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第4部 帝国の終焉 ~滅亡をもたらすダークエルフ~
第161話 囚人兵解放
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アポロウが死んだ。
イーア達の周囲を覆っていた結界が消えた。
そのころにはティトはイーアの傍に戻っていた。
ワイヒルトはザヒの傍にいる。
それから数十秒、そして数分たった。何も起こらなかった。
何もない荒れ地には、ただ静寂だけが漂っていた。ザヒの死を待つ、奇妙な静寂。
だけど、ザヒの首につけられた囚人兵の首輪はまだ爆破されていない。
(アポロウが死んじゃったのに、何も起こらない……?)
突然、イーアのカバンの中でケイニスから渡されていた通信用の魔道具が鳴り響いた。
イーアが通信機を手にとると、ケイニスの声が聞こえた。
「イーア、その周辺で大量のゴーレム兵が出現したと報告があった。集まったギアラド人を制圧するつもりだろう」
「わかった。みんなを避難させる」
アポロウの死が伝わり、<白光>と帝国が動きだしたのだろう。
だけど、ザヒはまだ立っている。
ケイニスの報告は続いていた。
「それと、この目で見ても信じられないんだが、俺達が攻撃予定だった帝国軍の基地が壊滅した」
「あの基地が?」
・・・
帝都から遠く離れた荒れ地、共和国との戦場に近い位置に、革命軍が「物見やぐら」とコードネームをつけた、その帝国軍基地はあった。
基地内の高い塔には周辺の戦場全体をカバーする最新鋭の魔導技術を駆使した通信設備があり、その中に、囚人兵の首輪を管理する装置もあった。
もしも囚人兵部隊が監督部隊を襲ったら、あるいは、監督部隊が消滅すれば、この基地から囚人兵部隊の首輪を爆破する信号を送れるようになっていた。
囚人兵には帝国への反逆者が多く、革命主義者の若者も多かった。
そのため、囚人兵の解放はずっと革命軍の大きな目標だった。
だが、この軍事基地を落とすのはほとんど不可能に近かった。
ケイニスは革命勢力の精鋭を集めたが、まったく力不足だということを認識していた。
だが、一刻も早く成し遂げなげれば、囚人兵は次々に戦場で、あるいは監督部隊に殺され、死んでいく。
だから、ケイニスはイーアに頼んだのだ。
イーアと別れた後、ケイニスは基地近くの廃村に身を隠し「物見やぐら」の監視を続けていた。
突然、日暮れではないのに、あたりが急速に暗くなっていった。
暗く厚い雲が空を覆っていく。
雷雲だ。
望遠鏡で基地の監視をしていた仲間が、ケイニスを呼んだ。
「見てくれ」
帝国軍基地の塔の上に、何かが乗っていた。
「なんだ、あれは?」
「あれは……」
辺りが暗くなっているせいで、はっきりと見えなかったが、なにか巨大な黒い生物のように見えた。
だが、基地の上にそんなものが存在するはずはない。
ケイニスが不思議に思った瞬間、激しい光と轟音《ごうおん》が轟《とどろ》いた。
雷が基地に落ちた。何度も、何度も。
耳をつんざく轟音と強い光に本能的な恐怖を掻き立てられながら、ケイニスは、冷静たれと自分に言い聞かせながら観察を続けた。
そして、雷の光に照らしだされたものの姿をケイニスは見た。
(あれは、ドラゴン……?)
基地の塔の上にいたのは、ドラゴンだった。
轟く雷音で破壊の音はかき消されていたが、ドラゴンが爪をたて、基地の塔の上部に穴をあけていた。
今のアグラシアで、ドラゴンはもっぱら物語と図鑑の中の存在だった。
ドラゴンは異界に近い最果ての地にいるものであり、高山ならともかく、こんな場所に出没する存在ではない。
当然、ケイニスはその目でドラゴンを見たことはなかった。
荘厳さをたたえ畏怖の感情を引き起こすドラゴンの姿に、ケイニスは思わず見入った。
「ケイニス! 通信が入っているぞ」
仲間の声で、ケイニスは望遠鏡から目を離した。
基地内部に潜りこませていたスパイから、ケイニスのもとに連絡が入った。
ケイニスは魔工技師の仲間とともに魔法技術を使った独自の通信機器を作り、各地の仲間に渡していた。だが、潜入作戦中の仲間は緊急時以外は通信機を使用しないはずだった。
「おい、何をやったんだ? 俺はどうすればいい? 指示をくれ」
兵士として潜り込んでいる仲間は、混乱していた。普段は冷静沈着な頭の回転の速い男だったのにも関わらず、通信機を通して聞こえる声は怯え混乱しきっていた。
ケイニスは驚きながら冷静を装いたずねた。
「落ち着け。俺達の作戦じゃない。基地内はどうなってる?」
「何かが嵐のすきに侵入したみたいだ。兵士がたくさん倒れている。何が起こっているのか、わけがわからない。何が起こっているんだ? うわぁ! ああ。怖い、やたら怖いんだ」
「落ち着け。精神錯乱系の魔法をかけられていないか?」
疑問形でたずねたが、ケイニスは間違いないと確信していた。
「わからない。何もわからないんだ。体が重たい。動けない。まともに考えられない。助けてくれ。俺はどうすればいい?」
