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第2部 バララセ東部 ~密林の巨鳥と水竜の島
第100話 オッペンの戦い1
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<盲従と高揚>の薬を飲んだ者は命令に絶対服従し、かつ、凶暴性を増す。つまりそれは人を殺戮兵器に変える薬だ。
<白光>の魔導師ジグモが調合したこの薬はバララセで戦う帝国軍部隊で試験的に導入され、常用されるようになった。
ジグモの命令で薬を飲ませられた帝国軍の奴隷兵・囚人兵は、カンラビの密林へ投入された。
数は40人程度だったが、カンラビ族の戦士のほとんどが村を出てバララセ解放軍に加わっているため、カンラビの村に抗うための戦力は存在しない。
襲われれば、一方的な虐殺が起こる。
だが、カンラビ族は無策でいたわけではなかった。
オッペンが駆け付けた時、村ではすでに避難が進んでいた。
モイオ、コサをふくむ、戦える年頃の男たち何人かが武器を持って村の外へ向かおうとしているのを見つけ、オッペンは声をかけた。
「モイオ! おれも戦う!」
モイオはオッペンを驚いたように見て、それから、首を左右に振った。
「必要ない。俺たちは戦わない。罠を使う」
「罠? 敵がどこから来るか、わかんのか? トラップってそんなにあるのか?」
「ない。だが、囮がいれば、敵をはめられる」
モイオたちは自ら囮になって敵を誘導して罠にはめる作戦のようだ。
オッペンは即座に言った。
「囮? 俺も手伝う」
「客のやることじゃない。墓守と避難しろ」
「いやだ。おれは村を守りたい」
モイオはカンラビの男たちと二言三言言葉を交わしてうなずいてから、オッペンに言った。
「その気持ちだけで十分だ。囮は生きて帰れない。敵といっしょに罠にかかり、罠の中で殺される」
「生きて帰れない? そんな……」
オッペンは、死を覚悟している男たちを見た。コサを見た。自分と同じ年頃の少年を。
「そんなのおかしいだろ! おい! おまえは反乱軍に入って帝国軍を倒すんじゃねーのかよ! ここで死んじゃダメだろ!」
モイオは、コサにつかみかかろうとするオッペンを手でおしやった。
「時間がない。俺たちは行く」
「待て……待てよ! 敵が来る場所がわかればいいんだよな? そしたら、囮なんていらないよな?」
オッペンは、ダウジングロッドと呼ばれている、見た目はただの棒にしかみえない、2本の曲がった棒を取り出した。いつになく手がふるえていた。
「おれが、敵が来る場所を当てる。おれには、わかる。きっと」
時間はなかった。経験もなかった。自分の選択にのしかかる命の重さが不安になって押しつぶされそうだった。
だけど、オッペンは集中した。
ダウジングロッドの先端が動き、その2本の棒の先へと向かった。
カンラビの男たちは、半信半疑だった。
ただ、オッペンの2本の棒が指し示す方向は、いずれにせよ敵が来ることが予測されている場所だったため、彼らはオッペンとともに移動した。
カンラビ族が用意しているトラップは2種類ある。ひとつはあらかじめ設置されているもの。落とし穴や、動くツタのような精霊によるトラップ。これは移動できないため、確実に敵を罠にはめるには囮が必要だった。
もう一種類は、無数の毒矢をつかった罠で、これは普段はとりはずしてあり、設置場所は移動可能だった。
「この先だ。敵はここを通る」
オッペンのダウジングロッドがさす先は、藪だった。ツタと草がしげり、一見、誰も通りぬけられそうにない場所だ。
カンラビ族の男たちが二言三言、言葉を交わした。
モイオは言った。
「そこは、たしかに、隠し通路だ。我々しか知らない。帝国兵は通れることを知らないはずだ」
「おれは、そこが隠し通路かなんて知らねぇ。けど、おれのダウジングロッドがいってんだ。おれは……、おれは、占術士だから、わかるんだ。敵はここを通る」
本当は、オッペン自身、半信半疑だった。やたらと占いがよく当たる、ダウジングロッドで探せば物が見つかる、だから「オッペンは天才占術士だね」とイーアがほめてくれる。だけど、オッペンは占術のことはよく知らない。ただ、なぜか当たるだけなのだ。
でも、信じてもらわなければ、モイオたちは自分の命を犠牲にする。
