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第二部 視線
第二十二話 枯葉の回想
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意識が戻って、かいがいしく着替えをさせてくれてるのが枯葉だと気付くと、柚は枯葉を抱き寄せてほっと息を吐いた。
枯葉は柚からの抱擁に、思わず喜び笑ってしまう。
「兄さん、ほら上の服がまだですよ」
「アイス食いたい。……チョコの、アイス」
散々啼かされた後だから声が少し干からびているような感覚がした枯葉は、柚へミネラルウォーターの入ったペットボトルを押しつける。
「アイスは帰ってから。ね? イイコですから」
「……ん、さんきゅ」
飲み物を受け取ればごくごくと飲み、柚は喉を癒やした。
……どんなに何度オーナーに抱かれた後でも、その後枯葉を呼ばれるのは落ち着かないがすぐ会える嬉しさもある。
オーナーの場合後処理をめんどくさがってるだけなのだろうが、そこだけは感謝する柚であった。
甘い眼差しで柚を見つめ、枯葉は頭を撫でると上の衣服を着せた。
衣服には変な鳥が描かれていて「焼きたて」と文字が印刷されている。
「これ、誰の趣味……」
「さてね。ほら、帰る準備しますよ」
「枯葉、何か忘れていないか……?」
気怠げに笑いかける柚を見て、枯葉はこの兄には敵わない、と抱き締めキスをした。
唇をずっと見ていたことがどうしてばれたのだろう――などと思案しながらするキスの味は、甘かった。
*
思えば産まれた時より、兄無しの生活は考えられなかった。
枯葉は要領よく何でもこなしてきていたのだが、柚はどうにも不器用だし無愛想だしであまり交友関係も広くなくて親は辟易としていた。
やがて兄にはいつからか失望の眼差しが向けられることが多くなり、枯葉は違和感を感じる。
枯葉が要領よくてもそれと兄の成績や交友は無関係の筈だ。
兄の器量と自分の器量を比べる人も意味が分からない、双子故かとも最初は思案する。
きっと多分、皆、「あの枯葉の兄だから」という期待を持って、柚を見て来たんだろう。
故に兄を知らない人に紹介するときは、親は恥ずかしそうだし、周囲も柚を残念な子扱いしてきていた。
枯葉の最初の反抗期はそこであった、柚に対して皆が見下している。
柚はもっともっと素晴らしく優しくて素敵な人であるのに、と悔しくてたまらなかった。
第二の反抗期は、一緒にケーキを食べていて生クリームで口周りをべたべたにした柚を見てから自身がむずむずし、掻いていたら精通してからの後日である。
無邪気な兄に、よりによって兄弟相手に! と後悔したときもあった。
そこから枯葉は兄に対して反抗的になっていた、だがとある日――彼女が出来たと笑う兄を見た時に「選ばれなかった」という感覚。「想っていたのは自分だけだった」という感覚に苛まれ、悩み始める。それが中学生くらいのことか。
そこから兄を奪う、という思考回路にいくまで時間はかかったし、最初はどうなるかとも思った――しかし、彼女を寝取ってやったあの日に兄は屹立していたのだ。鉄壁警備員のあの人が。
最初は兄を小馬鹿にしながら自分を誘惑する自称・柚の彼女が気に入らず、寝取れば兄が彼女の愚かさに気がつき、彼女から柚は離れてくれるだろうと思っていた。
わざと見えるようにばれるように抱き、兄は見事気付いた拍手喝采である。
しかし予想外だったのは、興奮していた兄だ。
兄の屹立していた部分を見つめ、愛しくむしゃぶりたい気持ちになって笑ってしまったのを覚えている。
お陰で柚は変態性癖に目覚め、今に至るといったところか――。
何もかも始まりは、カメラから。
カメラに纏わるものは兄を感じさせる――さてはて、変態性癖に目覚めたのは自分もだろうかと、枯葉は一人笑い、店から相談された兄の衣装選びに参加する。
選んだのは、白くて半透明のベビードールと白い下着だった。
学生らしく、セーラー服もいいのではという案もあったのだが、枯葉はそれでも白いベビードールを選んだ。
枯葉の選んだ柚の衣装に不思議そうな顔をする従業員へ、枯葉は問いかけた。
「ベビードールの好さって何だか判ります?」
「黒ならまだしも、白はちょっと幼すぎて……」
「だからですよ、変態性癖の皆様方は、兄さんに幼さを求めて扱くんです」
判らなくはないでしょ、と視線だけで訴え、枯葉はベビードールに顔を少し埋める。
この衣装が、兄の精液で塗れる――子猫がミルクまみれになるよりも、もっと魅力的な可愛さだろう。
枯葉はベビードールに胸を躍らせ、もう一着同じ物を買うように頼んだ。
「どうしてもう一着欲しいの?」
「どれだけ似合うか、兄さんに試着してほしいからですよ」
つまり枯葉が手にしているベビードールは持ち帰りが確定し、更に汚れて捨てられるのが確定した瞬間だった。
従業員はナチュラルに惚気られた気がして、それ以上はつっこむのが面倒だったのか、頷いた。
上機嫌で枯葉は、ベビードールをカバンに入れ、衣装部屋から出て行こうとしたところで、客とぶつかる。
慌てて謝罪してその場を去ったが、枯葉は気付いていない――さり気なく、持っていた鞄に小さなマスコットつきのキーホルダーが紛れ込んでしまっていたことに。
