、私がかつての生で行った善行の分――、78回の機会を下さいました。
 一回目、失敗――二回目――失敗、三回目――後少しの所で失敗――四回目、五回目、六回目、七回目、失敗、失敗、失敗失敗―――……。
 
 私はただ、恩を返したかっただけなのに。
 状況は捻じれてゆきました。
 転生する度に、記憶を無くし――優しい人生を送りたかっただけなのに――幸せにしたかっただけなのに。
 
 何故でしょう?

 私が行動する度に、不幸を生むのです。
 ある生では、幸せにしたい筈の人を傷つけました。またある生では、私の所為で幸せにしたい人が死にました。またある生では、幸せにしたい人達の絆を引き裂きました。
 優しい生もあったけれど、その全てが最後は不幸に終わりました。
 
 どうしてどうしてどうして?

 神様を呪う思いが産まれました。
 機会を与えて下さった方になんて恩知らずな事でしょう。神様を呪う心とそれを責める心――精神こころが引き裂かれるような気持ちでした。
 そうして私は私達ふたりになったのです。

 神様への感謝を捨てず、恩を返そうとする『私』
 神様を呪い、恩を受けた事実を捨てた『彼女』

 どちらが魂の前面に出るかはその時次第。最初から彼女の事もあれば、私だった事も――そして今回のように途中で変化する事もありました。
 彼女と精神が別れてしまってから私の望みはより遠くなりました。
 それでも最初の頃はまだ良かったのです。
 彼女は、転生する度におかしくなって行きました。幼い頃はまだ良いのです。周囲の環境にもよりますが、普通の子供と変わりません。けれど、だんだんおかしくなって行く――狂化していくんです。
 人の話を聞けなくなり、自分だけの世界を作り――それ以外の事を認めない。我儘で、自己中心的、そして周囲に破滅を振りまいて行く――。
 前世で、狂化は進み精神汚染の浸食度は上がってしまいました。あんなことをしたのです。当然でしょう……。
 もし今生、最初から表に出ていたのが彼女だったなら、とうに壊れていたと思うのです。そうならなかったのは、最初に表に出ていたのが私だから……。
 けれど、崩壊へのトリガーは引かれてしまった。
 彼女がこれからしようとする事は、きっとこの世界に毒を振りまく事になるでしょう。

 私は決断をしなければなりません。

 恩を返すと言う事を諦める決断。私達・・を諦める決断。そして――彼女を絶対に止めると言う決断を――。
 ごめんなさい――……。
 遠い昔に、同じように謝りながら泣いた事を思い出しました。そしてあの時もそれを伝えられなかった事を――……。
 ごめんなさい、ごめんなさい――お義父さん、お義母さん――けど、今度こそ――……きっと――きっと――……
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 一つの魂が分裂した為に、ホワイトブラックに分かれたと言う事で……。
 次回から、本編へ戻ります!

 それから大賞ポイントが確認できるみたいだったので、見て来ました!
 私の予想以上にポイントを投票して頂けて、びっくりしましたが、とても嬉しいです!!二度見しました(笑)第14回恋愛小説大賞、ご投票ありがとうございましたm(_ _)m
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