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第1話 新しい生活と懐かしい家族
思い出
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桔梗が黒岸家に同居して早数日。
昼食後隆一が持ってきたアルバムを、リビングで毅流と見ることにした。
「あ、このマンション。」
「覚えてる?家と桔梗の家が隣同士だったときに住んでたマンションだよ。」
「うん、何となくだけど覚えてる、てか…あたしの写真多くないか?」
「それはしょうがないよ、父さんも母さんも女の子が欲しくて仕方なかったからね、桔梗が生まれたとき狂喜乱舞してたよ。」
お隣の家の娘に対してその喜びよう…。
実際に黒岸家に女の子生まれてたら、大変なことになってたろうに。
「あたしと写ってるの桃也さんが1番多いな。」
どれもこれも桃也さんの隣にいるし、中には桃さんの上着の裾しっかり掴んでる。
手ぇ繋ぐとかならまだしも、こんなしっかり裾握るとか…。
「ストーカーか?」
「えっ?」
今ストーカーって言った?
気のせい?
「この頃桔梗はモモ兄にベッタリだったから、覚えてない?」
「んん~…。」
あたしが桃也さんにベッタリ…。
そういや…。
毅流が桃也さんのことモモ兄って呼ぶ度に何となく懐かしい感じはしてたんだよな、モモ、モモ…モモぉ、もぉ…。
もぉっ?!
「もぉにぃたんだったからか!」
「うひゃっ!」
「あ、ごめん。」
急に大声出したから毅流ビビらせちった。
「あたしもしかして昔隣同士だったとき、桃也さんのこともぉにぃたんて呼んでた?」
「そうだよ、思い出したんだ?とうや、が言い辛かったみたいで、俺のモモ兄を真似してもぉにぃたんて呼んでたんだよ。」
「おぉ。」
思い出したはいいが、今更恥ずかしくて呼べそうもないな。
他に何かこう、有益?な情報は思い出せないものか…。
あ、でも…。
「あたし毅流のことも呼べなくてたけゆって呼んでたような…。」
「そうそう。」
もぉにぃたんを思い出したから他も思い出してきたかな?
「あぁ、確かにパパちゃんママちゃんて呼んでたし、海斗さんのことはかぁ君て呼んでたの、思い出してきた…。」
あの頃父さんと母さんのことをパパ、ママって呼んでたから、区別付けるためにパパちゃんママちゃんて呼んでた気がする。
「呼び方は思い出したけど、それ以外はまだまだ思い出せない。」
なかなか前途多難だな。
「確かに昔の思い出を思い出してくれるのは嬉しいけど、無理して思い出すことないんじゃないかな。」
「ん?」
「昔の思い出も大事だけど、これから作る思い出だって大事じゃない?」
「おぉ、毅流いいこと言う。」
しかもイケメンのおかげか、言葉の重みが違って聞こえる。
イケメンて得だな。
「この頃の桔梗は前髪短めだね。」
「……。」
「ごめん、余計なこと言ったかな?」
「いや大丈夫、色々あったからこうなったけど、今は慣れた。」
「そっか…。」
いつかその長い前髪の理由、聞けるといいな。
「あ、そういや…。」
「どうしたの?」
「あたしもアルバム持ってきてる、見る?光希いっぱい写ってるよ。」
「見たい!」
毅流分かりやすいなぁ。
