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絶対支配領主『バハムート』人類衰退度A+
第19話 醜い醜いアヒルの子
しおりを挟む思えば彼の人生において、誰かから求められたことなどなかったように思う。
彼――――毒島トミオは異世界転生者である。つまり元の世界で一度死に、異世界で第二の人生を歩んでいる。
トミオの死因は異世界転生にありがちな交通事故ではなく、学校からの飛び降り自殺だった。その原因とは高校でのイジメにあった。
彼は周囲の人と比べるまでもなく、生まれつき容姿が醜かった。家族全員がそうなのではなく、むしろ弟は美形の部類であった。長男であるトミオだけが、家族の中で疎まれていた。
勉強も大してできない。スポーツももちろんできない。オタク趣味はあったものの、そういう系統の仲間も彼にはできなかった。彼の容姿は周囲に人を寄せ付けなかったのだ。
トミオの最も嫌う書物は『醜いアヒルの子』だ。タイトルで醜いと銘打っているのに、その子は白鳥となって大空へと羽ばたいていったのだから。彼にはそんな綺麗ごとが許せなかった。
イジメの原因も、この容姿から生じたものだった。生まれつきのものを嘲笑われて、忌避されて、暴力を振るわれた。蹴られるのは当たり前。ドッジボールでは執拗に顔面を狙われたし、ことあるごとに責任を擦り付けられてきた。
そんな毎日に嫌気が差して、屋上から身を投げたのが十六の時。
次に目を覚ましたのは、真っ白で何もない空間だった。そこで包帯でグルグル巻きにされた褐色女が、現状をぶっきらぼうな調子で教えてくれた。
ここは死後の世界で、自分は次代の転生者に選ばれたということ。送られた異世界で好きなように生きることができること。天使の口から漏れる全てが、トミオにとっては甘美に聞こえた。
現実逃避の一環として転生ものの小説は読んでいたので、それがどれほど幸福なものか良く理解していた。残念ながら転移ではないため、クラスメイトに復讐はできないが、それでも冒険者となってハーレムを築けるのだと思うと、胸の高まりが収まらない。
転生ものの定番である、ステータス振りやチート能力の選択はあるのか、と問うと、女型の天使は目を険しくして言った。
『図に乗るんじゃないわよ、人間。主の慈悲によって創られた存在が何を己惚れているの? いい? 記憶を持って転生できるのは、何もあなたが特別だからではないのよ。ほんの偶然が巡ってきただけのこと。でなければ人間の中でも特に最下層のあなたに、やり直しの機会が与えられるはずがないでしょう』
まさしく汚物を見るかの如き視線だった。それに対しトミオが真っ先に抱いたのは怒りではなく、恐れだった。本来雲の上の存在である天使にとって、下の者に暴言を吐くのは当然の行為だ。
思えばこの時、彼の中に支配者になりたいという欲求が芽生えた気がする。チート転生者として、異世界を統べてやると。スローライフなんぞクソ食らえだ。
結局トミオは元から練られた設定を与えられ、今いる異世界へと転生を果たした。そこは良くある中世都市のような景観ではなく、未開拓の大陸のようだった。
トミオはまず、自身に与えられたチート能力を確認しようと考えた。その辺りについてまるで詳しい説明を受けていなかったのである。
身動きを取ろうとして――――即座に違和感に気付く。
第一に目線の高さが違う。転生するのだから、元の肉体ではなく転生先での肉体を与えられるものの、彼のは明らかに十メートルを軽く超えていた。
慌てて視線を振ると、今自分がどういう姿をしているのか、瞬時に理解できた。
赤い鱗、背には大きな両翼が生えている。少し力を込めると、吐いた息はたちまち灼熱のブレスと化した。――――自分の転生体とは、ドラゴンであると。
驚きはしたものの、どうやら人間体には戻れるようで、彼は人の姿へと変身することにした。視線が一気に下がる。
ひとまず岩山近くの空洞を離れ、村を目指すことにした。せっかく転生者になったのだから、目指すはハーレム形成だ。日本では女性と縁のなかった自分でも、異世界でなら変われるはずだ、と。――――何の根拠もない確信を抱いて。
小さな村を訪れた彼を待ち受けていたのは、自分を見るや否や離れていく村人たちの態度であった。声をかけると、怯えるような表情をして逃げていくのだ。
まさか、と彼は思い、水面に映った自分の顔を確認する。――――そこに映し出されたのは、元の世界以上に醜い顔立ちのブ男だった。