「俺達も突入を検討する。大丈夫だ。心を落ち着け身を守る行動をとってくれ」
ケイニスは通信を切り、仲間に指示を出した。
「突入準備。ジャルバンに連絡してくれ。事態が急変した。これから「物見やぐら」に突入する。至急、監督部隊への対応を準備してくれ、と」
基地の塔の上では、巨大なドラゴンが屋根に開いた穴から中を覗き込むようにしていた。
誰かの指示を待つようにタワーの上でたたずんでいたドラゴンは、やがて頭をあげた。
降り注ぐどしゃ降りの雨が空中で大きな塊となり、空を流れる急流の川のようにドラゴンがあけた穴から塔の中へと流れこんでいった。
その川の流れに鋭い爪の光る手を入れ、ドラゴンは笑うように口角を上げ、水流に雷撃を加えた。
ケイニス達の突入準備ができた頃。通信機が鳴り、ジャルバンから連絡が入った。ジャルバンは各地の囚人兵部隊とその監督部隊への対応を担当している。
「兄弟、さっきから囚人兵部隊が解放された、監督部隊が潰された、という連絡が次々に入ってくる。何が起こっているかわからないが、これはチャンスだ。今、「物見やぐら」を落とせば、みんなを解放できる。突入してくれ」
「了解。先刻ドラゴンが「物見やぐら」を襲撃した。好機だ。攻撃をしかける」
ケイニス達が出発した時、すでに雷の音はなりをひそめ暗雲は去っていた。
空は再び明るく晴れはじめている。
すでに、ドラゴンの姿はどこにもなかった。
すべて幻だったように。
ケイニスは革命軍の精鋭とともに基地へ乗りこんだ。
だが、ケイニス達を迎撃する敵兵はほぼ存在しなかった。
基地内の人間も魔導装置もすでに壊滅していた。
ケイニス達の仕事は、すでに破壊されている装置を、念のために解体し持ち去ることだけだった。
ケイニス達は囚人兵解放の過程で多くの犠牲が出ることを覚悟していた。
だが、この日、囚人兵解放作戦は、ほとんど犠牲をだすことなく成し遂げられた。
ケイニス達は正体を知らない何者か、誰も確かに姿を見ることはできなかった何者かの力によって。
・・・
イーア達の周囲を覆っていた結界が消えた。
そのころにはティトはイーアの傍に戻っていた。
ワイヒルトはザヒの傍にいる。
それから数十秒、そして数分たった。何も起こらなかった。
何もない荒れ地には、ただ静寂だけが漂っていた。ザヒの死を待つ、奇妙な静寂。
だけど、ザヒの首につけられた囚人兵の首輪はまだ爆破されていない。
(アポロウが死んじゃったのに、何も起こらない……?)
突然、イーアのカバンの中でケイニスから渡されていた通信用の魔道具が鳴り響いた。
イーアが通信機を手にとると、ケイニスの声が聞こえた。
「イーア、その周辺で大量のゴーレム兵が出現したと報告があった。集まったギアラド人を制圧するつもりだろう」
「わかった。みんなを避難させる」
アポロウの死が伝わり、<白光>と帝国が動きだしたのだろう。
だけど、ザヒはまだ立っている。
ケイニスの報告は続いていた。
「それと、この目で見ても信じられないんだが、俺達が攻撃予定だった帝国軍の基地が壊滅した」
「あの基地が?」
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帝都から遠く離れた荒れ地、共和国との戦場に近い位置に、革命軍が「物見やぐら」とコードネームをつけた、その帝国軍基地はあった。
基地内の高い塔には周辺の戦場全体をカバーする最新鋭の魔導技術を駆使した通信設備があり、その中に、囚人兵の首輪を管理する装置もあった。
もしも囚人兵部隊が監督部隊を襲ったら、あるいは、監督部隊が消滅すれば、この基地から囚人兵部隊の首輪を爆破する信号を送れるようになっていた。
囚人兵には帝国への反逆者が多く、革命主義者の若者も多かった。
そのため、囚人兵の解放はずっと革命軍の大きな目標だった。
だが、この軍事基地を落とすのはほとんど不可能に近かった。
ケイニスは革命勢力の精鋭を集めたが、まったく力不足だということを認識していた。
だが、一刻も早く成し遂げなげれば、囚人兵は次々に戦場で、あるいは監督部隊に殺され、死んでいく。
だから、ケイニスはイーアに頼んだのだ。
イーアと別れた後、ケイニスは基地近くの廃村に身を隠し「物見やぐら」の監視を続けていた。
突然、日暮れではないのに、あたりが急速に暗くなっていった。
暗く厚い雲が空を覆っていく。
雷雲だ。
望遠鏡で基地の監視をしていた仲間が、ケイニスを呼んだ。
「見てくれ」
帝国軍基地の塔の上に、何かが乗っていた。
「なんだ、あれは?」
「あれは……」
辺りが暗くなっているせいで、はっきりと見えなかったが、なにか巨大な黒い生物のように見えた。
だが、基地の上にそんなものが存在するはずはない。
ケイニスが不思議に思った瞬間、激しい光と轟音《ごうおん》が轟《とどろ》いた。
雷が基地に落ちた。何度も、何度も。
耳をつんざく轟音と強い光に本能的な恐怖を掻き立てられながら、ケイニスは、冷静たれと自分に言い聞かせながら観察を続けた。
そして、雷の光に照らしだされたものの姿をケイニスは見た。
(あれは、ドラゴン……?)
