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第3部 帝都騒乱 ~魔女の血脈~
第137話 王宮前広場のボランティア
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アンドルは館に帰ってきてからも、王宮に呼ばれたり宰相と会ったり、仕事が忙しいらしく、ほとんど家にはいなかった。
それでも、「今年は3人で冬至祭を迎えられそうね」とアラムのお母さまはとてもうれしそうにしていた。
アラムのお母さまにとっては、ずっと眠っていたアラムが目覚めてはじめて迎える冬至祭だから、その喜びはわかる。
でも、もちろん、イーアはアンドルと冬至祭を過ごすなんて、想像するのも嫌だった。
アンドルはイーアの家族を殺しただけではない。ちょうど1年前の冬至祭の日、アンドルはマーカスをだまして殺した。
アンドルが目の前にいたら、絶対に冬至祭を祝う気分にはなれない。
アラムにとってはお父さんだとしても、イーアのお母さんにとってはお兄ちゃんだとしても、イーアにとってアンドルは倒すべき仇のままだ。
とはいえ、正面から戦ってイーアに勝ち目はない。
今のイーアは1年前の無力な少女とは違う。
バララセ東部の強力な精霊達が仲間になってくれただけでなく、いつの間にかイーアの『友契の書』には、『イーランの来訪所』にいるガネンの森の上位種精霊たちも登録されていた。アラムに転生したせいか他の理由なのか、魔力の量も以前よりだいぶ増えている気がする。
だけど、それでも、アンドルに勝てる気はしないし、アンドルには暗黒神の呪炎があるから不意打ちもできない。
それに、アラムのお母さまの目の前でアラムの姿のままアンドルと戦う気にはなれなかった。
突然、父子の壮絶な殺し合いが目の前で繰り広げられたら、あの優しい貴婦人はショック死しちゃいそうだ。
だから、(アラムのお母さまには悪いけど、冬至祭は誰かの家に遊びに行っちゃおうかなぁ)と、イーアは考えていた。
どうせ冬至祭を乗り切れば、アンドルはまた館からいなくなる。それまで、やりすごせばいい。
その後どうするかは、後で考えればいい。
冬至祭の前日は、イーアはボランティアに参加することにしていた。
ラグチェスターの生徒は、毎年、王宮前広場で、貧しい人達のために食べ物を無料でふるまうらしい。
参加は義務ではなくて、参加したい人だけ参加するボランティアだ。
イーアは困っている人達のためになるなら手伝いたいと思ったから参加することにした。
だけど、実際にイーアが参加してみると、生徒たちは召使いを連れてきていて、その人たちがほとんどの仕事をしていた。
生徒たち自身は周囲でおしゃべりをしたり遊んでいるだけだ。
イーアも手伝おうとしたけれど、どこかの貴族の召使いの人に、とても丁寧に断られてしまった。「ラウヴィル卿のお手をわずらわすわけにはいけません」と。
「侯爵家の嫡男を召使いと一緒に働かせていたなんて知られたら、あの人たちが叱られるからね」と同級生のレイノーに言われ、イーアは無理に手伝っても邪魔になるだけっぽいと理解した。
(貴族も使用人も貧乏な人達も、みんな同じ人間なのに、身分がどうとか、めんどくさいよね)
そう思いながらイーアがぼーっとしていると。
ラグチェスター校の上級生がしゃべっているのが聞こえてきた。
「へんだな。なんだか今年は食べ物をとりにくる貧民が少ないぞ。去年はやつらもっと群がってたろ」
「今年の冬はそんなに食べ物に困ってないんだろ」
馬鹿にした調子でしゃべっている上級生たちはまるで動物の話でもしているような調子だった。
イーアだったら、こんな風にバカにしている人たちからは、何ももらいたくない。
それでもしかたがなく、バカにされながら頭を下げて食べ物をもらっていく貧しい人たちのことを考えると、なんだか腹がたってきて、イーアは思わず、「食べ物をもらいにくる人を、バカにしないでください」と上級生たちに文句を言った。
でも、上級生たちは「何を言っているんだ?」という風な、きょとんとした顔になっただけだ。