夜、野菜ジュースのストックを作ってから、明日の朝食の準備を手早く終わらせる。
明日はみんな同じ時間に朝食だから、準備はこれくらいでいいだろ。
桃也さんも明日はお弁当なしで大丈夫だって言ってたし。
「よし。」
部屋に戻るかと思っていると、
「ただいま。」
ドアが開き桃也が帰宅。
「あ、おかえりなさい。」
「よぅ、何か作ってたのか?」
「うん、でも今終わったけど、夕飯食べるでしょ?用意する。」
「いや自分で…。」
「へーき、温めるだけだから、手ぇ洗って。」
「おぅ、サンキュ。」
桃也はキッチン側に回り手を洗い、桔梗は桃也分のおかずを冷蔵庫から取り出しレンジに入れる。
「今日はどんな仕事?」
「今日はモデルの仕事だったんだけどよ…。」
とまで言って手を拭きながら溜め息。
「何かあったん?」
「今日は雑誌の撮影だったんだけど、相手の女が…下手だった…!」
ガクーン、とうなだれる桃也を慰めながらダイニングチェアに座るよう勧める。
「何かティーンに人気だか何だか知らねぇけど下手で下手で…時間押しまくったんだよ…!」
「あぁ、だから遅くなったのか。」
実は桃也、夕飯の時間までには帰宅するハズだったのだが、遅くなるから夕飯を取っておいてくれと連絡が入ったのだ。
レンジでおかずを温めながら味噌汁を温める。
やっぱIHいいなぁ。
「あの女自分が下手なの分かってもねぇし、休憩中やたら俺に絡んでくるし、マジ疲れた…。」
もうあの女と仕事したくねぇ…。
話を聞きながら温め終わったおかずをレンジから取り出し、温めた味噌汁をよそい、ご飯をよそったところで疲れに効く野菜ジュースをコップに注いで、それをトレイにまとめて桃也の前に置く。
「召し上がれ。」
「いただきます。」
桃也の向かいに座り、自分用の野菜ジュースをひとくち飲む。
「その女の人さ…、多分もぉにぃたん…。」
ごふっ!
「ごほっごほっ!」
「だだだっ、大丈夫っ?」
「おま、なっ!」
立ち上がり桃也の背中をさすりながら、
「とりあえず落ち着いてこれ飲んで。」
と、野菜ジュースを飲むよう促す。
何とか落ち着いた桃也を見て元の席に戻る。
「お前何でその呼び方…。」
「今日毅流と小さい頃のアルバム見てて思い出した。」
「あぁ、そう…。」
急に呼ばれたからビックリしたぁ!
「まずかった?」
「いやまずくはねぇけど照れる、それにその呼び方許してんのお前だけだし。」
「そうなの?」
「ああ、だからその、呼んでもいいけど2人きりんときだけにしてくれると助かる、慣れてきたら何処で呼んでもいいけどよ、今はとりあえず2人きりんときだけな。」
照れた顔のまま黙々食べ始める桃也を見ながら答える。
「分かった。」
桃也さんもそうだけど黒岸家のみんな優しいよなぁ。
「天は二物を与えずって嘘だな。」
「急にどうした?」
「だって黒岸家のみんなって外見も中身も素敵だし、みんなそれぞれ才能も持ってるじゃん?二物以上持ってる、神様忖度。」
神様が忖度って…おもしれぇ言い方するな。
「お前だって似たようなもんだろ。」
「何処が?」
「性格よし、料理上手、それに…。」
とまで言って桔梗に手を伸ばすと、前髪をすっと優しくどかす。
「顔だって可愛い、昔と変わらず丸くて可愛い目ぇしてんぞ。」
「ぬあっ!」
何たるイケメンの破壊力!
今めっちゃ心臓飛び跳ねたぞ!