「…………っ!?」
当時の絶望は、経験してきたどれよりも深かった。本で見た異世界転生者は、総じてルックスに秀でており、自分もそうだと信じて疑わなかったのだ。仮初の希望を折られ、トミオはその場から逃げ出した。
重い身体を揺らして、一心不乱になって辿り着いた先は、転生したばかりの地点だった。獣らしく帰巣本能でも働いたのか。
何故よりにもよって自分が醜悪な容姿に当たってしまったのか。どれだけ戦果を上げようとも、これでは女性が寄ってくるはずがないと。トミオはその場に縮こまって時を過ごしていた。さながらその姿は、引きこもりと相違ない。
人としての自分があまりに醜く、耐えかねたため、彼はいっそのことドラゴンの姿で過ごすことにした。人間ではないけれど、こちらの方がよほどカッコいいからだ。
どれくらいの時間が過ぎたか、トミオは近づいてくる人の気配を感じ取って首を持ち上げる。文字通り頭が重い。
「おーっ、情報通りやっぱいたか~」
軽薄そうな声の主は、周囲を物見遊山しながら現れた。
トミオとは違い、金髪に端正な顔立ち。百八十センチ以上の長身はスラッとしており、さながらモデル体型であった。
彼は身体を休めているドラゴンを見上げて言う。
「実は数日前、ここにドラゴンが出たって話が入ってなあ? それを討伐しに来たってわけだ。ま、魔物風情に言っても通じないか」
名も知らぬ男は、殺意とともに膨大な魔力が伝わってきた。生来臆病であるトミオの心臓が跳ね上がる。トミオは急いで今の姿を解除し、人の姿を晒そうと決めたものの、それよりも早く男が戦闘態勢へと移り、背負っていた大剣を振りかぶった。
「食らえ! これが俺のチート能力『聖剣エクスカリバー』だっ!!」
飛びかかり、ドラゴンの鱗に刃を振り下ろす男――おそらくは異世界転生者。
ざしゅっ、と聖剣は強靭な外皮を突き破り、骨の手前まで到達する。焼けるような痛みにトミオは悲鳴を上げるが、それはドラゴンの荒々しい咆哮に変換された。
「この剣は俺のステータスを上げるだけじゃなく、構えるだけで自動戦闘をしてくれるチートっぷりだ! しかも溜めればビームだって出る! やっぱり俺は選ばれし者なんだ――――ッ!!」
饒舌に自慢してくる転生者は、立て続けに斬り付けてくる。そして振るうたびに鮮血が飛び散った。
このまま怯えているだけでは、いずれ死ぬ――――そんな当たり前のことを突き付けられたトミオは、血が炎のように滾るのを感じた。
――――それから先は覚えていない。明確な死を前にして理性が飛んだのか、それとも魔物化してしまったのか。
ともかく彼が次に意識を取り戻した時には、その転生者は既に虫の息であった。肺に異常をきたしたのか、ひゅう、と苦しそうな呼吸が印象的だった。
「た、助け……て…………っ! 死にたく、ない――――」
体格差以上に、トミオには相手がとてもちっぽけな存在に映っていた。
先刻まであれほど高慢に振る舞っていた相手が今、自分に対して命乞いをしている。その事実が、トミオの口角を吊り上げる。
(これが――――圧倒的強者の景色!)
元の世界では考えようもない現実に、被虐心がムクムクと生えてくる。
あらぬ方向に腕は捻じ曲がり、皮膚を破って骨が突き出している箇所も見受けられ、誇っていた聖剣は無残に折れている。凄惨な光景を目にしても、トミオはそれを酷いとは露も思わなかった。
(ああ、なるほど。これは確かに虐める奴も止められないわけだ……! 自分より弱者を甚振ることが、こんなにも楽しいだなんて!)
前足で男を踏み潰す。一思いにではなく、徐々に力を強めていく。それとともに呻き声が微かに漏れ聞こえてくる。
「やめてくれ」「助けてくれ」――――それはかつて、弱者であったトミオがことあるごとに請うてきたことだった。
そしてそのいずれもが、聞き届けられることはついぞなかった。
(だからボクも止めない! 決して! ボクは強者となった。だから、強者として、徹底的に弱者を虐げなくてはっ!)
過去の体験を他の誰かにも強要する。それは、あまりに身勝手で双方共に救いのない選択であろう。それを食い止めるために隣人はあるのだ。
――――しかし不幸なことに、生前も転生後も、彼に隣人などありはしなかった。
こうして、絶対支配領主『バハムート』は誕生したのであった。
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