簡単に運命と言わないで――二人のアルファに囲まれて――

かぎのえみずる

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長内編

第十九話 一人の選択肢


 雪道さんは僕が椿の部屋から出るなり、僕の手を掴んで微笑んだ。椿は部屋で寝ている。
「私がすっかり悪者扱いだね」
「椿の恋人寝取りしたって本当ですか?」
「うん、結果的には。でも最初に私から、父親を奪ったのはあいつの家庭だ」
「……雪道さんって、歪んでいるんですね」
「うんそうかもしれないね、ねぇ。条件は満たしてないけれど、敬語に戻られるのはやっぱり腹立つなあ。椿くんに負けた気がして。私はそんなに魅力的じゃないかな、君にとっては?」
「う、ぁ。ラット、やめて……無理矢理はしない約束ですよ」
「最近触らせてくれないから。その割にはあいつには触らせるんだね」
「あのね、雪道さん。あいつは心心って言わない割には、態度が僕に惚れてるって言ってるんだよ。オメガだからっていう理由じゃなく、ただの僕に。でも貴方はどうだ。自分のアルファを利用して僕に迫るばかりじゃないか。心を先に手に入れるって言葉も上滑りだ」
「おやおや、子猫の威嚇にしては結構傷ついたものだ」
 雪道さんは僕を壁へ追いやるとそっと壁に手をついて、僕を逃しはしない。そのままキスをしてきたので僕は唇を噛んでやった。

「痛いね、乱暴な子だ」
「僕がおとなしいだけの子だと思うなよ、僕は貴方のコンプレックスに巻き込まれたくはない」
「コンプレックス?」
「椿が怖いんだろう? 椿に父親を取られた時の再現になるのが怖くて、僕に手を出すのでしょう?」
「聡い子だ、そういうあたりは心から気に入ってる。だけど、一つ間違いがあるよ」
 雪道さんはにこりと微笑み、僕の胸の突起をふにふにと指に挟んで弄くる。
 声が漏れそうになるが、椿の部屋の近くだ、此処で鳴くわけにはいかない。
「君の淫乱さは好んでいるし、素直さも好きだ。私は私なりに愛しているんだよ。ただね、許せない物があるとしたら、お前が椿のものでもあるということだ」
「っふ、あ、んん」
 突起を刺激する手は止まらず、僕の声は溢れそうになるが、なんとか声を押し殺す。
「私だけのものであれば、どれほど甘やかしたか。どれほど可愛がったか。日に日に嫉妬が募る気持ちが分かるかね? せめて、最初に私を選んでくれれば……」
「雪道さん、セックスするなら、部屋で……」
「寝てる椿に怒られる?」
 揶揄する声で雪道さんは笑った。僕はかっと顔を赤らめ、雪道さんを睨み付けるがかえって煽ってしまうだけのようだった。

「なんて、ね。きちんとルールは守るよ、君との条件をクリアするまでは私も抱かない。君が欲しいと言わない限りはね?」
「……舐めるなよ、優越感に僕を利用するなよ」
「……嗚呼、最高だなぁ、君の瞳は。私と同じ色なのに、まったく違うものを写している。その映り込んだ赤い花が、真っ白い雪に変わる瞬間を心から楽しみにしているよ」
 うっとりと雪道さんは僕に笑いかけてから、寝ようかと誘いをかけた。




 雪道さんへの違和感を、同棲してからは感じ続けてはいたんだ。それを見ない振りしていたのは僕だ。僕自身、恋愛を面倒にしていたのかもしれない。
 けれど、本気で向き合わないのなら雪道さんと同じ人種になる。それだけはいやだ。
 雪道さんは――耳障りのいい言葉だけは並べて、人を口説き、椿の心を傷つけようとしている。
 最初こそは本当に好意だったのかもしれない。
 けれど、現段階では椿への攻撃性を感じられる。雪道さんはオメガをオメガらしく扱うアルファなんだと、感じ取れた。
 けどここらで、はっきりしないと、不本意とはいえ番になったのだから向き合いたい。
 そんな風に思案していた矢先だった。
 雪道さんと二人で買い出しに出かけることとなり、夕飯を思案していた。
 二人で街を歩いていると、バイト先の先輩が一人蹲っていた。僕を道ばたで大いにオメガだと暴露していた人だ。そんなやつとは言え道ばたで蹲っているなら流石に僕は心配し、駆け寄ると、雪道さんが「危ない!」と大声で僕らに駆け寄る。
 先輩は噴射式の薬を持っていて、僕に薬がかかるとけらけらと大笑いしていた。

「二人もアルファ独占なんて……歌手と作家先生の独占とかありえねぇからあ! 何それ金持ちじゃん、これだからオメガは嫌なんだ淫売が!」
 先輩はそのまま駆けだして逃げた。僕は咳き込むと同時に何か違和感を感じていた――。
「密、大丈夫か! ッあいつ追いかけよう」
「今はいい、それより病院に行こう、何だか変だよ。違和感があるんだ、身体に」
「媚薬とかそういう類いではなさそうだね、分かった、椿くんにも連絡しておくよ」
 僕と雪道さんは車で病院へ向かい、驚きの現実が待ち受けていた。

 先輩の薬は、アルファと番を解消させる薬であると――。僕はあいつに迂闊に近寄ったことを後悔する。変な噂されているのを知っていたじゃないか!

「もう一度番を選ぶことは出来ます、ただ……本来この薬は一をゼロにするものなので、二ある状態を一にするものかと」
「ええと、どういうことですか」
「二人の番を選ぶ、ということはできません。もう一度噛む行為も選びもできますが、番は次に選べるのは一人です。運命の番は二人であると、アルファ側もオメガ側も変わらないのですが身体は一人だけを選べるようになってます」

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