何で文句を言われているのか、理解できないらしい。
これじゃ、ケンカにもならない。
(貴族の子たちって、なんでこんなに庶民の気持ちがわからないんだろ)
イーアは、すっかりボランティアをする気がなくなった。
レイノーはもう帰ってしまったし、イーアもそろそろ帰ろうかなと思っていると、ラグチェスター校のボランティアの所に、王宮警備隊の偉い人がやってきて生徒たちとおしゃべりを始めた。
「王宮警備隊長ボーバンドさんは、ラグチェスターの卒業生なんだ」と他の生徒が教えてくれたけれど、イーアは興味がなかったから、こっそりその場を離れた。
王宮前広場の奥には王宮の門がある。
だけど、宮殿の建物はずっと遠くにあって、広場からはほとんど見えない。
王宮前広場では冬至祭マーケットが開催されていて、色んなお店がでていて、合唱を行っている人たちもいて、楽しい雰囲気が満ちていた。
(遊んでこようかな。それか、ガネンの森に行っちゃおうかな)
イーアはそう思いながら、ふらふらと広場の中を歩いていった。
冬至祭マーケットのお店はのぞいていると楽しかった。
おいしそうな食べ物やお菓子、ホットワイン、それから冬至祭パーティーの飾りに使う小物や、プレゼントに使えそうなものもたくさん売られている。
青いチルランもポケットからふよふよと出てきて、楽しそうにお店をのぞいていた。
イーアは小声でささやいた。
『アラム、なにかほしいものある? せっかくだから、お母さまに何かプレゼント買ってかえろうか?』
青いチルランは何もいわないけれど、『そうしよう』と言っているみたいに見えた。
だけど、その時、突然、どこか遠くから、いくつかの銃声のような音が聞こえた。
そして、大勢の人の叫び声が聞こえてきた。
最初は何を言っているのか聞き取れなかったけれど、じきに、はっきりとその叫び声が聞き取れるようになってきた。
「王はいらない! 貴族はいらない! すべての人に同じ権利を!」
王宮前広場に続く大通りを大勢の人々が歩いてくる。手に棒のようなものを持っている人たちもいた。
「暴動だ!」「反乱だ!」
広場にいた人たちの間から悲鳴が響き、逃げようとする人たちがぶつかりあい、広場は突如、混乱につつまれた。
それでも、「今年は3人で冬至祭を迎えられそうね」とアラムのお母さまはとてもうれしそうにしていた。
アラムのお母さまにとっては、ずっと眠っていたアラムが目覚めてはじめて迎える冬至祭だから、その喜びはわかる。
でも、もちろん、イーアはアンドルと冬至祭を過ごすなんて、想像するのも嫌だった。
アンドルはイーアの家族を殺しただけではない。ちょうど1年前の冬至祭の日、アンドルはマーカスをだまして殺した。
アンドルが目の前にいたら、絶対に冬至祭を祝う気分にはなれない。
アラムにとってはお父さんだとしても、イーアのお母さんにとってはお兄ちゃんだとしても、イーアにとってアンドルは倒すべき仇のままだ。
とはいえ、正面から戦ってイーアに勝ち目はない。
今のイーアは1年前の無力な少女とは違う。
バララセ東部の強力な精霊達が仲間になってくれただけでなく、いつの間にかイーアの『友契の書』には、『イーランの来訪所』にいるガネンの森の上位種精霊たちも登録されていた。アラムに転生したせいか他の理由なのか、魔力の量も以前よりだいぶ増えている気がする。
だけど、それでも、アンドルに勝てる気はしないし、アンドルには暗黒神の呪炎があるから不意打ちもできない。
それに、アラムのお母さまの目の前でアラムの姿のままアンドルと戦う気にはなれなかった。
突然、父子の壮絶な殺し合いが目の前で繰り広げられたら、あの優しい貴婦人はショック死しちゃいそうだ。
だから、(アラムのお母さまには悪いけど、冬至祭は誰かの家に遊びに行っちゃおうかなぁ)と、イーアは考えていた。
どうせ冬至祭を乗り切れば、アンドルはまた館からいなくなる。それまで、やりすごせばいい。
その後どうするかは、後で考えればいい。
冬至祭の前日は、イーアはボランティアに参加することにしていた。
ラグチェスターの生徒は、毎年、王宮前広場で、貧しい人達のために食べ物を無料でふるまうらしい。
