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「倦怠期かもしれない」
「うーんお前たしか国公立出だったよな?それなのにそれが付き合って1ヶ月で出る言葉じゃないって分からない?」
灯ちゃんとの関係が進みだし、まさしく一ヶ月が過ぎた頃だった。俺と熱田はまた、いつものバルに来ている。今日は灯ちゃんの仕事が終わるのが遅い。そもそも熱田と入れ替わりだからなんだけれど。
「連絡が減った。今も来てない」
「そりゃ仕事中だもの」
「こないだのデートの時魚ばっか見てた」
「ああ水族館リベンジ?そりゃそうだろ水族館なんだから」
「エッチの後背中向けて寝られる」
「……寝る位置逆にしてみたら?」
駄目だ、考えれば考える程ドツボにはまっていく。付き合って一ヶ月で倦怠期はさすがに嫌だ。俺はまだ、こんなにも好きだというのに。冷める気配なんて、無いのに。
はっとして、熱田を見る。
「まさか他に男が!」
「だとしたらあかりんの性格上そもそもひーと付き合ってないと思うけど。それに他の友達から紹介された男ちゃんと皆断ったって言ってたよ」
それを聞き、少し安心した。熱田が言う言葉には、毎度謎の説得力がある。
軽くだけ飲んで、その日は解散することになった。店を出た頃に灯ちゃんからは「今仕事終わった」と連絡がきた。一安心だ。
「あ、ひー!ごめんちょっと」
帰り道熱田は知り合いに見つかって、話しにいった。よくあることだし熱田は挨拶程度で切り上げるので、俺はいつも先に帰らず待つ事にしている。
ふと、大通りから見える駅のホームが目に入った。帰宅ラッシュなのか人が多い。でも、俺の目線の先にはとんでもない存在がいた。
「……え」
見間違いかと思った。けれど、違う。見間違えるわけがない。なんで。いや、おかしくはないんだ。だってここは灯ちゃんの仕事場の最寄駅だから。
「ごめんひー!お待たせ!どした?」
電車に乗り込んで、消えた。
「……灯ちゃんが」
「え?ああ、そっか時間的に」
「……イケメンと、いた」
翌朝俺はまた熱田を呼び出した。それも近所の公園に。単純に昨日の夜眠れなくて、熱田に話を聞いて欲しかったけどまともな店が開いてなかったという理由なのだが。
「懐かしいなーこのブランコ。そういや最近遊具って撤去されがちらしいな」
ぎこぎこと音を鳴らしながらブランコを漕いで、熱田ははしゃぐ。俺も隣で揺られながら、溜息。そんな俺を見て、熱田は首を傾げた。
「でもそれ見間違いじゃ……たまたま隣にいた人、とか」
「めちゃくちゃ喋ってた」
「……知り合いとか」
「距離すごく近かった」
「……うーん、本人に聞いてみる?」
それは俺も考えた。でも、そんなことで詰めて嫌われるのだけは絶対嫌だった。やっと付き合えるところまでこじつけたのに。
しかし、顔がよかった。あんなの勝てる気がしない。そう考えると、ブランコを漕ぐ速度が一気に上がった。二重の意味で吐きそうになった。
喧騒が聞こえてきた。小学生らしき男の子たちが数十人公園に入ってくる。時計を見ると、まだ6時半とかだった。熱田もさすがに首を傾げた。
「なに、今日平日なのに。聞いてこよっと」
そこで行ってしまうのが熱田のすごいところだ。一人のやんちゃそうな男の子を捕まえて、何やら会話している。二人でひとしきり爆笑すると、熱田はすぐ帰ってくる。
「なんか今日学校で隣のクラスとサッカー対決あるらしくて、絶対負けたくないから近所のサッカーがすごい大学生のおにいさんに稽古つけてもらうんだってさ」
「今時すごいクラスだな」
しかし見ている限り、大学生らしき存在はいない。すると、ひとりの小学生が「きたー!」と声を上げた。ふとそちらを見ると、ぎょっとした。
俺よりも高い背。綺麗に整えられた髪。どこか女性的にすら見えるけどなよっちくない……昨日、見た男だった。熱田を見る。
「知り合い!?」
「まずそこから入るとか、お前俺をなんだと思ってんの?……あー……見たことならあるなあ。イケメンだとは思ってた。でもうーん、思いだせん……」
あいつが。あいつが、灯ちゃんをたぶらかしたのか。わなわなと震えが走ってきた。
男は小学生たちに号令をかけ、何かを話しだした。すると小学生たちは持参したサッカーボールを持ってばらばらに散った。一旦ウォーミングアップというところらしい。
