もふもふ精霊に愛された召喚士、実はエルフだった!? ~精霊の森の生き残りはやがて英雄となる~

しゃぼてん

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第4部 帝国の終焉 ~滅亡をもたらすダークエルフ~

第160話 ザヒの狙い

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 まるで全て最初から計画されていたように行われたティトとワイヒルト、そしてザヒの、<白光>の魔導士への攻撃。
 イーアはそれを信じられない思いで見ていた。

「なんで、ザヒが<白光>を攻撃……? こんな風に<白光>を裏切ったら、ザヒが殺されちゃうのに……。なのに、なんで?」

 どうしてザヒが突然<白光>を裏切ったのかはわからなかったけれど、今考えるべきはそこではない、とイーアは判断していた。

 アポロウの役割はきっと、ザヒへの監視を兼ねていたはずだ。
 監視役のアポロウは、時が動き出した瞬間、ザヒの首輪の爆弾を起動するだろう。
 あるいは、アポロウを殺せば、首輪の爆弾が起動されるようになっているのかもしれない。
 きっと、だから、ザヒはアポロウを倒すのではなく、わざわざすきをついて時間凍結したのだ。
 だけど、この時間凍結は一時的な時間かせぎにしかならない。

 時が動き出せば、ザヒは即座に殺される。
 なのに、ザヒは笑った。

「このに及んで俺の心配か? これだから半精霊は。まぁいい。答えてやるさ。簡単なことだ。俺がこの世で一番嫌いな奴はガリだが、一番滅ぼしたいものは、この帝国だからだ」

「ザヒは帝国を滅ぼしたい……?」

 ザヒは怒気をこめた声で言った。

「他に何があると思っていたんだ? お前は俺の出自を知っているんだろう? それともお前は何も感じないのか? 家族を皆殺しにされて何とも思わなかったのか? 精霊の森唯一の生き残りが!」

 イーアの脳裏に、殺されていくガネンの人々の姿が蘇った。
 どうしようもない怒りと悲しみが沸き起こる。
 ただ、イーアはその感情を、帝国を滅ぼす理由につなげて考えたことはなかった。

 ガネンの森を襲った敵はあくまで<白光>だった。
 それに、すでに復讐や仇を討ちたいという思いはイーアの中から消えていた。
 アンドルが死んだ後は。
 今はお母さんの見た夢を叶えたいだけだ。

 でも、ガリとザヒの家を襲った敵は、たしかに帝国だった。

 言われてみれば、自分の実の家族を全員殺した帝国に、ザヒが恨みを持たないはずがなかった。
 ザヒは、ガリのように復讐という発想を持たない「ドラゴン」ではない。恨みや嫉妬といった負の感情をこれでもかと持ち合わせた「人間」なのだ。

 だけど、これまでザヒはそんなことを思いつかせないぐらいに、全くそんな素振りを見せてこなかった。
 あれはすべて演技だったのだろうか。だとすれば、見事な演技だ。

「滅亡をもたらすダークエルフ。俺はお前の成長を待っていたのだ。受け取れ。テストの合格祝いだ」

 ザヒは何かの骨で出来た道具をイーアに向かって投げつけた。

「それは、強い霊獣が住む異界トイネリアへの扉を開く鍵だ。歴代最強クラスの霊獣使いですらろくに探索できなかった異界だが、お前ならできるだろう」

「じゃあ、ザヒは、本当は、はじめから……」

 少なくとも、バララセで会った時には、ザヒはイーアを試し鍛えるために召喚バトルをふっかけていただけ……あるいは、ただ召喚バトルを楽しみたかっただけなのかもしれない。
 ザヒは言った。

「機動的な攻撃力でいえば召喚士以上の魔導士はいない。ガリの足かせであるギアラド人どもが消え、お前が一人前になりさえすれば、お前達二人だけで帝国なんぞ滅ぼせる。栄華におごる帝国の命運は、はなから危うい。だからこそ、ウラジナルは必死になって支配者の石板を完成させようとしているのだ」

 ギアラド人がガリの足かせ、とザヒが言うのを聞いた瞬間、イーアは背筋を走る怖気とともに理解した。

「まさか、ザヒの計画は、ガリを帝国と戦わせるために、ギアラド人の虐殺を起こして自分も死ぬこと……?」

 ザヒは平然と言った。

「どれも取るに足らないクズのような命だ。帝国滅亡への贄にふさわしい」

「そんなの間違ってる!」

「どうかな。集まった奴らはどうせ帝国を滅亡させるためなら喜んで死ぬぞ。この世への絶望と帝国への怨嗟えんさで満ちた者どもだ。俺の死に値する邪悪さはお前も知っているだろう。さて、グローヌの時間凍結はじきに切れる。そうなれば数分で俺もお前もアポロウに殺される。その前にアポロウを殺さねば。そして、アポロウを殺せば帝国軍に連絡がいき、ギアラドの囚人兵どもと俺につけられた首輪はすべて爆破される」

 ザヒはアポロウを閉じ込める檻の傍に歩み寄り、剣を抜いた。
 イーアは無駄だと知りながら叫んだ。

「待って! わたしが帝国軍基地を破壊して、囚人兵の首輪の起爆システムを破壊するから!」

 ザヒは手に持つ剣を見ながら冷たく言った。

「そんな時間はない。今のお前には無理だ。お前は全員死ぬのを見物していればいい。お前も人間だというならな。人間というのは同族の死を楽しむ生物だ。処刑は見世物、戦争と虐殺は人間にとっての最高のエンターテインメントだ! 大量の死者を生み出しながらワイングラスかたむけ宵を楽しんでこそ、人間なのだ!」

「そんなことを思うのは、悪い人間だけだよ! みんながみんな、そんな人達じゃない!」

「いずれはお前も知るさ。人は皆そうやって生きているということを。さて、グローヌの檻の本当に優れたところは、檻の外からの攻撃には時間凍結がきかないことだ。この檻に敵をとらえてしまえば、どんな弱者でも強者を痛めつけることができる。不器用な召喚術には珍しい、まるで古代魔術のように嫌らしい召喚だ。そもそもグローヌは古代神にカウントされることもあるがな。禁忌召喚獣グローヌとの契約は<白光>の力なしではどうやっても不可能だった。我らが<白光>に感謝だ!」

 そう言って、ザヒは剣を檻の隙間から差し込みアポロウの体を貫いた。
 刺されたアポロウは身動きもしない。
 ザヒが言うように、檻の中の時間はとまっているのだ。外から差し込まれた剣をのぞいて。

「さらばだ。アポロウ。帝国を支える優秀な魔導師よ。恨みはないが、俺のような者に関わったのが運の尽きだったな」

 ザヒが檻の隙間から差しこんだ剣が何度もアポロウの体を貫いた。首を、心臓を。
 『時の巨神グローヌ』の檻が消え、アポロウの肉体は地面に落ちた。
 アポロウの体に開いたいくつもの傷口から血が噴き出した。

 ザヒは召喚に使った大羽を投げた。召喚前には赤黒かった羽はザヒが投げた時には白くなっていた。
 アポロウの体から流れ出る血が大羽に吸いこまれていき、やがて、アポロウの肉体は砂となって消えた。
 残ったのは、銀仮面と白装束、そして再び赤く染まった大羽だけだった。

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