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第40話 現状報告。宝物庫はダンジョン(?)らしい。
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「多重人格っていうのを――否定は出来ないけどね……。だけど、何か違う気がするんだよねぇ。こればっかりは直感みたいなものだけど……」
ヒロインが多重人格なのかについては、上手く説明出来ないけれど違和感があるとウォルフ先輩はそう言って、考え込んだ。
その感覚は少しだけ分かるような気がした。私もヒロインが多重人格者だと言われると、小骨が喉に引っかかるような違和感があったから。
アルもそうだったのだろうか……。考えるようにして、腕を組んでいる。
「まぁ、そんな結論出しようも無い事、考えててもしょうがないんじゃないか?」
「確かにね。考えるだけ無駄だよ」
ベルナドット様の言葉に、エドガー様が同意をして頷いている。確かに、結論が出ないと分かってる事を考え続けても仕方が無い。まさかヒロインに聞いて確認するわけにもいかないし……。
「そうだな……、済まない、余計な事を言ったようだ。その件は記憶の片隅にでも置いておいてくれ。次の報告を聞きたい」
アルはそう言って、片手をあげて謝意を表した。余計な事を言って場を混乱させたって意味らしい。その姿に他の皆で目を瞑って少しだけ頭を前に傾ける。『お気になさらず』と言う合図だ。
これは貴族の習慣である。基本的に『王族は頭を下げない』ので、手の動きで謝る気持ちを伝える事がある。
私達は習慣になっててそう動いたのだけれど、クリス先輩やダグ君、ウォルフ先輩も流れるような仕草でそれをしていて少し驚いた。
アルは、微笑むとまずクリス先輩の方を見た。
「――それでは、私の方からの現状の報告をさせて頂きますね。アルフリード殿下のお力添えもありましたから――父からの協力は無事に取りつけました。今、信用できる伝手を辿って代々薬師の家系である方達から情報を集めて貰っていますが、やはりすぐには見つからなさそうです」
この国に於いて、古い薬師は口が堅い。
基本的に、司法からの強制的な介入が無い限り、依頼者やどんな薬を求めたかという情報を喋る事は無い。逆にそうでない者達が古い薬師と呼ばれる事は無いと言える。
昨今多い、街の薬師と違い、代々秘匿された薬剤の調合方法を持っており、その多くが一子相伝。書物などに調合が残されているものもあるけれど、重要なものは紙に書き残さないらしい。すなわち口伝である。
それが故に、失伝したり絶えて失われた技術と言うものも存在するのだと言う。
だから、最近は技術の『保護』を謳って開示されている調合法を学ぶ学校ができている。街の薬師が増えて来ているのはそのためだ。
「一子相伝の方達が多いので、師匠筋から師匠筋へと辿れないのと、秘匿された薬などがある為か横の繋がりが薄くて――有名な方達はすぐに連絡が取れるのですけどね……」
どうやら、隠棲するように暮らしてらっしゃる薬師の情報が入り難いらしい。
古い薬師にも色々いるらしくって、村に暮らす医師代わりの薬師と、隠棲して法律に抵触しない軽い媚薬や、不妊治療の為の薬を調合する薬師に分かれているそうで、今回用があるのはどちらかというと隠棲している方なのだ。
けれど、デリケートな案件を扱う事が多い為に情報が少ないと……多分口コミとか、一見さんお断りの仕様になってるのだと思われた。
「成程――その薬師を訪ねる理由の性質上、客側の口も堅くなる訳か……手間をかけさせるけど、そのまま宜しく頼む」
あぁ、そうか。
その薬師に心当たりがあっても、その店を利用したのかもしれない――と思われるのが嫌で、教えてくれない場合もあるのか……。アルの言葉にそれに気が付いた。うん、難しいね……。
お忍びで、こう言う薬師を利用するのは大抵貴族。貴族なら、こういった事は隠すものだ。なら、情報を集めるのには時間がかかるだろうなぁ……。
「――これは俺からの報告になるけれど、父と話をしたよ。色々事情があって、父の方には『魔女』の話が伝わってなかったらしい。俺の方から伝えたから、現在は把握しているから問題ない。予防措置としての術具に関しては、宝物庫に存在はあるらしいけれど、随分昔のものらしくて現在探して貰っている。ただし、発見には時間がかかりそうだ。禁術の本等に関しては、悪用された事があるので破棄されたらしい。エドガー……術具の方はどんな感じかな?」
お、これは少しだけ朗報かな?
禁術の本が無いのは残念だけど、術具は捜し出せれば『ある』んだものね。
それにしても、アルが『魔女』の話が陛下に伝わってなかったって言った時、ベルク先生が複雑そうな顔をしてたんだけど、どうしたんだろう??