俺はブランコを降りて男にずかずか歩み寄った。男はきょとん、と俺を見る。
「なにか?」
うわ、声もいい。じゃない。
「勝負してください」
「ひー!?」
熱田の驚く声があがる。だって、仕方ない。こいつを叩きのめさないと、俺は……捨てられてしまうかもしれないんだ。
男はきょとん、としていた。しかしすぐに、溜息をつく。
「……なるほど。目が合えばすぐバトル、か」
「え?」
「まさかこんなゲームのような状況が現実に起こるなんて……まってて」
男は急に財布を確認しだす。そして、頷いた。
「今俺に勝っても短パン小僧並の賞金しか出せないけど」
「ポケモンバトルじゃねーよ!」
さすがに大声を出してしまった。すると子どもたちがこちらを見てくる。わらわらとこちらに寄ってきた。
「なにーコーチの友達ー?」
「多分これからなる」
「は!?」
「バトルの後はみんな友達になるって……」
「初代のオープニング真に受けるなよ!」
駄目だ、何だこの男は。調子が狂う。ああ、でも灯ちゃんならこんな頓珍漢にでも優しく接するんだろう。そう考えたら無性に腹が立ってきた。
「で、何で勝負する?俺が決めてもいいの?」
そう言われてはっとした。何も考えてなかった。まさか暴力、はさすがにしないにしても。何かしらで勝てれば。
男は、一人の子どもが持ってるサッカーボールを見て、頷いた。
「ドッジボールしよう」
「そこはサッカーだろ!?」
「サッカーばっか飽きた」
依頼されていたのに何て奴だ。しかし男は続ける。
「今日16人いるから、俺たちを互いにリーダーにして分かれよ。あっちの何か派手な人は審判しといてもらうとして……」
そこまで言って、男は口を止めた。小さく「どこかで見たことあるな」と呟くけど、すぐに子ども達を呼んだ。そしてドッジボールの事を告げると、全員が沸いた。確かに小学生は皆ドッジボールが好きだろう、俺もそんな頃はあった。角にずっと固まっていたけれど。
分担してコートを作ったり外野に散ったりしながら、用意が整った。俺も男も内野だ。ジャンプボールは俺と男がやることになった。間近で見ると、やはり……相当綺麗な顔をしている。駄目だ、魅力として勝てる気がしない。でも、やるしかない。
熱田が上げたボールに触れたのは、俺だった。一番近くの子にボールを弾くと、すぐさまキャッチして男相手に投げ込む。男はひらりとかわした。受けられただろうに受ける事はせず、すぐ後ろの子がボールを取った。そして、その子のボールが舞う。俺の手前の子が取った。
しばらくは子ども同士の応酬が続いた。着々とコートの中の人数が減っていく。互いのコートの人数差はあまりない。
「くそ!」
俺がボールを受ける時は、毎回あの男を狙うことにしている。しかし男は全部うまくかわす。ボールにそもそもあまり触れない。なめられているのか。
やがて俺のコートと男のコートが一人ずつになった。一騎討ちだ。
「コーチやってやれー!」
「リーダー、コーチつぶせー!」
外野の盛り上がりがすごい。何故早朝の小学生はこうも元気なのか。こっちは息すらあがってるのに。そういえば目の前のこいつは、大学生だったか。体力的に色々ピークなのだろう。
ボールがうちの外野から、俺へと渡った。しっかり受け止めて、男へと飛ばす。今度は、止められた。そして、一瞬で。
パァン!と派手な音が鳴り、俺の腕を弾いた。
「あーーーーー!」
色々な声があがる。男は相変わらずの無表情で、拳をあげた。
……負けた。こんな、訳の分からない奴に。もうだめだ、何も勝てない。灯ちゃんは、やっぱりこいつのものに……。
泣きそうになっていると、自転車の音が聞こえてきた。公園の中へと入ってくる。そこに目をやったのは、男が先だった。
「あ、姉ちゃん」
ふと、見た。そこには。
「あれ、響くん?」
「灯ちゃん!?」
完全に部屋着のすっぴんの灯ちゃんだった。何度か俺の家にお泊まりにきた時に見たことはあるけど、どうしようかわいい。かわいすぎる。いや、それより。
「……姉ちゃん?」
「姉ちゃん」
男は頷いた。
改めて、二人を見比べてみる。何度も。何度も。
「……えーーーーーーー!?」
「えっ、ていうかなんで響くんと焔が一緒にいるの?って、熱田くんも!」
ずっと黙っていた熱田は、頭を抱えていた。そして、何度も頷いていた。