「何で隠すんだ?」
「あ、いや、うん…。」
言い淀んでいる桔梗を見てハッ、として溜め息。
「わりぃ、ズケズケ聞いちまってさ…。」
「いや、大丈夫だけど…急にどうした?」
「何つぅかなぁ、昔から駄目なんだ、本音が隠せないっつぅか気になることはすぐ聞いちまって、それで何回も失敗してんだ、毅流には悪気がない分逆にタチが悪いとか言われるし、海斗には女性にはもっと気を使った言い方をしないと駄目だと言われるし、海斗は気の利いた言葉が次から次に溢れ出てくるような奴だからな。」
あいつの半分でいいから、俺も気が利いた言葉思い浮かぶといいんだが、どうも駄目だ。
「毅流は毅流、海斗さんは海斗さん、もぉにぃたんはもぉにぃたん、それでいいじゃん。」
前髪を直しながらニコッと笑う。
「あたしは気にしない、それに本音で話すのはいいことだし、裏表がないってことじゃん。」
「お前…。」
それは良く言い過ぎだ。
「前髪はね、目を隠すため。」
「何で?」
「小学校低学年のときにクラスの男子に、目が丸すぎて気持ち悪い、メガネザルって言われて、凄く嫌な気持ちになったから隠すようになった。」
「何だそれ、最低だな、そのクソガキ呼べ、説教してやる…!」
ご飯をまぐまぐしながら何となくメンチを切りながら言う桃也を見て、思わず吹き出す。
「酔っ払いの親父みたいな台詞。」
「笑いごっちゃねぇ、いくら子供だっつっても許せねぇ発言だ、説教だ説教!」
「あのさもぉにぃたん、あたしを嫌な気持ちにさせた男の連絡先、あたしが知るわけないっしょ。」
「くそぅ!そりゃそうだ!」
「とりあえず落ち着いて食べてよ、美味しいでしょ?」
「当たり前だ、お前の飯は何でも美味い!」
「ありがとう、これからもたくさん作るよ。」
「てか…。」
そこまで言って再び桔梗の前髪をどかす。
「2人きりんときもぉにぃたんて呼んでいい変わりに、俺と2人きりんときは前髪どかせ、ガキんときからお前の目、好きなんだからよ。」
何て言って優しく微笑む桃也を前に、最早言葉も出ず…。
もうここまで来ると、このイケメンが顔面凶器に見える…!
あたしの心臓そのうち爆発すんじゃねぇか?!
「わ、分かった、ピンで止める。」
「よし!いい子だ!」
ワシワシと頭を撫でられる。
うぉぉ、ワイルド!
ある日の夜、お風呂上がりに少し涼もうかとベランダに出ると、
「うん?」
鼻をひくつかせる。
タバコの匂い?
「あれぇ、どうしたの?」
左を見ると、タバコを吸う海斗の姿があった。
「タバコ吸うんだ?」
「兄貴と父さんも吸うよ~、ただ臭くなっちゃうからあんまり家の中では吸わないんだぁ。」
「そうなの?」
「まぁねぇ、母さんが嫌がるし毅流や桔梗みたいな未成年の前で吸うのもね。」
「別に気にしないが?」
「ありがと、じゃあ桔梗の前では吸っちゃおうかなぁ。」
「いいよ、海斗さんのタバコ吸ってる姿かっこいいし。」
「あれぇ、好きになっちゃう?」
「それはない。」
うはぁ、はっきりバッサリ言われちゃったよ。
「そう言えばこの前小さい頃みんなのこと何て呼んでたか思い出した。」
「ボクのこと何て呼んでたかも?」
「かぁ君。」
「そうそう、ボク桔梗にそう呼ばれるの好きだったんだよねぇ、だから覚えてないのちょっと残念だったんだぁ、でも思い出してくれて良かった。」
まで言ってベランダのハジに置いてある灰皿でタバコを揉み消すと、桔梗に近付く。
「それでぇ、昔みたいにかぁ君て呼んでくれるのかな?」
「海斗さんが良ければいいよ。」
「じゃあけって~い、かぁ君て呼んでねぇ。」
「分かった。」
頷く桔梗の隣に移動し、ん?となる。
「お風呂上がり?」
「うん、ちょっと暑くなり過ぎたから体冷ましてた。」
「髪の毛乾かしてないねぇ。」
「これからだよ。」
「おいでぇよ。」
と言って桔梗の手を取る。
「乾かしてあげる。」
「いや自分で…。」
「いいからいいから~、ねっ?」
海斗にやや強引に連れられ、海斗の部屋に入る。
「おぉ、初体験。」
「ん?何が?」
「かぁ君の部屋初めて入った、落ち着いた部屋だね。」
センスいいな。
「ボクも初体験。」
「何が?」
「自分の部屋に女性入れたの桔梗が初めてだよ。」
「意外。」
「まぁ何て言うかさぁ、ボクの部屋に招くに値する女性と出会ったことがないんだよねぇ~。」
うわぁ、言い方ユルいけど、なかなかエグいこと言ってる。
「彼女は?」
「それっぽいのは切らしたことないよ~。」
「へ、へぇ。」
海斗に促されソファに座りながら、
かぁ君はなかなかクセがあるんだな。
でもこんだけイケメンで優しいかぁ君なのに、どして女性関係はそんないい加減なんだ?
