異世界漂流~転生者絶対倒すマン!~

名無なな

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絶対支配領主『バハムート』人類衰退度A+

第21話 蒼い宝石

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「皆、こっちに……。急いで!」

 声量を抑えながら、アイシャは後ろからついてくる少女たちに声をかけて手招きした。
 アイシャの後を追うのは七人の少女。総じてアイシャと同年代である。管理者に連れられて牢屋へと入った彼女と同じく、他の村から集められたそうだ。

 てっきりドラゴンだけかと思っていたが、その亜種であるリザードマンが人間の警備を務めていた。リザードマンは人間サイズとはいえ、刺々しい鱗や岩をも破壊する筋力など、基本性能からして人間と比べるまでもない魔物だが。
 どこかの洞窟――恐らくは火山のとある場所なのだろうが、風が吹かない分蒸し暑く感じる。囚われていた牢屋は鉄格子で仕切られ、ただ『置く』ためだけにある空間だった。アイシャは見張りの一瞬の隙を突いて、水魔法を放ち、牢屋から脱出したのである。

 薄暗く、光源を用いることもできない状況下に置かれ、少女たちはひどく消耗している様子である。そしてそれはアイシャとて同様だった。

「はあ、はあ……!」

 しかし、足を止めるわけにはいかないだけの理由があった。
 アイシャたち若い女性が生贄として集められた理由――――それは、竜種の長である男の慰み物にされるためだったのである。てっきり生贄はその場で管理者に食われてしまうものとばかり考えていたけれど、その場で捕まり、竜の巣へと戻って男に捧げられるのだ。

 牢屋にいた一人の聴力に優れた少女がそれを教えてくれた。牢屋から連れていかれた少女は犯され、何故か反感を買い、そのまま無残に殺されてしまうらしい。怯えた様子だったため、信じざるを得なかった。
 これが自分一人の問題であれば、まだ許容できたであろう。身の毛がよだつ行為が待っていたとしても、それでカンユ村の人々が守られるというのならば。

 けれどそこには他の村の少女たちもいたのだ。女としての尊厳を汚され、ゴミのように捨てられることを、彼女たちにまで強要するわけにはいかない。故にアイシャは脱出を企てた。
 しかし不幸にも、ここは過去一度も近寄ったころさえない竜の巣である火山。土地勘がまるでなく、洞窟内は迷路のように入り組んでいる。加えて敵に見つかってはならないため、必要以上に慎重な行動が求められる。

「ア、アイシャさん……」

 岩陰に身を潜め、周囲の様子を窺っていると、件の耳の良い少女がひそひそ声で話しかけてきた。


「ちょっと外の様子がおかしいです……。いつも以上にドラゴン様たちの気が立っているのか、とっても騒ぎ立てています。ひょっとして、私たちの脱獄に気付いたんでしょうか……?」
「……どうだろう。外が騒がしくなったところで、あの巨体じゃ洞窟内に入ってこれないはず。多分別件だと思うけど」


 とはいえ、外部からブレスで火山ごと破壊するなら話は変わってくる。口にしたところで不安を煽るだけなので止めておいたが。
 再度移動をする。基本はリザードマンに発見されないように、しかし背後を取った時は先制攻撃で音もなく鎮圧する。音を頼りに空気の抜け道目掛けて進んでいく。

 あっ! と誰かが声を上げた。視線の先に一筋の光が漏れている。間違いなく出口だ。

 心なしかアイシャも早足になって直線を駆ける。デコボコ道に足を取られながら、ついに外へと出ることができた――――!



