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第7話 深まる溝とすれ違い
ゆっくりでいいから
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なるべく早めにお暇しようと思っていたのだが、結局夕飯まで一緒に食べることになり、フレンチのお店の個室に訪れていた。
注文の後リョウがトイレに立ったため、桔梗は1人考えていた。
川瀬遼平を好きになってほしい…。
あの!
あのrunaの!
激推しのリョウに言われた!
あれってやっぱり、告白…?
「馬鹿な…!」
そんなわけない!
例えば…、そう!
友達になりたいんじゃないか?
そうだ!
芸能界みたいに大変な世界にいるから、もしかしたら芸能人以外の友達が欲しいのかもしれない。
「…。」
だとしたらあたしどんだけの勘違いを!
じ…、ジーザス!
詰んだ、終わった…。
何て愚かな…!
桔梗がすっかり打ちひしがれていると、
「ごめんね。」
リョウが戻って来た。
向かい側に座ったリョウに、
「あの、さっきの話なんですけど…。」
自己嫌悪に陥りながらも口を開く。
「うん?」
「川瀬遼平さんと友達にならないかってことだったんですよね?」
あたし…告白されたとか…マジで舞い上がり過ぎだ。
「敬語じゃなくしてもう1度同じこと聞いたら答える。」
せっかくタメ口になりかけてたんだ、ここでまた敬語にされるのはちょっと…。
「う、うぅぅ、あぁ、さっきのは川瀬遼平さんと友達にならないかってことだよね?」
リョウにタメ口きついっす…。
「まぁそうだね。」
やっぱり…!
恥ずかしさで死ぬ…!
「まずは友達からでもいいよ。」
「え…まずは…?」
「うん、まだ知り合ったばかりでお互いのこと、知らないことだらけだろ?だからまずは友達としてお互いを知ることから始めて、それから恋人になれるか考えてほしいかな。」
「こっ!」
か、勘違いじゃなかった!
リョウは恋人として付き合うことを見据えている!
何だこの騙し討ちみたいな展開は!
……………………………………。
騙し討ち?
騙され…。
ハッ!
もしかしてこれドッキリじゃないかっ?
それなら納得いくぞ!
急にキョロキョロ周りを見渡す桔梗に
「どうしたの?何か気になる?」
と声を掛ける。
「いや、ドッキリだとしたら何処かにカメラが…。」
もしかして俺の告白がドッキリじゃないかと思ったのか…?
「ぷっ…、あははははははっ!」
堪えきれず笑ってしまう。
「や、やっぱりドッキリ?」
「違う違う、笑ってごめんね、まさか俺の告白をドッキリと勘違いする何て思ってもみなかったから。」
これは予想以上にズレてるなぁ。
「あ、あの…。」
「ごめんね。」
リョウは1度咳払いをしてから少しだけ微笑むと言った。
「これでも俺、真面目に告白してるんだけどな。」
「あ、あぁ…。」
「迷惑だった?」
「まさかっ、ただ…いきなりのことで信じられなくて…。」
リョウに告白されるとか、前世のあたし…どんだけの徳を積んだんだ?チョモランマ並の徳積んだんじゃないか?
お、恐ろしい…!
「まずは友達から、ゆっくりでいいよ、確かに川瀬遼平を見て欲しいけど、今まで桔梗が見ていたのはrunaのリョウだからね、少しずつでいいよ、それに色々なこと考えると、ゆっくり歩んだ方がいいかなとも思うし…。」
もしかしてリョウ、告白を既に後悔してるんじゃ…。
「桔梗まだ高校生だろ?」
「う、うん、高2。」
「高校生の間に恋人同士になったら、嬉しくもあるけど苦行スイッチ入れなきゃいけないから。」
「苦行スイッチ…?」
何のことか分からない桔梗の前で、リョウは妖しげに微笑む。
「…っ。」
何この妖しいリョウ、見たことない…っ。
これが、川瀬遼平…?
「だって、高校生の桔梗に手を出すわけにいかないだろ?」
「なっ!」
「まずは手始めに遼平って呼んでね。」
玄関前でヘアピンを外すと、中に入ってすぐにしゃがみこむ。
あたしは今日…、もぉにぃたんのことを相談したくてリョウ…じゃなくて、遼平に会いに行ったのよな?
それが何故に?
何故に遼平と付き合う前提でお友達からのスタートとかになったんだっ?
