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第1部 グランドール魔術学校 ~亡国の古城と地底竜の守るもの~
第43話 ウェルグァンダルで情報集め
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学園祭の後、次にやってきた週末、イーアはウェルグァンダルの塔に向かった。
イーアが到着した時、ガリは塔におらず、イーアを出迎えたリグナムはほがらかに言った。
「いつも通りガリはいないよ。でも、せっかく来たんだからお茶でも飲んでいきなよ。ちょうど良かったよ~。僕、数日前からクーちゃん特製ドーナツが食べたくてしかたがないんだけどさ。注文すると、なぜか焼き魚が出てくるんだよ。僕の代わりに注文してよ」
リグナムの精霊語はあいかわらずメチャクチャでクーちゃんに通じないらしい。
イーアは食堂に行って、クーちゃん特製ドーナツと、魔苺とブラッディオレンジのクーちゃん特製ミックスジュースを注文した。
クーちゃんのドーナツはとってもおいしくて、ほっぺたが落ちそうだった。ジュースも飲んだだけで元気がたくさん出てくるおいしさだ。
「リグナムさん。ザヒっていう召喚士のこと、知ってますか?」
イーアがたずねると、リグナムは、うれしそうにドーナツにかぶりつきながら、あっさりうなずいた。
「ああ、ザヒのこと? よく知ってるよ。僕の親友だよ。子どもの頃からここで一緒だったんだ」
「親友……?」
リグナムは白装束とつながっている可能性がある?
イーアは警戒した。
でも、リグナムは軽い調子でぺらぺらとしゃべり続けた。
「そうだよ。ザヒは霊獣に好かれる霊獣使いでさ」
「霊獣使い?」
その言葉をザヒも使っていた。イーアに対して。
リグナムはうなずいて説明した。
「召喚士って、仲良くなれる精霊の種類がかたよってたりするんだよ。ガリは断然ドラゴンでしょ? 君はどうなるのかな。ザヒは霊獣でね。ザヒは子どもの頃に、塔の外の森で、黒い子猫を拾ったんだ。ザヒはその子猫をクロって呼んで、とてもかわいがってたんだ。そしたら、その子猫がどんどん大きくなっちゃって。実は猫じゃなくて、ワイヒルトっていう霊獣だったんだよ。塔の偉い人達は、びっくりしてたよ。ワイヒルトって、狂暴な魔獣で人間と仲良くしないっていわれてる種族だから」
リグナムはそう言って笑った。
イーアは笑えない。
グランドールの地下で、そのワイヒルトに殺されかけたばかりだ。
「リグナムさんは、ザヒさんとよく会うんですか?」
リグナムは残念そうな表情になった。
「それがさ。僕、ザヒにはもうしばらく会ってないんだ。ザヒは次期塔主争いでガリに負けてから、ウェルグァンダルにこなくなっちゃったんだよ」
「次期塔主争い?」
「そう。塔主が高齢になったり病気になったりすると、次の塔主を指名することになって、優秀な<召喚士>の中から次期塔主が選ばれるんだけど。この前はガリとザヒの二人が有力候補だったんだ。ザヒは赤ちゃんの頃からここで育った生え抜きで、先代にも一番大事にされていたんだよ。でも、なぜか先代はガリを後継者に指名しちゃったんだ。まぁ、ザヒは若すぎるっていう人もいたけどさ。噂によると、ガリとザヒの二人で決闘したとか、試練みたいなのを受けたとか。で、ガリが勝ったらしいよ。召喚バトルだったら、当然ガリが勝つからねぇ」
「じゃあ、それ以来、リグナムさんはザヒさんと会ってないんですか?」
イーアがたずねると、リグナムはさびしそうにうなずいた。
「うん。ガリが塔主に決まってから、ザヒは一度もここに帰ってきてないんだ。ザヒは赤ん坊の頃からここで育ったのに。ザヒにとっちゃ自分の家から追放されたみたいなもんだよ。かわいそうに。なんで、ガリが塔主に選ばれちゃったんだろうね。ほら、ウェルグァンダルなんて、こんなにさびれちゃってさ。絶対、ザヒが塔主になった方がよかったって僕は思うんだけど」
誰が何と言おうと、イーアはガリが塔主でよかった。けれど、イーアは何も言わなかった。
そんなことより、イーアの頭の中では、口にはできない疑問がぐるぐると回っていた。
リグナムはザヒが白装束の魔導士だということを知っているのだろうか?
