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第1部 グランドール魔術学校 ~亡国の古城と地底竜の守るもの~
第17話 存在しない記憶
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遅めの時間にクーちゃんおまかせ日替わりランチ定食を食べた後。
イーアはマホーキに掃除しておいてもらった自分の部屋に戻った。
ずっと思い出そうとしているけど、いまだに、<真の名>に関係ありそうなことは何も思い出せない。
ナミンの家で、みんなで顔にラクガキして遊んだこととか、誕生日会のお菓子のこととか、色んなことを思い出したけど、<真の名>に関係ありそうなことは何も思い出せなかった。
イーアが知る限り、これまでイーアの人生に特別なことなんて何も起こっていないのだ。
イーアはベッドに寝ころんで、左右に転がりながらつぶやいた。
「まいったー。まいったー。このままじゃ、授業料を払ってもらえなくて、グランドールを退学になっちゃうよ。せっかく入学できたのにー」
イーアの脳裏に出会ったばかりの同級生たちの顔が浮かんだ。
「会ったばかりでみんなと別れたくないよ。ひとりだけ退学なんて……」
落ちこみかけたところで、イーアはガバッと起き上った。
「<真の名>を探そう! グランドールを退学になんてなるもんか! 考えてもダメなら、動こう!」
イーアはとりあえず、図書室に行くことにした。
ウェルグァンダルの巨大な第一図書室に入ると、イーアはまず事典を探した。
「探し物の基本はまずは事典からって、昔、先生が言ってたもんねー」
イーアはひとりでつぶやきながら、本棚の間を移動していった。広い図書室にはほとんど人がいないので、大声でひとりごとを言っても誰にも文句は言われない。
たまたま目についた事典の前で、イーアは立ちどまった。
「……大魔術事典? これ、よさそう!」
大魔術事典と書かれた本が1巻からずっとならんでいる。
大きな本棚一つが、その魔術事典で埋まっていた。
これなら、なんでものっていそうだ。
イーアは事典で<真の名>を調べた。
「<真の名>、<真の名>……あった!」
――
<真の名>
あらゆる生命に生まれながらに刻まれている名である。<真の名>を知ることができれば、多くの魔術をかけることができる。そのため、魔導士は弟子入りの際に師がこの名を封じ、<真の名>を悪用されないようにすることが多い。多くの門派では、<真の名>の封印を入門の条件としている。封じられた<真の名>は、本人と封じた者以外には知ることができない。
――
「うーん……。よくわかんないけど……。本人と封じた者以外は知ることができないってことは……わたしはわたしの<真の名>を知ることができるんだよね? じゃ、知ればいいじゃん! よかったー。簡単に見つかりそうで」
イーアが大きな声でひとりごとを言っていると、通りがかったリグナムがさらっと言った。
「いやいや、無理だよ。仮に君にわかってもその名をガリは知ることができないんだ。教えられても知ることができない。そういうものなんだよ。<真の名>を封じるってのは。だから、封印を解かなきゃダーメ。それに、ウェルグァンダルの入塔条件の一つが<真の名>を塔に封じることなんだから。入門するためには、いったん<真の名>の封印を解かなきゃだめだよ」
「そっかー。そういうことかぁ。えー。じゃ、どうやって封印を解くの?」
イーアは頭を抱えた。リグナムは、本を片付けながら言った。
「誰がどうやって封印したのかわかれば、どうにかなるかもしれないよ? ガリになら。僕には無理だけどさ。君はおぼえてないの? 本人に気づかれずに<真の名>を封じるのって、難しいんじゃないかな。僕はよく知らないけど、そう簡単にはできないはずだよ。君の同意がいるんじゃないかな」
たしかにガリも「思い出せ」と言っていた。
やっぱり、手がかりは記憶の中にあるみたいだ。
でも、イーアはそもそも<真の名>なんて聞いたこともなかった。
イーアという名前以外に別の名前もない。
「全然、記憶にありません」
「じゃ、むりむり。お手上げだよ」
そう言った後、リグナムは明るく言った。
「ま、入門なんていいからさ。僕の後を継いで塔の雑用係になってよ。君、超優秀だから、ぜひ。給料は安いけど、ちゃんと衣食住は保障されるよ。ガリは不在がちだし、いても無言だから、文句を言う人もいなくて気楽で良い仕事だよ。空いた時間にちゃんと召喚の勉強できるしね」
たしかに、掃除とかは全部召喚獣や妖精がやってくれるから楽で、暇な上に立派な図書館もあるから、召喚術の勉強がしっかりできそうだ。
しかも、クーちゃんの作るご飯はとてもおいしくて、デザートも食べ放題。
楽で楽しい仕事。
こんなにいい就職先はないかもしれない。
「たしかに、よさそう……」
「でしょ?」
(もうここに就職でいいかも)と、イーアは一瞬あきらめかけた。
だけど、そこでイーアはまたグランドールで勉強を続けるユウリや他の生徒たちのことを思い出した。
今ウェルグァンダルに雑用係として就職しちゃったら、もうみんなといっしょに学校生活を送ることはできない。
イーアは頭をブンブンと振った。
「やっぱやだぁ! みんなとグランドールで学園生活を送りたいもん!」
イーアが叫んだ時には、リグナムはもう他の本棚にむかって歩いていた。
イーアはため息をついて、事典をかたづけると、図書室の1階のテーブルが並んでいるところに移動した。
テーブルのところにすわって、イーアはもう一度大きなため息をついた。
(あー。もう。がんばっても、なにも思い出せないよ)
イーアの記憶があるのはナミン先生と出会って、ナミンの家に行ったところからだ。
でも、ナミンの家に到着してからは、絶対に怪しい儀式とかは受けていない。
(そういえば、ナミンの家に行く前って、どこにいたんだっけ……?)
