3 / 24
絶対支配領主『バハムート』人類衰退度A+
第3話 親子愛
しおりを挟むアイシャの住む村は、どちらかと言えば集落という形容がしっくりくる規模だった。
外敵から身を守る工夫は、村を取り囲む堀程度のもので、空から襲ってくるドラゴン相手では意味をなさない。つまり丸裸同然。
肝心の家屋は石造建築がほとんどだ。アイシャから聞いた話では、昔生えていた木々をドラゴンが焼き払ってしまったらしく、一割残っているかどうかとのことだ。まったくはた迷惑な支配者である。
「おお、おお……これは夢か? アイシャ……生きていたのか!?」
アイシャとタイガを出迎えたのは、村の入口付近をウロウロしていた中年の男性だった。
五十代半ばで中肉中背。人当たりの良さそうな、穏やかな表情をしているも、僅かに苦労の色が見て取れる。
その男が視界に入った途端、アイシャは一目散に駆け出した。
「お父様っ!」
その父親の胸元へ勢いよく飛び込んだアイシャ。父親も愛しい我が子を宝物のように大事に抱きかかえた。
いつ見ても親子愛と言うのは心を洗われる気分になる。人の良心を最も感じる瞬間だ。
感動の再会にタイガは思わずもらい泣きをしていたところ、ようやく気付いたらしい父親が、アイシャを抱えながら視線を寄越してきた。
「あなたは……見ない顔ですね。娘と一緒にいたようですが……」
不思議なことに警戒心をまるで感じなかった。大切な愛娘が見知らぬ男と共にいたのだから、少しは疑っても受け流そうと決めていたのだが、幸いにも無駄に終わった。
あるいは、父親にとっての敵はドラゴンしかおらず、人間は皆共通の味方と捉えているのかもしれない。
アイシャは父から身体を離して、今度はタイガの傍へと寄り添った。
「あのねお父様、この方はタイガさんと言ってドラゴン――――バアル・バゼルに捧げられた私を助けてくださった恩人なのよ!」
よほど有り得ない事実だったのか、しばらくフリーズしていた父が腰が抜けるほどの驚きぶりを披露した。
「ええっ!? ひょっとして、あの火竜バアル・バゼル様を倒してしまったということは……!?」
「その通りです。ドラゴンというのは礼儀知らずなもので、私の昼寝を妨げてきましてね。少しお灸を据えてやろう、と暴力に頼ったところ、どうも行き過ぎてしまったみたいです」
はわわ、と男は見るからに動揺している。この世界でドラゴンがいかに絶対的だったかが分かる態度だ。
そんな父親に代わって、アイシャが簡単に紹介してくれた。
「私のお父様はこの村の長を務めています。名前はアイーガ。見ての通り頼りない面もございますが、それでも一所懸命村のために動いている人です……!」
「はは、そこまで言葉を尽くさずとも、アイシャが熱心に説明してくれるというだけで、君の父が人格者だということは理解できるよ」
かあ、と彼女が顔を赤く染めた。親離れできていない、と自身を評価したのか。
ようやく再起動を果たしたアイーガが、深々と頭を下げる。
「こ、この度は娘がお世話になりました! 何とお礼をすればよいか……」
「そこまでおだてられると却って恐縮してしまいます。それに今回の件は私の善意によるもの、善意に見返りを与えられては私の顔が立ちません。どうかお気になさらず」
「おお……何とできたお方だ……! それに引き替え私は…………」
アイーガはぐっと固く握り拳を作った。怒りで身体が震えていた。
その心中を察することはできる。おそらく村を存続させるため、村から一人生贄を要求されたのだろう。どういった方法でアイシャが選ばれたかは定かでないにせよ、そのことを父親として大いに悔やんでいるのだ。
父親と村長の立場――――アイーガは相当思い悩んだに違いない。その心労を察すると、部外者のタイガが口汚く罵ることなどできようはずもない。
タイガは彼の肩に手を添えて、アイシャに聞こえないよう配慮した声音で話しかけた。
「あなたは村長として正しい行いをしました。それにどうやら、娘さんは村長であるあなたのことを誇りに思っているようだ。ですので、自己嫌悪もほどほどになさってください」
「……お心遣い感謝いたします。ですが理屈はどうあれ、私は父として許されない行為をしました。負い目を感じずにはいられません」
これ以上タイガが口を挟めることではない。アイーガ自身がその罪を背負っていこうというのだから、せいぜい応援してやることくらいしかできない。
