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長内編
第一話 ロマンチックになれない恋慕のはじまり
世界は愛に満ちていると言われても、僕はきっと外から眺める第三者として生きていくのだろうと、ぼんやり思って生きてきた。
恋には縁遠いというと、皆は恋の素晴らしさを語ってくる。僕は愛想笑いを浮かべるばかりだ。
誰かを愛するのは素晴らしい――そうだろうね、素晴らしいだろうね知らないけど。
恋をするのは奇跡的な巡り合わせ――そうなんだ、それなら僕はきっと縁がない。
二十歳超えても性的衝動を覚えたことなど一度もなかった。
女の子も男の子も、好きになったことなかった。
人と付き合うよりも友達と遊んでくだらないことで笑う方が楽しかったし、何より付き合う空気独特の甘さが気恥ずかしくて苦手だった。
幼い頃は、無理難題を出しても叶えたかどうかは別として自分を求められた、かぐや姫という物語にも憧れたことはある。それが唯一いいなと思える恋の話だった。
求婚の際に手に入らないものをもってきて、だなんてお願い、かわいいのに甘い空気がないから。僕は竹取物語ではなく、絵本のかぐや姫に憧れ、絵本作家を目指してフリーターとなった。竹取物語だと硬い物語が、子供向けにかぐや姫って物語になった途端に可愛らしくなる。
みんな幸せに暮らしました、で終わる話が好きだ。
ハッピーエンドで、誰一人しぬことのない終わりが好きだ。
明確に幸せだと、分かる話が好きだった。
そこには、オメガもアルファもなかったから。友達は「それならば、かぐや姫ではなくシンデレラのほうが可愛らしいしハッピーエンドだ」と大体熱心に僕に語る。
かぐや姫がハッピーエンドでなくても好きなのは、月に帰るため恋が叶わないからだよ。
ファンタジックでありながらの、少しのリアリティ。人は恋をするのに期限があるというし、それならいっそ一生会えない、って分かる場所にいくんだよってなったほうがロマンチックじゃない?
とにかく、僕は恋に関しては蚊帳の外であった。
「長内、長内密」
僕の名前が呼ばれたので、買い出しで店から帰る道で振り返ればファミレスでのバイト先の先輩がいた。買い出しの店は、駅からも僕の家からも近いと同時にバイト先からも近い。偶然だけど、奇跡的という出会いでもない。
先輩は僕に声をかけ、偶然街で会った僕に心配のようなものをした。心配と似てるけど違うもの。
「大丈夫か、この前お客さんに絡まれて大変だっただろ。黒い髪可愛いねとか口説かれててさ。黒髪なんて珍しくないだろうに、確かに少しお前ちびだけどさ」
「はは……」
「お前、オメガだもんなぁ、あ、俺は差別しないけどな! お前まだ二十二歳だろ、苦労するなあ。俺は応援するからさ、頑張って生きろよ」
生きるのに応援って何様だろう。
本当に差別しないやつはこんな人通りの多い場所で、大声で僕の名と同時にオメガだなんて叫ばないんだよと苛つく。先輩はいかに差別が愚かか語ると、気分をよくして帰って行った。
僕の黒髪と背丈の低さと、二次性を指摘して見知らぬ人におおっぴらにばらす貴方は何なんだ。僕は濃いめの焦げ茶の目を眇めて、先輩の背を見送る。見送ったあとで、思い切り中指つきたてて舌を出して睨んでやった。
偶然街で会ったとは言え、僕にそんな話ししたってどうにもなるわけじゃない、あほか。
あの先輩、オメガに嫌がらせがすごいって話聞いているし嫌なんだよな。
噂では何らかの薬で無理矢理、番を解消させたっていう話もあってそれを聞いたときは僕はそれって犯罪じゃないの? と思った。
でもぎりぎりのラインで犯罪にはせず、先輩を野放しにしているのが世間様の回答だ。
だから僕はオメガもアルファもベータも嫌いだ。
オメガなら誰にでも発情すると思ったら大間違いだ。僕はオメガでもヒートというものには少し縁遠くて、ヒートがきてもいつも薬と気合いでなんとかできていたんだ。
この世界には二次性というのがありアルファ、ベータ、オメガとあってアルファはめちゃくちゃ優等生タイプ。何でもトップに立つ才能を秘めている。ベータは一般人みたいなかんじでオメガは僕もなんだが、その……子供を産ませるためにいる。劣等種というか。
アルファもオメガも希少なんだけど、オメガは男女ともに子供を産むことができるんだ。
ヒートってのは発情期のことで、アルファはオメガの香りを嗅ぐだけで発情が止まらずやばいとかなんとか。このオメガっていう二次性に対して、差別がこれまたひどいんだ。
オメガってだけで働く場所が限定されることもある。人によっては、オメガこっちくるなとかひどい言われようになる。
差別を見てきたから余計に、恋愛って信じられないのかも。何よりヒートになっても、さほど影響なかったからなぁ。
僕は先輩と出会った憂鬱を憂さ晴らしするために、家に帰るなりスマホから気になる動画を見て寝転がる。次の応募作どうしようかなと思案しているところに、心臓がどっと熱くなった。
身体の芯に熱が集中する、こんな感覚初めてだ。
まさかドラマの主題歌聞くだけで、勃起すると思う?