イーアはどうやっても思い出せなかった。
ナミンの家についたのは、たしか6歳頃だった。
その前の記憶があってもよさそうなのに、何も思い出せない。
どこに住んでいたのか、お父さんやお母さんがどんな人だったのか……何ひとつ思い出せない。
そこでイーアは初めて不思議に思った。
(そういえば、なんでわたしは何もおぼえてないんだろ?)
いつお父さんとお母さんがいなくなってしまったのかすら、イーアは思い出せない。
今までなんとなく、赤ちゃんの頃に両親が死んでしまったから何もおぼえていないんだと思っていた。
でも、本当にそうだったんだろうか?
気が付いた時には、イーアは見知らぬ場所にいて、ナミン先生と会って、ナミンの家に行って、ユウリや他の子どもたちといっしょに暮らしはじめた。
その後のことなら色々思い出せるのに、その前の出来事は、不自然なほど何一つ思い出せなかった。
昼間でも暗かった窓の外は、もうすっかり夜の暗さになっていた。
図書室の利用者もほとんどいなくなっていた。
館内を見渡していて、イーアはふと返却棚に入っている大きな図鑑に目を止めた。
(霊獣図鑑? おもしろそう。見てみよっかな)
イーアは重たい本を抱えてテーブルのところに戻った。
本を開くと、ページごとに霊獣のイラストと説明が書かれていた。
「かわいー。霊獣ってかわいいよねー」
思わずそう口にだしてつぶやいて、ペラペラと図鑑をめくっていると、華麗で荘厳な霊獣のイラストがあらわれ、イーアは手をとめた。
イラストだと見た目がちょっと違うけど、奨学生試験の時にイーアが呼びだした霊獣イーランだ。
――
イーラン
最上位の霊獣の一種。人によって召喚、使役されることはない幻の霊獣である。仁にあつく平和を愛する霊獣で、生命の回復や幸運を上げる能力を持つといわれる。伝承によると、逆鱗に触れた場合には、炎のブレスによる攻撃を行うことがあり、その威力は簡単に一つの町を消し去るほどだといわれる。
契約方法:不明、生息地:不明(高位霊界)、
――
(へー。こういう霊獣だったんだ……。あ、そうだ。ティトを探してみよ。たしか、ラシュトって名前だったよね)
イーアはラシュトの項目を見つけた。
でも、イラストはあんまりティトに似ていなかった。説明もほとんどない。
――
ラシュト
幻の霊獣。太陽の霊獣ともいわれる。召喚契約、使役は不可能だが、それでいて、人とともにいるところを目撃したという報告がある。人界に近いところに住むともいわれる。
契約方法:不明、生息地:不明
――
(ティトも幻の霊獣なの……?)
