異世界漂流~転生者絶対倒すマン!~

名無なな

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絶対支配領主『バハムート』人類衰退度A+

第17話 馬鹿ばっかりの傭兵団

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「くそっ!!」

 と一旦自室に引き上げたロイは乱暴に扉を閉めた。
 タイガがまるで嵐のように現れ、去っていた後ではとても飲み直す気分にはなれない。ロイだけでなく他の団員――――特に古参の者も同様だった。

 胸の奥が沸き立つような怒り。そもそも何故これほどまでに憤りを覚えているかと言えば、タイガの言葉が事実そのものだったからだ。図星を突かれ、それを恥と思っていたからこそである。

「分かってんだよ、んなこたぁよ……!」

 この国全ての民にとって、唯一の剣であり盾。それが『スレイヤーズ』だったはずだ。何より創設者であるアオイの掲げた目的であった。
 こういう気持ちが落ち込んだ時、アオイとともに駆け抜けた記憶が自然と想起される。


『はあっ!? ここ異世界なのに冒険者ギルドがないのか!? 俺のSSSランクの夢はっ!? あんのクソ天使が、よりにもよって定番を外してくるとは……!』


 初めて彼と出会ったのは、ロイがドラゴンと戦っている時だった。突如現れたアオイによって九死に一生を得たのだ。あまり意味の分からない言葉を連呼されて、かなり頭を悩ませたのを覚えている。
 ギルドとやらがないことに絶望したアオイは、「だったら自分で作ればいいじゃん!」と思い直したらしく、それが『スレイヤーズ』の元となった。ロイはアオイとならばドラゴン全てを根絶できると思い、行動を共にしていた。

『受付嬢は巨乳が良いよなあ……。笑顔が素敵で、俺がクエストから戻ってきたら「アオイさんっ! お帰りなさい!」って言われたい』

 アオイは基本的に善性の人間だった。困りごとがあれば手を貸し、報酬もないのに仕事を請け負うのもしばしばあった。すぐ女性に手を出すところが玉に傷だが。
 仲間でいるうちに、アオイは自身が異世界転生者であることを打ち明けてくれた。正直よく分からなかったものの、この世界の者ではないことだけは理解できた。だいたいこれほどの強者がぽっと出のはずがないと、薄々勘付いてはいた。

 アオイの武勇を聞きつけ、あるいは信念に共感した猛者たちが次第に集ってきた。現在も主力として働いてくれている。十数人程度の団員だったが、苦楽を共にし、家族以上の繋がりを感じていた。
 戦果を上げるたびにアオイ主催で宴を催した。時には娼館丸ごと貸し切ったことさえある。派手好きな性格だったのだ。


『ロイ! 俺はな、絶対にいつの日かこの世界を平和にしてみせるぜ! そしたらハーレム作りまくって、子孫を残して次世代へと繋げていく――――そうやって俺がいなくなってからも、この世界が強く在るためにな』


 時折バカなことを言う男であったが、それ以上に正義感の強い男だったのだ。

 何もかもが順調に見えた。
 しかし、現実はそう甘くないと、『スレイヤーズ』が大きくなっていくとともに痛感する。
 それは単純に人手不足だった。竜殺しの集団と言えど、アオイの功績が大きい。彼を除いたその他全員で挑んでようやくドラゴン一体を殺すことができる。つまり、最大で二部隊にしか別れることができないのだ。

 それに対して庇護を求める村は何十倍以上ある。『スレイヤーズ』が一つの村を護衛している間に、他の村が壊滅する、なんてのは珍しくなかった。
 そしてそのたびに心を痛めていたのがアオイであった。


『くそ……! 何もかも足りない……っ! 時間も、人員も、装備も、何もかもが! どうして……どうして! これ以上俺たちに何ができるってんだ……』


 ロイは知っている。
 皆が寝静まった後でアオイが一人、嗚咽を漏らしていたことを。
 滅んだ村の残骸を見つけると、真っ先に瓦礫を掻き分けて生存者を探す姿を、ロイは常にその目に焼き付けてきた。

 であれば――――アオイがいずれ『それ』に行きつくのは、至極当然であった。

『ロイ……。俺はこれから、バハムートをぶっ殺してくる』

 ロイは全力でそれを引き留めた。竜の巣には百を超えるドラゴンが生息していると言われ、いかにアオイと言えど途中で力尽きるのは目に見えていた。
 たとえ『スレイヤーズ』全員でサポートしても、精々引き付けられるのは数体が限度。バハムートまでの道をこじ開けることさえできない。

 もっと戦力の底上げができてからでも遅くはない、とロイは進言した。けれどアオイは「これ以上傷つく人たちを見ていられない」と言い、強行することを決めた。そうなればロイたちも団長について行くほかなくなる。

『もしも俺が死んだら、後のことは任せたぜ? 相棒。残った団員全ての命、お前に預けたからな』

 縁起でもないことを、と耳を塞ぎたくなった。アオイが死を意識しているところなど、見たくなかったのが本音だ。

 ――――そうして訪れた戦場は、音に聞こえた地獄そのものを体現したかのようだった。

 空を埋め尽くすほどのドラゴンの大群。大地へと降り注ぐ無数のブレス。早々に心が折られそうになった。
 しかし何とかアオイ一人をバハムートが待つとされている火山の麓まで送り込むことができた。狭い地形を利用して、何とかドラゴンを食い止める一行。


