華と光と恋心

かじゅ

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第5話 仄かな想い

フードの彼の正体は…

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 ライブも終盤になり、新曲が披露されることになった。
-bule-には珍しくスローバラードだったのだが、Aメロが流れた瞬間、
「あ…。」
桔梗は思わず声を洩らした。
「どうした?」
邪魔にならないように小声で話し掛ける。
「この曲…雷のときの曲だ。」
「雷?」
「かぁ君がこの曲で落ち着かせてくれた。」
「ほほぅ。」
-bule-の新曲とは、あの雷の日、桔梗を落ち着かせるため海斗がららら、で歌ったものだった。
あれ、もしかして即興で?
それを新曲にしたのか。
そう考えると、雷も悪く…。
いや、怖い。
そこは無理だ。
「いい曲だな。」
「うん、最高。」
新曲も披露した新生-bule-の初ライブは、大盛況のうちに終わった。






 ライブが終わったら楽屋においで、とあらかじめ海斗に言われていたため、桔梗たちは再び楽屋を訪れた。
「初めての-bule-のライブはどうだったかなぁ?」
「最高!」
「あの曲が新曲になっててビックリした。」
「実はあの日の夜に創作意欲が湧いて出てさぁ、一気に作っちゃったんだよねぇ。」
「海斗さんてもしかして天才。」
「駄目だ光希、こいつ褒めると調子に乗るから。」
「何だよテル~。」
たまには褒めてよねぇ。
「若葉は初めてにしては合格点。」
和誠の言葉に若葉は一気に表情を明るくする。
「ホントっ?」
「まぁテンポ走り気味なトコはあったけど、カズが踏ん張ったお陰ですぐ戻れてたしな。」
「それはホントにもうすみません。」
「まぁまぁヒロぉ、カズが踏ん張ったお陰もあるけどさぁ、それで瞬時に戻れるのは若葉の実力だし、今回はカズの言う通り充分合格点じゃないかなぁ?」
「まぁ初めてだし、まだまだこれからだもんな俺たち、じゃあ打ち上げ会場で祝杯上げるか!」
「桔梗ちゃんと光希も来られるんだろう?」
「うん、かぁ君が事前に教えてくれてたから。」
「じゃあ移動しよ。」
カズの言葉で支度を始めようとすると、ドアが開き
「お疲れ。」
オーナーが現れた。
「お疲れ様です、今日の-bule-はどうでした?」
輝が聞くとニヤリとしてから
「まぁ悪くはねぇな、これからが勝負だろ、それより…。」
開けたままのドアから顔だけ出し、
「いいぞ。」
と声を掛けるとフードを深々と被った男性が入ってきた。
その瞬間、
「何で…っ!」
普段物怖じしない和誠が、あからさまに動揺。
「どしたカズ、あの男と何かあんのか?」
こいつがこんなに動揺すんの珍しいな。
祐翔が声を掛けても、和誠は男性を凝視したまま動かない。
「もしかしてとうとうですか?」
冷静に聞いてきた輝を見て
「やっぱりお前とカズは気付いてたか、おい、そろそろそのフード取ったらどうだ。」
「バレてない自信あったのになぁ。」
「その声…!」
「光希、やはり声掛けるべきだった。」
2人がそんなやり取りをしている中、男性はフードを外した。
「どええっ!何で!」
驚愕する祐翔の隣で
「参ったなぁ、ボクが気付いていないとは…。」
呟いた海斗も多少驚いた様子。
「し、し、し、知り合いだったのっ?」
若葉の問いに輝は首を振る。
「以前から来てたの知ってた、でもいつも帰ってたから…しかもまさかこんな忙しい時期に来る何て…。」
「カズぅ、日本語少しバグってるよぉ。」
まぁ、あの人物が目の前にいるんだから無理ないか。
「初めまして、runaのボーカルのシュウです。」
「桔梗、思い切り引っぱたいてくれ。」
「大丈夫光希夢じゃない。」
「お前冷静な?」
「あたしの推しは違うから。」
確かに、こいつの推しはギターのリョウだった!