「そうだそうだ。何回か店通りがかってたわ」
「あ、思い出した。姉ちゃんのとこの店長さんだ。こんにちは」
「うーん挨拶が出来るタイプのいい子」
まさかの。それならばあの距離感は納得がいく。いや俺、もしかしてとんでもなく恥ずかしい勘違いをしていたのでは。
男……焔、と呼ばれていた彼は一瞬何かを考えたあと、俺に向き直った。
「じゃああんたが姉ちゃんの彼氏か」
「えっ」
「う、うん。そう」
灯ちゃん、俺の事を家族に伝えてたんだ。その事実に顔が熱くなり、泣きそうになる。
「藍田焔っていいます。ほむでもほむほむでも大丈夫。こんにちは」
「えっ初対面!?」
「う、うん」
灯ちゃんが驚くのも無理は無いだろう。俺だってよく分からないのだ。
「ごめんね響くん、うちの弟なんかその、天然で」
「う、うん……すごくそんな気はする」
並んでるところを見ると、ものすごく納得がいった。似ている。灯ちゃんを男にしたら焔くん、と言っても過言ではないくらい。
灯ちゃんと焔くんが二人で話しているのを見ながら、俺はただ呆然とするしかなかった。
「あ、あとこれ。言ってたおにぎり。三十個くらい握ったから子ども達の分いれて一応足りると思うけど」
「クーラーボックス積んでチャリ乗ってくるとか俺の姉ちゃんマジいかちー」
「あ、よかったら響くんと熱田くんもどうぞ。私の作ったのでよければ」
「えっいいの!?ほしい!!」
焔くんは俺のことをじっと見ている。さすがに気になったのと最初に喧嘩を売ったのがさすがに気まずくて、「な、なに?」と聞いてみると、彼は表情を動かすことなく。
「俺、兄ちゃん欲しかったんだよね」
「えっ」
「しかも顔可愛い」
何故か頭を撫でられる。さすがに呆然としていたら、灯ちゃんが焔くんを引き剥がした。
「響くん困ってるでしょ!」
「姉ちゃんより年下なんだっけ?長女、長男、俺次男でいいの?」
「あんたが長男!」
何だか、灯ちゃんがしっかり者な理由が分かった気がした。熱田はゲラゲラ笑っている。子ども達は改めてサッカーの練習に戻っていた。
でも。どこか嬉しかったのも事実で。
「彼氏だって、思ってくれてるんだなあ」
勝手に、笑みが漏れた。どうやら、倦怠期の心配はまだしなくてよさそうだ。
「うーんお前たしか国公立出だったよな?それなのにそれが付き合って1ヶ月で出る言葉じゃないって分からない?」
灯ちゃんとの関係が進みだし、まさしく一ヶ月が過ぎた頃だった。俺と熱田はまた、いつものバルに来ている。今日は灯ちゃんの仕事が終わるのが遅い。そもそも熱田と入れ替わりだからなんだけれど。
「連絡が減った。今も来てない」
「そりゃ仕事中だもの」
「こないだのデートの時魚ばっか見てた」
「ああ水族館リベンジ?そりゃそうだろ水族館なんだから」
「エッチの後背中向けて寝られる」
「……寝る位置逆にしてみたら?」
駄目だ、考えれば考える程ドツボにはまっていく。付き合って一ヶ月で倦怠期はさすがに嫌だ。俺はまだ、こんなにも好きだというのに。冷める気配なんて、無いのに。
はっとして、熱田を見る。
「まさか他に男が!」
「だとしたらあかりんの性格上そもそもひーと付き合ってないと思うけど。それに他の友達から紹介された男ちゃんと皆断ったって言ってたよ」
それを聞き、少し安心した。熱田が言う言葉には、毎度謎の説得力がある。
軽くだけ飲んで、その日は解散することになった。店を出た頃に灯ちゃんからは「今仕事終わった」と連絡がきた。一安心だ。
「あ、ひー!ごめんちょっと」
帰り道熱田は知り合いに見つかって、話しにいった。よくあることだし熱田は挨拶程度で切り上げるので、俺はいつも先に帰らず待つ事にしている。
ふと、大通りから見える駅のホームが目に入った。帰宅ラッシュなのか人が多い。でも、俺の目線の先にはとんでもない存在がいた。
「……え」
見間違いかと思った。けれど、違う。見間違えるわけがない。なんで。いや、おかしくはないんだ。だってここは灯ちゃんの仕事場の最寄駅だから。
「ごめんひー!お待たせ!どした?」
電車に乗り込んで、消えた。
「……灯ちゃんが」
「え?ああ、そっか時間的に」
「……イケメンと、いた」
翌朝俺はまた熱田を呼び出した。それも近所の公園に。単純に昨日の夜眠れなくて、熱田に話を聞いて欲しかったけどまともな店が開いてなかったという理由なのだが。
