死ぬほど愛しているけれど、妻/夫に悟られるわけにはいかないんです

杏 みん

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82.嘘が下手という長所でもあり短所でもある性格

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 「え!?」

 「え」

 同時に驚きの声を上げてしまう、私と蓮ちゃん。

 「え、え、え!? 蓮ちゃん、どうしてこんな所にいるの!?」

 『こんな所』とは、病院の事。
 本社を出た後、私は先日仁ちゃんが胃腸炎で救急受診した、大学病院に来ていた。

 そこの一階……総合受付で待っていたら、なんと正面から蓮ちゃんが歩いてきて。

 「唯こそ。具合でも悪いのか?」

 「ううん、私は……今朝、病院から仁ちゃんのスマホに電話があってね。この間の受診料が未払いなんですけどって……でも、とりあえず鞄を届けてからにしようと思って。会社出た後、慌ててここに」

 「ん? 仁のスマホに電話があったのに、どうして唯が? というか、鞄?」

 「ああ、ごめん、わからないよね。今朝、色々あって……」

 「それに未払いって? なんでまた……」

 「……あ……そういえば……どうしてだろう……?」

 そんな事、きちんと考える余裕がなかった。

 昨日の夜あんな事があって、今朝は仁ちゃんと入れ違いになってしまって、そしたら斎藤さんに火をつけてしまって。
 ああ、なんだか……今更、頭が痛くなってきた。

 思わず、眉間に手を当てる。
 すると私の不調を、蓮ちゃんは素早く察してくれて。

 「大丈夫か? また何かあった? ちょっと話すか? 7階に食堂があるみたいだし」

 「ううん、なんでもない」

 本当は……また色々聞いて欲しいんだけど。

 ここの所、蓮ちゃんに頼りっぱなしだし。
 スーツを着てる所を見ると、蓮ちゃんはお仕事がらみの用事でここにいるんだろうから、これ以上世話をかけるわけにはいかない。

 「あっ、午前中に再配達が来るんだった! 急いで帰らなきゃ!」

 私は『それじゃあまた』と、手を振って立ち去ろうとしたのだけれど。
 その手を掴まれ、引き止められてしまった。

 「唯は、嘘が下手なの自覚した方がいい。相手に余計、心配かけるだけだぞ」

 「…………自覚はせども、改善の目途立たず……申し訳ありません……」

 いたたまれず、床に視線を落とす私。
 蓮ちゃんは『仕方ないな』と微笑んでから、そのまま私の手を引いて、歩いてくれた。
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