異世界漂流~転生者絶対倒すマン!~

名無なな

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絶対支配領主『バハムート』人類衰退度A+

第3話 親子愛

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 アイシャの住む村は、どちらかと言えば集落という形容がしっくりくる規模だった。
 外敵から身を守る工夫は、村を取り囲む堀程度のもので、空から襲ってくるドラゴン相手では意味をなさない。つまり丸裸同然。

 肝心の家屋は石造建築がほとんどだ。アイシャから聞いた話では、昔生えていた木々をドラゴンが焼き払ってしまったらしく、一割残っているかどうかとのことだ。まったくはた迷惑な支配者である。

「おお、おお……これは夢か? アイシャ……生きていたのか!?」

 アイシャとタイガを出迎えたのは、村の入口付近をウロウロしていた中年の男性だった。               
 五十代半ばで中肉中背。人当たりの良さそうな、穏やかな表情をしているも、僅かに苦労の色が見て取れる。

 その男が視界に入った途端、アイシャは一目散に駆け出した。

「お父様っ!」

 その父親の胸元へ勢いよく飛び込んだアイシャ。父親も愛しい我が子を宝物のように大事に抱きかかえた。
 いつ見ても親子愛と言うのは心を洗われる気分になる。人の良心を最も感じる瞬間だ。

 感動の再会にタイガは思わずもらい泣きをしていたところ、ようやく気付いたらしい父親が、アイシャを抱えながら視線を寄越してきた。

「あなたは……見ない顔ですね。娘と一緒にいたようですが……」

 不思議なことに警戒心をまるで感じなかった。大切な愛娘が見知らぬ男と共にいたのだから、少しは疑っても受け流そうと決めていたのだが、幸いにも無駄に終わった。
 あるいは、父親にとっての敵はドラゴンしかおらず、人間は皆共通の味方と捉えているのかもしれない。

 アイシャは父から身体を離して、今度はタイガの傍へと寄り添った。


「あのねお父様、この方はタイガさんと言ってドラゴン――――バアル・バゼルに捧げられた私を助けてくださった恩人なのよ!」


 よほど有り得ない事実だったのか、しばらくフリーズしていた父が腰が抜けるほどの驚きぶりを披露した。

「ええっ!? ひょっとして、あの火竜バアル・バゼル様を倒してしまったということは……!?」
「その通りです。ドラゴンというのは礼儀知らずなもので、私の昼寝を妨げてきましてね。少しお灸を据えてやろう、と暴力に頼ったところ、どうも行き過ぎてしまったみたいです」

 はわわ、と男は見るからに動揺している。この世界でドラゴンがいかに絶対的だったかが分かる態度だ。
 そんな父親に代わって、アイシャが簡単に紹介してくれた。

「私のお父様はこの村の長を務めています。名前はアイーガ。見ての通り頼りない面もございますが、それでも一所懸命村のために動いている人です……!」
「はは、そこまで言葉を尽くさずとも、アイシャが熱心に説明してくれるというだけで、君の父が人格者だということは理解できるよ」

 かあ、と彼女が顔を赤く染めた。親離れできていない、と自身を評価したのか。
 ようやく再起動を果たしたアイーガが、深々と頭を下げる。


「こ、この度は娘がお世話になりました! 何とお礼をすればよいか……」
「そこまでおだてられると却って恐縮してしまいます。それに今回の件は私の善意によるもの、善意に見返りを与えられては私の顔が立ちません。どうかお気になさらず」
「おお……何とできたお方だ……! それに引き替え私は…………」


 アイーガはぐっと固く握り拳を作った。怒りで身体が震えていた。
 その心中を察することはできる。おそらく村を存続させるため、村から一人生贄を要求されたのだろう。どういった方法でアイシャが選ばれたかは定かでないにせよ、そのことを父親として大いに悔やんでいるのだ。

 父親と村長の立場――――アイーガは相当思い悩んだに違いない。その心労を察すると、部外者のタイガが口汚く罵ることなどできようはずもない。
 タイガは彼の肩に手を添えて、アイシャに聞こえないよう配慮した声音で話しかけた。