実はリグナムも白装束の仲間なんだろうか? ……ここで平然とイーアにドーナツの注文を頼んでいるけど。
イーアの胸中は知りもせず、リグナムはひとりしゃべり続けていた。
「ガリが塔主でいる限り、もうザヒはここに来ないかも。昔からあのふたり、超仲悪いんだよ。でも実はあの二人って……」
リグナムはそこで突然気がついたように叫んだ。
「あ! いけない、いけない! これは口がさけても言っちゃいけない秘密だった。君ってさ、すごい聞き上手だよね? 僕、命がけで守らないといけない秘密を、うっかり話しちゃうところだったよ」
(別に聞き上手じゃないよ! 何もしてないよ! むしろあんまり話きいてなかったよ!)とイーアは思ったけど、何も言わなかった。
リグナムはその後もペラペラしゃべり続けていたけれど、イーアはもうあまり聞いていなかった。
リグナムのどうでもいい話を聞きながら、イーアはリグナムから白装束について聞きだすことはあきらめた。
リグナムが白装束の仲間だったら無理に聞こうとすると危険だし、そうじゃなくても、リグナムのことだから、イーアが探っていたことを誰にでもペラペラしゃべりそうだ。
その後イーアはウェルグァンダルの図書室で勉強をしながらガリを待った。
翌日、イーアがあきらめてグランドールに帰ろうと思った頃、ガリは帰ってきた。
塔主の部屋で、イーアが白装束のことをたずねると、ガリは言った。
『心当たりはあるが、今のお前には教えない。また無謀なことをされては困る』
『別に、正体わかったって何もしないもん』
ちなみに、イーアの精霊語はだいぶ上達したけれど、精霊語の敬語はわからないから、師匠相手でもふだんと同じようにしゃべっている。
イーアを信用していない表情で、ガリはぼそっと言った。
『記憶が戻って数か月もしない内にさっそく奴らと戦っていた奴が良く言う』
(好きで戦ったんじゃないよ)とイーアは言いたかったけれど、それより大事なことがあったので、別の質問をした。
『ザヒはどういう人? いつから白装束の魔導士になったの?』
ガリは小さくため息をついたように見えた。
『困ったやつだ。腕のいい召喚士だが、俺を嫌って塔には寄りつかなくなった。数年前から行方知れずでどこで何をしているのか不明だったが……。あいつがいつ白装束集団の仲間に加わったのかは知らないが、少なくとも塔を出る前、数年前まではどの結社にも加入していないはずだ』
ということは、ガネンの森が襲撃された時は、ザヒはまだ白装束たちの仲間になっていなかったってことだ。
『それじゃ、やっぱり、わたしがガネンの民だとは気がついてないよね』
ガリは少し考えて言った。
『俺がお前なら気は抜かないが、ザヒがガネンの森やラシュトについて知っていたとは思えない。だが、そもそも、なぜガネンの民が狙われている?』
『うーん。わたしは何も知らないけど……』
イーアは気が付いた。
(ひょっとして、ティトの言ってた石の秘密……?)