結局帰りも家の前まで車で送られたし…!
「また2人きりで会おうね、そのときは迎えに来るから。」
また2人きりで会う前提で言われたし!
いや会いたくないわけじゃないけども!
あまり物怖じしない桔梗でも、あのリョウに告白されたのだ。
流石に混乱してしまい、思考が上手く回らずにいた。
「何やってんだ?」
その声にガバッ!と顔を上げる。
「あ、桃也さん…、ただいま。」
「おかえり、気分わりぃのか?」
「いや、違う、ちょっと脳内整理に入ってた。」
「脳内整理?」
どういうこった?
桔梗はゆっくり立ち上がり、靴を脱ぐと階段へ向かおうとしたが、
「リョウに会いに行ったんだって?」
「うん、まぁ…。」
「何もなかったんだろ?」
そう言った桃也を前髪の隙間から見る。
まただ…。
またもぉにぃたん、嫌な言い方…。
「何もって何?言いたいことがあるならハッキリ言えばいい、今の桃也さんの言い方、嫌だ。」
言葉は普通だけど、前みたいに嫌な言い方してる…。
「だったらハッキリ言わせてもらう、お前…何考えてんだよ。」
「は?」
「はじゃねぇよ、お前今日リョウと2人きりで会ったんだろ?しかもリョウの家で、プールのときも言ったけど、どんなに腕っぷしが強くたってお前は女だ、何かあったらどうすんだよ、相手は女慣れした大人の男何だぞ、相手がその気になったら…。」
「遼平の何を知って言ってるんだ?」
「何…っ?」
てかこいつ、今遼平って言わなかったか?!
「遼平はそんなことしない!ちゃんとあたしに合わせて考えて話してくれてる!無理せずまずは友達からって言ってくれた!」
「おい待てよ…!その言い方じゃまるで告白されたみたいじゃねぇか!」
「だったら何だよ!桃也さんには関係ないだろ!」
あたしと桃也さん何て幼馴染みで同居人。
それ以上でも以下でもない。
ここから出たらきっと終わってしまうだろう、てくらいの関係。
それに…。
「花蓮さんみたいな綺麗な女性が好きなんだからあたしに何か興味ないだろ!口出すなよ!」
前髪で見え隠れする瞳にきつく、強く睨まれる。
「花蓮は関係ねぇだろ!」
「そっちだってあたしと遼平のこと関係ないだろ!」
「お前…!」
「玄関で何やってるの~?」
そう言って現れたのは海斗。
「おかえり桔梗。」
桃也と桔梗の間に入り、桔梗にニッコリ笑いかける。
「あ、ただいま。」
「今日はリョウと過ごせて楽しかったかなぁ?」
「うん、送ってくれてありがとう、あと…朝一緒にこの服選んでくれてありがとう。」
「どういたしましてぇ、それより緊張しただろうし疲れたでしょ?ジャクジー使えるようになってるから、ゆっくり入っておいでぇよ。」
「う、うん、ありがとう。」
階段へ向かう桔梗を追わないよう、海斗は桔梗に笑顔を向けつつむんずっ、と桃也の腕を握っていた。
桔梗が見えなくなったところで、手を離した途端
「おいっ!」
「おいじゃねぇよ、とりあえずリビング、今なら誰もいねぇから。」
納得いっていない桃也を引っ張ってリビング…と思ったが、
駄目だ、とりあえず落ち着かせねぇと…。
海斗はリビングから庭のウッドデッキに出てベンチに並んで座らせる。
「ほら。」
ポケットに入れたままのタバコを取り出し桃也にくわえさせると、自分もくわえ自分、桃也の分で火を点ける。
ふぅっ、と最初の煙を吐き出してから
「待ち伏せしてたのか?」
「お前こそどうなんだよ?」
「俺は桔梗から連絡もらってたんだよ、帰りも迎えに行くって伝えたから、でも送ってもらうから心配ないってね、で…何処にいるか聞いておいて逆算して玄関に迎え出た。」
どうせ兄貴が迎え出ると予想してたからな。
「俺と桔梗のやりとり…。」
「最初から聞いてた、それよりも…とりあえず黙って聞け。」
と言ってチラッと桃也を見ると、黙々とタバコを吸っていたので話し始める。
「-bule-を結成したとき、メンバーにある宣言をした、メジャーで人気が出るまで黒岸の名前は出さないって、黒岸何て名字珍しいから業界人なら父さんと母さんの息子だってバレる、そうしたら-bule-の実力関係なく寄って来る奴等だっている、それが嫌だから黒岸は名乗らないって言ったら、メンバー全員快諾してくれて、他のメンバーも俺に合わせて名字は伏せてくれることになった、-bule-はそれくらいで名前は本名だけどrunaはもっと徹底してる。」
「…?」
徹底してるって、どういうこった?
