もふもふ精霊に愛された召喚士、実はエルフだった!? ~精霊の森の生き残りはやがて英雄となる~

しゃぼてん

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第2部 バララセ東部 ~密林の巨鳥と水竜の島

第99話 オッペンと父

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 イーアがオーロガロンの住む聖域に向かっていた頃、オッペンはひとり密林の中をさまよい歩いていた。途中で拾った枝を手に持ちそばの樹木に打ち付けながら。
 イライライライラしていて、頭の中がすっかりぐちゃぐちゃになって混乱していた。

 オッペンにとって、ずっと世界はシンプルだった。
 この世界には光と闇、正義と悪があって、自分は将来、正義の味方になるんだと、小さな頃からずっと信じていた。
 憧れる目標、強く大きな正義の味方は、小さな頃からすぐそばにいた。
 帝国は正義だ。その帝国のために死すら恐れず勇敢に戦う英雄。それが、父ちゃんだった。

 だけど今は、信じてきたものがすべてがガラガラと崩れて、ぐちゃぐちゃになってしまった。
 
(チクショウ! なにが正しいんだよ! もうわけがわかんねぇ!)

 めくらめっぽうに歩き続けて、気が付いた時には、オッペンは再び、戦士たちの墓の前にやってきていた。
 埋葬されている者の名すらわからない墓。

 帝国のために身を捧げた英雄たち。故郷には骨も帰らなかった英雄たち。
 そこに埋められている無数の兵士たちはひとりひとりが、オッペンのようにいろんなことを感じ考え悩み生きた人間だったはずだ。だけど今はもう、みんな無言で土の中に埋まっている。

 そして、その向こうには反乱軍兵士の墓もある。
 激しく戦い殺しあった者たちが隣り合って眠っている。何を思っているのか、何も思っていないのか。

(なぁ、何が正しいんだよ。帝国は正しいんだよな? みんな正義のために戦って、悪い奴らをやっつけたんだよな?)

 心の中で語りかけても、死者は答えない。
 オッペンはどれだけそこに立っていただろう。

 ふと気が付くと、背後に人の気配がした。ふりかえらなくても、オッペンは後ろに誰がいるのかをわかっていた。わかっていたから、ふりかえらなかった。
 やがて、声が聞こえた。

「昔、言ってくれたよな。おれは大きくなったら父ちゃんみたいな正義のヒーローになるんだって」

 オッペンは何も答えなかった。答えたくなかった。オッペンはその声にイラついたけれど、動く気にはなれなかった。
 背後からの声は聞こえ続けていた。

「俺にはお前にあわす顔がねぇ。俺は……おまえのヒーローになりたかった。でも、なれなかった」

 数度深く呼吸をしてから、オッペンの父、ゾーンという名のかつての戦士は話し始めた。

「コサとランの父親を殺したのは俺だ。あいつらの母と赤ん坊を殺したのは、俺の部下……つまり、俺の責任だ」

 オッペンは何も答えなかった。今は答えたくないというより、言葉を口にできなかった。心臓がにぎりつぶされるように感じていた。
 ゾーンはぽつりぽつりと語った。

「俺は信じてた。俺は正義のために戦ってるんだと。ごちゃごちゃしたことは知らねぇ。帝国に歯向かう者は悪だ。命令されれば即殺せ。ためらう必要はない。それが正義だからだ。兵士に必要なのは、忠誠だ。国へ、軍への忠誠。それが兵士にとっての正義なんだ。……だけど、俺は人形じゃねぇ。心がある人間だ。だから、あの瞬間、気づいちまった」

 ゾーンは一度そこで言葉をとめた。静かなジャングルの中を、何も知らない無邪気な小鳥の鳴き声が響いていた。数呼吸置いて、ゾーンは再び話しはじめた。

「無力な女、子どもを悪党から守るのがヒーローだ。無力な女、子どもを痛めつけるのが、悪党だ。そうだろ? 何が正義かなんて関係ねぇ。もっとずっと単純なことだ。最初から心が知っていることだ。俺は気が付いたんだ。だけど、とまらなかった。とめられなかった。俺たちは、あの村で老人、女、子ども、ひたすら殺し続けた。俺たちは、圧倒的に弱い者を殺し続けた。いつのまにか、俺たちは、救いようがねぇ悪党になっちまっていた」

 ゾーンは血塗られた自分の両手を見つめた。片方の手は、すでにそこにはないが、そこにあるかのように見つめていた。

「目覚めたとき、俺は死にたかった。死んでわびようと思ったが、「死んで楽になるなんて許さない。生きて苦しめ」と言われた。だから、今もここにいる」

 オッペンの横の地面に剣が置かれた。帝国軍に支給されている、かつてゾーンが愛用していた、魔力がなくても使える魔導銃剣だった。

「おまえはこんな罪を背負うな。おまえはヒーローになってくれ」

 オッペンがふりかえると、顔をくしゃくしゃにして泣いている父の姿が見えた。

「……俺みたいな悪党にだけはなるな」

 そこにいたのは、かつてオッペンがあこがれていた大きく強い英雄ではなかった。
 打ちのめされ泣きじゃくる弱い男だった。
 だけど、あこがれが消えた後も消えなかった思いがオッペンを突き動かした。

「父ちゃん!」

 オッペンは泣きじゃくる父に抱きついた。
 正義が何かなんてもうどうでもよかった。ヒーローじゃなくたってよかった。悪党であろうとクズであろうと。
 オッペンの頭の中のごちゃごちゃはすべて消えていた。今は純粋じゅんすいに、もう会えないと思っていた父ちゃんにもう一度会えたよろこびを感じていた。

 その時、何か、高い笛の音が聞こえた。オッペンの父はつぶやいた。

「これは、敵襲を知らせる合図……」

「敵襲?」

「帝国軍だ。密林のはずれにはいつもカンラビの見張りがいて、敵襲を知らせることになっている。あの合図は少なくとも30人以上の敵兵が来たって報せだ。カンラビに戦える者はほとんど残ってねぇってのに。早く避難させねぇと」

 オッペンは父より早く、剣を手に取った。

「おれが助ける」

 オッペンはカンラビの村にむかって走り出した。
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