「どこへ、行こうと言うんだ……っ!」



 待ち構えていたのは、一人の成人男性。村の誰かが迎えに来てくれた、なんてはずもない。アイシャの背後に隠れている少女たちにも面識がないようだった。
 端的に目の前の男を表すならば、醜い。締まりのない体躯に、吹き出物ばかりの顔面。五メートル以上離れているはずなのに、男の体臭が漂ってくる。事実少女のうち何人かは、見るに堪えないといった様子で、目を背けている。

 いったい何でこんなところに人間が? と思った矢先、耳の良い少女が人差し指を震わせながら男へと向けた。


「こ、この声です……。牢屋にいた人を犯して、殺した人は…………っ!」
「――――っ!」


 つまり管理者たちはこの男のために村中から少女を集めていたということになる。絶対的強者であるドラゴンが、だ。
 即ちこの男の正体は――――

「神竜バハムート……!」

 アイシャは無意識のうちにその名前を口にしていた。
 しかし男はそんなことは気にも留めず、ジロジロと眼前で固まる少女たちを品定めしている。
 ふん、とやがて苛立ちを垣間見せながら、アイシャを指差した。

「お、お前だけでいいや。あとの女どもは、目を背けたから、いらない。俺から逃げ出そうとする奴も、いらない。――――だから、殺す」

 言って、男は纏わりつくような殺気を向けてくる。恐怖よりも不快感が先立つタイプのそれだ。
 男は終始小声のままで、たどたどしい口調でアイシャへ命令を飛ばす。

「女、そこをどけ。じゃないと、お前ごと吹き飛ばすぞ?」

 それができることを証明するかのように、男は手の平で球体の火炎を形成する。手の平大くらいのサイズだが、その内容は夥しいほどの魔力を秘めていた。

 紛うことなき警告。強者からの命令は、この世界では受け入れることが道理であった。
 喉が干上がる。火竜バアル・バゼルと相対した時と同様――それ以上の『死』を突き付けられたようで、全身の筋肉が硬直するのが分かる。

 ぐ、とアイシャの服の裾を握る少女の力が強まる。しかしそれが華奢な少女のものとあっては、振り解くのは容易いだろう。

「ぐ、あ――――!」

 まともに声を発することすら叶わない。「嫌だ」と一言告げるだけで、自分は灰燼に帰す――――そのことを本能的に感じ取っているため、あと一歩が踏み出せない。
『最も弱い者に、最上の庇護を』。アイシャの成長はこの教えとともにある。そして彼女なりに実現してきたつもりだ。

 しかし、今土壇場に至って、その教えに背いてしまいそうになった。背後に控える弱者(しょうじょ)たちを見放せば、自分だけは助かる。その後の仕打ちがいかに過酷なものであれ、生きることに勝るものはなし。
 そうしてアイシャは、無意識のうちに首元にぶら下げたペンダントを握り締めていた。ひんやりと冷たい鉱石が、意識を現実へと引き戻す。

「…………」

 タイガから授かった、唯一無二の蒼い宝石。これには彼との約束が刻まれている。

『約束するよ。そのペンダントが俺とキミとを繋いでくれる。危険が迫ったとき、それをぎゅっと握り締めるといい。きっと守ってくれるはずさ』

 アイシャが危機に瀕したとき、タイガは救いに来てくれると言っていた。何のことはない励ましの言葉だが――――何故だか、彼女にはとても嬉しく思えたのだ。
 こうして死の間際に立ってなお、彼女は心のどこかで彼が助けてくれるのではないかと期待している。
 少なくとも、彼の贈り物はアイシャに大切なことを今一度思い出させてくれた。


「――――嫌です」


 何? と思わぬ反抗に、男は怪訝そうに眉を顰める。
 アイシャは突き付けるようにして、再び同じ言葉を繰り返した。

「嫌だと言ったんです。私は、この子たちを見放すつもりはありません!」

 両手を大きく広げて、少女たちを守るポーズを示す。歯を食いしばりながら、懸命に抵抗の構えを見せる。
 それを見て男は、大層腹を立てたのか奥歯をギリッと鳴らし、

「……そうかよ。その中で一番、見てくれがいいから、出来が良ければ、飼ってやろうと思ったが、刃向かうのなら仕方ない……!」

 決断してから惜しむこともせず、男は火球をアイシャたちへと投げつけた。着弾する直前で火球は形を崩し、一瞬にして弾け飛んだ。
 アイシャの水魔法では到底防ぐことはできない。そもそもの火力が違う。彼女にできるのは、コンマ一秒に満たない世界で、ペンダントを握り締めて祈ることであった。


(助けて――――っ!!)


 それと同時に爆発音が目と鼻の先で炸裂し、彼女の視界が真っ白に包まれた。

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