華と光と恋心

かじゅ

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第4話 好きなヒト

好きなところ

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 大学近くのカフェで待ち合わせのため、海斗は幼馴染みでありバンドのマネージャー的存在である野上輝のがみひかる、通称テルと歩いていた。
カフェで待っているのはバンドのメンバー。
ギターの北上祐翔きたがみひろと、通称ヒロ。
ベースの外山和誠とやまかずなり、通称カズ。
ちなみに祐翔と和誠は母方のイトコ同士。
しかもその母親が双子なため、祐翔と和誠は何処となく顔が似ている。
実はもう1人、ドラム担当のメンバーがいたのだが、3日前のこと、実家に帰ることを告げられた。
実家は長男が継ぐから俺は自由なんだ。
が口癖のような男だったのだが、兄に助けを求められ実家に帰ることに決めたらしい。

「今まで散々自由にやらせてもらったし、兄貴は大丈夫だって言ってくれたんだけどね、大丈夫ではない大丈夫だって分かったから、みんなには申し訳ないんだけど…。」

そん彼をメンバー全員で送り出したばかりなのだ。
「調べたところによるとあいつ、老舗の酒蔵の次男坊らしいぜ、かなりの大店みたいで長男さんだけじゃ手が回らないみたいだぜ。」
「なるほどねぇ、でもちょうど良かったんじゃなぁ~い?あいつ商才あるじゃない?」
「あぁ、お兄さんもそこを見込んでるみたいだ。」
「へぇ~、ならさ、今度様子見がてら、お酒買いに行こうよ~。」
「そうだな。」
和やかに歩いていると、
「海斗くぅ~ん!」
飛んできた声にチッ!と舌打ちして悪い顔をする。
「やっと見つけた、ねぇねぇ次のライブはいつ?」
掴まれた腕を乱暴に振りほどく。
「テル、よろしく。」
それだけ言ってさっさと歩き出す海斗を追いかけさせまいと輝が割って入る。
「悪いね、ライブはしばらくないから、それとあんまりうちのボーカルに近寄らないでくれる?ああ見えて照れ屋なんだ。」
「やだちょっと待ってよ。」
「これ以上くっついて来るんなら、ライブ出禁にすんぞ。」
「ヒドい!」
地団駄を踏んで悔しがる、このハデハデな女性。
名前を佐々野美南子ささのみなこといい、大学1年生。
地方出身らしいのだが、サークルの先輩に誘われ海斗たちのライブに来て以来、海斗に何かとしつこく付き纏っていた。
とは言え海斗に付き纏い行為をするような悪質なファンは、何も美南子に始まったことではない。
そういう悪質なファンの対処をするのも輝の仕事であり、今までも上手く対処してきている。
「お前も罪な男だね。」
「勘弁してよ、もうどうでもいい女に何て構ってられないんだよねぇ。」
「分かってる、そっちは俺に任せろ。」
「いつも悪いねぇ。」
カフェの側まで来ると
「こっちだぞ~!」
テラス席から祐翔が手を振ってきた。
海斗と輝が着席してすぐ
「声でかい、うるさい、目立つ。」
言うだけ言ってしれっとコーヒーを飲む和誠。
「んだよ、おかげですぐ合流出来たじゃんかよ。」
「俺からテルに事前に場所も席も送っておいた。」
「なぬっ!」
輝に視線を向けると
「その通り。」
「また俺だけ除け者っ?」
「はいはいヒロ子供みたいなこと言わないのぉ、そんなことよりボクたちに話があって呼んだんでしょ。」
「オーナーから連絡あった。」
和誠が言っている中、お冷を持って来たウエイトレスに注文を頼む。
「もしかしてそれってぇ。」
「うん、新しいドラム候補。」
「思ったより早いな、流石オーナー、顔が広い。」
オーナーとは海斗たちがお世話になっているライブハウスのオーナー。
祐翔、和誠は海斗と今のバンドを組む前に、違うバンドで活動していたときからの付き合いなのでかなり長い。
そんな付き合いなので、今回メンバーが脱退すると聞いて、すぐに新しいメンバーを探してくれていたのだ。
「資料は?」
「ん、これ。」
輝にタブレットを渡す和誠を見てギョッ、となる。
「ちょい待てカズっ!お前オーナーから資料もらってたのかよっ?」
「うん。」
「何で俺には黙ってた?」
「聞かれなかった。」
「何ぃっ?」
「ちょっとヒロ~、何怒ってるわけぇ?こんなのいつものことじゃない。」
「ぐぬぬぬぬぬぬ…!」
いつものことだからこそムカつくんだよぉ!
俺のこと何だと思ってんだ!
「カズ、これマジ?」
「うん、マジだけど問題?音も聴いたけど、粗削りだけど伸びしろありそう、教え甲斐がある、勿論ちゃんと俺が教えるし面倒見る。」
なかなか楽しめそうだ。
「まぁ…同じリズム隊のお前がそう言うならいいんだけど…。」
「どうしたのテルぅ?」
何だか珍しく歯切れが悪いなぁ。
