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絶対支配領主『バハムート』人類衰退度A+
第2話 御前大河
しおりを挟む彼――――御前大河は異世界転生者であり、転移者でもある。
異世界転生とは、現実世界で死んだ者が異世界で人生をやり直すということ。よく挙げられるのが神様の手違いで死んだため、お詫びとしてチートスキルとともに転生させてもらえるという状況だ。
異世界転移とは、簡単に言えば異世界へと飛ばされること。要因としては異世界と現実との間を繋ぐゲートに呑み込まれた、だとか、勇者として召喚された、とかである。
大河はまず現実世界で死に異世界転生をして、そこで別の異世界転移をしている。転移に至っては、既に何回も経験していた。
様々な異世界を転移し、渡り歩いてきた大河は、やがて自らのことを異世界漂流者と呼ぶようになった。
(それにしても、転移して間もなくドラゴンと交戦する羽目になるとは……)
ドラゴンは別の世界でも見たことはあるが、これほど巨体ではなかった。せいぜいが半分程度。
大河は今一度斬り捨てたドラゴンを見やる。体長は目算だが五十メートルほどか。切断面からは血が流れ出し、半ば池を作っていた。
「あの……?」
ふと声をかけられて、大河は顔の向きを元に戻す。視線をやや下げると、齢十七歳くらいの少女がペタンと座り込んでいた。
自然と目が合う。少女が食い入るように見つめてくるため、どうにも目を逸らしづらい。
少女は日本では滅多に見かけない、美しい深紅の長髪が特徴的であった。身体つきこそ貧相に映るが、それでも女性らしい起伏が見て取れる。何より愛らしい顔立ちに備わる赤色の瞳は、見る者を吸い込むような魅力を秘めていた。
彼は咳払い一つで妙な雰囲気を断ち切り、
「俺の名前はタイガ。お互いに色々と聞きたいこともあるだろうが……、前提として一つだけ聞かせてくれ」
「は、はい」
「……俺の言葉はちゃんと通じているか? おかしなところはないか?」
きょとん、と少女が目をパチクリさせる。質問の意図があまり理解できていないようだったが、とりあえず答えを返してくれた。
「全然通じてますけど……。あ、でも、あんまり聞いたことない名前だなあって」
「ふ、まあ文化が違うからな。ともあれ良かった。毎度これだけは、合っているかどうか不安になるんだ」
「?」
やはり大河の言葉に付いていけない少女。彼はうっかり独り言を漏らしていたことに気付き、手で口を塞いだ。
少女が膝に手を突きながらも何とか立ち上がり、ペコリと頭を下げた。
「ありがとうございました! 私、アイシャって言います! さっきは危ない所を……本当に、感謝してもし足りません……!」
「大したことはしていない。ただ羽の生えたトカゲの首を落としただけのこと、間に合ったというのなら幸いだが」
「? トカゲ? えーと、これはドラゴンと言いましてですね……」
「知ってる知ってる。ちょっとカッコつけたかっただけだから」
ボケの解説をさせられたかのような気恥ずかしさが襲ってくる。慣れないことはするものではない、と教訓を胸に刻み、ひとまず状況整理の時間を取りたい。
ここがどんな異世界で、人類は今どういう危機に瀕しているのか。敵の正体や規模、聞きたいことは山ほどある。
それよりもまずはアイシャの安全確保が先決である。大河は村の場所を聞き、そこまで送り届けることにした。それに歩きながらでも情報交換はできる。
アイシャは彼を見上げながら口を開いた。
「あの、タイガさんは異世界人なのですか?」
「その通りだが……、よく分かったな」
「ドラゴンの背後で召喚用の魔法陣が見えましたから……」
「ああ、なるほど。いやあれはさすがにビックリしたなあ。ようやく転移が終わったと思えば、妙にゴツゴツした皮膚に落とされるし、炎は吐かれるしで」
「普通はビックリでは済まないと思いますよ……?」
転移先は選べないとはいえ、今回はなかなか異例だった。よもやドラゴンの背に落ちるとは。転移中の手持無沙汰から寝落ちしかけていたタイガにとって、わりと危ないタイミングだった。
タイガは努めて穏やかな声音で話し続ける。
「ところで、今向かっている村の大きさはどの程度だ? 何人いて、防塞を築いているのかとか」
「村の皆を合わせると五八人です。大体大人と子供が半々くらいで。……村の防備は、ほとんど皆無です」
む、とタイガは唸って、
「何故だ? 深く事情は知らないが、ドラゴンの脅威に晒されているのなら、防壁や櫓の一つはあって然るべきだろう?」
日本では異世界にいる村人を馬鹿扱いするが、生きるための術を怠るほど間抜けではないはずだ。外敵から身を守るために防壁で囲み、バリスタなどの迎撃用武器を取り付ける。タイガがこれまで漂流してきた村でも、その程度の対策を立てていた。
尋ねられて、アイシャは辛いことを思い出している風に、小さな手を固く握り締めて、
「……防備を築くと、ドラゴンから抵抗の意思ありと見なされて襲われるんです。そのせいで現に、いくつか村が壊滅しています。生半可なものでは時間稼ぎにもならないから、いっそ築かないで反感を買わないようにするのが精いっぱいです……」
「それは……、」
何という圧政だろうか。元いた現実世界の歴史を紐解いても、そうある話ではない。せいぜい秦の始皇帝くらいか。
どの圧政者も、最後には討たれて死去するのが世の定めだが、それはあくまで同じ人間であれば、という前提が付き纏う。
アイシャたちが立ち向かわねばならないのは、人間よりよほど強いドラゴンなのだ。現実世界と同列に語るのは浅はか過ぎよう。
この世界に来たばかりの新参者が、どれだけ言葉を積み重ねようともアイシャの心には響かないだろう。いや、美辞麗句を並べて納得させることはできるが、それは決して彼女のためにならない。
故にタイガは、行動で示すことにした。
ポン、とアイシャの頭を優しく撫でて、
「俺は戦場において今まで負け知らずだが、何故だか分かるか?」
「え……、いや、それはタイガさんが強いから…………」
「惜しい。なに、言ってしまえば簡単な話でな」
頭から手が離れ、少女はついタイガの顔を見上げた。
彼は胸を張って告げる。
「――――勝てる戦いしかやらないからさ。その臆病者から言わせてもらえば、今回も同じことだよ。これは勝てる戦だ」
「…………!」
アイシャが感極まった風に口元を押さえた。「こいつのセリフくっさ」と笑われているのなら立ち直れないが。
そう思うと途端に恥ずかしく思えたタイガは、路線変更しておちゃらけた空気を出した。
「あっ、臆病者からの太鼓判なんてまるで安心には繋がらないな! 締まらない言葉で申し訳ない」
それでも彼女は目尻に溜めた涙を拭いて、小さく首を横に振った。
「いえ、いえ……! 本当に、ありがとうございます…………!」
その姿を見て、タイガはやはり気恥ずかしさから頬を掻いた。
(だが、この少女の不安が少しでも和らげば、俺の恥も功名になり得るか……)
アイシャから笑顔を向けられて、彼はその思いを一層強めたのだった。
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