華と光と恋心

かじゅ

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第7話 深まる溝とすれ違い

会って話さない?

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 1人で先に帰る…。
そう言ったあたしを、光希は止めないでくれた。
光希は知ってる。
傍にいてほしいときは、ちゃんと
傍にいて。
と言うのがあたしだと。
だから光希は
「気を付けてな、あと、絶対焦るなよ。」
とだけ言って手を振って見送ってくれた。
電車を待つ間、ホームに佇み自分の胸に手を当てる。

「それが恋だよ、恋の痛みだ…。」

光希の言葉が頭の中で、何度も何度もリピートされる。
もしもこれが本当に恋の痛みだと言うのなら…。
何て恋してしまったんだろう、何てレベルじゃない。
あたしみたいな人間如きがもぉにぃたんみたいな人を好きになる何て…そんなのはふざけたことで、戯れ言でしかない。
「馬鹿だな…。」
綺麗な人だったな、花蓮さん…。
胸に当てていた手を下ろし、深い溜め息を洩らしていると、スマホから着信音が聞こえ、
いかん、電車に乗る前にマナーモードにせねば。
スマホを取り出し、ついでにチェック。
あ…。
それはリョウからのメッセだった。
一瞬悩んだものの、桔梗はリョウからのメッセを開く。
-会って話さない?-
これは一体どういうつもり…いや、どういう意味だ???
リョウがあたしに会って話さない?とな?
あのリョウが!
こんなときだけど…。
でも、こんなときだからこそ…。
リョウに会いたい…。
そう思いながらメッセを返した。
あたしも会って話したい。
と…。









 あのとき強引にでも桔梗を連れて職員室を出るべきだった。
そう思う反面、
どうせいつかは自覚しなきゃならないことが、今になっただけの話。
とも思う。
桔梗は、あの同級生のせいで自分の外見に自信がまったくない。
外見、内面すべてに於いて常に過小評価なのは昔から。
何とか少しずつ軌道修正をしようと試みたが、あの過小評価だけはどうにも変わらん。
そこに来てあの写真で桃也さんの元カノは超絶美人。
自覚するのは良かったけど、桔梗が傷付く形で自覚しちまったのは、正直辛い…。
松岡の野郎…!

「そう、とうとう桔梗自覚したんだ?」
毅流の問いに頷いたと同時にホームに電車が到着。
2人は乗り込むと、1番近くの席に並んで座る。
「いつかは来なきゃいけない日だったけど、あんな形とか正直最悪、あんなんじゃ松岡先生ぜってぇ彼女いないな。」
「うんまぁ、空気読めないからね。」
ハハハ、と乾いた笑いを洩らす。
「あいつ、どうすんのかな…。」
「どうするにしても光希は助けるつもりなんでしょ?」
「どうかな…。」
「えっ!」
意外…。
光希なら何が何でも助ける!て言うと思った。
「あたしは基本桔梗本人が助けてって言ってこない限りは、助けないことにしてる、言ってこないってことは助けてほしくないってことだからな。」
多少お節介するときはあるけどな。
「あいつはまず、桃也さんに恋してる自分を否定するだろうな。」
「そんな…どうにかならないの?」
「それをどうにかするのはあたしたちじゃない。」
「モモ兄ってこと?」
光希が静かに頷き、そして訪れる沈黙…。
桔梗を救ってやれるのは桃也さんだけだ…悔しいけど。









 大きなツアーが終わり、暫し緩やかな時間を過ごしているrunaのメンバー。
「嬉しそうねぇ。」
向かいでスマホを見てニヤニヤしているリョウに声を掛けたのはケント。
ケントは元来、何でもそつなくこなす器用な性格。
しかし基本、
俺以外の誰かが出来るんだから、俺やらなくても良くない?
という思考の持ち主。
そしてリョウは生粋の兄貴肌。
人のお世話をサラッとこなす。
そんな2人のため、自然と一緒にいる時間が増えていった。
ちなみにここはリョウの家の広いバルコニー。
シェフ並の腕を持つリョウが作った料理をツマミに、2人は昼間から優雅にワインを飲んでいた。
「そう見えるか?」
言いながらタバコに火を点けると、くわえられたままのケントのタバコにも火を点けた。
「相変わらずジッポー持たないねお前は。」
呆れるリョウを前に優雅に煙を吐き出し、頬杖をついてリョウを見つめる。
「桔梗ちゃんだっけ?」
「ん?」
「その嬉しそうな顔の理由、彼女でしょ?」
「まぁね。」
ふぅっ、と煙を吐き出し、またもや嬉しそうな顔。
「リョウちゃんさ、ちょっとお聞きしたいんだけど…。」
「遊びじゃないよ。」
「あらまぁ。」
「とは言え本気と言うか…興味があるんだよ。」
「興味?」
「今まで見たことないタイプだからね、まずは友達として仲良くなりたいかな、その先があるかどうかはまだ分からない、彼女はまだ高校生だし。」
「何か高校生って改めて聞くと背徳感あるね。」
「お前ね…。」
「ま、俺が言いたいのは、誰も傷付かなきゃ問題ないってこと、それって勿論リョウちゃんもだよ、で、俺は何があってもリョウちゃんの味方だよ。」
煙を吐き出しケントをチラッ、と見る。
「お世話係がいなくなったら困るもんな。」
「あらひねくれ者。」
「違うのか?」
「違わなくない。」
まったくこいつは…。