「これ見てみろ。」
「ん~?」
タブレットを手渡され、そこに写っている画像を見る。
「おやまぁ。」
「ん?どした?」
祐翔が覗き込む。
「おいお前っ、これっ、女じゃねぇかよっ!」
「そうだが、問題?」
「問題ってお前なぁ…。」
「まぁ別にぃ、女性禁止何て決まりないからねぇ。」
「そりゃまぁ、そうだけどよぉ、でも何だってまたオーナーは女を紹介してきたんだよ?」
「粗削りではあるけど実力も伸びしろもある、だけど女性ってだけで拒否られて門前払いされる、でもお前たちならそんなことないだろ?て聞かれたから、そんなことないと答えた。」
「へぇそうですかい。」
何か俺だけ悪者みたいじゃねぇか。
「とりあえずオーディションだな、生で聴いてみたい。」
「確かにぃ、それに話してみたいしねぇ。」
と、話がある程度まとまったところで、頼んでいたコーヒーとカフェラテが運ばれてきた。
「もしこの子が合格だったら、思ったより早く再始動出来そうだな。」
「だね~。」
「だね~、てか海斗ぉ、お前女だからって手ぇ出すなよな。」
「あのねヒロ、ボクは自分から手は出さないよぉ、出して欲しいと頼まれたとき以外はね、それにボクぅ、そういうどうでもいい女と関わるの止めたんだぁ。」
「はぁっ!マジかよっ、お前がぁ?」
と言いながら輝を見ると
「マジだからおちょくらない方がいいぞ。」
と言われた。
「はぁ、へぇ、お前がねぇ、どういう風の吹き回しだよ?」
「あ、桔梗ちゃん、だっけ?」
「流石カズ、正解。」
「本気で惚れた?」
和誠に言われ
「違う違う~。」
クスクス笑いながら答えて、タバコに火を点けた。
「そうじゃないけどねぇ、桔梗には胸を張りたいって言うか、軽蔑されたくないわけよぉ、だってあの子、ボクの外見に興味ないしボクのこと、優しいってさ。」
「良かったね海斗、ちゃんと内面も見てくれる子が側にいて。」
「ありがとカズ。」
「でもお前の外見に興味ないとかすげぇ子だな。」
「まぁイケメンとは言ってくれるけどねぇ。」
「変わった子なんだな。」
「そうじゃない、海斗をちゃんと見てくれてるだけ、ヒロ失礼。」
「んだよ。」
「ヒロ怒らないのぉ、まぁそういうわけでぇ、ボクは桔梗に恥じない人間に生まれ変わりますので、メンバー内に女性がいようがいまいが関係ありませんよぉ。」
「だけどよぉ、向こうがお前に惚れちまったらどうすんだよ?」
「大丈夫、問題ない、オーナー曰く、この子はドラムバカ、らしいから、ドラム以外にはまったく興味なし、恋愛とは最も遠い場所に生きてる子らしいよ。」
「それは願ったり叶ったり、もしメンバー入りしてすぐに色恋に夢中んなってドラムは二の次何てなったら困るからな。」
「まぁオーナーだってその辺問題ないと思ったからぁ、カズに紹介したんじゃないのぉ?」
「確かに、で…お前は反対か?」
輝に聞かれる。
「別に反対なわけじゃねぇ、起こりそうな問題点を上げただけだっつぅのっ。」
「ありがとヒロぉ、ボクなら大丈夫~、とにかく近いうちにこの子のオーディションしちゃお。」
「分かったそれでいい。」
何処かふてくされてはいるが納得したようで、タバコに火を点ける祐翔を見ながらカフェラテで喉を潤していると、ポケットの中のスマホが鳴った。
取り出すと
あ、桔梗からだ。
「どした?」
「桔梗からぁ~、今夜は夕飯家で食べるかどうかの確認。」
言いながら電話する。
[ぬ、メッセで返されると思った。]
「電話のが早いかなぁって思ってさぁ、ちなみに夕飯は家で食べるよ~、あと聞きたいことがあるんだけどいい~?」
[別にいいけども、あたしに答えられる範囲だとありがたい。]
「勿論答えられるよぉ、桔梗はボクの何処が好きぃ?」
[おぅ、何だか藪から棒ですな、でもそうだね、やっぱり優しいトコが好きかな、あとはちゃんと話を聞いてくれるトコと、雷のとき歌で癒してくれたトコ。]
「ありがと桔梗~、顔は好みじゃないかなぁ?」
[好みかどうから分からんが、かぁ君もイケメンですぜ。]
「クスクス、ありがと。」
その後いくつか言葉を交わしてから電話を切った。
「桔梗ちゃん何だって?」
「ボクの好きなトコは優しくてちゃんと話を聞いてくれるトコだってさぁ。」
雷のことは秘密にしておこうっと。
「会ってみたい、桔梗ちゃん。」
「カズに賛成、会いたい桔梗ちゃん、今日お前んちで夕飯食べてぇなぁ、毅流や桃也さんにも久々に会いたいし。」
「いいね。」
「ちょっ、テルぅ、カズまでぇ。」
「俺もテルとカズに賛成、お前になびかない女に会ってみたい。」
「勘弁してよぉ。」

結局この日、海斗はメンバーを連れて帰宅することになるわけで…。
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