イーアはあの石について何も知らない。だけど、ガネンの民は何かを知っていたのかもしれない。
イーアが考えこんでいると、ガリは言った。
『いずれにせよ、グランドールには学外者が侵入できないよう強力な結界が張られている。それでも内部の者を買収すれば侵入できるだろうが、少なくとも学外にいるよりは安全なはずだ』
ガリはそこでふと気がついたようにイーアの肩の上を見てつぶやいた。
『青いチルラン……?』
イーアの肩の上には、ガネンの森からついてきてしまった青いチルランが浮いている。このチルランは、いじめられていたせいか、絶対にガネンの森に戻ろうとしない。
『うん。青いチルラン。めずらしいよね?』
『俺は青いチルランは見たことがない。だが、チルランの生態には謎が多い。伝承によれば、チルランには、さまよう魂が入りこんで……。いや、今は無駄話をしている暇はない。用事は済んだか?』
ガリは今日も忙しそうだ。イーアはあわててたずねた。
『もうひとつ質問! どうしたら、ザヒに勝てるようになれる?』
ガリは、眉をひそめた。だから、イーアはあわてて付け足した。
『べつに、すぐに戦うつもりじゃないよ?』
ガリはまるでティトみたいな、イーアのことを全然信じてなさそうなため息をついて言った。
『前にも言った通り、まずは精霊について知ることだ。基本をかためろ。あえていえば、攻撃的な精霊と交渉する時に身を守るため、防御魔法は習得した方がいいが、お前には召喚以外の魔法の素質はなさそうだ。代わりに障壁魔法の類を使える召喚獣を呼べるようになれ。着実に学んでいけば、十年もすればザヒを追い越せるだろう』
十年……。イーアにとっては、永遠のように長く感じられる時間だ。今のイーアには、十年後、大人になった自分なんて想像もできない。
不満そうな顔のイーアを見て、ガリは言った。
『一人前の召喚士になるには十年かかると言われている。お前はいつ入門した?』
数か月前だ。
ガリは続けて言った。
『俺の目に狂いがなければ、召喚の素質はお前の方がザヒよりも数段上だ。ただし、どんなに素質があったとしても、一朝一夕にどうにかなるものじゃない。急いで力を手に入れようと無茶をして死んだ召喚士はいくらでもいる。あせるな』
『うん……。わかった。ありがとう』
イーアは塔主の部屋を出た。
食堂でクーちゃんからお土産にドーナツをたくさんもらってから、イーアはグランドールに帰った。
白装束の情報はあまり得られなかったけど、聞くべきことは聞いたから気分は落ち着いた。
でも、十年は、待っていられない。
たぶん、白装束たちはまたすぐにグランドールにやってくる気がする。
もしもグランドールの地下に白装束の魔導士たちが探している何かがあるなら。
(だけど、ティトが回復するまで、動くべきじゃないもんね。とりあえず、このまま様子をみよう)
イーアはとりあえず敵の出方を待つことにして、グランドールでいつも通りの学校生活を再開した。
そして、そのまま何も起こらず、1か月が過ぎた。
イーアが到着した時、ガリは塔におらず、イーアを出迎えたリグナムはほがらかに言った。
「いつも通りガリはいないよ。でも、せっかく来たんだからお茶でも飲んでいきなよ。ちょうど良かったよ~。僕、数日前からクーちゃん特製ドーナツが食べたくてしかたがないんだけどさ。注文すると、なぜか焼き魚が出てくるんだよ。僕の代わりに注文してよ」
リグナムの精霊語はあいかわらずメチャクチャでクーちゃんに通じないらしい。
イーアは食堂に行って、クーちゃん特製ドーナツと、魔苺とブラッディオレンジのクーちゃん特製ミックスジュースを注文した。
クーちゃんのドーナツはとってもおいしくて、ほっぺたが落ちそうだった。ジュースも飲んだだけで元気がたくさん出てくるおいしさだ。
「リグナムさん。ザヒっていう召喚士のこと、知ってますか?」
イーアがたずねると、リグナムは、うれしそうにドーナツにかぶりつきながら、あっさりうなずいた。
「ああ、ザヒのこと? よく知ってるよ。僕の親友だよ。子どもの頃からここで一緒だったんだ」
「親友……?」
リグナムは白装束とつながっている可能性がある?
