その最強魔剣士には、いかがわしい噂がある

杏 みん

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 「「「局長!」」」

 週の始まり月曜日。
 少し遅れて出勤してきた局長に、俺とレイラ、カイは声をあげた。
 俺達はちょうど、10時からの魔対・生安合同捜査会議の為に、集まっていて。

 「おはようございます。パーティーの時はお疲れ様でした。心配をかけてすみません」
 
 顔は、やはり白い。けれど、倒れた時に比べると安心感を持てる程度の血色を感じる。

 「ほんとですよ! 私、心配すぎて禿げるかと思いました! もう仕事して大丈夫なんですか!?」

 「医者は疲れが出たんだって言ってたんすよね!? だったらもっとガチ休みした方がいいっすよ! もう過労で倒れていい時代じゃないんで!」

 病み上がりの相手に対し、圧強めに詰め寄るレイラとカイ。
 二人を『落ち着け、落ち着け』と引き離した所で、両局の局員達がゾロゾロと会議室に入って来た。
 もう、会議開始の時間が迫っている。

 「局長、こちらに」
 
 「はい、ありがとうございます」

 背に手を添え、最上座にいざなう。
 たった数日の間なのに……パーティーで踊った時よりも、一層薄く感じた。

 「……俺も、無理出来ます」

 「はい?」

 「無理してる人に無理しないでって言っても、絶対無理するんで。だったらせめて……俺でも出来る仕事は、全部俺に任せて下さい。無理してでも、こなしてみせます」

 局長にだけ聞こえる声でそう伝える。

 「……ありがとうございます……」

 すると局長もまた小さく、答えてくれた。
 その微笑みで、ピリついた会議室の空気が、和らぐ。勿論……俺のまわりだけだけれど。



 「以上が、一斉検挙の計画であります。先日のパーティーで、参加者全員の身元が判明しましたので、全員の逮捕はスムーズに行えるかと。ブランシェ局長をはじめ、潜入捜査された局員の方々、お疲れ様でございました」

 魔対・生安の合同チームのリーダーがそう言ってお辞儀をする。
 『潜入捜査された局員の方々』である俺やレイラ、カイは、自分の席で軽く頭を下げた。
 
 どうやら、あの一件は公式な捜査という事になっているらしい。多分……というか間違いなく、局長が手を回してくれたのだろう。私的に動いた事が発覚すれば、86期の立場があやうくなるから。

 「では、魔対・生安の捜査会議は以上を持って解散」

 「ちょっと待って下さい」

 会議をしめようとした生安局長の言葉を遮るようにして、挙手をする、我らの局長。
 補佐役の俺にもその意図がわからず、目を瞬かせてしまう。

 「ブランシェ局長、まだ何かございますか?」

 「はい。是非この場でシェアしておきたい情報が。資料の4ページ目……売春女性のリストをご覧ください。この中の一人は……魔対で追っている、"婚活事件"の被害者なんです」

 「「「え!?」」」

 意外な事実。俺を含めた、何人もの魔対局員が思わず声を挙げ、会議室内は一気に騒がしくなる。
 
 「生安さんの中には、詳細をご存知ない方もいらっしゃるかもしれないので……レイラ」

 「え、あ、はいっ」

 突然の事に戸惑いつつも、レイラは速やかに立ち上がり、説明を始めた。

 「通称、婚活事件は、約半年前から発生している連続魔力略奪事件です。被害者は下級から中級魔法使いの女性、12名。彼女らは、結婚相談所で知り合った男性と関係を持ち、魔力を奪われています。相談所に登録された男の個人情報は全てデタラメで……未だに犯人に関する有力な情報は得られておらず……」

 レイラの眉間には、皺。当然だ。この事件については、魔対局員の誰もが奥歯を噛みしめたくなってしまう、ふがいない状況が続いている。

 「はい、ありがとうございました。そういうわけなので、この婚活被害者兼、売春容疑者からは是非とも有力情報を入手したく……取り調べは、私にお任せ頂けないでしょうか?」

 なにやらとんでも無い事をい出した上司。思わず、その顔を凝視してしまう。
 この人が局内で使う全ての事件を把握し、解決に向けて懸命に取り組んでいるのは知っているけれど……それでも、トップ自らが取り調べをするなんて、聞いたことが無い。

