簡単に運命と言わないで――二人のアルファに囲まれて――

かぎのえみずる

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長内編

第十話 椿からデートのお誘い

 バイト先でぼんやりしながら、極めて真面目に働くという器用なことをしていると、一人客が来てしまった。
 僕自身に客だと言われ、甘い香りが漂っていたから、嫌な予感がして呼ばれた方へ行くと椿がいた。

 椿は変装してにやにやと、僕の格好を眺めて笑っていた。
「いらっしゃいませ、メニューはお決まりですか? 五分で食べておかえりください」
「こら、せっかく愛しのオレが会いに来てやったのに、そういうこと言うか普通?」
「誰が誰の?」
「ファンなんだろ!」
「歌のファンだけど、お前自身は正直苦手だよ」
「じゃああいつはいいのかよ、港の野郎」

 ぶつぶつと言いながら、帽子を目深に被り直し、嘆息をつくなりオムライスを頼んだ椿だった。
 注文を受けたのでオーダーの確認をしてから、厨房へ行こうとすると、その前に声をかけられたので僕はふりかえる。

「仕事終わるの何時だ」
「あー……あと、二時間後かなぁ」
「そうか、なら待ってやるから、さっさとはよ終わらせてこい」
「待ってくれるんだ、へぇ。じゃあサービスに僕からサラダつけてあげるよ、野菜も食べなよ」
「余計なお世話だがまあ受けてやるよ」

 こいつ素直じゃないなあ、嬉しげな顔してるのに。
 なんだかあまのじゃくって考えたら少しは可愛く見えるのかもしれないと、僕はそろそろ本当に仕事に励んだ。

 仕事が終わって、店から出れば本当に待っているのかなとしばらく場をキョロキョロと見回す。
 大通りの車は夕方の暗さで、少しライトがまぶしく見える。
 きょろきょろしてると、膝かっくんされ僕はびくっとすると、膝かっくんしてきた奴に支えられた。

「ひっかかってやんの」
「子供か!」

 椿はきゃらきゃらと笑うと、僕の手を繋ぎ、上着のポケットにいれて歩き出す。

「行くぞ」
「どこへ?」
「カラオケ、オレのファンだっていうならオレを好きになる弱点は分かってるんだよ」

 参った椿はそういうところだけ頭が回るみたいだ。
 でもなんだか、甘ったるい雰囲気ではなく、悪友と馬鹿やってるような雰囲気が僕には大変嬉しかった。




 カラオケっていったよね?
 カラオケって言ったのに、なんでですか、何でここにはベッドがあるんですか。
 確かにマイクと画面はあるけど、何このふわふわベッド!
 あと照明がやたらえろい!

「見直した僕が馬鹿だった」
「時間は気にしないで歌えるし、オレの歌に『やだ素敵! 抱いて!』ってなってもすぐ抱けるからいいだろ」
「ばっかじゃねぇの!」
「なんだと? 人がせっかくデートらしいデート提案してやったのに!」
「お前も雪道さんも大事な前提が抜けているんだよ!」

 僕はまだ、好きです付き合ってくださいだのを言われていないし、まだ短期間なのだからそんなのを言われる暇もなかった。
 それなのに身体だけ繋ぐっておかしくない?! て怒りを込めて、ばしばしと叩いてやると、心当たりがあるのか、椿は顔をキスできそうなほど近づけさせ甘く低く囁く。

「好きだ、付き合え」
「……えっと」
「何だよ、どうした」
「お前のことだからてっきり、馬鹿にしてくるかと」
「最低限の礼儀なのは納得いったからな、まぁ嫌だっつってもアンタを手放す気ねぇけど」

 ぎらりと光る肉食獣の瞳にどきりとし、僕は顔を赤く染め上げてしまっただろう。
 椿の機嫌が一気によくなっていくからだ。
「ノーと五秒以内に言わないってことは、イエスってことだな、それじゃ礼儀も済ませたしいい加減、キスくらいは受け入れてくれよ」
「はっ! ち、違う、今のはイエスってことじゃなくて」
「じゃあノーか?」
「いやあの、その」
「まぁ断れるわけねぇよな、オレに言い寄られてるんだから。ほら、好きな歌あったらカラオケにいれていいぞ、特別に歌ってやる」
「あとで請求書こない?」
「そんなみみっちい真似するもんかよ、ドレミの歌でも子守歌でも、流行曲でも何でも歌ってやるよ」

 必死な椿の姿に、それだけ僕の気を引きたいんだという事実に気づいた。
 指摘したらきっと、あほか、と怒られそうだけど椿は今必死でいかに魅力的なアルファかアピールしているんだ。だから、得意の歌を惜しげもなくくれようとするんだ。

 そこだけ聞くと、可愛い行動。普段の暴言とか、子供っぽささえなければ!

「椿はあまり自分の歌を安売りしないほうがいいよ」
「……誰にでも、オレがこういうことすると思ってるのか」
「いいや、今僕のために歌おうとしてくれてるのは分かるけれど、やっぱり椿の歌は商売用のものだから……大事に大事にしたほうがいいなって」
「……ふうん」

 椿はそれまでノリノリでマイクを持っていたのに、すとんと座り、僕にマイクを渡した。顔つきは完全に拗ねていて、子供のようにむくれていた。

「じゃあどうしろっていうんだよ。アンタがオレに興味持ちそうなモンなんてねぇじゃん、身体以外」
「人を色情魔みたいに言うなよ! 発言は最低だし、性格も最悪だけどお前のことは僕は苦手だけど嫌いじゃないよ。僕には嘘はつかなそうだし」
「だって長く付き合っていく関係かもしんねーのにご機嫌伺いするの、めんどーじゃん」
「それが椿の本音なら、僕は雪道さんより椿といるほうが楽かもしれないね」

 僕が笑いかけると、椿は拗ねた犬のような顔つきから一気に、喜びを隠しきれない馬鹿犬顔になる。

「そりゃーあ、このオレは魅力的だからな! アンタと違ってアルファだしぃ?」
「はいはい、あ、このゲームやろうよ。大きい画面だから楽しそう」
「……ひそかぁ」

 ぶわっと一気に花開くラットに、僕はまた身体をぞくぞくっとさせて、思わず椿の下腹部を見やってから目を見つめた。
 興奮してるらしく、パンツはパンパンだ。

「密、気が変わった。シよ」
「お前は僕の身体にしか興味ないんかい!」
「ちが、違うんだ。あの、その。すげぇヤりたい衝動っていうより、好きでたまんねぇ瞬間になったからヤりたい」
「甘えてくるなよ!」
「ほら、密ぁ。アンタも気持ちいいの好きだろ、だからさ、シよ」

 にっこり笑いかけてから、椿は僕の手を頬ずりした。

「っつーか、ヤらないとか認めないしな」

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