話に混ざれていないアイシャがきょとんとした表情で、
「? お父様、立ち話も失礼ですので、とりあえずタイガさんを我が家に招き入れてはどうですか?」
「……ああ。そうだね。タイガさん、ひとまず我が家へ案内しましょう。よろしければ、是非とも一夜を明かしてください。それがせめてものお詫びになりますが……」
「喜んで。ですがよろしいので? 私のような身分不詳の男を、アイシャさんと一つ屋根の下に泊まらせても? 可愛らしい娘さんの教育に悪いのでは?」
「もう、タイガさんったら……! そんなことをする人じゃないでしょう?」
冗談もほどほどにして、タイガは村の中央にある一際目立つ建物へと案内された。とはいえ室内は質素で、ありがちな絵画や装飾品の類は見られない。
タイガは石でできた円柱型の椅子に腰かける。ひんやりとしていた。外気と比べて、この室内は涼しさを感じるので、おそらく魔法で温度調節しているのだろう。
アイーガが台所へ飲み物を取りに行っている間に、アイシャがタイガの隣に座り、
「ごめんなさいねタイガさん。貧困が無礼の免罪符になるとは思わないけれど、私たちにはあなたの恩義に報いることはできないのです」
「さっきも言ったが、本当に遠慮なんてしてないんだ。欲しいものがあるわけでもなし、感謝の言葉だけで充分だよ」
「……それにしても、少し言葉遣いが丁寧過ぎませんか? 少し意外です」
何が意外なのかはともかく、かつて社会人だったタイガとしては、敬語はごく当たり前の口語である。砕けた口調と整えた口調、二つの使い分けが面倒だからと、彼は専ら敬語で対応していた。
「お待たせしました、タイガさん。どうぞ」
と言って、アイーガが冷水を差し出してくる。コップに触れただけで、中の液体が冷えていることが伝わってくる。
口を付ける直前、タイガはぴたりと手を止めて、
「そう言えば、この世界には水が枯渇していると伺いましたが、私に振る舞ってよろしいので?」
「いえ、そこは魔法を利用して何とかしています。水を生み出して、浄化してと、少し手間はかかりますが。どちらかと言えば、食料を探すことの方が大変です」
「なるほど……、では、先ほど倒したドラゴンの肉を持って来ましょうか? 怨敵の血肉など、気持ち悪いかもしれませんが……」
するとアイーガは困った風に笑って、
「実はドラゴンの肉は、とても固くて食べられたものではないのですよ。そもそも滅多に手に入らない代物ですし」
ドラゴンはあの巨体を両翼で浮かしていることから、全身筋肉の塊と言っていい。当然身は固くなり、柔らかい内臓系も毒素の溜まり場となっている。
タイガは過去の記憶に検索をかけながら言う。
「確かにドラゴンの大部分は食べられません。ですがごく一部においては、絶品と呼ばれるほどの旨味を秘めています。ほんの僅かですが……それでも、この村の数日分の食糧にはなりましょう」
「ほう……! タイガさんは豪傑というより、賢者というべきですかな」
「よしてください。では早速捌いてきましょう。そのまま放置してきたので、いい感じに血抜きもできているでしょうから」
水を一気飲みして、彼は席を立った。別の者を向かわせる、というアイーガの申し出を丁重に断り、一キロほど先にある石檀まで向かう。かなりの量になることが予想されるので、成人男性五、六人の人出が必要になる。だったら自分一人でやった方が早い。
先ほどの知識は、以前立ち寄った異世界で会得したものだ。サイズは違うものの、解体の仕方はよく覚えている。
(何よりドラゴンの肉は、今まで食べたどの肉よりも美味しかった。あれをもう一度味わえるというのなら、これ以上ない報酬だ)
心なしか急いた足取りで、彼は目的地まで駆けて行った。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~
存在証明
ファンタジー
不慮の事故によって異世界に転生したカイ。異世界でも家族に疎まれる日々を送るがある日赤い瞳の少年と出会ったことによって世界が一変する。突然街を襲ったスタンピードから2人で隣国まで逃れ、そこで冒険者となったカイ達は仲間を探して冒険者ライフ!のはずが…?!
はたしてカイは運命をぶち壊して幸せを掴むことができるのか?!
火・金・日、投稿予定
投稿先『小説家になろう様』『アルファポリス様』
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる