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絶対支配領主『バハムート』人類衰退度A+
第15話 臆病な傭兵団
しおりを挟むタイガ自身もまた、それを痛いほど理解していた。していながらも、彼は遠慮なしに言葉へと変えた。
「――――俺はこれから神竜バハムートを討伐する。『スレイヤーズ』のメンバーには、その手助けをしてもらいたい」
直後、部屋全体にどよめきが波及する。
「今何て言った……?」「あのバハムートを!?」「テメエの自殺願望に巻き込もうってか」「田舎民はアレの恐ろしさを知らないんだ……!」
口々に焦りと不安を漏らしている。竜殺しに特化した傭兵団と聞いていたが、すっかり畏怖した様子だった。
その中で平静を保っていたロイは、ゴホンと大きく咳払いをして、団員の関心を集めた。動揺の波が明確に引いたのが分かった。
「……なるほど、その大層な志、理解しましたとも。だが生憎、我々は別の依頼を抱えていてね、そちらの方に戦力を回すだけの余裕がないんだ。うちも現状で手一杯でね」
頬にできた二センチほどの傷をなぞりながら、ロイはそう答えた。
タイガは一度目を閉じ、落胆の気持ちを努めて見せないように振る舞った。
「……そうですか。なら仕方ありません。この話はまたいずれ、ということで」
「ええ。遠いところから脚を運んでくださったってーのに、色よい返事ができずすまんかった」
「お気になさらず。人民の命に重きを置くのはしょうがありませんから」
定型文を残して、彼は席を立った。食い下がる素振りも見せずに踵を返す。
ともすればそれは「期待するだけ無駄だ」と蔑まれたかのように受け取れる行為。それを咎めるようにして、ロイは背後から声をかけてきた。
「あんた、異世界転生者ってやつだろ?」
ピタリ、とタイガの脚が縫い付けられたかのように止まった。断られるまでは想定内だったが、よもや転生者だと見破られるとは思ってもみなかった。
微かに驚いた彼だったが、冷静になってみればその理由に見当が付く。タイガは身体ごと振り返って言った。
「さてはロイさん、あなたは以前に別の転生者と出会っていますね? そこそこ長い付き合いだったように見える」
「その通りだ。実を言うと、この『スレイヤーズ』はその人――――アオイが創設したもんなんだ」
予想していたため、今度こそまるで動じなかったタイガは、しかし相手を労わるように伏し目がちになって、
「……今、そのアオイさんとやらは?」
「――――死んだよ。たった一人で、あのバハムートに挑みに行ってな」
だん! とロイはテーブルを強打した。思い出を振り返っているのか、肩を震わせている。
「結局俺ぁ、アオイの亡骸さえ持って帰ってやれなかった! あの人なら大丈夫だって、油断して、一人であの怪物の元に送っちまった……!」
転生者というからには、相当な強者であったことだろう。あの性悪な天使どもから、いったいどんなチート能力を与えられたか定かでないにせよ、神性を持っている以上ドラゴン相手では傷を負うことさえ難しい。
(となると、やはり相手も――――)
少ない情報から敵の正体について迫っていくタイガ。それを遮るようにロイが再び大声を張り上げた。
「だからよタイガさん、そこらの管理者を倒したからって、同じようにバハムートも倒せるなんて思っちゃいけねえ! 残された俺たちにできることは、今を生きる奴らの手助けをしてやることだ!!」
転生者ジョンが死んだことが、おそらく傭兵団全体のトラウマとなっているのだろう。だからバハムートの名を聞いただけで、著しく戦意が下がったのだ。
つまり『他を助けるのに手一杯で、バハムート討伐にまで手を貸せない』というのは方便だったというわけである。そもそも他の村からの依頼が殺到しているのも嘘に違いない。でなければ今みたいに酒を浴びるように飲んでいるはずがないからだ。
彼らの言い分は充分に理解した。
それを受けたタイガの眼は――――
「だから諦めたのか?」
――――ひどく凍てついていた。
くだらない、という思いをまるで隠そうとしない目付き。先ほどまでの温和な態度と打って変わったせいで、まったくの別人にさえ見える。