桔梗があれやこれやと考えてることに気付くこともなく、テーブルの片隅に置いてある瓶を手に取る。
「それは?」
「ヘアオイルだよ、使ったことないかな?」
「ない。」
あっさりだなぁ。
まぁ、桔梗がそういう系に無頓着と言うか興味がないのは何となく分かってたけどさ。
「ドライヤー前の濡れた髪に馴染ませておくとねぁ、必要な潤いを髪に残してくれるんだよぉ。」
「へぇ。」
そんな万能な品があるのか。
両手にヘアオイルを付けて桔梗の髪に馴染ませてから
「はいドライヤーかけますよぉ。」
スイッチオンにして優しく髪を撫でるように触れながら、ドライヤーをかけてゆく。
あぁ、このソフトタッチ、まるで頭皮のマッサージしてるみたいで気持ちぃなぁ、こんな気が利くかぁ君、どうして普通に彼女作らない?
かぁ君の理想がチョモランマ並みに高いのか、それとも周りの女性たちがみんな見る目がないのか…。
不思議だ。
ショートカットの桔梗の髪はすぐに乾き
「はい完了。」
と言ってドライヤーをしまうと桔梗の隣に座る。
「ありがとう、このいい匂いはヘアオイル?」
「そうだよぉ、気に入った?」
「うん、いい感じ。」
「今度プレゼントするねぇ、貰った物ならちゃんと使うでしょ?」
「うん、まぁ…。」
「じゃあ近いうちにプレゼントするね、て言うか髪伸ばさないの?昔は長くしてたじゃない?」
「あ~、うん、実は小学校入学後しばらくして道場に通うことになったときに、邪魔になるから切ってから癖っ毛なのもあって伸ばすの止めちった。」
「道場?」
「そう、道場に通うようになって、そこで幼馴染みであり親友である光希に出会った、その道場が光希の実家なんだ。」
道場ねぇ、言われてみたら確かに細身ではあるけどガッチリしてる感じ。
「道場にはいつまで通ってたの?」
「中学卒業まで、元々ひょろかった体をガッチリさせるために通ってて、肉体改造完了したから辞めて、光希のサポートに回ったんだ。」
「ふぅ~ん、それでぇ、引っ越し先の幼馴染みの光希ちゃん?はどんな子なの?」
「超無敵のイケメン女子!」
「へぇ~、じゃあ毅流の好みかもしれないね。」
と言うと、桔梗がウフフと笑う。
「もしかしてもう写真見せたわけぇ?」
「うん、毅流の好みどストライク!」
「あやっぱりぃ。」
「うん、こっちに来たら協力すると約束した。」
「こっちに来るって?」
そこで桔梗は光希とのやり取りを海斗に説明。
「確かに超無敵かも…。」
「でしょ?」
それにしても…。
「いいなぁ、仲良し兄弟。」
「ボクたちのことぉ?」
「うん、ちゃんとコミュニケーションも取ってる分お互いのこと分かってるし、あたしは1人っ子だから、そういうの羨ましい。」
「じゃあ桔梗が寂しくないように、ボクが彼氏になったげよ~か?」
「何故そうなる?普通そこはお兄ちゃんしょ?」
「あらつれない~。」
「かぁ君にはかぁ君に相応しい女性が現れるでしょ。」
「だといいんだけどねぇ。」
やっぱりかぁ君は、このテの話になると軽口叩く割に何処か寂しそう。
「大丈夫大丈夫。」
海斗の頭をポンポンする。
「いつかきっと現れる、寂しくないよ。」
「あははぁ、慰められちゃったぁ。」
少しズレてる感じだけど、桔梗って何処か勘が鋭いんだよねぇ。
こんなこと言って…、もしそんな女性が現れなかったら、責任取ってくれるわけ?