「runaはバンド活動とプライベートを完全に分けるためにプロフィールを一切公開してなかった、けどファンの強い要望で生年月日と血液型だけは公開したけど、それだって最近の話だ、そんなrunaのメンバーであるリョウが桔梗には本名を明かしたんだ。」
「それだけ本気って言いてぇのか?」
「それだけじゃねぇよ、カズがシュウに聞いた話だとrunaのメンバーは基本、ファンには手を出さないらしい、別にファンとの恋愛を否定してるわけじゃないらしいけどな、特にリョウは徹底してるらしい、カズも詳しくは聞いてないけど恐らく過去に何かあったんだろう、そのリョウが桔梗には本名を明かして告白したんだ、兄貴が想像してる以上にリョウは本気だぞ。」
「何で桔梗なんだよ…。」
「リョウの気持ち、俺には分かるよ。」
「何だよ?」
「桔梗は何処かズレてるけど、健気でひたむきだから見守りたい気持ちになる、それに加えてあの子は見た目で人を判断したりしないだろ?」
確かにそうだ、桔梗は外見より内面を重んじるタイプ。
外見で惑わされたりしない。
「俺さ、兄貴が花蓮さんと別れて落ち込んでたとき心配な反面、正直羨ましいと思ったんだよね。」
「羨ましいって何だよ?」
「俺は忘れられなくて辛い気持ちになるくらい、誰かを好きになったことがなかったから…。」
「あ…。」
美男美女である黒岸夫妻から生まれた桃也、海斗、毅流。
美男美女のいいトコ取りと言われるくらい、3人ともタイプは違えどイケメンだったため、良くも悪くも目立つ存在だった。
中でも海斗は桃也、毅流とは違い優しすぎる部分が仇となり、ろくでもない女が近付くことが多かった。
最初は海斗なりに抗っていたものの、いつからかある種の諦めがあった。
どうせ誰も自分の内面を見てくれないのなら、こっちだってそのつもりで付き合う。
結果、海斗は来る者拒まず去るもの追わず、のような状態になってしまい、すっかり恋愛を諦めていた。
「桔梗と再会して一緒に過ごすうちに、こんな俺でも希望が持てたんだ、もしかしたら俺の前にも内面をちゃんと見てくれるような女性が現れるんじゃないかって。」
俺が花蓮と別れて苦しんでたとき…。
「お前、俺が花蓮と別れて苦しくて、何とか花蓮とのことを忘れようと必死だったとき、無理に忘れる必要ないんじゃない?て言ってくれたんだよな…。」
「まぁね、兄貴と花蓮さんの思い出はいいことばかりだったろ?まぁ多少の喧嘩はしたかもだけどさ、だから無理して忘れようとするんじゃなく、いい思い出にしたら?て言ったの、今でも覚えてるよ。」
「正直あんとき、お前のその言葉にめちゃめちゃ救われた、あの当時俺、ヤケになってたからな。」
だから怒り任せに花蓮のこと忘れることばっか考えてた…。
「あのときの俺の言葉が刺さってるんなら、これから言う言葉もちゃんと聞いてくれ。」
「何だよ…?」
「イライラする前に自分の気持ちと向き合えよ、逃げるな、ちゃんと考えろ、今のままの兄貴なら、桔梗とリョウに口出しする権利はないぞ、だって兄貴はただの幼馴染みなんだから、何かある度にあんな言い合いかましてるだけじゃ、リョウにどんどん差を付けられるし、桔梗との溝もどんどん深くなるだけだから。」
そこで灰皿にタバコを押し付け火を消すと、ゆっくり立ち上がる。
「障害もなくライバルもいなきゃゆっくり見守るつもりだったけど、そうもいかなくなったから言っておく、このままじゃ間違いなくリョウに桔梗を取られるぞ。」
そこまで言うと海斗はさっさとリビングに入る。
リビングから出ながらチラッと見たが、桃也が戻る気配はなかった。
いいか兄貴、ちゃんと自分と向き合って考えろよ。
思った以上に時間はないからな。
注文の後リョウがトイレに立ったため、桔梗は1人考えていた。
川瀬遼平を好きになってほしい…。
あの!