イーアはしょっちゅうティトに会っている。誰もいない場所で呼べばたいていティトは出てきてくれた。思い出せる限りの昔から、ティトはいつもイーアの身近にいた。
それに、なんとなく、ティトはイーアがナミン先生と会う前からいっしょにいた気がする。
「そっか!」
イーアは気が付き、勢いよく立ち上がった。
ティトなら知っているかもしれない。
誰がイーアの<真の名>を封じたのか。
イーアの記憶がない過去に、何が起こったのか。
イーアは本を片付けると、ティトを召喚するために急いで部屋に戻った。
イーアはマホーキに掃除しておいてもらった自分の部屋に戻った。
ずっと思い出そうとしているけど、いまだに、<真の名>に関係ありそうなことは何も思い出せない。
ナミンの家で、みんなで顔にラクガキして遊んだこととか、誕生日会のお菓子のこととか、色んなことを思い出したけど、<真の名>に関係ありそうなことは何も思い出せなかった。
イーアが知る限り、これまでイーアの人生に特別なことなんて何も起こっていないのだ。
イーアはベッドに寝ころんで、左右に転がりながらつぶやいた。
「まいったー。まいったー。このままじゃ、授業料を払ってもらえなくて、グランドールを退学になっちゃうよ。せっかく入学できたのにー」
イーアの脳裏に出会ったばかりの同級生たちの顔が浮かんだ。
「会ったばかりでみんなと別れたくないよ。ひとりだけ退学なんて……」
落ちこみかけたところで、イーアはガバッと起き上った。
「<真の名>を探そう! グランドールを退学になんてなるもんか! 考えてもダメなら、動こう!」
イーアはとりあえず、図書室に行くことにした。
ウェルグァンダルの巨大な第一図書室に入ると、イーアはまず事典を探した。
「探し物の基本はまずは事典からって、昔、先生が言ってたもんねー」
イーアはひとりでつぶやきながら、本棚の間を移動していった。広い図書室にはほとんど人がいないので、大声でひとりごとを言っても誰にも文句は言われない。
たまたま目についた事典の前で、イーアは立ちどまった。
「……大魔術事典? これ、よさそう!」
大魔術事典と書かれた本が1巻からずっとならんでいる。
大きな本棚一つが、その魔術事典で埋まっていた。
これなら、なんでものっていそうだ。
イーアは事典で<真の名>を調べた。
「<真の名>、<真の名>……あった!」
――
<真の名>
あらゆる生命に生まれながらに刻まれている名である。<真の名>を知ることができれば、多くの魔術をかけることができる。そのため、魔導士は弟子入りの際に師がこの名を封じ、<真の名>を悪用されないようにすることが多い。多くの門派では、<真の名>の封印を入門の条件としている。封じられた<真の名>は、本人と封じた者以外には知ることができない。
――
「うーん……。よくわかんないけど……。本人と封じた者以外は知ることができないってことは……わたしはわたしの<真の名>を知ることができるんだよね? じゃ、知ればいいじゃん! よかったー。簡単に見つかりそうで」
イーアが大きな声でひとりごとを言っていると、通りがかったリグナムがさらっと言った。
「いやいや、無理だよ。仮に君にわかってもその名をガリは知ることができないんだ。教えられても知ることができない。そういうものなんだよ。<真の名>を封じるってのは。だから、封印を解かなきゃダーメ。それに、ウェルグァンダルの入塔条件の一つが<真の名>を塔に封じることなんだから。入門するためには、いったん<真の名>の封印を解かなきゃだめだよ」
「そっかー。そういうことかぁ。えー。じゃ、どうやって封印を解くの?」
イーアは頭を抱えた。リグナムは、本を片付けながら言った。
「誰がどうやって封印したのかわかれば、どうにかなるかもしれないよ? ガリになら。僕には無理だけどさ。君はおぼえてないの? 本人に気づかれずに<真の名>を封じるのって、難しいんじゃないかな。僕はよく知らないけど、そう簡単にはできないはずだよ。君の同意がいるんじゃないかな」
たしかにガリも「思い出せ」と言っていた。
やっぱり、手がかりは記憶の中にあるみたいだ。
でも、イーアはそもそも<真の名>なんて聞いたこともなかった。
イーアという名前以外に別の名前もない。
「全然、記憶にありません」
「じゃ、むりむり。お手上げだよ」
そう言った後、リグナムは明るく言った。
「ま、入門なんていいからさ。僕の後を継いで塔の雑用係になってよ。君、超優秀だから、ぜひ。給料は安いけど、ちゃんと衣食住は保障されるよ。ガリは不在がちだし、いても無言だから、文句を言う人もいなくて気楽で良い仕事だよ。空いた時間にちゃんと召喚の勉強できるしね」
たしかに、掃除とかは全部召喚獣や妖精がやってくれるから楽で、暇な上に立派な図書館もあるから、召喚術の勉強がしっかりできそうだ。
しかも、クーちゃんの作るご飯はとてもおいしくて、デザートも食べ放題。
楽で楽しい仕事。
こんなにいい就職先はないかもしれない。
「たしかに、よさそう……」
「でしょ?」
(もうここに就職でいいかも)と、イーアは一瞬あきらめかけた。
だけど、そこでイーアはまたグランドールで勉強を続けるユウリや他の生徒たちのことを思い出した。
今ウェルグァンダルに雑用係として就職しちゃったら、もうみんなといっしょに学校生活を送ることはできない。
イーアは頭をブンブンと振った。
「やっぱやだぁ! みんなとグランドールで学園生活を送りたいもん!」
イーアが叫んだ時には、リグナムはもう他の本棚にむかって歩いていた。
イーアはため息をついて、事典をかたづけると、図書室の1階のテーブルが並んでいるところに移動した。
テーブルのところにすわって、イーアはもう一度大きなため息をついた。
(あー。もう。がんばっても、なにも思い出せないよ)
イーアの記憶があるのはナミン先生と出会って、ナミンの家に行ったところからだ。
でも、ナミンの家に到着してからは、絶対に怪しい儀式とかは受けていない。
(そういえば、ナミンの家に行く前って、どこにいたんだっけ……?)