男性の切なくも甘く愛を歌う声に、一気にヒートが誘発された。
何回抜いても足りなくて、初めて後ろに指を挿れてかき回したし、そこから得る快楽を知ったときは体が甘く痺れた。
ひとしきり抜いた後にあとで考えれば自室で発情できてよかった、と冷や汗かいた。外だったら大変だ。これが初めての自慰というやつで、動画越しに歌のナイフで心を突き立てられた気がして僕は胸がときめいた。画面越しの男性に夢中だ。
歌手名をチェックすれば、気軽に出てくるだろうけれど、今は名前を知るだけでも興奮が覚めやらぬ気がした。
僕は知らなかったんだ、これが運命だなんて。
何せ性的衝動を覚えたことなど一度もなかった――さっきまではね!
女の子も男の子も、好きになったことなかった――だって皆、僕と言うより僕の二次性をみていたからね!
人と付き合うよりも友達と遊んでくだらないことで笑う方が楽しかったし、何より付き合う空気独特の甘さが気恥ずかしくて苦手だった――これはそんな僕が、恋をする話。
恋には縁遠いというと、皆は恋の素晴らしさを語ってくる。僕は愛想笑いを浮かべるばかりだ。
誰かを愛するのは素晴らしい――そうだろうね、素晴らしいだろうね知らないけど。
恋をするのは奇跡的な巡り合わせ――そうなんだ、それなら僕はきっと縁がない。
二十歳超えても性的衝動を覚えたことなど一度もなかった。
女の子も男の子も、好きになったことなかった。
人と付き合うよりも友達と遊んでくだらないことで笑う方が楽しかったし、何より付き合う空気独特の甘さが気恥ずかしくて苦手だった。
幼い頃は、無理難題を出しても叶えたかどうかは別として自分を求められた、かぐや姫という物語にも憧れたことはある。それが唯一いいなと思える恋の話だった。
求婚の際に手に入らないものをもってきて、だなんてお願い、かわいいのに甘い空気がないから。僕は竹取物語ではなく、絵本のかぐや姫に憧れ、絵本作家を目指してフリーターとなった。竹取物語だと硬い物語が、子供向けにかぐや姫って物語になった途端に可愛らしくなる。
みんな幸せに暮らしました、で終わる話が好きだ。
ハッピーエンドで、誰一人しぬことのない終わりが好きだ。
明確に幸せだと、分かる話が好きだった。
そこには、オメガもアルファもなかったから。友達は「それならば、かぐや姫ではなくシンデレラのほうが可愛らしいしハッピーエンドだ」と大体熱心に僕に語る。
かぐや姫がハッピーエンドでなくても好きなのは、月に帰るため恋が叶わないからだよ。
ファンタジックでありながらの、少しのリアリティ。人は恋をするのに期限があるというし、それならいっそ一生会えない、って分かる場所にいくんだよってなったほうがロマンチックじゃない?