基地の塔の上にいたのは、ドラゴンだった。
轟く雷音で破壊の音はかき消されていたが、ドラゴンが爪をたて、基地の塔の上部に穴をあけていた。
今のアグラシアで、ドラゴンはもっぱら物語と図鑑の中の存在だった。
ドラゴンは異界に近い最果ての地にいるものであり、高山ならともかく、こんな場所に出没する存在ではない。
当然、ケイニスはその目でドラゴンを見たことはなかった。
荘厳さをたたえ畏怖の感情を引き起こすドラゴンの姿に、ケイニスは思わず見入った。
「ケイニス! 通信が入っているぞ」
仲間の声で、ケイニスは望遠鏡から目を離した。
基地内部に潜りこませていたスパイから、ケイニスのもとに連絡が入った。
ケイニスは魔工技師の仲間とともに魔法技術を使った独自の通信機器を作り、各地の仲間に渡していた。だが、潜入作戦中の仲間は緊急時以外は通信機を使用しないはずだった。
「おい、何をやったんだ? 俺はどうすればいい? 指示をくれ」
兵士として潜り込んでいる仲間は、混乱していた。普段は冷静沈着な頭の回転の速い男だったのにも関わらず、通信機を通して聞こえる声は怯え混乱しきっていた。
ケイニスは驚きながら冷静を装いたずねた。
「落ち着け。俺達の作戦じゃない。基地内はどうなってる?」
「何かが嵐のすきに侵入したみたいだ。兵士がたくさん倒れている。何が起こっているのか、わけがわからない。何が起こっているんだ? うわぁ! ああ。怖い、やたら怖いんだ」
「落ち着け。精神錯乱系の魔法をかけられていないか?」
疑問形でたずねたが、ケイニスは間違いないと確信していた。
「わからない。何もわからないんだ。体が重たい。動けない。まともに考えられない。助けてくれ。俺はどうすればいい?」
「俺達も突入を検討する。大丈夫だ。心を落ち着け身を守る行動をとってくれ」
ケイニスは通信を切り、仲間に指示を出した。
「突入準備。ジャルバンに連絡してくれ。事態が急変した。これから「物見やぐら」に突入する。至急、監督部隊への対応を準備してくれ、と」
基地の塔の上では、巨大なドラゴンが屋根に開いた穴から中を覗き込むようにしていた。
誰かの指示を待つようにタワーの上でたたずんでいたドラゴンは、やがて頭をあげた。
降り注ぐどしゃ降りの雨が空中で大きな塊となり、空を流れる急流の川のようにドラゴンがあけた穴から塔の中へと流れこんでいった。
その川の流れに鋭い爪の光る手を入れ、ドラゴンは笑うように口角を上げ、水流に雷撃を加えた。
ケイニス達の突入準備ができた頃。通信機が鳴り、ジャルバンから連絡が入った。ジャルバンは各地の囚人兵部隊とその監督部隊への対応を担当している。
「兄弟、さっきから囚人兵部隊が解放された、監督部隊が潰された、という連絡が次々に入ってくる。何が起こっているかわからないが、これはチャンスだ。今、「物見やぐら」を落とせば、みんなを解放できる。突入してくれ」
「了解。先刻ドラゴンが「物見やぐら」を襲撃した。好機だ。攻撃をしかける」
ケイニス達が出発した時、すでに雷の音はなりをひそめ暗雲は去っていた。
空は再び明るく晴れはじめている。
すでに、ドラゴンの姿はどこにもなかった。
すべて幻だったように。
ケイニスは革命軍の精鋭とともに基地へ乗りこんだ。
だが、ケイニス達を迎撃する敵兵はほぼ存在しなかった。
基地内の人間も魔導装置もすでに壊滅していた。
ケイニス達の仕事は、すでに破壊されている装置を、念のために解体し持ち去ることだけだった。
ケイニス達は囚人兵解放の過程で多くの犠牲が出ることを覚悟していた。
だが、この日、囚人兵解放作戦は、ほとんど犠牲をだすことなく成し遂げられた。
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