「それでぇ、髪、伸ばしてみない?」
昼食後隆一が持ってきたアルバムを、リビングで毅流と見ることにした。
「あ、このマンション。」
「覚えてる?家と桔梗の家が隣同士だったときに住んでたマンションだよ。」
「うん、何となくだけど覚えてる、てか…あたしの写真多くないか?」
「それはしょうがないよ、父さんも母さんも女の子が欲しくて仕方なかったからね、桔梗が生まれたとき狂喜乱舞してたよ。」
お隣の家の娘に対してその喜びよう…。
実際に黒岸家に女の子生まれてたら、大変なことになってたろうに。
「あたしと写ってるの桃也さんが1番多いな。」
どれもこれも桃也さんの隣にいるし、中には桃さんの上着の裾しっかり掴んでる。
手ぇ繋ぐとかならまだしも、こんなしっかり裾握るとか…。
「ストーカーか?」
「えっ?」
今ストーカーって言った?
気のせい?
「この頃桔梗はモモ兄にベッタリだったから、覚えてない?」
「んん~…。」
あたしが桃也さんにベッタリ…。
そういや…。
毅流が桃也さんのことモモ兄って呼ぶ度に何となく懐かしい感じはしてたんだよな、モモ、モモ…モモぉ、もぉ…。
もぉっ?!
「もぉにぃたんだったからか!」
「うひゃっ!」
「あ、ごめん。」
急に大声出したから毅流ビビらせちった。
「あたしもしかして昔隣同士だったとき、桃也さんのこともぉにぃたんて呼んでた?」
「そうだよ、思い出したんだ?とうや、が言い辛かったみたいで、俺のモモ兄を真似してもぉにぃたんて呼んでたんだよ。」
「おぉ。」
思い出したはいいが、今更恥ずかしくて呼べそうもないな。
他に何かこう、有益?な情報は思い出せないものか…。
あ、でも…。
「あたし毅流のことも呼べなくてたけゆって呼んでたような…。」
「そうそう。」
もぉにぃたんを思い出したから他も思い出してきたかな?
「あぁ、確かにパパちゃんママちゃんて呼んでたし、海斗さんのことはかぁ君て呼んでたの、思い出してきた…。」
あの頃父さんと母さんのことをパパ、ママって呼んでたから、区別付けるためにパパちゃんママちゃんて呼んでた気がする。
「呼び方は思い出したけど、それ以外はまだまだ思い出せない。」
なかなか前途多難だな。
「確かに昔の思い出を思い出してくれるのは嬉しいけど、無理して思い出すことないんじゃないかな。」
「ん?」
「昔の思い出も大事だけど、これから作る思い出だって大事じゃない?」
「おぉ、毅流いいこと言う。」
しかもイケメンのおかげか、言葉の重みが違って聞こえる。
イケメンて得だな。
「この頃の桔梗は前髪短めだね。」
「……。」
「ごめん、余計なこと言ったかな?」
「いや大丈夫、色々あったからこうなったけど、今は慣れた。」
「そっか…。」
いつかその長い前髪の理由、聞けるといいな。
「あ、そういや…。」
「どうしたの?」
「あたしもアルバム持ってきてる、見る?光希いっぱい写ってるよ。」
「見たい!」
毅流分かりやすいなぁ。
夜、野菜ジュースのストックを作ってから、明日の朝食の準備を手早く終わらせる。
明日はみんな同じ時間に朝食だから、準備はこれくらいでいいだろ。
