もふもふ精霊に愛された召喚士、実はエルフだった!? ~精霊の森の生き残りはやがて英雄となる~

しゃぼてん

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第2部 バララセ東部 ~密林の巨鳥と水竜の島

第102話 遺跡の仕掛け

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 ククディのレストランの厨房ちゅうぼうの傍に、さっきイーア達が上がってきたのとは別の下へと降りる階段があった。
 ククディの話によると、この階段をおりていった先に魚がとれる場所があるらしい。『魚は鮮度が命だからな。うちの魚料理は朝どり魚だぜ。時間がありゃ、とってきてから料理だってできらぁ』とククディは自慢げに言っていた。

『ククディ、この先に入っていい?』

『あんだ? おまえら生魚がほしいのか? とってこい、とってこい。とってなくなるもんでなし。とってきたらおれ様が調理してやるぜ』と、ククディは快く通してくれた。

 長い階段は何度も折れ曲がりながらずっと続き、その先に、大きな空間が広がっていた。
 石の床はコの字型になっていて、真ん中の部分には水が入りこんでいる。海のにおいがするから、きっと海水だ。ここが、ククディが魚をとっている場所だろう。
 何のためなのか、海水の中へと降りていく石の階段もある。
 それを見てカゲは断言した。

『ここですよ。ここからあの島に行くんです』

 イーアは心配になった。

『だいじょうぶなのかな。ククディのレストラン、壁に穴があいてるから、白装束の魔導士とか、すぐに入って来れちゃうよね』

 こんな状態じゃ、とっくに<白光>に石板の欠片を奪われていても不思議ではない、とイーアは思ったけれど、カゲは手を振って言った。

『いいえ。あそこから人間は簡単には入れませんよ。神殿の上にオーロガロンがいる上に、神殿の外壁には石サソリがうようよ這っていますから』

『石サソリ?』

『石サソリは普段は小石のように見えるんですが、猛毒を持っていて、しかも尻尾から毒針を飛ばせるんです。だから神殿の壁をのぼろうとした人間は石サソリに襲われてしまいます。精霊や鳥はおそわれないので、レストランの皆さんは関係ありませんが』

 そこでティトが低く唸った。

『おい。人間の臭いがする』

 ティトが走り出した。
 イーアもティトの後を追いかけた。壁のそばに白装束の男が横たわっているのが見えた。男はぴくりとも動かない。

『石みたいになってるぞ?』

 イーアが近づくと、男のようすを観察していたティトはそう言った。
 イーアはラプラプの光で照らし出し、白装束の男の様子をよく見た。
 ティトがいうように、全身の皮膚が石のようになっている。目や口の中まで石のようで、生きているようには見えない。

 イーアは石になった男が着ている服を確認した。模様のない白いローブだ。マーカスやオレンが着ていたものと同じ。
 つまり、この男は<白光>の正式なメンバーではなく、ただの協力者や見習いみたいな存在なんだろう。

 おくれてやってきたカゲがイーアの後ろから言った。

『ああ、これが石サソリの毒ですよ。石サソリの毒は人を石にしちゃうんです。この神殿には途中に石サソリの罠がありますから。毒の量が少しだけだと、しばらくは動けるので、ここまで来たところで石になっちゃったんでしょう』

 そんな毒をもつ石サソリがこの遺跡の外壁に沢山いたと知って、イーアはぞっとした。

『石サソリって、こわいね』

 カゲはのんきな調子で答えた。

『ええ、人間にとっては。でも、イーアさん。精霊はおそわれないので我々は安心ですよ』

 イーアは石化した男から視線をはなし、海水を見ながら言った。

『侵入した白装束は、この人だけかな? 島に行って確認した方がいいかも』

 ティトはやる気のない様子で言った。

『どうだろうな。そもそも、ガネンのものならともかく、よその石までおれたちが守ってやる必要ないだろ?』

『だめだよ。モルドーの話だと、支配者の石板を白装束たちが手にいれちゃったら、世界が大変なことになっちゃうもん』

 モルドーの話を聞いた後で、イーアはウェルグァンダルの図書館でさらに調べて、こんなことを知った。
 二千年近く前まで、人間と精霊はとても近い場所、ほとんど同じ世界に住んでいた。
 だけどその頃から、急速に世界から霊素が少なくなっていって、精霊が住める場所が減り、人間の住む場所から精霊はほとんどいなくなった。
 歴史上最大の天変地異。人界と精霊の住む世界が分裂した、世界の大変動。
 時期的に、たぶん、それは支配者の石板の力で引き起こされたことだ。
 もしも、今、支配者の石板が使われて、世界からさらに霊力が奪われたら、モルドーがいうように、この世界は本当に崩壊してしまうかもしれない。

