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絶対支配領主『バハムート』人類衰退度A+
第16話 約束を果たすべく
しおりを挟む本来一日はかかる道のりを、たったの三時間に縮めて戻ったタイガを待ち受けていたのは、凄惨たる光景であった。
村の周囲に張り巡らせたはずの竜皮の防壁は見るも無残に吹き飛ばされ、家屋のほとんどは崩壊し瓦礫と化している。特に中央の村長宅は酷い有り様だ。
その惨状と比例して、当然負傷者の姿も見えてくる。屋内ではなく、空いたスペースに集めて手当てを行っているようだった。
肩で息をしているタイガが入り口で立ち尽くしていると、負傷者の相手をしていた男性が気付き、歩み寄ってきた。その動きもゆらゆらと頼りない。
「タ、タイガさん……お帰りになられましたか」
男性――――アイーガは額を布で覆い、僅かながら血が滲んでいるようだった。苦しそうな表情をしているアイーガに対し、タイガはやや遠慮がちに尋ねる。
「辛いところ申し訳ありませんが……、何が起こったか、詳しく説明願えますか?」
「ええ……。今から三時間ほど前に、ドラゴンの群れが襲って来まして。瞬く間に防壁を破られました」
「……それとは別に結界を張っていたのですが、役に立ちませんでしたか?」
「結界……? そう言えば、一番初めに強烈な一撃が飛んできたわりには、あまり威力がないなと思いましたが……、あなたの仕業でしたか。多分、それがなければこの村は壊滅していたでしょう」
役立ったのなら幸いとはいえ、本当に一撃で突破されるとは思ってもみなかった。炎竜バアル・ボウルのブレスを想定して張っていたのだ。
彼の結界は自動で【調和】を発動させ、敵の攻撃を相殺するようになっている。しかも不足した魔力は大気中から補充するという仕様で、何発撃とうとも破れない。それを破られたとなると、想定以上の威力を叩き出されたということ。
(やはり……バハムートによるものか?)
であれば堅牢な結界が一撃で破られたことにも合点がいく。それを見ていたアイーガなら、バハムートがどんな姿だったか覚えているかもしれない。
「アイーガさん、そのブレスを放った敵の姿は見えましたか?」
「……どうだったか。何せほんの一瞬の出来事で混乱していたものですから」
危機が迫ってきたら顔を背けるのは条件反射に等しい。なら見ていなくても不思議はない。どのみちドラゴンであることには違いないのだから。
そうでなくてもドラゴンの軍勢から身を守るので精一杯だったはずだ。周囲の状況に気を配っていられたかさえ怪しいものである。
タイガは一度アイーガとの会話を打ち切り、改めて周囲の様子を確認した。重傷者は二十名以上で、そうでない者もどこかしこに軽傷を負っている。そして救護の輪から離れた所には、ボロキレを被された死体が数体横たわっていた。
痛ましい光景だ、と彼は自らの不注意を咎めていると、ふと欠けているものに気が付いた。
「ところで村長さん、――――アイシャはどうされました?」
「…………、」
こういう時率先して治療にあたりそうな彼女の姿が一向に見当たらない。死体のどれかなのかとも思ったが、体格が一致していない。どう見ても成人した身体付きだ。
アイーガは腹の底から悔しそうな顔を浮かべて、
「……娘は今、薬草を採ってきています。治療に不可欠なものなので」
「嘘だな。この辺りに草木の類はほとんど生えていないし、そうでなくともドラゴンが去った直後に一人で向かわせるのは明らかに不自然だ」
そもそもカンユ村が原型を留め、かつ村人の大半が無事だということ自体おかしい。結界は突破され、築いたばかりの防壁も意味を為さなかった。あとは蹂躙するだけで殲滅できたはずだ。
それをしなかったということは、それに見合う要求を受け入れたということ。この村に金銀財宝の類があるとは思えない。だとすれば――――
「――――売ったのか、アイシャを」
タイガは怒気を孕ませた声でアイーガに詰め寄った。
よく見ると、村の若娘たち数人も消えていた。おそらくアイシャとともに生贄として捧げられたのだろう。
アイーガはタイガから目を逸らしながら答える。
「……小娘を三人差し出せば、この場は見逃してやると、そう言われました。…………こういう時、上の者が動かねば周りも動きません。故に、アイシャを――――」
「それでも父親かっ! あれほどあんたを慕っていた一人娘だろう!? それなのにあんたらは若い娘に全てを押し付けて……っ!」
ひょっとしたら、アイーガが率先して差し出したのではなく、アイシャ自ら進言したのかもしれない。いや、きっとそうだろう。彼女は危機であっても他人を慮ることのできる人間である。
タイガが胸ぐらを掴みあげていた手を、アイーガが抵抗するように握り締めて、
「ええ、私は最低の人間です! いっそ殺しますか!? その方がはるかにマシですよ、この苦しみから逃れることができるのですからっ!!」
溢れ出した父の涙が、タイガの手にぽたりと落ちた。いくらか冷静を取り戻したタイガは、絞め殺さんばかりの力を込めていた両手を解いた。
「村のためにはつらい決断をしなくちゃならない……。皆のリーダーってのは苦労事ばかりだな」
「……っ! 私たちも、あなたにはとても感謝しています。あなたのおかげで、一筋の希望が見えたのですから。――――ですが、それでも! やはり我々人間如きが、ドラゴンになぞ刃向かうべきではなかった……!」
アイーガの恨み言を、タイガはしっかりと胸に刻みつけた。それとともに、自分が介入したことによって傷付いた村人たちを見やる。これは自らの罪だ、と。
タイガは彼らに背を向ける。そして静かにアイーガに尋ねた。
「……アイシャたちを連れ去った竜どもは、どの方角へ飛んでいきましたか?」
「え、それは……東です。そこには竜の巣があると言われていて……。まさか、タイガさんあなたは……っ!?」
彼の指差した方角に身体ごと向ける。ここからでも薄っすらと火山が見えた。いかにも支配者の好みそうなロケーションだ。
タイガはアイーガの問いかけに頷いてみせて、
「――――俺は今から、バハムートを退治してきます」
実現不可能と思われる目標を、こともなげに言ってのけた。
アイーガは顔を真っ青にして訴える。
「む、無理です! あそこにはバハムートはおろか、竜の大群が巣食っていると言われる魔境なのですよ!? いかにドラゴンを二体討ったあなたと言えど、相当厳しい戦いが待っています!」
「あなたたちが耐え忍んできた数十年に比べればこの一時、さしたるものではありませんよ」
それが強がりであることは明白だった。他人はもちろん、彼自身もそれを認めていた。
残された猶予が短いとはいえ、その間に打てる手はいくつか用意してあったが、それも全て台無しになっている。結局同志集めも不十分である。
それでもアイシャたちにとっての命運は、今まさに尽きようとしているのだ。この身がどうなろうと、優先すべきは彼女たちである。
「そういうわけで、俺はまたこの村を離れます。できればその間、なるべく見つからない場所に身を隠しておいてください。大丈夫、すぐにアイシャを連れて帰りますから」
「ちょっと待――――!」
その諌める言葉を置き去りにして、タイガは火山目掛けて再度疾走する。今日だけでかなり肉体を酷使しているものの、今はまるで気にならなかった。
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