桃也さんも明日はお弁当なしで大丈夫だって言ってたし。
「よし。」
部屋に戻るかと思っていると、
「ただいま。」
ドアが開き桃也が帰宅。
「あ、おかえりなさい。」
「よぅ、何か作ってたのか?」
「うん、でも今終わったけど、夕飯食べるでしょ?用意する。」
「いや自分で…。」
「へーき、温めるだけだから、手ぇ洗って。」
「おぅ、サンキュ。」
桃也はキッチン側に回り手を洗い、桔梗は桃也分のおかずを冷蔵庫から取り出しレンジに入れる。
「今日はどんな仕事?」
「今日はモデルの仕事だったんだけどよ…。」
とまで言って手を拭きながら溜め息。
「何かあったん?」
「今日は雑誌の撮影だったんだけど、相手の女が…下手だった…!」
ガクーン、とうなだれる桃也を慰めながらダイニングチェアに座るよう勧める。
「何かティーンに人気だか何だか知らねぇけど下手で下手で…時間押しまくったんだよ…!」
「あぁ、だから遅くなったのか。」
実は桃也、夕飯の時間までには帰宅するハズだったのだが、遅くなるから夕飯を取っておいてくれと連絡が入ったのだ。
レンジでおかずを温めながら味噌汁を温める。
やっぱIHいいなぁ。
「あの女自分が下手なの分かってもねぇし、休憩中やたら俺に絡んでくるし、マジ疲れた…。」
もうあの女と仕事したくねぇ…。
話を聞きながら温め終わったおかずをレンジから取り出し、温めた味噌汁をよそい、ご飯をよそったところで疲れに効く野菜ジュースをコップに注いで、それをトレイにまとめて桃也の前に置く。
「召し上がれ。」
「いただきます。」
桃也の向かいに座り、自分用の野菜ジュースをひとくち飲む。
「その女の人さ…、多分もぉにぃたん…。」
ごふっ!
「ごほっごほっ!」
「だだだっ、大丈夫っ?」
「おま、なっ!」
立ち上がり桃也の背中をさすりながら、
「とりあえず落ち着いてこれ飲んで。」
と、野菜ジュースを飲むよう促す。
何とか落ち着いた桃也を見て元の席に戻る。
「お前何でその呼び方…。」
「今日毅流と小さい頃のアルバム見てて思い出した。」
「あぁ、そう…。」
急に呼ばれたからビックリしたぁ!
「まずかった?」
「いやまずくはねぇけど照れる、それにその呼び方許してんのお前だけだし。」
「そうなの?」
「ああ、だからその、呼んでもいいけど2人きりんときだけにしてくれると助かる、慣れてきたら何処で呼んでもいいけどよ、今はとりあえず2人きりんときだけな。」
照れた顔のまま黙々食べ始める桃也を見ながら答える。
「分かった。」
桃也さんもそうだけど黒岸家のみんな優しいよなぁ。
「天は二物を与えずって嘘だな。」
「急にどうした?」
「だって黒岸家のみんなって外見も中身も素敵だし、みんなそれぞれ才能も持ってるじゃん?二物以上持ってる、神様忖度。」
神様が忖度って…おもしれぇ言い方するな。
「お前だって似たようなもんだろ。」
「何処が?」
「性格よし、料理上手、それに…。」
とまで言って桔梗に手を伸ばすと、前髪をすっと優しくどかす。
「顔だって可愛い、昔と変わらず丸くて可愛い目ぇしてんぞ。」
「ぬあっ!」
何たるイケメンの破壊力!
今めっちゃ心臓飛び跳ねたぞ!
