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第32話 ヒロイン警報を発令したい。

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 休み時間を警戒していたのだけれど、ヒロインは現れなかった。
 正直、構えていた分ちょっと拍子抜けである。それが何故かを知れたのは次の休憩時間、職員室にベルク先生を訪ねた時のことである。

 「エリシャ・ネージュの事ですかね……」

 まだ午前中なのに、疲れ果てた先生の姿がそこにあった。
 
 「えぇ――朝、校門にいたようなので――……既に何かあったんですね??」

 「朝礼の鐘が鳴っても門にいて遅刻したようです。『おかしいわ!なんで皆、来ないの?』と言っているとDクラスの担任から相談を受けまして……」

 DクラスEクラスは通常、ベテランの先生が担任になる。けれど、Dクラスに関しては担任の先生が急なぎっくり腰で暫くお休みだそうで、副担任である新任の先生が現状担任となってる訳なんだけれど……ヒロインの謹慎理由が謹慎理由で戦々恐々しているらしい。それで、先輩であり――その問題が起こった時に対応していたベルク先生に助けを求めた――というより丸投げ?したらしい。
 ヒロインは休み時間に緑の髪の女子生徒に付き纏って『攻略情報をよこしなさいよ!』とかやっていたらしいので、ベルク先生の手配の元――謹慎明けなのに個室で授業って事になったらしい。

 緑の髪って、サポートキャラのあの子だよね?

 うわぁ、それはお気の毒な――。ヒロインにとってはサポートキャラでも、当の彼女にとっては見知らぬ――しかも奇行を目撃してベルク先生を呼びに行った位だから、係わりたく無い他人である。
 そんな相手に『攻略情報寄こせ!』と追い回されるなんて……大丈夫だろうか?
 ヒロインへの対応はベルク先生と学年主任、それから、何人かの先生で持ち回りしていたらしい。御苦労さまです……。
 いっそ、謹慎期間延長はどうかという話が他の先生方の中からチラホラ聞こえてきてるみたい。ただ、学園長が暫く不在という状況らしくって、職員会議が開けないので保留だそうです。
 で、ベルク先生が何でこんなに疲れているかと言うと、ヒロインが『攻略』しようとして来たらしい。

 「流石に、胸元を寄せて上目づかいで近寄って来た時には逃げ出しましたが……」

 マジですか――……。正確には近寄って来たというより抱きついて来ようとしたらしい。
 ヒロインはどう言うつもりだったんだろう??色気(?)で籠絡しようとしたのか、襲われたとか言って既成事実をつくろうとしたのか?どちらにしても迷走感がハンパ無い。
 身の危険を感じたベルク先生は、逃げて他の先生方と協議する事になったと言う。男性教師を全員外すか、女性教師とペアを組みヒロインを指導するか――。結果、女性だけだと、ヒロインに対応しきれる気がしないと女性教師達から言われてしまい二人体制でヒロインを監視する事になったそう。

 「攻略対象の私相手にだけ特にオカシイと説明できれば良かったんですがね。そう言う訳にもいきませんし。今の彼女への教師陣の印象は最悪ですよ。好みの男性教師と、ありもしない既成事実を作ろうとする危険人物扱いですね」

 幸いと言うべきか、この件があったのでベルク先生はヒロインの担当から外されたらしい。ベルク先生は他の先生方に申し訳ないと言う気持ちがあるらしいけれど、先生がヒロインの担当を外れる事ができて良かったと私は思う。
 ヒロイン一人相手に時間と人の手間が掛かり過ぎてる感じがあるけれど、生徒の処遇を決めるのが会議での決定が在りき――という状態なので無理なんだそう……。
 暫くは先生達が大変そうです。

 「なので、暫くは休み時間は警戒しなくても大丈夫じゃないでしょうか?後は、朝の通学ですが、クリス君とエドガー君は今日は裏門から登校したようですね?これからもそれを続けましょう」

 「当面はそうするしかないでしょうね。けれど、油断は出来ないですが……」

 ベルク先生の言葉にアルが頷いてからそう話す。

 「えぇ、私達が寮生である事や、他の方達が裏門から登校されている事がバレてしまう可能性もあるでしょうし……」

 私も頷きながら、そう続ける。
 周囲の人達に私やアルが寮生な事や、他の人達が裏門から通学する事を口止めしている訳じゃ無いからね。噂でも小耳に入れば、バレる可能性もある。
 それに、ずっと校門を張ってるのに会えないとなれば流石のヒロインもおかしいって気が付くんじゃないかな?

 「まぁ、彼女はあの行動の所為で友達になろうという人間もいませんし情報の仕入れようが無いですから、暫くは大丈夫だと思いたいですね……」

 ベルク先生はそういって大きな溜息を吐いた。
 ヒロインに対応している先生達のその間の進まない仕事は、対応していない先生達が分担してこなすらしいので、学園の先生全体が大忙しな模様――。ベルク先生も、この先の事を考えると頭が痛いらしい。
 学園長に早く帰って来て欲しい所だけど、運の悪い事に、故郷の親しい友人が亡くなった為の急な帰郷で、その葬儀に出席したらそちらで嵐に遭遇し足止めされて何時戻れるかが分からない――という状況だそうです。
 学園長が悪い訳じゃないんだけど、職員室の空気は――嵐よ去れ――!!崖崩れの復旧早く!!って言う切実さで一丸となっているのが見えるようだった。何の足しにもならないとは思うけど、学園長が一日も早く帰って来る事を私も祈っている――。
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