とにかく、僕は恋に関しては蚊帳の外であった。
「長内、長内密」
僕の名前が呼ばれたので、買い出しで店から帰る道で振り返ればファミレスでのバイト先の先輩がいた。買い出しの店は、駅からも僕の家からも近いと同時にバイト先からも近い。偶然だけど、奇跡的という出会いでもない。
先輩は僕に声をかけ、偶然街で会った僕に心配のようなものをした。心配と似てるけど違うもの。
「大丈夫か、この前お客さんに絡まれて大変だっただろ。黒い髪可愛いねとか口説かれててさ。黒髪なんて珍しくないだろうに、確かに少しお前ちびだけどさ」
「はは……」
「お前、オメガだもんなぁ、あ、俺は差別しないけどな! お前まだ二十二歳だろ、苦労するなあ。俺は応援するからさ、頑張って生きろよ」
生きるのに応援って何様だろう。
本当に差別しないやつはこんな人通りの多い場所で、大声で僕の名と同時にオメガだなんて叫ばないんだよと苛つく。先輩はいかに差別が愚かか語ると、気分をよくして帰って行った。
僕の黒髪と背丈の低さと、二次性を指摘して見知らぬ人におおっぴらにばらす貴方は何なんだ。僕は濃いめの焦げ茶の目を眇めて、先輩の背を見送る。見送ったあとで、思い切り中指つきたてて舌を出して睨んでやった。
偶然街で会ったとは言え、僕にそんな話ししたってどうにもなるわけじゃない、あほか。
あの先輩、オメガに嫌がらせがすごいって話聞いているし嫌なんだよな。
噂では何らかの薬で無理矢理、番を解消させたっていう話もあってそれを聞いたときは僕はそれって犯罪じゃないの? と思った。
でもぎりぎりのラインで犯罪にはせず、先輩を野放しにしているのが世間様の回答だ。
だから僕はオメガもアルファもベータも嫌いだ。
オメガなら誰にでも発情すると思ったら大間違いだ。僕はオメガでもヒートというものには少し縁遠くて、ヒートがきてもいつも薬と気合いでなんとかできていたんだ。
この世界には二次性というのがありアルファ、ベータ、オメガとあってアルファはめちゃくちゃ優等生タイプ。何でもトップに立つ才能を秘めている。ベータは一般人みたいなかんじでオメガは僕もなんだが、その……子供を産ませるためにいる。劣等種というか。
アルファもオメガも希少なんだけど、オメガは男女ともに子供を産むことができるんだ。
ヒートってのは発情期のことで、アルファはオメガの香りを嗅ぐだけで発情が止まらずやばいとかなんとか。このオメガっていう二次性に対して、差別がこれまたひどいんだ。
オメガってだけで働く場所が限定されることもある。人によっては、オメガこっちくるなとかひどい言われようになる。
差別を見てきたから余計に、恋愛って信じられないのかも。何よりヒートになっても、さほど影響なかったからなぁ。
僕は先輩と出会った憂鬱を憂さ晴らしするために、家に帰るなりスマホから気になる動画を見て寝転がる。次の応募作どうしようかなと思案しているところに、心臓がどっと熱くなった。
身体の芯に熱が集中する、こんな感覚初めてだ。
まさかドラマの主題歌聞くだけで、勃起すると思う?
男性の切なくも甘く愛を歌う声に、一気にヒートが誘発された。
何回抜いても足りなくて、初めて後ろに指を挿れてかき回したし、そこから得る快楽を知ったときは体が甘く痺れた。
ひとしきり抜いた後にあとで考えれば自室で発情できてよかった、と冷や汗かいた。外だったら大変だ。これが初めての自慰というやつで、動画越しに歌のナイフで心を突き立てられた気がして僕は胸がときめいた。画面越しの男性に夢中だ。
歌手名をチェックすれば、気軽に出てくるだろうけれど、今は名前を知るだけでも興奮が覚めやらぬ気がした。
僕は知らなかったんだ、これが運命だなんて。
何せ性的衝動を覚えたことなど一度もなかった――さっきまではね!
女の子も男の子も、好きになったことなかった――だって皆、僕と言うより僕の二次性をみていたからね!
人と付き合うよりも友達と遊んでくだらないことで笑う方が楽しかったし、何より付き合う空気独特の甘さが気恥ずかしくて苦手だった――これはそんな僕が、恋をする話。
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