光希がファンになり、その光希に勧められて桔梗がファンになり…。
光希がずっと好きで、チケット争奪戦に敗北したモンスターバンド、それこそがrunaである。
ボーカルのシュウ、ギターのリョウ、ベースのケント、ドラムのユキヤからなるロックバンド。
リーダーでもあるリョウが幼馴染みであるユキヤと共にバンドを作るため、メンバー集めを開始。
ちょうどその頃、他バンドでボーカルだったシュウ、ベースだったケント。
リョウとユキヤは2人に目を付け、そのバンドが解散したのと同時に勧誘。
こうして結成されたのが、今では世界にその名を轟かせるrunaなのだ。

「以前から君たちの噂を聞いててね、俺たちもこのライブハウス出身だし-bule-は言わば後輩みたいなものでしょ?だから前からちょいちょい見させてもらってたんだけど、今回新体制1発目のライブだって聞いて、居ても立ってもいられなくなっちゃった。」
エヘッ、と可愛く笑うシュウを見て、光希ノックアウト寸前。
この光希、毅流には見せられないなぁ。
「そこのお嬢さんたち、シュウに気付いてたみたいだな。」
オーナーが不意に言うと、
「確かに、どうして俺に気付いたの?」
未だポエポエ状態の光希に代わり
「体型で気付きました。」
桔梗が答えた。
「体型?チビってことか?」
「いくらオーナーでも言っていいことと悪いことあるよ!」
怒るシュウの身長は、164cmと男性にしては小柄。
ちなみに顔は中性的かつ浮世離れした美しさ。
「違いますよ、筋肉のバランスとか全体的な体型です、光希の家は道場で、お互い小さい頃から色んな人の体型見てたんで、気になる人の体型は脳内にインプットしてます、シュウさんは筋肉質だけど、太ももはムチッとしてて女性的という特徴がありまして…。」
「何か俺…裸見られた気分。」
ちょっぴり恥ずかしい。
「まぁ無駄話はさておき…お前たちこれからいつもの店で打ち上げだろ?こいつも連れてけ。」
「嘘マジっ?」
「まぁそうなるとは思いました、早速連絡しますんで、俺らはとりあえず帰り支度します。」
「相変わらずお前は話が早くて助かる、どうやらシュウはお前たちに話があるみたいでな。」
「俺たちに?」
「警戒しないで、いい話だから。」
「とりあえず事務室で待っていてもらえますか?準備出来次第呼びに行きますんで。」
オーナーとシュウが退室したところで、
「光希帰っておいで~。」
桔梗はそう言って光希を揺する。
「平気か?」
輝は輝で和誠の背中を軽くトン、と叩いてやる。
「ごめん、流石に…。」
「まぁ仕方ないだろ、とりあえず帰り支度だ。」
俺はまずは由梨亜に連絡だな。








 支度が終わり、輝は単身事務室に向かいノックをする。
「おぅ。」
ドアを開け
「お待たせしました。」
「大丈夫、それより急に参加することになっちゃってごめんね。」
「いえ、ただ俺たちの車定員オーバーで同乗が無理なので、タクシーでここに向かってもらっていいですか?」
と言ってシュウに名刺を差し出す。
「分かったありがとう。」
「店側には既に話は通してありますし、タクシーも手配済みで、もう到着してると思います。」
「うわぁ、凄い。」
「これでも-bule-のマネージャーですので。」
うちのマネージャーも優秀だけど、この子は敏腕だな、隙がない。
そりゃ俺がライブ来てるのもバレちゃうか。
「では現地で…。」
「うん、よろしくね。」







 本日の車出し&運転手係は海斗。
ゆっくり走り出した車の助手席で、和誠はすぐにタバコに火を点けると窓を開け、溜め息混じりに煙を吐き出す。
「少しは落ち着いたぁ?」
「うん、でもあんなに動揺する何て不甲斐ない…。」
今までイレギュラーなことが起きても、きちんと冷静に対応出来てたのにあんなに動揺するとは…。
情けない。
「仕方ないんじゃないの~、だって相手はカズがずっと逢いたかったシュウでしょ~。」
「うん、まぁ…そうなんだけど、それ差し引いても情けない。」
「出逢いから完璧よりもいいんじゃな~い?これからでしょ?」
「これから…。」
呟いて煙を吐き出していると、運転席と助手席の間からぬっ、と手が出てきた。
「ん?」
「カズさんこれかぁ君のタバコとジッポー、吸いたくなるかもだから。」
「あそっかぁ、桔梗にボクの鞄預けたんだっけ?」
「うん、カズさんがタバコ吸うの見て、かぁ君も吸いたくなるかなと思って。」
「さっすが桔梗~、ありがとね。」
和誠が受け取り、
「吸う?」
「吸う。」
箱から1本取り出すと咥えさせ、火を点けてやる。
「ありがと~。」
窓を開け、煙を吐き出してから
「で、どうするの~?」
「何が?」
「これからだよぉ、逢えたんだから次は行動でしょ?」
やっぱり海斗にはバレてたか…。
海斗にバレてるなら、テルにもバレてるだろなぁ。
ヒロは一生気付きそうもないけど。
「まぁまだ出逢ったばかりだし、まずは様子を見ながら徐々にかな、ある程度いったら…手加減などしない。」
「カズぅ、フルスロットルだね。」
「まぁね。」
向こうから来たんだ、容赦などしない。
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