「懐かしいなーこのブランコ。そういや最近遊具って撤去されがちらしいな」
ぎこぎこと音を鳴らしながらブランコを漕いで、熱田ははしゃぐ。俺も隣で揺られながら、溜息。そんな俺を見て、熱田は首を傾げた。
「でもそれ見間違いじゃ……たまたま隣にいた人、とか」
「めちゃくちゃ喋ってた」
「……知り合いとか」
「距離すごく近かった」
「……うーん、本人に聞いてみる?」
それは俺も考えた。でも、そんなことで詰めて嫌われるのだけは絶対嫌だった。やっと付き合えるところまでこじつけたのに。
しかし、顔がよかった。あんなの勝てる気がしない。そう考えると、ブランコを漕ぐ速度が一気に上がった。二重の意味で吐きそうになった。
喧騒が聞こえてきた。小学生らしき男の子たちが数十人公園に入ってくる。時計を見ると、まだ6時半とかだった。熱田もさすがに首を傾げた。
「なに、今日平日なのに。聞いてこよっと」
そこで行ってしまうのが熱田のすごいところだ。一人のやんちゃそうな男の子を捕まえて、何やら会話している。二人でひとしきり爆笑すると、熱田はすぐ帰ってくる。
「なんか今日学校で隣のクラスとサッカー対決あるらしくて、絶対負けたくないから近所のサッカーがすごい大学生のおにいさんに稽古つけてもらうんだってさ」
「今時すごいクラスだな」
しかし見ている限り、大学生らしき存在はいない。すると、ひとりの小学生が「きたー!」と声を上げた。ふとそちらを見ると、ぎょっとした。
俺よりも高い背。綺麗に整えられた髪。どこか女性的にすら見えるけどなよっちくない……昨日、見た男だった。熱田を見る。
「知り合い!?」
「まずそこから入るとか、お前俺をなんだと思ってんの?……あー……見たことならあるなあ。イケメンだとは思ってた。でもうーん、思いだせん……」
あいつが。あいつが、灯ちゃんをたぶらかしたのか。わなわなと震えが走ってきた。
男は小学生たちに号令をかけ、何かを話しだした。すると小学生たちは持参したサッカーボールを持ってばらばらに散った。一旦ウォーミングアップというところらしい。
俺はブランコを降りて男にずかずか歩み寄った。男はきょとん、と俺を見る。
「なにか?」
うわ、声もいい。じゃない。
「勝負してください」
「ひー!?」
熱田の驚く声があがる。だって、仕方ない。こいつを叩きのめさないと、俺は……捨てられてしまうかもしれないんだ。
男はきょとん、としていた。しかしすぐに、溜息をつく。
「……なるほど。目が合えばすぐバトル、か」
「え?」
「まさかこんなゲームのような状況が現実に起こるなんて……まってて」
男は急に財布を確認しだす。そして、頷いた。
「今俺に勝っても短パン小僧並の賞金しか出せないけど」
「ポケモンバトルじゃねーよ!」
さすがに大声を出してしまった。すると子どもたちがこちらを見てくる。わらわらとこちらに寄ってきた。
「なにーコーチの友達ー?」
「多分これからなる」
「は!?」
「バトルの後はみんな友達になるって……」
「初代のオープニング真に受けるなよ!」
駄目だ、何だこの男は。調子が狂う。ああ、でも灯ちゃんならこんな頓珍漢にでも優しく接するんだろう。そう考えたら無性に腹が立ってきた。
「で、何で勝負する?俺が決めてもいいの?」
そう言われてはっとした。何も考えてなかった。まさか暴力、はさすがにしないにしても。何かしらで勝てれば。
男は、一人の子どもが持ってるサッカーボールを見て、頷いた。
「ドッジボールしよう」
「そこはサッカーだろ!?」
「サッカーばっか飽きた」
依頼されていたのに何て奴だ。しかし男は続ける。
「今日16人いるから、俺たちを互いにリーダーにして分かれよ。あっちの何か派手な人は審判しといてもらうとして……」
そこまで言って、男は口を止めた。小さく「どこかで見たことあるな」と呟くけど、すぐに子ども達を呼んだ。そしてドッジボールの事を告げると、全員が沸いた。確かに小学生は皆ドッジボールが好きだろう、俺もそんな頃はあった。角にずっと固まっていたけれど。
分担してコートを作ったり外野に散ったりしながら、用意が整った。俺も男も内野だ。ジャンプボールは俺と男がやることになった。間近で見ると、やはり……相当綺麗な顔をしている。駄目だ、魅力として勝てる気がしない。でも、やるしかない。
