異世界漂流~転生者絶対倒すマン!~

名無なな

文字の大きさ
15 / 24
絶対支配領主『バハムート』人類衰退度A+

第15話 臆病な傭兵団

しおりを挟む

 タイガ自身もまた、それを痛いほど理解していた。していながらも、彼は遠慮なしに言葉へと変えた。


「――――俺はこれから神竜バハムートを討伐する。『スレイヤーズ』のメンバーには、その手助けをしてもらいたい」


 直後、部屋全体にどよめきが波及する。

「今何て言った……?」「あのバハムートを!?」「テメエの自殺願望に巻き込もうってか」「田舎民はアレの恐ろしさを知らないんだ……!」

 口々に焦りと不安を漏らしている。竜殺しに特化した傭兵団と聞いていたが、すっかり畏怖した様子だった。
 その中で平静を保っていたロイは、ゴホンと大きく咳払いをして、団員の関心を集めた。動揺の波が明確に引いたのが分かった。

「……なるほど、その大層な志、理解しましたとも。だが生憎、我々は別の依頼を抱えていてね、そちらの方に戦力を回すだけの余裕がないんだ。うちも現状で手一杯でね」

 頬にできた二センチほどの傷をなぞりながら、ロイはそう答えた。
 タイガは一度目を閉じ、落胆の気持ちを努めて見せないように振る舞った。


「……そうですか。なら仕方ありません。この話はまたいずれ、ということで」
「ええ。遠いところから脚を運んでくださったってーのに、色よい返事ができずすまんかった」
「お気になさらず。人民の命に重きを置くのはしょうがありませんから」


 定型文を残して、彼は席を立った。食い下がる素振りも見せずに踵を返す。
 ともすればそれは「期待するだけ無駄だ」と蔑まれたかのように受け取れる行為。それを咎めるようにして、ロイは背後から声をかけてきた。


「あんた、異世界転生者ってやつだろ?」


 ピタリ、とタイガの脚が縫い付けられたかのように止まった。断られるまでは想定内だったが、よもや転生者だと見破られるとは思ってもみなかった。
 微かに驚いた彼だったが、冷静になってみればその理由に見当が付く。タイガは身体ごと振り返って言った。

「さてはロイさん、あなたは以前に別の転生者と出会っていますね? そこそこ長い付き合いだったように見える」
「その通りだ。実を言うと、この『スレイヤーズ』はその人――――アオイが創設したもんなんだ」

 予想していたため、今度こそまるで動じなかったタイガは、しかし相手を労わるように伏し目がちになって、

「……今、そのアオイさんとやらは?」
「――――死んだよ。たった一人で、あのバハムートに挑みに行ってな」

 だん! とロイはテーブルを強打した。思い出を振り返っているのか、肩を震わせている。


「結局俺ぁ、アオイの亡骸さえ持って帰ってやれなかった! あの人なら大丈夫だって、油断して、一人であの怪物の元に送っちまった……!」


 転生者というからには、相当な強者であったことだろう。あの性悪な天使どもから、いったいどんなチート能力を与えられたか定かでないにせよ、神性を持っている以上ドラゴン相手では傷を負うことさえ難しい。

(となると、やはり相手も――――)

 少ない情報から敵の正体について迫っていくタイガ。それを遮るようにロイが再び大声を張り上げた。


「だからよタイガさん、そこらの管理者を倒したからって、同じようにバハムートも倒せるなんて思っちゃいけねえ! 残された俺たちにできることは、今を生きる奴らの手助けをしてやることだ!!」


 転生者ジョンが死んだことが、おそらく傭兵団全体のトラウマとなっているのだろう。だからバハムートの名を聞いただけで、著しく戦意が下がったのだ。
 つまり『他を助けるのに手一杯で、バハムート討伐にまで手を貸せない』というのは方便だったというわけである。そもそも他の村からの依頼が殺到しているのも嘘に違いない。でなければ今みたいに酒を浴びるように飲んでいるはずがないからだ。

 彼らの言い分は充分に理解した。


 それを受けたタイガの眼は――――

「だから諦めたのか?」

 ――――ひどく凍てついていた。


 くだらない、という思いをまるで隠そうとしない目付き。先ほどまでの温和な態度と打って変わったせいで、まったくの別人にさえ見える。
 彼は心底呆れた風に首を振った。


「バハムートには勝てない――――そう諦めたから、妥協して、その場凌ぎをするようになったのか? だけど周りからは称賛されて、こうして酒も飲める。おおなんとやりがいのある毎日だ。それがハリボテであると見て見ぬフリができるのなら、それこそ理想郷に映るだろうさ」
「…………っ!」
「大層なお題目を掲げてさえいれば、何も知らない民衆を騙すことくらいわけないことだ。もっとも、何人かは気付いているようだが。けどいつも守ってくれているから、彼らもまた見ないフリをして、『スレイヤーズ』の面子を守ってくれる。なんて素晴らしい! 互いが優しさを持ち寄って、支え合って生きている! いかにも人間らしい、虚構に満ちた善意だ!」