 そしてアオイとバハムート――――強者たちによる激闘は、ものの数分で幕を下ろした。

 それを伝えたのは、アオイから入った念話だった。

『ごほ……っ。こちら、アオイだ。……悪い、どうもお前たちの期待には応えられそうにない』

 尋常でない呼吸の乱れとともに、悲壮感に満ちた言葉が脳内に直接響き回った。


『こいつ……思った以上の強敵だったみたいでな。まるで歯が立たない。はは、天使どもはチートつったのに、話が違うじゃねえかよ……』


 単独で助けに向かおうとするロイを見越したように、アオイは釘を刺す。


『ああ、くれぐれも迎えには来ないでくれ……。お前まで巻き込みたくない。……どのみち、俺はもう助からん』
『……っ!』
『これが終わったら何すっか、ずっと考えてきたってーのに……全部無駄になっちまったなぁ……。一度死んでおいて何だが――――やっぱ死にたくねえって思っちまう』


 刹那、周囲を薙ぎ払うような轟音が響き渡った。それに驚いたのか、先ほどまでロイたちを取り囲んでいた大群が、蜘蛛の子を散らすようにして一斉に飛び去っていった。
 それが竜の雄叫びであることに気付いたのは、目の前に聳えたつ火山と並ぶほどの巨体が視界に飛び込んできたからだった。

 ――――デカい。ただその一言に尽きる。通常のドラゴンでも人間の百人以上の体躯だが、その数倍はありそうなほどだ。

『は、は。こいつめ、ちっとも休ませてくれねーなあ。がっつく男は嫌われるぜ、まったく……』

 突然のことに困惑する団員たち。団長代理を務めるロイに視線が集まった。
 どうすればいいのか。急いでアオイの加勢に向かうか。ドラゴンたちが離れた今のうちに離脱するか。
 悩むロイにとって、最期の後押しとなる一言が、アオイの口から漏れた。


『ロイ――――皆のこと、頼んだぜ』


 戦友からそう託されたのなら、聞き入れるほかないではないか。
 彼は忸怩たる思いでその場から退却した。後方で轟音が一度鳴ったきり途絶えたことが、戦いの幕を引いたことを教えてくれた。

 その後もドラゴンによる支配が続いたのだから、勝敗がどうなったか、改めて口に出すまでもない。

『スレイヤーズ』はそれ以後、すっかり勢いを削がれてしまった。いや、熱意というべきか。依頼を受けて村を守ることは続けても、二度とバハムートに挑もうとすることはなくなった。
 現実逃避するように、彼らの酒を飲む量が日に日に増えていった。あの頃とは違う、不味い酒を。


(俺は臆病になってしまった……。バハムートを討たない限り、いずれ人間は滅びる運命にある。それを知っていてなお、これ以上無駄死にをさせるのが怖くなったんだ)


 アオイが残した最期の言葉――――奇しくもそれがロイにとっては呪いに等しかった。団員のことを大事にするがあまり、無謀な戦いに向かわせることを避けた。
 だが、今になってこうも思うのだ。アオイの言う『皆』とは、団員のことだけではなく、守るべき村人たち含めてではないかと。おそらくそうだろう。彼の性格なら、そういう意味合いだったに違いない。

 ロイはこの世界では貴重品の煙草を吹かす。これは元々アオイの趣味で、数がないことを大層嘆いていたものだ。


「……アオイもあの転生人も、似たようなことを言いやがる。『どうせ死ぬなら誰かのために死にたい』、か」


 体内に煙が充満する。お世辞にも美味いとは言えないが、覚悟を決める一服に際して、これに勝るものはない。
 ロイは壁にかけてあった装備に手を伸ばす。鎧は金属製で、内側はドラゴンの皮で覆ってある。耐火性に優れた代物だ。ドラゴンを狩るための剣は、刀身が分厚く切れ味よりも耐久性に特化している。

「とはいえ、これ以上あいつらを付き合わせるわけにもいかんな……」

 団長命令だとしても、『これから一緒に死にに行こうぜ!』と言われてついて行く人間はいない。いるとしたら死にたがりか、相当なバカだけである。
 よってロイは誰にも告げず一人で竜の巣へ向かおうと準備を整えたところへ、扉の外からおっ!! と野太い声が上がった。

 驚いて部屋を飛び出すと、一階のロビーでは既に装備を整え、闘志を昂ぶらせる団員たちで埋め尽くされていた。
 二階からその様子を茫然と眺めていると、古株の一人がロイに気付き、声をかけた。


「おい、団長殿っ! いつまで突っ立ってんだ! こちとら準備はとっくにできてんだぜ? なあ野郎共!!」


 おおおっ! とそれに応える歓声が上がる。
 新入りたちが全身を振るわせている。しかしそれは恐怖から生じるものではなく、武者震いなのだとすぐに分かった。戦意滾る表情を見せている。


「そもそも俺たちは、竜殺しの皆さんに憧れて『スレイヤーズ』に入ったんです! なのに団長ときたら、いつまで経っても安全な仕事しか任せてくれない。もういっそ団を抜けて、一人で竜の巣に突っ込んでやろうと思ってましたよ!」
「ふふふ……! これでバハムートを殺したら、俺たちゃあ一躍英雄か……! おっといけねえ、今から昂ぶってきやがったぜ……っ!」
「昂ぶるのはいいが、ぶら下げた汚え槍は鎮めておけ」


 ガッハッハ! と下品な笑いが飛び交う。
 なるほど、どうやらうじうじ悩んでいたのは自分だけだったらしい。ロイはようやくそのことに気付くと、自然と笑みが零れてきた。

「まったく、どいつもこいつもバカばっかりだ……!」

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