「あなたは村長として正しい行いをしました。それにどうやら、娘さんは村長であるあなたのことを誇りに思っているようだ。ですので、自己嫌悪もほどほどになさってください」
「……お心遣い感謝いたします。ですが理屈はどうあれ、私は父として許されない行為をしました。負い目を感じずにはいられません」

 これ以上タイガが口を挟めることではない。アイーガ自身がその罪を背負っていこうというのだから、せいぜい応援してやることくらいしかできない。
 話に混ざれていないアイシャがきょとんとした表情で、

「? お父様、立ち話も失礼ですので、とりあえずタイガさんを我が家に招き入れてはどうですか?」
「……ああ。そうだね。タイガさん、ひとまず我が家へ案内しましょう。よろしければ、是非とも一夜を明かしてください。それがせめてものお詫びになりますが……」
「喜んで。ですがよろしいので? 私のような身分不詳の男を、アイシャさんと一つ屋根の下に泊まらせても? 可愛らしい娘さんの教育に悪いのでは?」
「もう、タイガさんったら……! そんなことをする人じゃないでしょう?」

 冗談もほどほどにして、タイガは村の中央にある一際目立つ建物へと案内された。とはいえ室内は質素で、ありがちな絵画や装飾品の類は見られない。

 タイガは石でできた円柱型の椅子に腰かける。ひんやりとしていた。外気と比べて、この室内は涼しさを感じるので、おそらく魔法で温度調節しているのだろう。
 アイーガが台所へ飲み物を取りに行っている間に、アイシャがタイガの隣に座り、

「ごめんなさいねタイガさん。貧困が無礼の免罪符になるとは思わないけれど、私たちにはあなたの恩義に報いることはできないのです」
「さっきも言ったが、本当に遠慮なんてしてないんだ。欲しいものがあるわけでもなし、感謝の言葉だけで充分だよ」
「……それにしても、少し言葉遣いが丁寧過ぎませんか? 少し意外です」

 何が意外なのかはともかく、かつて社会人だったタイガとしては、敬語はごく当たり前の口語である。砕けた口調と整えた口調、二つの使い分けが面倒だからと、彼は専ら敬語で対応していた。

「お待たせしました、タイガさん。どうぞ」

 と言って、アイーガが冷水を差し出してくる。コップに触れただけで、中の液体が冷えていることが伝わってくる。
 口を付ける直前、タイガはぴたりと手を止めて、

「そう言えば、この世界には水が枯渇していると伺いましたが、私に振る舞ってよろしいので?」
「いえ、そこは魔法を利用して何とかしています。水を生み出して、浄化してと、少し手間はかかりますが。どちらかと言えば、食料を探すことの方が大変です」
「なるほど……、では、先ほど倒したドラゴンの肉を持って来ましょうか? 怨敵の血肉など、気持ち悪いかもしれませんが……」

 するとアイーガは困った風に笑って、

「実はドラゴンの肉は、とても固くて食べられたものではないのですよ。そもそも滅多に手に入らない代物ですし」

 ドラゴンはあの巨体を両翼で浮かしていることから、全身筋肉の塊と言っていい。当然身は固くなり、柔らかい内臓系も毒素の溜まり場となっている。
 タイガは過去の記憶に検索をかけながら言う。


「確かにドラゴンの大部分は食べられません。ですがごく一部においては、絶品と呼ばれるほどの旨味を秘めています。ほんの僅かですが……それでも、この村の数日分の食糧にはなりましょう」
「ほう……! タイガさんは豪傑というより、賢者というべきですかな」
「よしてください。では早速捌いてきましょう。そのまま放置してきたので、いい感じに血抜きもできているでしょうから」


 水を一気飲みして、彼は席を立った。別の者を向かわせる、というアイーガの申し出を丁重に断り、一キロほど先にある石檀まで向かう。かなりの量になることが予想されるので、成人男性五、六人の人出が必要になる。だったら自分一人でやった方が早い。
 先ほどの知識は、以前立ち寄った異世界で会得したものだ。サイズは違うものの、解体の仕方はよく覚えている。

(何よりドラゴンの肉は、今まで食べたどの肉よりも美味しかった。あれをもう一度味わえるというのなら、これ以上ない報酬だ)

 心なしか急いた足取りで、彼は目的地まで駆けて行った。


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