あのrunaの!
激推しのリョウに言われた!
あれってやっぱり、告白…?
「馬鹿な…!」
そんなわけない!
例えば…、そう!
友達になりたいんじゃないか?
そうだ!
芸能界みたいに大変な世界にいるから、もしかしたら芸能人以外の友達が欲しいのかもしれない。
「…。」
だとしたらあたしどんだけの勘違いを!
じ…、ジーザス!
詰んだ、終わった…。
何て愚かな…!
桔梗がすっかり打ちひしがれていると、
「ごめんね。」
リョウが戻って来た。
向かい側に座ったリョウに、
「あの、さっきの話なんですけど…。」
自己嫌悪に陥りながらも口を開く。
「うん?」
「川瀬遼平さんと友達にならないかってことだったんですよね?」
あたし…告白されたとか…マジで舞い上がり過ぎだ。
「敬語じゃなくしてもう1度同じこと聞いたら答える。」
せっかくタメ口になりかけてたんだ、ここでまた敬語にされるのはちょっと…。
「う、うぅぅ、あぁ、さっきのは川瀬遼平さんと友達にならないかってことだよね?」
リョウにタメ口きついっす…。
「まぁそうだね。」
やっぱり…!
恥ずかしさで死ぬ…!
「まずは友達からでもいいよ。」
「え…まずは…?」
「うん、まだ知り合ったばかりでお互いのこと、知らないことだらけだろ?だからまずは友達としてお互いを知ることから始めて、それから恋人になれるか考えてほしいかな。」
「こっ!」
か、勘違いじゃなかった!
リョウは恋人として付き合うことを見据えている!
何だこの騙し討ちみたいな展開は!
……………………………………。
騙し討ち?
騙され…。
ハッ!
もしかしてこれドッキリじゃないかっ?
それなら納得いくぞ!
急にキョロキョロ周りを見渡す桔梗に
「どうしたの?何か気になる?」
と声を掛ける。
「いや、ドッキリだとしたら何処かにカメラが…。」
もしかして俺の告白がドッキリじゃないかと思ったのか…?
「ぷっ…、あははははははっ!」
堪えきれず笑ってしまう。
「や、やっぱりドッキリ?」
「違う違う、笑ってごめんね、まさか俺の告白をドッキリと勘違いする何て思ってもみなかったから。」
これは予想以上にズレてるなぁ。
「あ、あの…。」
「ごめんね。」
リョウは1度咳払いをしてから少しだけ微笑むと言った。
「これでも俺、真面目に告白してるんだけどな。」
「あ、あぁ…。」
「迷惑だった?」
「まさかっ、ただ…いきなりのことで信じられなくて…。」
リョウに告白されるとか、前世のあたし…どんだけの徳を積んだんだ?チョモランマ並の徳積んだんじゃないか?
お、恐ろしい…!
「まずは友達から、ゆっくりでいいよ、確かに川瀬遼平を見て欲しいけど、今まで桔梗が見ていたのはrunaのリョウだからね、少しずつでいいよ、それに色々なこと考えると、ゆっくり歩んだ方がいいかなとも思うし…。」
もしかしてリョウ、告白を既に後悔してるんじゃ…。
「桔梗まだ高校生だろ?」
「う、うん、高2。」
「高校生の間に恋人同士になったら、嬉しくもあるけど苦行スイッチ入れなきゃいけないから。」
「苦行スイッチ…?」
何のことか分からない桔梗の前で、リョウは妖しげに微笑む。
「…っ。」
何この妖しいリョウ、見たことない…っ。
これが、川瀬遼平…?
「だって、高校生の桔梗に手を出すわけにいかないだろ?」
「なっ!」
「まずは手始めに遼平って呼んでね。」
玄関前でヘアピンを外すと、中に入ってすぐにしゃがみこむ。
あたしは今日…、もぉにぃたんのことを相談したくてリョウ…じゃなくて、遼平に会いに行ったのよな?
それが何故に?
何故に遼平と付き合う前提でお友達からのスタートとかになったんだっ?
結局帰りも家の前まで車で送られたし…!