イーアは警戒した。
でも、リグナムは軽い調子でぺらぺらとしゃべり続けた。
「そうだよ。ザヒは霊獣に好かれる霊獣使いでさ」
「霊獣使い?」
その言葉をザヒも使っていた。イーアに対して。
リグナムはうなずいて説明した。
「召喚士って、仲良くなれる精霊の種類がかたよってたりするんだよ。ガリは断然ドラゴンでしょ? 君はどうなるのかな。ザヒは霊獣でね。ザヒは子どもの頃に、塔の外の森で、黒い子猫を拾ったんだ。ザヒはその子猫をクロって呼んで、とてもかわいがってたんだ。そしたら、その子猫がどんどん大きくなっちゃって。実は猫じゃなくて、ワイヒルトっていう霊獣だったんだよ。塔の偉い人達は、びっくりしてたよ。ワイヒルトって、狂暴な魔獣で人間と仲良くしないっていわれてる種族だから」
リグナムはそう言って笑った。
イーアは笑えない。
グランドールの地下で、そのワイヒルトに殺されかけたばかりだ。
「リグナムさんは、ザヒさんとよく会うんですか?」
リグナムは残念そうな表情になった。
「それがさ。僕、ザヒにはもうしばらく会ってないんだ。ザヒは次期塔主争いでガリに負けてから、ウェルグァンダルにこなくなっちゃったんだよ」
「次期塔主争い?」
「そう。塔主が高齢になったり病気になったりすると、次の塔主を指名することになって、優秀な<召喚士>の中から次期塔主が選ばれるんだけど。この前はガリとザヒの二人が有力候補だったんだ。ザヒは赤ちゃんの頃からここで育った生え抜きで、先代にも一番大事にされていたんだよ。でも、なぜか先代はガリを後継者に指名しちゃったんだ。まぁ、ザヒは若すぎるっていう人もいたけどさ。噂によると、ガリとザヒの二人で決闘したとか、試練みたいなのを受けたとか。で、ガリが勝ったらしいよ。召喚バトルだったら、当然ガリが勝つからねぇ」
「じゃあ、それ以来、リグナムさんはザヒさんと会ってないんですか?」
イーアがたずねると、リグナムはさびしそうにうなずいた。
「うん。ガリが塔主に決まってから、ザヒは一度もここに帰ってきてないんだ。ザヒは赤ん坊の頃からここで育ったのに。ザヒにとっちゃ自分の家から追放されたみたいなもんだよ。かわいそうに。なんで、ガリが塔主に選ばれちゃったんだろうね。ほら、ウェルグァンダルなんて、こんなにさびれちゃってさ。絶対、ザヒが塔主になった方がよかったって僕は思うんだけど」
誰が何と言おうと、イーアはガリが塔主でよかった。けれど、イーアは何も言わなかった。
そんなことより、イーアの頭の中では、口にはできない疑問がぐるぐると回っていた。
リグナムはザヒが白装束の魔導士だということを知っているのだろうか?
実はリグナムも白装束の仲間なんだろうか? ……ここで平然とイーアにドーナツの注文を頼んでいるけど。
イーアの胸中は知りもせず、リグナムはひとりしゃべり続けていた。
「ガリが塔主でいる限り、もうザヒはここに来ないかも。昔からあのふたり、超仲悪いんだよ。でも実はあの二人って……」
リグナムはそこで突然気がついたように叫んだ。
「あ! いけない、いけない! これは口がさけても言っちゃいけない秘密だった。君ってさ、すごい聞き上手だよね? 僕、命がけで守らないといけない秘密を、うっかり話しちゃうところだったよ」
(別に聞き上手じゃないよ! 何もしてないよ! むしろあんまり話きいてなかったよ!)とイーアは思ったけど、何も言わなかった。
リグナムはその後もペラペラしゃべり続けていたけれど、イーアはもうあまり聞いていなかった。
リグナムのどうでもいい話を聞きながら、イーアはリグナムから白装束について聞きだすことはあきらめた。
リグナムが白装束の仲間だったら無理に聞こうとすると危険だし、そうじゃなくても、リグナムのことだから、イーアが探っていたことを誰にでもペラペラしゃべりそうだ。
その後イーアはウェルグァンダルの図書室で勉強をしながらガリを待った。
翌日、イーアがあきらめてグランドールに帰ろうと思った頃、ガリは帰ってきた。
塔主の部屋で、イーアが白装束のことをたずねると、ガリは言った。
『心当たりはあるが、今のお前には教えない。また無謀なことをされては困る』
『別に、正体わかったって何もしないもん』
ちなみに、イーアの精霊語はだいぶ上達したけれど、精霊語の敬語はわからないから、師匠相手でもふだんと同じようにしゃべっている。
イーアを信用していない表情で、ガリはぼそっと言った。
『記憶が戻って数か月もしない内にさっそく奴らと戦っていた奴が良く言う』
(好きで戦ったんじゃないよ)とイーアは言いたかったけれど、それより大事なことがあったので、別の質問をした。
『ザヒはどういう人? いつから白装束の魔導士になったの?』
ガリは小さくため息をついたように見えた。
『困ったやつだ。腕のいい召喚士だが、俺を嫌って塔には寄りつかなくなった。数年前から行方知れずでどこで何をしているのか不明だったが……。あいつがいつ白装束集団の仲間に加わったのかは知らないが、少なくとも塔を出る前、数年前まではどの結社にも加入していないはずだ』
ということは、ガネンの森が襲撃された時は、ザヒはまだ白装束たちの仲間になっていなかったってことだ。
『それじゃ、やっぱり、わたしがガネンの民だとは気がついてないよね』
ガリは少し考えて言った。
『俺がお前なら気は抜かないが、ザヒがガネンの森やラシュトについて知っていたとは思えない。だが、そもそも、なぜガネンの民が狙われている?』
『うーん。わたしは何も知らないけど……』
イーアは気が付いた。
(ひょっとして、ティトの言ってた石の秘密……?)