 だけどティトは落ち着いた声で言った。

『でも、ひとつでも欠片がなければ石板は完成しないだろ? だったら、守るのは一つで十分じゃないか』

『うん、たしかに……』

 イーアはすでに石板の欠片をひとつ確保している。だったら、危険をおかして石板の欠片を入手するより、守ることに集中した方がいいのかもしれない。
 だけどその時、キーキーした声が遺跡の地下に響いた。

『大変だ! 大変だ!』

 ロロロだった。あわてた様子のロロロが走ってきた。

『ロロロ?』

 ロロロはパニックになったみたいに走りまわりながらキーキー声で叫んだ。

『白い服の魔導士と帝国軍に村を占領されちまった! ランが捕まっちまった!』

『ランが白装束に!?』

『あいつら、言うんだ。神殿にある宝、なんかの石板の欠片を持ってこなければ、みんなを殺すって。ランを殺すって。どうしよう。どうしよう』

 ロロロは気が動転した様子で走り回っている。
 イーアの行動を予測したティトが深く長いため息をつき、イーアは言った。

『行こう。秘宝を探しに』



 海水の中へとつながる階段近くの壁にカゲが手をかざし、呪文のようなものをつぶやいた。すると階段の先に大きな泡みたいな透明な球体が出現した。

『あの大きな泡の中に入るの?』

『ええ。そうです。おそらく、たしか、たぶん』

 カゲはちょっと頼りないけれど、イーアは海水の中へと続く階段を降りて行き、大きな泡のような球形のものに手をのばした。
 少しだけなにかに触れた感触があって、そのまま手は透明な壁をつきぬけ中に入っていった。イーアはそのまま歩いて進んでいき、巨大な泡のような球の中にはいっていった。

『すごい。この中には海水が入ってこないよ?』

 どういう仕組みかはわからないけれど、イーアやティトは中に入れるのに、海水は中に入ってこない。それに、外から中には簡単に入れたけれど、中から外へは簡単にはでられなかった。少なくとも、足が外に出てしまうことはない。手で透明な壁に触れても、手は外にはでない。

『これが割れたらおしまいだけどな』

 ティトは不機嫌そうに言った。

『ティト、水が怖いなら、一度帰ってもいいよ。むこうについてからまた呼ぶから』

『別に怖いわけじゃない。おれはぬれるのが嫌いなだけだ。それと、祭壇に行くのにも反対なだけだ』

 ティトはむすっとそう言った。

『でも、ロロロひとりに行かせるわけにはいかないもん』

 ロロロはティトの背中の上ですすり泣きながら、もうしわけなさそうに言った。

『いんや。おれっちひとりで行くべきなんだ。おまえらは客人だから、逃がさなきゃなんだ。だって、ランはおれっちに言ったんだ。イーア達に、絶対に村に帰らないですぐ逃げるように伝えろって。だけど、おれっちは、あいつらをたすけたくって……』

『逃げろって言われたって、ランたちを見捨てて逃げたりできないよ』

 イーアがそう言うと、ティトはむすっと言った。

『だけど、あいつらは秘宝を渡したって人質を助けてくれるようなやつらじゃないぞ。全員殺されて終わりだ。どうする?』

『それは……そうだね。何か考えなきゃ』

 そこで、カゲの声が聞こえた。

『じゃ、行きますよ~』

 イーア達の入っている透明な球体が、音もなく海中を動き出した。最初は球の上の方は水面の上に出ていたけれど、すぐに全体が水中に沈んでいった。

『すごい! 水中にいるみたい! 魚が泳いでいるよ』

『実際、水中にいるぞ』
 
 そういいながらティトも、イーアの横で物珍しそうに泳ぎ回る魚を目で追っている。
 イーアがティロモサに会おうとして海でおぼれかけた時は、苦しいだけで何も見えなかったけれど、今は水中の様子をよく見ることができた。

 イーア達を乗せたふしぎな透明の球は、しばらく洞窟の中のようなところを進んでいたけれど、やがて光のとどく広い海へと出た。
 海は美しかった。足の下にはサンゴ礁がひろがっていて、色鮮やかな魚たちがたくさん泳いでいる。

『海の中って、こんなにきれいなんだね』

 イーアはおもわず感動して、球体のかべにおでこをくっつけて美しい海中の光景を眺めた。
 途中、遠くにちらりと巨大なワニのようなサメのような生物が見えた。
 たぶん、あれが古水竜ティロモサだとイーアは直感的にさとった。
 イーアは声をかけようと思ったけれど、ティロモサは遠くからちらりとイーア達を見て、すぐに泳ぎ去って行った。
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