婚約者様と私は世界一のずっ友~公爵様はゲイですが腐女子にはたまりません~

かぎのえみずる

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第二十八話 リーゼルグ先生の懺悔をひとつ

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「コークス様が襲われたみたいですね」
「えっ誰に!? ルルじゃなくて?!」
「ああ、いえ。先日の魔物騒動です。大変だったみたいで」

 リーゼルグ先生は街の騒動に疎いのか、首を傾げている。
 今はオズも一緒に授業を受けることになったのだけれど、オズは騎士の仕事で遅れてくる様子だった。
 リーゼルグ先生は手持ち無沙汰に本を手元に持っていると、教室で世間話をしだした。

「魔物が大勢きたなんて。活発化してますね、またくるかも……しかし大活躍ですねえ」
「吃驚したんだから。そんな冒険劇みたいな綺麗な話じゃないのよう」
「ええ、知ってますよ、ねえローズ姫。君から神は移動した。その子は本当に神様なんですかね」
「ロス様のこと?」
「もし神様がいるなら、もっと昔に会いたかったな。昔話でも聞きますか?」

 つまらない俺の昔話です、とリーゼルグ先生は小さく笑った。


「たった1回死にかけたときがあったんですよ。パーティが絶滅しかけて。
 俺は友達を命がけで救いました。その後の彼はどうしたかって思いますか?」
「人々を助けたんじゃないの?」
「……次の魔王になったんです。一生懸命魔力を失ってでも、癒やしたのが次の魔王になるものだったなんて、笑えない」
「……先生」

 リーゼルグ先生になんと告げて良いか判らず顔を見つめる。
 これは懺悔だ。
 リーゼルグ先生の小さな懺悔。なんて大きな物をたった一人で抱えてきたんだろう。

「邪教にはまった時期がありました。その時期に世界の滅亡を願ったんです。何もかも力が入らない、気力のない時期でした」
「……神様をだから信じてないのね」
「神様を信じていないなんて言うと、この世界の人はどうしてもヒステリーになりますね」


 たしかにこの国のひとにとって神様は生活の全てだから、狂人扱いされるのだろう。
 妾は先生の頭を撫でて、微笑みかけてみる。

「人に合わせる必要が感じないならあわせなくてもいいの」
「……そうですね」
「押しつける気は無いわ」
「……全部が全部貴方みたいな人だと良い。そしたら、あの歌も世界に満ちる」
「歌?」
 
 先生は何でも無いと告げればオズが入ってきて、授業を再開された。
 先生の少しの弱気。初めて見た気がして、いつからかやってきて眺めていたロス様は少しだけ嬉しそうな顔をしていて。
 授業が終わりオズとリーゼルグ先生が教室からいなくなった瞬間、お礼を告げられた。

「ねえ、ありがとうね」
「なにがですか」
「……あの人の力になるなら、僕は君の力で居続けるってことだ」
「あのひと?」
「そう、そうだ。思い出した。まず最初に、浴びたのは君の歌だったんだね」

 ロス様は何が何だか判らない話を続けてふわりと消えた。
 いったいどうしたというのだろう?

 *

 馬車に乗って遠方を目指していたの。
 少し欲しい材質の紙があって、遠出をしようとしていた。
 その途中に子供を見かけて、驚いた。
 子供は小さな魔物の子供を虐めていて。まずいと感じた妾は馬車を止めるようお願いして降りる。
 魔物の子供は妾の癒やしも間に合わず、いじめから死んでしまい、その死体から閃光が現れ一気に大量の魔物が現れる。
 子供の死がトリガーになって大量の仕返しがされようとしている。
 子供を抱きかかえて、妾は慌てて庇う。

「ごめんなさい、この子のしたことは本当に悪かったわ!」
「うわああん、ごめんなさい!!」
「ぐるるうるるうううう」

 魔物はどんどん増えていく。
 まずいなと感じて、癒やしの力を応用してバリアを作る。
 大量の魔物はバリアを攻撃し始め、馬車の行者は慌てて屋敷に助けを求めに行った。
 そこから一時間ほど泣きわめく子供を抱えてバリアを必死に保っていたけれど、魔物達は許してくれない。
 それはそうね、しかたのないこと。

 力の使いすぎで意識が朦朧としてきた頃合いに、誰かが魔物の前に現れ、魔物達を相手にした。
 誰かしら? アシュ? と思えば――リーゼルグ先生だった。
 リーゼルグ先生がテレポートの魔法で聞くなり駆けつけてくれたらしい。

「まずいですね。一旦引きますよ」
「でも、このままにしておけば、絶対」
「そう、絶対に抱腹で国が襲われる。でもこれは最早貴方だけの問題にならない。貴方はその子を救った英雄として帰還せねばならない。災害の原因ではなくね」

 そのためにも、とリーゼルグ先生は妾と子供を連れて、テレポートした。
 テレポートした先にはアシュとサリスがいた。
 サリスは真っ青な顔で、即座に妾を抱きしめてくれた。

「お嬢! とりあえずこのお薬をお飲みください!」
「ありがとう……妾、なにもできないのね」
「そんなことない! お嬢がいなければこの子は死んでいました!」
「……うん」

 妾は気を失って、そのままサリスの腕の中で眠った。

 
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