「占術士……アグラシアの巫師」
モイオはつぶやき、カンラビの男たちと相談した。
コサは見るからに反対していた。「あんな奴の占いを信じられるか!」と、主張しているのが、言葉がわからなくてもわかる。だけど、最終的に、モイオは言った。
「おまえの言う通り、ここに毒矢を設置する。ここを突破されたら、俺たちが囮になって精霊の罠を起動する。それで済む」
モイオが話している横で、大きな包みを担いできた数人の男たちが、藪の覆いをとりさり、手早く、毒矢のトラップの設置を始めた。
「そんなこと、させねぇ。だいじょうぶだ。敵はここを……」
突然、オッペンが手にもつダウジングロッドが、今までとはまったく違う方向に回転した。
オッペンは心の中でうろたえた。
だけど、モイオはダウジングロッドの指し示す先を見て言った。
「その先にも、抜け道がある。向こうにも罠を設置しよう」
モイオがカンラビの言葉で伝えると、一人がトラップ設置のために抜け道がある場所へと走って行った。
モイオはオッペンにたずねた。
「隠し通路のことを墓守に教わったか?」
「おれは何も聞いてねぇ」
モイオはうなずいた。
「そうだ。墓守も知らない。カンラビしか知らない。もしもおまえの巫術が正しいなら、答えはひとつ。カンラビの誰かが帝国軍に抜け道を教えた」
コサが抗議するように何か言った。たぶん、「そんなことをする者はカンラビにはいない」と言ったのだろう。モイオはつぶやくように言った。
「ありえないことはない。拷問は精神を破壊する。裏切りたくなくても、敵に教えてしまう」
ふたつの抜け道に、あっという間に毒矢のトラップが張られ、さらにそこから別のトラップへ誘導するためのトラップが張られた。
罠の準備を終えると、カンラビ族の男たちはすぐに移動し、分散して身を隠した。
オッペンはモイオとコサといっしょに隠れながら、両手に持つダウジングロッドを見つめていた。
ダウジングロッドの先端は、どこかをさししめそうとしているかのように動きつづけていた。
「モイオ、ダウジングロッドが……。あっちにも敵の侵入ルートがあるんじゃねーか?」
「その方角は……村……」
突然、高い笛のような音が断続的に聞こえた。モイオは笛の音に耳をそばだて、言った。
「敵だ。村に近い」
コサが「急げ!」と言って、走り出した。
オッペンはその後を全力で追いかけた。
<白光>の魔導師ジグモが調合したこの薬はバララセで戦う帝国軍部隊で試験的に導入され、常用されるようになった。
ジグモの命令で薬を飲ませられた帝国軍の奴隷兵・囚人兵は、カンラビの密林へ投入された。
数は40人程度だったが、カンラビ族の戦士のほとんどが村を出てバララセ解放軍に加わっているため、カンラビの村に抗うための戦力は存在しない。
襲われれば、一方的な虐殺が起こる。
だが、カンラビ族は無策でいたわけではなかった。
オッペンが駆け付けた時、村ではすでに避難が進んでいた。
モイオ、コサをふくむ、戦える年頃の男たち何人かが武器を持って村の外へ向かおうとしているのを見つけ、オッペンは声をかけた。
「モイオ! おれも戦う!」
モイオはオッペンを驚いたように見て、それから、首を左右に振った。
「必要ない。俺たちは戦わない。罠を使う」
「罠? 敵がどこから来るか、わかんのか? トラップってそんなにあるのか?」
「ない。だが、囮がいれば、敵をはめられる」
モイオたちは自ら囮になって敵を誘導して罠にはめる作戦のようだ。
オッペンは即座に言った。
「囮? 俺も手伝う」
「客のやることじゃない。墓守と避難しろ」
「いやだ。おれは村を守りたい」
モイオはカンラビの男たちと二言三言言葉を交わしてうなずいてから、オッペンに言った。
「その気持ちだけで十分だ。囮は生きて帰れない。敵といっしょに罠にかかり、罠の中で殺される」
「生きて帰れない? そんな……」
オッペンは、死を覚悟している男たちを見た。コサを見た。自分と同じ年頃の少年を。
「そんなのおかしいだろ! おい! おまえは反乱軍に入って帝国軍を倒すんじゃねーのかよ! ここで死んじゃダメだろ!」
モイオは、コサにつかみかかろうとするオッペンを手でおしやった。
「時間がない。俺たちは行く」
「待て……待てよ! 敵が来る場所がわかればいいんだよな? そしたら、囮なんていらないよな?」