「何で隠すんだ?」
「あ、いや、うん…。」
言い淀んでいる桔梗を見てハッ、として溜め息。
「わりぃ、ズケズケ聞いちまってさ…。」
「いや、大丈夫だけど…急にどうした?」
「何つぅかなぁ、昔から駄目なんだ、本音が隠せないっつぅか気になることはすぐ聞いちまって、それで何回も失敗してんだ、毅流には悪気がない分逆にタチが悪いとか言われるし、海斗には女性にはもっと気を使った言い方をしないと駄目だと言われるし、海斗は気の利いた言葉が次から次に溢れ出てくるような奴だからな。」
あいつの半分でいいから、俺も気が利いた言葉思い浮かぶといいんだが、どうも駄目だ。
「毅流は毅流、海斗さんは海斗さん、もぉにぃたんはもぉにぃたん、それでいいじゃん。」
前髪を直しながらニコッと笑う。
「あたしは気にしない、それに本音で話すのはいいことだし、裏表がないってことじゃん。」
「お前…。」
それは良く言い過ぎだ。
「前髪はね、目を隠すため。」
「何で?」
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「あのさもぉにぃたん、あたしを嫌な気持ちにさせた男の連絡先、あたしが知るわけないっしょ。」
「くそぅ!そりゃそうだ!」
「とりあえず落ち着いて食べてよ、美味しいでしょ?」
「当たり前だ、お前の飯は何でも美味い!」
「ありがとう、これからもたくさん作るよ。」
「てか…。」
そこまで言って再び桔梗の前髪をどかす。
「2人きりんときもぉにぃたんて呼んでいい変わりに、俺と2人きりんときは前髪どかせ、ガキんときからお前の目、好きなんだからよ。」
何て言って優しく微笑む桃也を前に、最早言葉も出ず…。
もうここまで来ると、このイケメンが顔面凶器に見える…!
あたしの心臓そのうち爆発すんじゃねぇか?!
「わ、分かった、ピンで止める。」
「よし!いい子だ!」
ワシワシと頭を撫でられる。
うぉぉ、ワイルド!
ある日の夜、お風呂上がりに少し涼もうかとベランダに出ると、
「うん?」
鼻をひくつかせる。
タバコの匂い?
「あれぇ、どうしたの?」
左を見ると、タバコを吸う海斗の姿があった。
「タバコ吸うんだ?」
「兄貴と父さんも吸うよ~、ただ臭くなっちゃうからあんまり家の中では吸わないんだぁ。」
「そうなの?」
「まぁねぇ、母さんが嫌がるし毅流や桔梗みたいな未成年の前で吸うのもね。」
「別に気にしないが?」
「ありがと、じゃあ桔梗の前では吸っちゃおうかなぁ。」
「いいよ、海斗さんのタバコ吸ってる姿かっこいいし。」
「あれぇ、好きになっちゃう?」
「それはない。」
うはぁ、はっきりバッサリ言われちゃったよ。
「そう言えばこの前小さい頃みんなのこと何て呼んでたか思い出した。」
「ボクのこと何て呼んでたかも?」
「かぁ君。」
「そうそう、ボク桔梗にそう呼ばれるの好きだったんだよねぇ、だから覚えてないのちょっと残念だったんだぁ、でも思い出してくれて良かった。」
まで言ってベランダのハジに置いてある灰皿でタバコを揉み消すと、桔梗に近付く。
「それでぇ、昔みたいにかぁ君て呼んでくれるのかな?」
「海斗さんが良ければいいよ。」
「じゃあけって~い、かぁ君て呼んでねぇ。」
「分かった。」
頷く桔梗の隣に移動し、ん?となる。
「お風呂上がり?」
「うん、ちょっと暑くなり過ぎたから体冷ましてた。」
「髪の毛乾かしてないねぇ。」
「これからだよ。」
「おいでぇよ。」
と言って桔梗の手を取る。
「乾かしてあげる。」
「いや自分で…。」
「いいからいいから~、ねっ?」
海斗にやや強引に連れられ、海斗の部屋に入る。
「おぉ、初体験。」
「ん?何が?」
「かぁ君の部屋初めて入った、落ち着いた部屋だね。」
センスいいな。
「ボクも初体験。」
「何が?」
「自分の部屋に女性入れたの桔梗が初めてだよ。」
「意外。」
「まぁ何て言うかさぁ、ボクの部屋に招くに値する女性と出会ったことがないんだよねぇ~。」
うわぁ、言い方ユルいけど、なかなかエグいこと言ってる。
「彼女は?」
「それっぽいのは切らしたことないよ~。」
「へ、へぇ。」
海斗に促されソファに座りながら、
かぁ君はなかなかクセがあるんだな。
でもこんだけイケメンで優しいかぁ君なのに、どして女性関係はそんないい加減なんだ?