参加は義務ではなくて、参加したい人だけ参加するボランティアだ。
イーアは困っている人達のためになるなら手伝いたいと思ったから参加することにした。
だけど、実際にイーアが参加してみると、生徒たちは召使いを連れてきていて、その人たちがほとんどの仕事をしていた。
生徒たち自身は周囲でおしゃべりをしたり遊んでいるだけだ。
イーアも手伝おうとしたけれど、どこかの貴族の召使いの人に、とても丁寧に断られてしまった。「ラウヴィル卿のお手をわずらわすわけにはいけません」と。
「侯爵家の嫡男を召使いと一緒に働かせていたなんて知られたら、あの人たちが叱られるからね」と同級生のレイノーに言われ、イーアは無理に手伝っても邪魔になるだけっぽいと理解した。
(貴族も使用人も貧乏な人達も、みんな同じ人間なのに、身分がどうとか、めんどくさいよね)
そう思いながらイーアがぼーっとしていると。
ラグチェスター校の上級生がしゃべっているのが聞こえてきた。
「へんだな。なんだか今年は食べ物をとりにくる貧民が少ないぞ。去年はやつらもっと群がってたろ」
「今年の冬はそんなに食べ物に困ってないんだろ」
馬鹿にした調子でしゃべっている上級生たちはまるで動物の話でもしているような調子だった。
イーアだったら、こんな風にバカにしている人たちからは、何ももらいたくない。
それでもしかたがなく、バカにされながら頭を下げて食べ物をもらっていく貧しい人たちのことを考えると、なんだか腹がたってきて、イーアは思わず、「食べ物をもらいにくる人を、バカにしないでください」と上級生たちに文句を言った。
でも、上級生たちは「何を言っているんだ?」という風な、きょとんとした顔になっただけだ。
何で文句を言われているのか、理解できないらしい。
これじゃ、ケンカにもならない。
(貴族の子たちって、なんでこんなに庶民の気持ちがわからないんだろ)
イーアは、すっかりボランティアをする気がなくなった。
レイノーはもう帰ってしまったし、イーアもそろそろ帰ろうかなと思っていると、ラグチェスター校のボランティアの所に、王宮警備隊の偉い人がやってきて生徒たちとおしゃべりを始めた。
「王宮警備隊長ボーバンドさんは、ラグチェスターの卒業生なんだ」と他の生徒が教えてくれたけれど、イーアは興味がなかったから、こっそりその場を離れた。
王宮前広場の奥には王宮の門がある。
だけど、宮殿の建物はずっと遠くにあって、広場からはほとんど見えない。
王宮前広場では冬至祭マーケットが開催されていて、色んなお店がでていて、合唱を行っている人たちもいて、楽しい雰囲気が満ちていた。
(遊んでこようかな。それか、ガネンの森に行っちゃおうかな)
イーアはそう思いながら、ふらふらと広場の中を歩いていった。
冬至祭マーケットのお店はのぞいていると楽しかった。
おいしそうな食べ物やお菓子、ホットワイン、それから冬至祭パーティーの飾りに使う小物や、プレゼントに使えそうなものもたくさん売られている。
青いチルランもポケットからふよふよと出てきて、楽しそうにお店をのぞいていた。
イーアは小声でささやいた。
『アラム、なにかほしいものある? せっかくだから、お母さまに何かプレゼント買ってかえろうか?』
青いチルランは何もいわないけれど、『そうしよう』と言っているみたいに見えた。
だけど、その時、突然、どこか遠くから、いくつかの銃声のような音が聞こえた。
そして、大勢の人の叫び声が聞こえてきた。
最初は何を言っているのか聞き取れなかったけれど、じきに、はっきりとその叫び声が聞き取れるようになってきた。
「王はいらない! 貴族はいらない! すべての人に同じ権利を!」
王宮前広場に続く大通りを大勢の人々が歩いてくる。手に棒のようなものを持っている人たちもいた。
「暴動だ!」「反乱だ!」
広場にいた人たちの間から悲鳴が響き、逃げようとする人たちがぶつかりあい、広場は突如、混乱につつまれた。
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