「また2人きりで会おうね、そのときは迎えに来るから。」
また2人きりで会う前提で言われたし!
いや会いたくないわけじゃないけども!
あまり物怖じしない桔梗でも、あのリョウに告白されたのだ。
流石に混乱してしまい、思考が上手く回らずにいた。
「何やってんだ?」
その声にガバッ!と顔を上げる。
「あ、桃也さん…、ただいま。」
「おかえり、気分わりぃのか?」
「いや、違う、ちょっと脳内整理に入ってた。」
「脳内整理?」
どういうこった?
桔梗はゆっくり立ち上がり、靴を脱ぐと階段へ向かおうとしたが、
「リョウに会いに行ったんだって?」
「うん、まぁ…。」
「何もなかったんだろ?」
そう言った桃也を前髪の隙間から見る。
まただ…。
またもぉにぃたん、嫌な言い方…。
「何もって何?言いたいことがあるならハッキリ言えばいい、今の桃也さんの言い方、嫌だ。」
言葉は普通だけど、前みたいに嫌な言い方してる…。
「だったらハッキリ言わせてもらう、お前…何考えてんだよ。」
「は?」
「はじゃねぇよ、お前今日リョウと2人きりで会ったんだろ?しかもリョウの家で、プールのときも言ったけど、どんなに腕っぷしが強くたってお前は女だ、何かあったらどうすんだよ、相手は女慣れした大人の男何だぞ、相手がその気になったら…。」
「遼平の何を知って言ってるんだ?」
「何…っ?」
てかこいつ、今遼平って言わなかったか?!
「遼平はそんなことしない!ちゃんとあたしに合わせて考えて話してくれてる!無理せずまずは友達からって言ってくれた!」
「おい待てよ…!その言い方じゃまるで告白されたみたいじゃねぇか!」
「だったら何だよ!桃也さんには関係ないだろ!」
あたしと桃也さん何て幼馴染みで同居人。
それ以上でも以下でもない。
ここから出たらきっと終わってしまうだろう、てくらいの関係。
それに…。
「花蓮さんみたいな綺麗な女性が好きなんだからあたしに何か興味ないだろ!口出すなよ!」
前髪で見え隠れする瞳にきつく、強く睨まれる。
「花蓮は関係ねぇだろ!」
「そっちだってあたしと遼平のこと関係ないだろ!」
「お前…!」
「玄関で何やってるの~?」
そう言って現れたのは海斗。
「おかえり桔梗。」
桃也と桔梗の間に入り、桔梗にニッコリ笑いかける。
「あ、ただいま。」
「今日はリョウと過ごせて楽しかったかなぁ?」
「うん、送ってくれてありがとう、あと…朝一緒にこの服選んでくれてありがとう。」
「どういたしましてぇ、それより緊張しただろうし疲れたでしょ?ジャクジー使えるようになってるから、ゆっくり入っておいでぇよ。」
「う、うん、ありがとう。」
階段へ向かう桔梗を追わないよう、海斗は桔梗に笑顔を向けつつむんずっ、と桃也の腕を握っていた。
桔梗が見えなくなったところで、手を離した途端
「おいっ!」
「おいじゃねぇよ、とりあえずリビング、今なら誰もいねぇから。」
納得いっていない桃也を引っ張ってリビング…と思ったが、
駄目だ、とりあえず落ち着かせねぇと…。
海斗はリビングから庭のウッドデッキに出てベンチに並んで座らせる。
「ほら。」
ポケットに入れたままのタバコを取り出し桃也にくわえさせると、自分もくわえ自分、桃也の分で火を点ける。
ふぅっ、と最初の煙を吐き出してから
「待ち伏せしてたのか?」
「お前こそどうなんだよ?」
「俺は桔梗から連絡もらってたんだよ、帰りも迎えに行くって伝えたから、でも送ってもらうから心配ないってね、で…何処にいるか聞いておいて逆算して玄関に迎え出た。」
どうせ兄貴が迎え出ると予想してたからな。
「俺と桔梗のやりとり…。」
「最初から聞いてた、それよりも…とりあえず黙って聞け。」
と言ってチラッと桃也を見ると、黙々とタバコを吸っていたので話し始める。
「-bule-を結成したとき、メンバーにある宣言をした、メジャーで人気が出るまで黒岸の名前は出さないって、黒岸何て名字珍しいから業界人なら父さんと母さんの息子だってバレる、そうしたら-bule-の実力関係なく寄って来る奴等だっている、それが嫌だから黒岸は名乗らないって言ったら、メンバー全員快諾してくれて、他のメンバーも俺に合わせて名字は伏せてくれることになった、-bule-はそれくらいで名前は本名だけどrunaはもっと徹底してる。」
「…?」
徹底してるって、どういうこった?