イーアはどうやっても思い出せなかった。
ナミンの家についたのは、たしか6歳頃だった。
その前の記憶があってもよさそうなのに、何も思い出せない。
どこに住んでいたのか、お父さんやお母さんがどんな人だったのか……何ひとつ思い出せない。
そこでイーアは初めて不思議に思った。
(そういえば、なんでわたしは何もおぼえてないんだろ?)
いつお父さんとお母さんがいなくなってしまったのかすら、イーアは思い出せない。
今までなんとなく、赤ちゃんの頃に両親が死んでしまったから何もおぼえていないんだと思っていた。
でも、本当にそうだったんだろうか?
気が付いた時には、イーアは見知らぬ場所にいて、ナミン先生と会って、ナミンの家に行って、ユウリや他の子どもたちといっしょに暮らしはじめた。
その後のことなら色々思い出せるのに、その前の出来事は、不自然なほど何一つ思い出せなかった。
昼間でも暗かった窓の外は、もうすっかり夜の暗さになっていた。
図書室の利用者もほとんどいなくなっていた。
館内を見渡していて、イーアはふと返却棚に入っている大きな図鑑に目を止めた。
(霊獣図鑑? おもしろそう。見てみよっかな)
イーアは重たい本を抱えてテーブルのところに戻った。
本を開くと、ページごとに霊獣のイラストと説明が書かれていた。
「かわいー。霊獣ってかわいいよねー」
思わずそう口にだしてつぶやいて、ペラペラと図鑑をめくっていると、華麗で荘厳な霊獣のイラストがあらわれ、イーアは手をとめた。
イラストだと見た目がちょっと違うけど、奨学生試験の時にイーアが呼びだした霊獣イーランだ。
――
イーラン
最上位の霊獣の一種。人によって召喚、使役されることはない幻の霊獣である。仁にあつく平和を愛する霊獣で、生命の回復や幸運を上げる能力を持つといわれる。伝承によると、逆鱗に触れた場合には、炎のブレスによる攻撃を行うことがあり、その威力は簡単に一つの町を消し去るほどだといわれる。
契約方法:不明、生息地:不明(高位霊界)、
――
(へー。こういう霊獣だったんだ……。あ、そうだ。ティトを探してみよ。たしか、ラシュトって名前だったよね)
イーアはラシュトの項目を見つけた。
でも、イラストはあんまりティトに似ていなかった。説明もほとんどない。
――
ラシュト
幻の霊獣。太陽の霊獣ともいわれる。召喚契約、使役は不可能だが、それでいて、人とともにいるところを目撃したという報告がある。人界に近いところに住むともいわれる。
契約方法:不明、生息地:不明
――
(ティトも幻の霊獣なの……?)
イーアはしょっちゅうティトに会っている。誰もいない場所で呼べばたいていティトは出てきてくれた。思い出せる限りの昔から、ティトはいつもイーアの身近にいた。
それに、なんとなく、ティトはイーアがナミン先生と会う前からいっしょにいた気がする。
「そっか!」
イーアは気が付き、勢いよく立ち上がった。
ティトなら知っているかもしれない。
誰がイーアの<真の名>を封じたのか。
イーアの記憶がない過去に、何が起こったのか。
イーアは本を片付けると、ティトを召喚するために急いで部屋に戻った。
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四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
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