熱田が上げたボールに触れたのは、俺だった。一番近くの子にボールを弾くと、すぐさまキャッチして男相手に投げ込む。男はひらりとかわした。受けられただろうに受ける事はせず、すぐ後ろの子がボールを取った。そして、その子のボールが舞う。俺の手前の子が取った。
しばらくは子ども同士の応酬が続いた。着々とコートの中の人数が減っていく。互いのコートの人数差はあまりない。
「くそ!」
俺がボールを受ける時は、毎回あの男を狙うことにしている。しかし男は全部うまくかわす。ボールにそもそもあまり触れない。なめられているのか。
やがて俺のコートと男のコートが一人ずつになった。一騎討ちだ。
「コーチやってやれー!」
「リーダー、コーチつぶせー!」
外野の盛り上がりがすごい。何故早朝の小学生はこうも元気なのか。こっちは息すらあがってるのに。そういえば目の前のこいつは、大学生だったか。体力的に色々ピークなのだろう。
ボールがうちの外野から、俺へと渡った。しっかり受け止めて、男へと飛ばす。今度は、止められた。そして、一瞬で。
パァン!と派手な音が鳴り、俺の腕を弾いた。
「あーーーーー!」
色々な声があがる。男は相変わらずの無表情で、拳をあげた。
……負けた。こんな、訳の分からない奴に。もうだめだ、何も勝てない。灯ちゃんは、やっぱりこいつのものに……。
泣きそうになっていると、自転車の音が聞こえてきた。公園の中へと入ってくる。そこに目をやったのは、男が先だった。
「あ、姉ちゃん」
ふと、見た。そこには。
「あれ、響くん?」
「灯ちゃん!?」
完全に部屋着のすっぴんの灯ちゃんだった。何度か俺の家にお泊まりにきた時に見たことはあるけど、どうしようかわいい。かわいすぎる。いや、それより。
「……姉ちゃん?」
「姉ちゃん」
男は頷いた。
改めて、二人を見比べてみる。何度も。何度も。
「……えーーーーーーー!?」
「えっ、ていうかなんで響くんと焔が一緒にいるの?って、熱田くんも!」
ずっと黙っていた熱田は、頭を抱えていた。そして、何度も頷いていた。
「そうだそうだ。何回か店通りがかってたわ」
「あ、思い出した。姉ちゃんのとこの店長さんだ。こんにちは」
「うーん挨拶が出来るタイプのいい子」
まさかの。それならばあの距離感は納得がいく。いや俺、もしかしてとんでもなく恥ずかしい勘違いをしていたのでは。
男……焔、と呼ばれていた彼は一瞬何かを考えたあと、俺に向き直った。
「じゃああんたが姉ちゃんの彼氏か」
「えっ」
「う、うん。そう」
灯ちゃん、俺の事を家族に伝えてたんだ。その事実に顔が熱くなり、泣きそうになる。
「藍田焔っていいます。ほむでもほむほむでも大丈夫。こんにちは」
「えっ初対面!?」
「う、うん」
灯ちゃんが驚くのも無理は無いだろう。俺だってよく分からないのだ。
「ごめんね響くん、うちの弟なんかその、天然で」
「う、うん……すごくそんな気はする」
並んでるところを見ると、ものすごく納得がいった。似ている。灯ちゃんを男にしたら焔くん、と言っても過言ではないくらい。
灯ちゃんと焔くんが二人で話しているのを見ながら、俺はただ呆然とするしかなかった。
「あ、あとこれ。言ってたおにぎり。三十個くらい握ったから子ども達の分いれて一応足りると思うけど」
「クーラーボックス積んでチャリ乗ってくるとか俺の姉ちゃんマジいかちー」
「あ、よかったら響くんと熱田くんもどうぞ。私の作ったのでよければ」
「えっいいの!?ほしい!!」
焔くんは俺のことをじっと見ている。さすがに気になったのと最初に喧嘩を売ったのがさすがに気まずくて、「な、なに?」と聞いてみると、彼は表情を動かすことなく。
「俺、兄ちゃん欲しかったんだよね」
「えっ」
「しかも顔可愛い」
何故か頭を撫でられる。さすがに呆然としていたら、灯ちゃんが焔くんを引き剥がした。
「響くん困ってるでしょ!」
「姉ちゃんより年下なんだっけ?長女、長男、俺次男でいいの?」
「あんたが長男!」
何だか、灯ちゃんがしっかり者な理由が分かった気がした。熱田はゲラゲラ笑っている。子ども達は改めてサッカーの練習に戻っていた。
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