まぁ、特に口に出して無いから、大したことじゃ無いのだろうと思うけど……。
「――魅了は状態異常の一部と解釈できるから、それらの魔術の解術法を組み込んで試作品は作ったよ。現状、強い媚薬程度なら解除できるけどね――正直、実際の禁術に対しての試験が出来ないから何処までの効果が出るのか分からない。例の魔術書が見つかるか、宝物庫から、術具が出て来てくれれば楽なんだけどさ。術の構造を詠みとって術具に応用するだけで済むからね」
「確かに、実験のしようが無ければ実証できませんね……」
エドガー様の言葉に、クリス先輩が頷く。ベルナドット様が「確かになぁ……」と同意を示せば、他の皆からも宝物庫から術具が出て来るのを待つ方が確実ではないかと言う空気が流れた。
「一応、効果がありそうな術式の構築作業はすすめておくよ。出て来る術具と上手い事合わせれば相乗効果が狙えるかもしれないし」
「そうだな――、当面はそれで頼むよ。早く、術具が出てくれば有難いんだが……実は俺も入った事が無いから知らなかったんだが、あそこは魔物の出ないダンジョンと変わらないらしくて――すぐには出て来ないと思う……」
宝物庫に人出をもっと出せれば楽なのだろうけれど、アル曰く、問題なのが宝物庫のダンジョン化なんだって。
元々、古代遺物を使って作られた宝物庫であるらしく、中に入ると異空間に繋がってるそうだ。つまり、お城の外観から想像する宝物庫よりも非常に広大な訳です。
何層にも分かれたそこは、迷子になるなら序の口で……やたらめったらに動かせない危険物も入ってるようなので下手に人を投入出来無いのだとか。結果、管理をしている狼獣人の一族総出で探してくれているらしい……。
彼等は、野営の準備を整えて潜っているそうだ。――野営、しなきゃダメなんだ??どれだけ広いんだろう、宝物庫――。
大変そうだなぁと思ったけれど、当の狼獣人さん達は『これを機会に、宝物庫の地図を更に拡充させるぞ!』と嬉々として探してくれているようなので、彼等としては問題無いようだ。ありがたい話である。
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明日は書く時間が取れないかもしれないので、更新出来ない可能性が高いです。済みませんm(_ _)m
本日も、読みに来て頂きありがとうございました!!
ヒロインが多重人格なのかについては、上手く説明出来ないけれど違和感があるとウォルフ先輩はそう言って、考え込んだ。
その感覚は少しだけ分かるような気がした。私もヒロインが多重人格者だと言われると、小骨が喉に引っかかるような違和感があったから。
アルもそうだったのだろうか……。考えるようにして、腕を組んでいる。
「まぁ、そんな結論出しようも無い事、考えててもしょうがないんじゃないか?」
「確かにね。考えるだけ無駄だよ」
ベルナドット様の言葉に、エドガー様が同意をして頷いている。確かに、結論が出ないと分かってる事を考え続けても仕方が無い。まさかヒロインに聞いて確認するわけにもいかないし……。
「そうだな……、済まない、余計な事を言ったようだ。その件は記憶の片隅にでも置いておいてくれ。次の報告を聞きたい」
アルはそう言って、片手をあげて謝意を表した。余計な事を言って場を混乱させたって意味らしい。その姿に他の皆で目を瞑って少しだけ頭を前に傾ける。『お気になさらず』と言う合図だ。
これは貴族の習慣である。基本的に『王族は頭を下げない』ので、手の動きで謝る気持ちを伝える事がある。
私達は習慣になっててそう動いたのだけれど、クリス先輩やダグ君、ウォルフ先輩も流れるような仕草でそれをしていて少し驚いた。
アルは、微笑むとまずクリス先輩の方を見た。
「――それでは、私の方からの現状の報告をさせて頂きますね。アルフリード殿下のお力添えもありましたから――父からの協力は無事に取りつけました。今、信用できる伝手を辿って代々薬師の家系である方達から情報を集めて貰っていますが、やはりすぐには見つからなさそうです」
この国に於いて、古い薬師は口が堅い。
基本的に、司法からの強制的な介入が無い限り、依頼者やどんな薬を求めたかという情報を喋る事は無い。逆にそうでない者達が古い薬師と呼ばれる事は無いと言える。
昨今多い、街の薬師と違い、代々秘匿された薬剤の調合方法を持っており、その多くが一子相伝。書物などに調合が残されているものもあるけれど、重要なものは紙に書き残さないらしい。すなわち口伝である。
それが故に、失伝したり絶えて失われた技術と言うものも存在するのだと言う。