「runaはバンド活動とプライベートを完全に分けるためにプロフィールを一切公開してなかった、けどファンの強い要望で生年月日と血液型だけは公開したけど、それだって最近の話だ、そんなrunaのメンバーであるリョウが桔梗には本名を明かしたんだ。」
「それだけ本気って言いてぇのか?」
「それだけじゃねぇよ、カズがシュウに聞いた話だとrunaのメンバーは基本、ファンには手を出さないらしい、別にファンとの恋愛を否定してるわけじゃないらしいけどな、特にリョウは徹底してるらしい、カズも詳しくは聞いてないけど恐らく過去に何かあったんだろう、そのリョウが桔梗には本名を明かして告白したんだ、兄貴が想像してる以上にリョウは本気だぞ。」
「何で桔梗なんだよ…。」
「リョウの気持ち、俺には分かるよ。」
「何だよ?」
「桔梗は何処かズレてるけど、健気でひたむきだから見守りたい気持ちになる、それに加えてあの子は見た目で人を判断したりしないだろ?」
確かにそうだ、桔梗は外見より内面を重んじるタイプ。
外見で惑わされたりしない。
「俺さ、兄貴が花蓮さんと別れて落ち込んでたとき心配な反面、正直羨ましいと思ったんだよね。」
「羨ましいって何だよ?」
「俺は忘れられなくて辛い気持ちになるくらい、誰かを好きになったことがなかったから…。」
「あ…。」
美男美女である黒岸夫妻から生まれた桃也、海斗、毅流。
美男美女のいいトコ取りと言われるくらい、3人ともタイプは違えどイケメンだったため、良くも悪くも目立つ存在だった。
中でも海斗は桃也、毅流とは違い優しすぎる部分が仇となり、ろくでもない女が近付くことが多かった。
最初は海斗なりに抗っていたものの、いつからかある種の諦めがあった。
どうせ誰も自分の内面を見てくれないのなら、こっちだってそのつもりで付き合う。
結果、海斗は来る者拒まず去るもの追わず、のような状態になってしまい、すっかり恋愛を諦めていた。
「桔梗と再会して一緒に過ごすうちに、こんな俺でも希望が持てたんだ、もしかしたら俺の前にも内面をちゃんと見てくれるような女性が現れるんじゃないかって。」
俺が花蓮と別れて苦しんでたとき…。
「お前、俺が花蓮と別れて苦しくて、何とか花蓮とのことを忘れようと必死だったとき、無理に忘れる必要ないんじゃない?て言ってくれたんだよな…。」
「まぁね、兄貴と花蓮さんの思い出はいいことばかりだったろ?まぁ多少の喧嘩はしたかもだけどさ、だから無理して忘れようとするんじゃなく、いい思い出にしたら?て言ったの、今でも覚えてるよ。」
「正直あんとき、お前のその言葉にめちゃめちゃ救われた、あの当時俺、ヤケになってたからな。」
だから怒り任せに花蓮のこと忘れることばっか考えてた…。
「あのときの俺の言葉が刺さってるんなら、これから言う言葉もちゃんと聞いてくれ。」
「何だよ…?」
「イライラする前に自分の気持ちと向き合えよ、逃げるな、ちゃんと考えろ、今のままの兄貴なら、桔梗とリョウに口出しする権利はないぞ、だって兄貴はただの幼馴染みなんだから、何かある度にあんな言い合いかましてるだけじゃ、リョウにどんどん差を付けられるし、桔梗との溝もどんどん深くなるだけだから。」
そこで灰皿にタバコを押し付け火を消すと、ゆっくり立ち上がる。
「障害もなくライバルもいなきゃゆっくり見守るつもりだったけど、そうもいかなくなったから言っておく、このままじゃ間違いなくリョウに桔梗を取られるぞ。」
そこまで言うと海斗はさっさとリビングに入る。
リビングから出ながらチラッと見たが、桃也が戻る気配はなかった。
いいか兄貴、ちゃんと自分と向き合って考えろよ。
思った以上に時間はないからな。
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