 そろそろもぉにぃたん帰宅するな。
「…。」
もぉにぃたんのこと考えると、花蓮さんのことも思い出す。
キラキラして眩しい人…。
きっと今はもっと綺麗になってるんだろうな…。
どうして別れちゃったんだろう。
ザクッ!
「あ…。」
特製ジュースを作るために野菜をきっていたのだが、考え事をしていたせいで指を切ってしまった。
すぐに水で傷口を流して確認。
左手の人差し指。
けっこう深く切っちゃったな…。
深く切った挙げ句、水で濡らしたこともあり、すぐにドクドクと血が流れ出す。
らしくない…今まで考え事してたってこんなことなかった。
とりあえずキッチンペーパーを当てて強く握って止血。
「精進が足りない。」
リビングの棚にある救急箱を手に取り、ソファに座りまずは溜め息。
何やってんのかね。
何かもう、馬鹿馬鹿しいね、あたし。
消毒液を取り出して、消毒しようとしているとドアが開き
「あ…。」
桃也帰宅。
「おかえり。」
「おぅ、ただいま…て。」
救急箱っ?
「怪我したのかっ!?」
「大したことない、それより手を洗ってご飯。」
駄目だ…。
もぉにぃたん見たら余計に花蓮さんがチラつく…。
でも落ち着かなきゃ、気にしない気にしない、大丈夫。
「飯より先に傷見せろっ。」
隣に座って手を取る。
「ホント、へーきだから…。」
「馬鹿言うな、こんな深く切っておいて。」
ティッシュを数枚取って消毒液を取ると
「染みるかもしんねぇから我慢しろよ。」
と消毒液をかける。
「…っ!」
「我慢。」
「…。」
こんなんしてくれなくていいのに。
「よし、これであとは絆創膏を…。」
「あの、ホントにもう大丈夫だから…ご飯を…。」
「飯は逃げねぇよ。」
そう言いながら大きめの絆創膏を器用に貼ってゆく。
もぉにぃたん、優しい…。
花蓮さんにも…いや、花蓮さんにはもっと優しくしてたんだろうな。
「これで平気か?」
声を掛けても何処かぼけぇっ、としている桔梗。
「おい、大丈夫か?」
「もぉにぃたん、優しいね。」
「いや、怪我してんだからこれくれぇ当たり前じゃねぇか?」
「花蓮さんにも優しかったの?」
「なっ!お前、何処でその名前を聞いたんだ…っ?!」
桃也に聞かれハッとする。
「ご、ごめ…なさっ…!」
「おいっ!」
何で泣くんだよっ?
桔梗はボロボロ涙を流して泣き出した。
どうしよう…っ、言うつもりなかったのに…!
桔梗はいきなり立ち上がり、
「も…無理だ…っ!」
突然駆け出し、リビングから出て行ってしまった。
「桔梗っ!」
何であいつが花蓮の名前を!







 ドアを閉めてベッドにダイブ。
枕に顔を埋めて泣きじゃくる。
「馬鹿…馬鹿…っ!」
何で言っちゃったんだ!
絶対もぉにぃたんに嫌われた!
幻滅された!
傷付けた!
「うぇ、うぇぇ…!」
声を洩らして泣いていると、ドアが開く音がして
まさかもぉにぃたんっ?!
ガバッと起きてドアの方を見ると
「大丈夫ぅ?」
海斗が立っていた。
「か、かぁ君っ!」
「話ならボクが聞くし、ここに兄貴は来ないから。」
室内に入りドアを閉めるとベッド脇に立ち、
「こっちおいで。」
桔梗の手を取りソファに座ると、ティッシュを取って
「はい、泣かない泣かない。」
涙を拭いてやり、またティッシュを数枚取ると
「はいちーん。」
鼻をかませる。
ティッシュをポイッとゴミ箱に捨てて桔梗に向き直ると
「それでぇ、どうしたわけ?」
「…。」
桔梗は悩んだ末、海斗に桃也とのやり取りを話した。
「花蓮さんの名前、誰に聞いたの?」
「松岡先生…。」
「あぁ、そっかぁ。」
翔ちゃんまた余計なことを…。
「相変わらず空気読めないみたいだねぇ。」
「かぁ君…?」
「あ、ごめんごめん、それで…花蓮の顔は…。」
「見た…凄く綺麗で、桃也さんとお似合いだと思った…。」
「そっか…。」
桔梗だって可愛いのに、いかんせん自分に自信がないからなぁ。
花蓮さんの綺麗さにショック受けたんだな。
「大丈夫、兄貴なら桔梗が花蓮さんのこと知ってることに驚いたかもだけど、それ以上の感情はないよ。」
「でも…。」
「あれぇ、ボクのこと信用出来ないのぉ?」
「そういうわけじゃ…。」
「じゃあリビング戻ろう?ボクも一緒に行くからさぁ。」
「う、うん。」
不安げな桔梗の手を取り立ち上がると、部屋を後にした。







 泣いて凄い勢いで出て行った桔梗を追いかけるために立ち上がったとき、ドアが開き海斗が現れ、
「何があったか今は聞かないけどぉ、ここはボクに任せてよ、桔梗連れて戻るから、兄貴はご飯食べてて、ね?」
と言ってきたため、桃也はとりあえずご飯を食べ始めたのだが、ソワソワしていた。
桔梗、一体何処で花蓮の名前を聞いたんだ?
しかも何で泣いて…。
俺が泣かしたのか?桔梗を…。
1番泣かせたくないのに…。
溜め息をついてチビチビご飯を食べていると、ドアが開き海斗と共に桔梗が入って来た。
桔梗は桃也の前に立つと、
「さっきはごめんなさい…。」
「あ、いやいいんだ、落ち着いたか?」
「うん…かぁ君に話聞いてもらったから。」
「そうか…。」
「桔梗~、これ続き、手伝うよぉ、指怪我してるでしょ?」
「あ、うん、ありがとう。」
キッチン側に向かって行く桔梗をボンヤリ見つめる。
桔梗が花蓮を知ってることも気になるが、それよりも…。
桔梗、何で泣いたんだよ…。
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