だから、最近は技術の『保護』を謳って開示されている調合法を学ぶ学校ができている。街の薬師が増えて来ているのはそのためだ。
「一子相伝の方達が多いので、師匠筋から師匠筋へと辿れないのと、秘匿された薬などがある為か横の繋がりが薄くて――有名な方達はすぐに連絡が取れるのですけどね……」
どうやら、隠棲するように暮らしてらっしゃる薬師の情報が入り難いらしい。
古い薬師にも色々いるらしくって、村に暮らす医師代わりの薬師と、隠棲して法律に抵触しない軽い媚薬や、不妊治療の為の薬を調合する薬師に分かれているそうで、今回用があるのはどちらかというと隠棲している方なのだ。
けれど、デリケートな案件を扱う事が多い為に情報が少ないと……多分口コミとか、一見さんお断りの仕様になってるのだと思われた。
「成程――その薬師を訪ねる理由の性質上、客側の口も堅くなる訳か……手間をかけさせるけど、そのまま宜しく頼む」
あぁ、そうか。
その薬師に心当たりがあっても、その店を利用したのかもしれない――と思われるのが嫌で、教えてくれない場合もあるのか……。アルの言葉にそれに気が付いた。うん、難しいね……。
お忍びで、こう言う薬師を利用するのは大抵貴族。貴族なら、こういった事は隠すものだ。なら、情報を集めるのには時間がかかるだろうなぁ……。
「――これは俺からの報告になるけれど、父と話をしたよ。色々事情があって、父の方には『魔女』の話が伝わってなかったらしい。俺の方から伝えたから、現在は把握しているから問題ない。予防措置としての術具に関しては、宝物庫に存在はあるらしいけれど、随分昔のものらしくて現在探して貰っている。ただし、発見には時間がかかりそうだ。禁術の本等に関しては、悪用された事があるので破棄されたらしい。エドガー……術具の方はどんな感じかな?」
お、これは少しだけ朗報かな?
禁術の本が無いのは残念だけど、術具は捜し出せれば『ある』んだものね。
それにしても、アルが『魔女』の話が陛下に伝わってなかったって言った時、ベルク先生が複雑そうな顔をしてたんだけど、どうしたんだろう??
まぁ、特に口に出して無いから、大したことじゃ無いのだろうと思うけど……。
「――魅了は状態異常の一部と解釈できるから、それらの魔術の解術法を組み込んで試作品は作ったよ。現状、強い媚薬程度なら解除できるけどね――正直、実際の禁術に対しての試験が出来ないから何処までの効果が出るのか分からない。例の魔術書が見つかるか、宝物庫から、術具が出て来てくれれば楽なんだけどさ。術の構造を詠みとって術具に応用するだけで済むからね」
「確かに、実験のしようが無ければ実証できませんね……」
エドガー様の言葉に、クリス先輩が頷く。ベルナドット様が「確かになぁ……」と同意を示せば、他の皆からも宝物庫から術具が出て来るのを待つ方が確実ではないかと言う空気が流れた。
「一応、効果がありそうな術式の構築作業はすすめておくよ。出て来る術具と上手い事合わせれば相乗効果が狙えるかもしれないし」
「そうだな――、当面はそれで頼むよ。早く、術具が出てくれば有難いんだが……実は俺も入った事が無いから知らなかったんだが、あそこは魔物の出ないダンジョンと変わらないらしくて――すぐには出て来ないと思う……」
宝物庫に人出をもっと出せれば楽なのだろうけれど、アル曰く、問題なのが宝物庫のダンジョン化なんだって。
元々、古代遺物を使って作られた宝物庫であるらしく、中に入ると異空間に繋がってるそうだ。つまり、お城の外観から想像する宝物庫よりも非常に広大な訳です。
何層にも分かれたそこは、迷子になるなら序の口で……やたらめったらに動かせない危険物も入ってるようなので下手に人を投入出来無いのだとか。結果、管理をしている狼獣人の一族総出で探してくれているらしい……。
彼等は、野営の準備を整えて潜っているそうだ。――野営、しなきゃダメなんだ??どれだけ広いんだろう、宝物庫――。
大変そうだなぁと思ったけれど、当の狼獣人さん達は『これを機会に、宝物庫の地図を更に拡充させるぞ!』と嬉々として探してくれているようなので、彼等としては問題無いようだ。ありがたい話である。
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明日は書く時間が取れないかもしれないので、更新出来ない可能性が高いです。済みませんm(_ _)m
本日も、読みに来て頂きありがとうございました!!
応援ありがとうございます!
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