彼は心底呆れた風に首を振った。
「バハムートには勝てない――――そう諦めたから、妥協して、その場凌ぎをするようになったのか? だけど周りからは称賛されて、こうして酒も飲める。おおなんとやりがいのある毎日だ。それがハリボテであると見て見ぬフリができるのなら、それこそ理想郷に映るだろうさ」
「…………っ!」
「大層なお題目を掲げてさえいれば、何も知らない民衆を騙すことくらいわけないことだ。もっとも、何人かは気付いているようだが。けどいつも守ってくれているから、彼らもまた見ないフリをして、『スレイヤーズ』の面子を守ってくれる。なんて素晴らしい! 互いが優しさを持ち寄って、支え合って生きている! いかにも人間らしい、虚構に満ちた善意だ!」
度重なる挑発の言葉に、応えようとする者はいなかった。激高した者はいただろう。武器に手をかけた者もいるかもしれない。けれど歯噛みするだけに留まっているのは、たとえ滾った頭であっても、彼の言葉が事実であることを知っていたからだ。
それがなおさら、タイガの気分を荒立てる。
その生き方を選んだのは彼ら自身であるはずなのに、そこに後ろめたさを抱き、自覚している。しかしそれを改めようともしないことに腹が立ったのだ。
「ふん……。一番の傭兵団と聞いて立ち寄ってみれば、何のことはない。ただの腰抜け以下だったか」
タイガは悪態を吐いて今度こそ出て行くべく、扉に手を伸ばした。
そうだ、と思い出した風に言葉を紡いだ。
「ここにいる全員に聞きたいんだが……何かに逃避して飲む酒は美味いか?」
「何……っ?」
扉に触れた手を止めて、彼は振り返らずにそう問いかけた。
「これは俺の持論なんだが、何かから逃げて飲む酒ってのは不味いもんだよ。何より寝つきが悪くなるし、次の日には頭が痛くなってしょうがない」
「何が言いたいんだ……!」
その口調はあたかも煽るようだった。
「――――思い返してみろ、かつての酒の味を。頼れる団長とバハムート打倒を掲げ、ともに未来を語った酒は、決して不味くはなかったはずだと」
「……っ!」
まるで当時を見たかのように話すタイガの言葉に、一同は声を失っていた。創設期からのメンバーは特に、目を見開き息を呑んでいた。
キィ、と扉が小さく音を立てる。
「俺もそうありたいと常に思っている。だから――――一人でもバハムートに挑む。どうせ死ぬのなら、前のめりになって死にたいからな」
関係を断ち切るかの如く、扉が重い音を響かせて閉じた。
タイガはそこでようやく肩の力を抜いた。思ったことをそのまま吐露しただけであっても、意識的に他人を煽るのはどうにも慣れない。
(あとは彼ら次第だな……。それで駄目なら他を当たるしかない)
ひとまず彼はカンユ村に戻ろうと歩を速めた。これ以上あの村を留守にするのはリスクが大きい。
街を抜けて城門の手前まで辿り着く。そこには入場する際に出会った門番が立っていた。
門番はタイガの姿に目を留めて、わりと好意的な態度で接してきた。
「よお。もうお帰りかい? 結局歌わせてくれる酒場が見当たらなかったか?」
「まあそうだな。当てが外れたってのは確かだ」
「だったら広場でもどこでも歌えばいいじゃねえか。俺だったらお捻りの一つや二つ、出したってのによ」
「はは――――」
愛想笑いを浮かべた刹那、突如思考に痺れが走った。つい顔を顰めてしまう。
(これは――――っ!?)
心当たりのあったタイガは、世間話を打ち切って外へと駆け出していった。門番が「おい!」と引き止めようとする声がしたものの、無視して突き進む。
タイガはカンユ村を出る際に、村全体を覆うように結界を張っておいたのだ。無論プロに敵うレベルではないにせよ、ある程度の足止めになると踏んでいたのである。相手がたとえドラゴンであっても。
先ほどの痺れは、術者であるタイガに結界が攻撃を受けたことを伝える信号。それも一瞬だけということは、おそらく瞬時に破られたのだろう。
タイガは行きの時よりも数倍速い走りで大地を横断していく。急速に景色が流れていく。
「待っていろ……!」
焦る心とともに彼は速度を上げていった。
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