客は、枯葉の後ろ姿を見つめ、――うっとりと微笑んだ。
枯葉は柚からの抱擁に、思わず喜び笑ってしまう。
「兄さん、ほら上の服がまだですよ」
「アイス食いたい。……チョコの、アイス」
散々啼かされた後だから声が少し干からびているような感覚がした枯葉は、柚へミネラルウォーターの入ったペットボトルを押しつける。
「アイスは帰ってから。ね? イイコですから」
「……ん、さんきゅ」
飲み物を受け取ればごくごくと飲み、柚は喉を癒やした。
……どんなに何度オーナーに抱かれた後でも、その後枯葉を呼ばれるのは落ち着かないがすぐ会える嬉しさもある。
オーナーの場合後処理をめんどくさがってるだけなのだろうが、そこだけは感謝する柚であった。
甘い眼差しで柚を見つめ、枯葉は頭を撫でると上の衣服を着せた。
衣服には変な鳥が描かれていて「焼きたて」と文字が印刷されている。
「これ、誰の趣味……」
「さてね。ほら、帰る準備しますよ」
「枯葉、何か忘れていないか……?」
気怠げに笑いかける柚を見て、枯葉はこの兄には敵わない、と抱き締めキスをした。
唇をずっと見ていたことがどうしてばれたのだろう――などと思案しながらするキスの味は、甘かった。
*
思えば産まれた時より、兄無しの生活は考えられなかった。
枯葉は要領よく何でもこなしてきていたのだが、柚はどうにも不器用だし無愛想だしであまり交友関係も広くなくて親は辟易としていた。
やがて兄にはいつからか失望の眼差しが向けられることが多くなり、枯葉は違和感を感じる。
枯葉が要領よくてもそれと兄の成績や交友は無関係の筈だ。
兄の器量と自分の器量を比べる人も意味が分からない、双子故かとも最初は思案する。
きっと多分、皆、「あの枯葉の兄だから」という期待を持って、柚を見て来たんだろう。
故に兄を知らない人に紹介するときは、親は恥ずかしそうだし、周囲も柚を残念な子扱いしてきていた。
枯葉の最初の反抗期はそこであった、柚に対して皆が見下している。
柚はもっともっと素晴らしく優しくて素敵な人であるのに、と悔しくてたまらなかった。
第二の反抗期は、一緒にケーキを食べていて生クリームで口周りをべたべたにした柚を見てから自身がむずむずし、掻いていたら精通してからの後日である。
無邪気な兄に、よりによって兄弟相手に! と後悔したときもあった。
そこから枯葉は兄に対して反抗的になっていた、だがとある日――彼女が出来たと笑う兄を見た時に「選ばれなかった」という感覚。「想っていたのは自分だけだった」という感覚に苛まれ、悩み始める。それが中学生くらいのことか。
そこから兄を奪う、という思考回路にいくまで時間はかかったし、最初はどうなるかとも思った――しかし、彼女を寝取ってやったあの日に兄は屹立していたのだ。鉄壁警備員のあの人が。
最初は兄を小馬鹿にしながら自分を誘惑する自称・柚の彼女が気に入らず、寝取れば兄が彼女の愚かさに気がつき、彼女から柚は離れてくれるだろうと思っていた。
わざと見えるようにばれるように抱き、兄は見事気付いた拍手喝采である。
しかし予想外だったのは、興奮していた兄だ。
兄の屹立していた部分を見つめ、愛しくむしゃぶりたい気持ちになって笑ってしまったのを覚えている。
お陰で柚は変態性癖に目覚め、今に至るといったところか――。
何もかも始まりは、カメラから。
カメラに纏わるものは兄を感じさせる――さてはて、変態性癖に目覚めたのは自分もだろうかと、枯葉は一人笑い、店から相談された兄の衣装選びに参加する。
選んだのは、白くて半透明のベビードールと白い下着だった。
学生らしく、セーラー服もいいのではという案もあったのだが、枯葉はそれでも白いベビードールを選んだ。
枯葉の選んだ柚の衣装に不思議そうな顔をする従業員へ、枯葉は問いかけた。
「ベビードールの好さって何だか判ります?」
「黒ならまだしも、白はちょっと幼すぎて……」
「だからですよ、変態性癖の皆様方は、兄さんに幼さを求めて扱くんです」
判らなくはないでしょ、と視線だけで訴え、枯葉はベビードールに顔を少し埋める。
この衣装が、兄の精液で塗れる――子猫がミルクまみれになるよりも、もっと魅力的な可愛さだろう。
枯葉はベビードールに胸を躍らせ、もう一着同じ物を買うように頼んだ。
「どうしてもう一着欲しいの?」
「どれだけ似合うか、兄さんに試着してほしいからですよ」
つまり枯葉が手にしているベビードールは持ち帰りが確定し、更に汚れて捨てられるのが確定した瞬間だった。
従業員はナチュラルに惚気られた気がして、それ以上はつっこむのが面倒だったのか、頷いた。
上機嫌で枯葉は、ベビードールをカバンに入れ、衣装部屋から出て行こうとしたところで、客とぶつかる。
慌てて謝罪してその場を去ったが、枯葉は気付いていない――さり気なく、持っていた鞄に小さなマスコットつきのキーホルダーが紛れ込んでしまっていたことに。
客は、枯葉の後ろ姿を見つめ、――うっとりと微笑んだ。
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