兄さん覗き見好きなんだね?

かぎのえみずる

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第二部 視線

第十八話 スクリーンの先に思い人

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 枯葉は仕事前のシャワーを浴びながら、バッグにある残りのゴム数を脳内で数えて補充を思案していた。
(兄さん以外とは生でやりたくない……)
 それでも客には、生で頂戴と強請られるのでほとほと困り果てている。辟易してもきちんと断らねば。
 キスもそうだ、キスは兄にしかしないと決めているのに求められる。
 あの日から色気が開花、否増加しているのは枯葉も同様であった。
(一回十五万円にプラスアルファとして、それが五千万になるまで……か)
 こんなことなら金を何も考えずに使わず、貯めておけばよかったなんて思案しつつ、シャワーを浴び終われば買ってくれた客にリップサービスに口説くなりする。
 中々好きと言って貰えず焦れた客は金を枯葉の耳に挟ませ「お金、好き?」と尋ねた。
 枯葉はにこりと微笑み、そのまま客を引き寄せる。
「お金ならば、大好きですよ……」
 この客は羽振りが良いと判断すれば、枯葉はサービスを多めに取る。
 耳に挟まれた金を唇に当て金越しにキスすれば、あとはキスはなしだと枯葉は客の身体を攻め始めた。



 先日の三人でのセックスを見た会員たちは大興奮していた。
 噂は噂を呼び、柚の売値は高騰したが約束通り柚自身はオーナーが買い占める。
 会員に不満が募りそうな時期であったが、不思議な現象もあった。
 年齢を経ている会員に限って、柚と枯葉のセットを好む傾向があった。
 二人がこの状況下で思い合うセックスを出来るか見るのは、毎週楽しみにしているドラマが出来たような感覚であると、会員の一人は笑って教えてくれた。
 だがどちらかといえば若い年齢に寄っている会員は、柚を啼かせたいか、枯葉に抱かれたいかのどちらかであった。
 柚が泣き喚き枯葉を呼ぶ声が聞きたいと言う輩や、枯葉の憎さを込められた瞳で間近で射貫かれたいという意見であった。

 オーナーは一つ決めていた――柚の希少価値が、限界まであがりきったところで、会員の皆様にもサービスしようと。
 枯葉と約束したのは、柚を買い占める権であって、他の客にその後提供しないとは口にしていない。
 ただ一つ気がかりがある、客の中に異様に柚を気にする輩がいる事実――それは危険な一滴が店の天井に滴っている感覚でもあった。

 ぶぶぶぶぶ、と無機質な機械音が響く。
 乳首周りに、ローターが二つ固定されていて、柚はびくびくとカラダを跳ねさせていた。
「柚ちゃんさぁ、ほんとえっちな身体だよな」
 オーナーの後ろにある、大きなスクリーンに柚は釘付けだった。

 もうすぐセックスするだろう映像だ――互いが服を脱がしている。
 キスをせがまれても、枯葉は客に唇へのキスはせず、ゆっくりと押し倒し愛撫している。

 愛撫している姿を見て、先日の行為を思い出す柚――途端に身体が火照る。
 息づかいが荒くなり、乳首へのローターから与えられる刺激がじわりじわりと身体を汗ばませていく。
「おーなぁ……」
 甘い声は、「早く熱を解消したい」という意志だったが、オーナーからすれば「ガムシロップもかけたから早く食べて」に聞こえる。
「おーなあ……、触って……」
 枯葉が客を愛撫するタイミングで柚は自分の雄を触ろうとしたが、オーナーに両手を絡み取られる。
「素直なのはいいことだが、まだ駄目だ。オレ越しに枯葉を見てる」
「何が、悪い、んだ……?」
「オレはね、柚ちゃん。画面越しの枯葉にえろい気分になるのは賛成だけど、オレ越しに枯葉を見るのは駄目。だってそれってオレに堕ちてるんじゃねーからなあ」
 オーナーは息をつきながら説教の続きをしようとしたところで、絡みとっていた手が緩み伸びて柚から抱き寄せられ、背筋に指が這う。
 随分と艶っぽい仕草だ。説教中とはいえ、少しぐっとくるオーナーである。
「えっちがしたい、それじゃ、駄目か?」
「柚ちゃん、えっろ!! 一皮剥けた感じするからそれに免じるか」
 くつくつとオーナーは笑いながら柚へキスを贈ろうとし、柚はオーナーとキスをしながら画面から聞こえてくる枯葉と相手の会話や、水音に興奮していくのだった。

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