桔梗があれやこれやと考えてることに気付くこともなく、テーブルの片隅に置いてある瓶を手に取る。
「それは?」
「ヘアオイルだよ、使ったことないかな?」
「ない。」
あっさりだなぁ。
まぁ、桔梗がそういう系に無頓着と言うか興味がないのは何となく分かってたけどさ。
「ドライヤー前の濡れた髪に馴染ませておくとねぁ、必要な潤いを髪に残してくれるんだよぉ。」
「へぇ。」
そんな万能な品があるのか。
両手にヘアオイルを付けて桔梗の髪に馴染ませてから
「はいドライヤーかけますよぉ。」
スイッチオンにして優しく髪を撫でるように触れながら、ドライヤーをかけてゆく。
あぁ、このソフトタッチ、まるで頭皮のマッサージしてるみたいで気持ちぃなぁ、こんな気が利くかぁ君、どうして普通に彼女作らない?
かぁ君の理想がチョモランマ並みに高いのか、それとも周りの女性たちがみんな見る目がないのか…。
不思議だ。
ショートカットの桔梗の髪はすぐに乾き
「はい完了。」
と言ってドライヤーをしまうと桔梗の隣に座る。
「ありがとう、このいい匂いはヘアオイル?」
「そうだよぉ、気に入った?」
「うん、いい感じ。」
「今度プレゼントするねぇ、貰った物ならちゃんと使うでしょ?」
「うん、まぁ…。」
「じゃあ近いうちにプレゼントするね、て言うか髪伸ばさないの?昔は長くしてたじゃない?」
「あ~、うん、実は小学校入学後しばらくして道場に通うことになったときに、邪魔になるから切ってから癖っ毛なのもあって伸ばすの止めちった。」
「道場?」
「そう、道場に通うようになって、そこで幼馴染みであり親友である光希に出会った、その道場が光希の実家なんだ。」
道場ねぇ、言われてみたら確かに細身ではあるけどガッチリしてる感じ。
「道場にはいつまで通ってたの?」
「中学卒業まで、元々ひょろかった体をガッチリさせるために通ってて、肉体改造完了したから辞めて、光希のサポートに回ったんだ。」
「ふぅ~ん、それでぇ、引っ越し先の幼馴染みの光希ちゃん?はどんな子なの?」
「超無敵のイケメン女子!」
「へぇ~、じゃあ毅流の好みかもしれないね。」
と言うと、桔梗がウフフと笑う。
「もしかしてもう写真見せたわけぇ?」
「うん、毅流の好みどストライク!」
「あやっぱりぃ。」
「うん、こっちに来たら協力すると約束した。」
「こっちに来るって?」
そこで桔梗は光希とのやり取りを海斗に説明。
「確かに超無敵かも…。」
「でしょ?」
それにしても…。
「いいなぁ、仲良し兄弟。」
「ボクたちのことぉ?」
「うん、ちゃんとコミュニケーションも取ってる分お互いのこと分かってるし、あたしは1人っ子だから、そういうの羨ましい。」
「じゃあ桔梗が寂しくないように、ボクが彼氏になったげよ~か?」
「何故そうなる?普通そこはお兄ちゃんしょ?」
「あらつれない~。」
「かぁ君にはかぁ君に相応しい女性が現れるでしょ。」
「だといいんだけどねぇ。」
やっぱりかぁ君は、このテの話になると軽口叩く割に何処か寂しそう。
「大丈夫大丈夫。」
海斗の頭をポンポンする。
「いつかきっと現れる、寂しくないよ。」
「あははぁ、慰められちゃったぁ。」
少しズレてる感じだけど、桔梗って何処か勘が鋭いんだよねぇ。
こんなこと言って…、もしそんな女性が現れなかったら、責任取ってくれるわけ?
「それでぇ、髪、伸ばしてみない?」
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しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
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