 度重なる挑発の言葉に、応えようとする者はいなかった。激高した者はいただろう。武器に手をかけた者もいるかもしれない。けれど歯噛みするだけに留まっているのは、たとえ滾った頭であっても、彼の言葉が事実であることを知っていたからだ。

 それがなおさら、タイガの気分を荒立てる。
 その生き方を選んだのは彼ら自身であるはずなのに、そこに後ろめたさを抱き、自覚している。しかしそれを改めようともしないことに腹が立ったのだ。

「ふん……。一番の傭兵団と聞いて立ち寄ってみれば、何のことはない。ただの腰抜け以下だったか」

 タイガは悪態を吐いて今度こそ出て行くべく、扉に手を伸ばした。
 そうだ、と思い出した風に言葉を紡いだ。

「ここにいる全員に聞きたいんだが……何かに逃避して飲む酒は美味いか?」
「何……っ?」

 扉に触れた手を止めて、彼は振り返らずにそう問いかけた。

「これは俺の持論なんだが、何かから逃げて飲む酒ってのは不味いもんだよ。何より寝つきが悪くなるし、次の日には頭が痛くなってしょうがない」
「何が言いたいんだ……!」

 その口調はあたかも煽るようだった。


「――――思い返してみろ、かつての酒の味を。頼れる団長とバハムート打倒を掲げ、ともに未来を語った酒は、決して不味くはなかったはずだと」
「……っ!」


 まるで当時を見たかのように話すタイガの言葉に、一同は声を失っていた。創設期からのメンバーは特に、目を見開き息を呑んでいた。
 キィ、と扉が小さく音を立てる。

「俺もそうありたいと常に思っている。だから――――一人でもバハムートに挑む。どうせ死ぬのなら、前のめりになって死にたいからな」

 関係を断ち切るかの如く、扉が重い音を響かせて閉じた。
 タイガはそこでようやく肩の力を抜いた。思ったことをそのまま吐露しただけであっても、意識的に他人を煽るのはどうにも慣れない。

(あとは彼ら次第だな……。それで駄目なら他を当たるしかない)

 ひとまず彼はカンユ村に戻ろうと歩を速めた。これ以上あの村を留守にするのはリスクが大きい。

 街を抜けて城門の手前まで辿り着く。そこには入場する際に出会った門番が立っていた。
 門番はタイガの姿に目を留めて、わりと好意的な態度で接してきた。

「よお。もうお帰りかい? 結局歌わせてくれる酒場が見当たらなかったか?」
「まあそうだな。当てが外れたってのは確かだ」
「だったら広場でもどこでも歌えばいいじゃねえか。俺だったらお捻りの一つや二つ、出したってのによ」
「はは――――」

 愛想笑いを浮かべた刹那、突如思考に痺れが走った。つい顔を顰めてしまう。

(これは――――っ!?)

 心当たりのあったタイガは、世間話を打ち切って外へと駆け出していった。門番が「おい!」と引き止めようとする声がしたものの、無視して突き進む。

 タイガはカンユ村を出る際に、村全体を覆うように結界を張っておいたのだ。無論プロに敵うレベルではないにせよ、ある程度の足止めになると踏んでいたのである。相手がたとえドラゴンであっても。
 先ほどの痺れは、術者であるタイガに結界が攻撃を受けたことを伝える信号。それも一瞬だけということは、おそらく瞬時に破られたのだろう。

 タイガは行きの時よりも数倍速い走りで大地を横断していく。急速に景色が流れていく。

「待っていろ……!」

 焦る心とともに彼は速度を上げていった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~

存在証明
ファンタジー
不慮の事故によって異世界に転生したカイ。異世界でも家族に疎まれる日々を送るがある日赤い瞳の少年と出会ったことによって世界が一変する。突然街を襲ったスタンピードから2人で隣国まで逃れ、そこで冒険者となったカイ達は仲間を探して冒険者ライフ!のはずが…?! はたしてカイは運命をぶち壊して幸せを掴むことができるのか?! 火・金・日、投稿予定 投稿先『小説家になろう様』『アルファポリス様』

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

処理中です...