オッペンは、ダウジングロッドと呼ばれている、見た目はただの棒にしかみえない、2本の曲がった棒を取り出した。いつになく手がふるえていた。
「おれが、敵が来る場所を当てる。おれには、わかる。きっと」
時間はなかった。経験もなかった。自分の選択にのしかかる命の重さが不安になって押しつぶされそうだった。
だけど、オッペンは集中した。
ダウジングロッドの先端が動き、その2本の棒の先へと向かった。
カンラビの男たちは、半信半疑だった。
ただ、オッペンの2本の棒が指し示す方向は、いずれにせよ敵が来ることが予測されている場所だったため、彼らはオッペンとともに移動した。
カンラビ族が用意しているトラップは2種類ある。ひとつはあらかじめ設置されているもの。落とし穴や、動くツタのような精霊によるトラップ。これは移動できないため、確実に敵を罠にはめるには囮が必要だった。
もう一種類は、無数の毒矢をつかった罠で、これは普段はとりはずしてあり、設置場所は移動可能だった。
「この先だ。敵はここを通る」
オッペンのダウジングロッドがさす先は、藪だった。ツタと草がしげり、一見、誰も通りぬけられそうにない場所だ。
カンラビ族の男たちが二言三言、言葉を交わした。
モイオは言った。
「そこは、たしかに、隠し通路だ。我々しか知らない。帝国兵は通れることを知らないはずだ」
「おれは、そこが隠し通路かなんて知らねぇ。けど、おれのダウジングロッドがいってんだ。おれは……、おれは、占術士だから、わかるんだ。敵はここを通る」
本当は、オッペン自身、半信半疑だった。やたらと占いがよく当たる、ダウジングロッドで探せば物が見つかる、だから「オッペンは天才占術士だね」とイーアがほめてくれる。だけど、オッペンは占術のことはよく知らない。ただ、なぜか当たるだけなのだ。
でも、信じてもらわなければ、モイオたちは自分の命を犠牲にする。
「占術士……アグラシアの巫師」
モイオはつぶやき、カンラビの男たちと相談した。
コサは見るからに反対していた。「あんな奴の占いを信じられるか!」と、主張しているのが、言葉がわからなくてもわかる。だけど、最終的に、モイオは言った。
「おまえの言う通り、ここに毒矢を設置する。ここを突破されたら、俺たちが囮になって精霊の罠を起動する。それで済む」
モイオが話している横で、大きな包みを担いできた数人の男たちが、藪の覆いをとりさり、手早く、毒矢のトラップの設置を始めた。
「そんなこと、させねぇ。だいじょうぶだ。敵はここを……」
突然、オッペンが手にもつダウジングロッドが、今までとはまったく違う方向に回転した。
オッペンは心の中でうろたえた。
だけど、モイオはダウジングロッドの指し示す先を見て言った。
「その先にも、抜け道がある。向こうにも罠を設置しよう」
モイオがカンラビの言葉で伝えると、一人がトラップ設置のために抜け道がある場所へと走って行った。
モイオはオッペンにたずねた。
「隠し通路のことを墓守に教わったか?」
「おれは何も聞いてねぇ」
モイオはうなずいた。
「そうだ。墓守も知らない。カンラビしか知らない。もしもおまえの巫術が正しいなら、答えはひとつ。カンラビの誰かが帝国軍に抜け道を教えた」
コサが抗議するように何か言った。たぶん、「そんなことをする者はカンラビにはいない」と言ったのだろう。モイオはつぶやくように言った。
「ありえないことはない。拷問は精神を破壊する。裏切りたくなくても、敵に教えてしまう」
ふたつの抜け道に、あっという間に毒矢のトラップが張られ、さらにそこから別のトラップへ誘導するためのトラップが張られた。
罠の準備を終えると、カンラビ族の男たちはすぐに移動し、分散して身を隠した。
オッペンはモイオとコサといっしょに隠れながら、両手に持つダウジングロッドを見つめていた。
ダウジングロッドの先端は、どこかをさししめそうとしているかのように動きつづけていた。
「モイオ、ダウジングロッドが……。あっちにも敵の侵入ルートがあるんじゃねーか?」
「その方角は……村……」
突然、高い笛のような音が断続的に聞こえた。モイオは笛の音に耳をそばだて、言った。
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