イーアはあの石について何も知らない。だけど、ガネンの民は何かを知っていたのかもしれない。
イーアが考えこんでいると、ガリは言った。
『いずれにせよ、グランドールには学外者が侵入できないよう強力な結界が張られている。それでも内部の者を買収すれば侵入できるだろうが、少なくとも学外にいるよりは安全なはずだ』
ガリはそこでふと気がついたようにイーアの肩の上を見てつぶやいた。
『青いチルラン……?』
イーアの肩の上には、ガネンの森からついてきてしまった青いチルランが浮いている。このチルランは、いじめられていたせいか、絶対にガネンの森に戻ろうとしない。
『うん。青いチルラン。めずらしいよね?』
『俺は青いチルランは見たことがない。だが、チルランの生態には謎が多い。伝承によれば、チルランには、さまよう魂が入りこんで……。いや、今は無駄話をしている暇はない。用事は済んだか?』
ガリは今日も忙しそうだ。イーアはあわててたずねた。
『もうひとつ質問! どうしたら、ザヒに勝てるようになれる?』
ガリは、眉をひそめた。だから、イーアはあわてて付け足した。
『べつに、すぐに戦うつもりじゃないよ?』
ガリはまるでティトみたいな、イーアのことを全然信じてなさそうなため息をついて言った。
『前にも言った通り、まずは精霊について知ることだ。基本をかためろ。あえていえば、攻撃的な精霊と交渉する時に身を守るため、防御魔法は習得した方がいいが、お前には召喚以外の魔法の素質はなさそうだ。代わりに障壁魔法の類を使える召喚獣を呼べるようになれ。着実に学んでいけば、十年もすればザヒを追い越せるだろう』
十年……。イーアにとっては、永遠のように長く感じられる時間だ。今のイーアには、十年後、大人になった自分なんて想像もできない。
不満そうな顔のイーアを見て、ガリは言った。
『一人前の召喚士になるには十年かかると言われている。お前はいつ入門した?』
数か月前だ。
ガリは続けて言った。
『俺の目に狂いがなければ、召喚の素質はお前の方がザヒよりも数段上だ。ただし、どんなに素質があったとしても、一朝一夕にどうにかなるものじゃない。急いで力を手に入れようと無茶をして死んだ召喚士はいくらでもいる。あせるな』
『うん……。わかった。ありがとう』
イーアは塔主の部屋を出た。
食堂でクーちゃんからお土産にドーナツをたくさんもらってから、イーアはグランドールに帰った。
白装束の情報はあまり得られなかったけど、聞くべきことは聞いたから気分は落ち着いた。
でも、十年は、待っていられない。
たぶん、白装束たちはまたすぐにグランドールにやってくる気がする。
もしもグランドールの地下に白装束の魔導士たちが探している何かがあるなら。
(だけど、ティトが回復するまで、動くべきじゃないもんね。とりあえず、このまま様子をみよう)
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