 例えるなら、大企業の社長が、路上で宣伝用のティッシュ配りをするようなものだ。
 隣に座る生安局長は目を丸くし、会議室内もザワザワ。

 「ブ、ブランシェ局長御自らですか!?」

 「はい。魔対の長として、捜査が難航している事に責任を感じていますので。勿論、コンプライス保持の為に、魔対と生安の局員を一人ずつ同席させて頂ければと思います。よろしいですか?」

 魔対局長のの『よろしいですか?』は、『これは決定事項です』と、同義語。
 明らかに生安局長の方が年長者ではあるが、警察職員としてのキャリア、階級、そして魔法使いとしての実力は、最強魔剣士の方が格上だから。

 「はい……では、お任せいたします」

 「ありがとうございます」

 満足げな笑みを浮かべた局長は、丁寧にお辞儀をした。
 その後、婚活事件の情報を追加で共有した後、会議は終了。

 局員達が次々に部屋を出て行く中、局長は、生安局のカイと、婚活事件担当班の主任である、レイラを呼びつけて。

 「聴取にはレイラとカイに立ち会ってもらいます。生安局長には、私から話を通しておきますので」

 「わかりました」

 「りょーかいっす!」

 こうなる予感はしていたけれど……違和感。誰もがノーと言えないのをいい事に、自分が一番やりやすいよう、畑を耕すなんて。局長らしくない。

 「局長、どうしてそん」

 「じゃあ、早速行きましょう。実は彼女にはすでに接触済です。場合によっては恩情を示せると伝えた所、話を聞ける事になりました」

 「は!?」「へ?」「どえ!?」

 思いもよらない展開。86期で、互いの顔を見合ってしまう。

 「それ、ヤバくないっすか? うちの局長も知らないっすよね? 非公式な取り調べで証言ゲットしても、証拠能力ゼロっすよ?」

 「私も同感です! ていうか、恩情って……まさか、代わりに売春を見逃すつもりですか? 逮捕前に独断で司法取引まで持ち出すんなんて、さすがに……っ」

 「責任は、私がとります」

 カイとレイラの質問に答える事無く……いや、答えるどころか、それらを封じ込めるような形で、そう言い切る局長。さすがの二人も戸惑いを隠せないよう。

 「では、10分後に局長室集合で。よろしくお願いします」

 そんな部下と元部下の動揺を無視し、背を向ける局長。を、速足で追いかける。

 「局長、待って下さい」
 
 「フレンは局に残っていいです。レイラ班の若い子達をみてあげてください」

 こちらを見向きもせず、背中で指示を寄越す。
 俺は思わず、局長の手を掴んだ。

 「何をそんなに焦っているんです? 婚活事件は確かに捜査が難航していますし、許しがたい事件ではありますが、死人も出ていません。なのに」

 「上司命令です! 文句があるなら補佐役はクビです!」

 食い下がる俺に、苛立ちをあらわにする局長。

 らしくない高圧的な態度で、俺を黙らせようとしてくる。これは、絶対に変だ。引き下がるわけにはいかない。

 「俺も無理するって、言いましたよね? 何か事情があるなら、共有してもらえませんか?」

 「私にしか出来ない事です。お願いですから……黙って行かせて……っ」

 今にも泣き出しそうな顔。こんな顔を見せられて、『はい行ってらっしゃい』なんて、言えるはずない。

 「局長……っ」

 俺の手を振り払おうとする局長。離すまいと力をこめる俺。
 そんな力比べに終止符を打ったのは……

 「フレン、離してあげて」

 いつの間にか現れた、ティリアンだった。

 「ティリアン……どうして……」

 「俺も、聴取に参加する。その前にいくつか確認したくて……局長を探してたんだ」

 「同席って……監査のお前がか?」

 ますます解せない。やっぱり、この件の裏側には何かある。

 「うん……そうだよな。そりゃあ、やっぱり、この件の裏側には何かある……って顔になるよな」

 俺の腕を掴むティリアンは、そう言って苦笑い。

 「すげー心読んでくるじゃねぇか……そこまでわかってるなら、教えてくれよ。補佐役風情には漏らせない事情なら、そう言ってくれれば納得するから」

 「いや……お前にも知っておいてもらった方がいいと思う。……いいか、落ち着いて聞いてくれ」

 「ティリアンっ!」

 何かを諦めたように息を吐くティリアンと、彼の名を語気を強めて呼ぶ局長。
 雰囲気から察するに……俺には話してくれるなと、ティリアンを止めようとしている様子。けれどティリアンはまっすぐな目で俺を捕らえたまま、再び口を開いて。

 「婚活事件の犯人は恐らく……ルークなんだ」 
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