もふもふ精霊に愛された召喚士、実はエルフだった!? ~精霊の森の生き残りはやがて英雄となる~

しゃぼてん

文字の大きさ
161 / 207
第4部 帝国の終焉 ~滅亡をもたらすダークエルフ~

第161話 囚人兵解放

しおりを挟む
 アポロウが死んだ。
 イーア達の周囲を覆っていた結界が消えた。
 そのころにはティトはイーアの傍に戻っていた。
 ワイヒルトはザヒの傍にいる。

 それから数十秒、そして数分たった。何も起こらなかった。
 何もない荒れ地には、ただ静寂だけが漂っていた。ザヒの死を待つ、奇妙な静寂。
 だけど、ザヒの首につけられた囚人兵の首輪はまだ爆破されていない。

(アポロウが死んじゃったのに、何も起こらない……?)

 突然、イーアのカバンの中でケイニスから渡されていた通信用の魔道具が鳴り響いた。
 イーアが通信機を手にとると、ケイニスの声が聞こえた。

「イーア、その周辺で大量のゴーレム兵が出現したと報告があった。集まったギアラド人を制圧するつもりだろう」

「わかった。みんなを避難させる」

 アポロウの死が伝わり、<白光>と帝国が動きだしたのだろう。
 だけど、ザヒはまだ立っている。
 ケイニスの報告は続いていた。

「それと、この目で見ても信じられないんだが、俺達が攻撃予定だった帝国軍の基地が壊滅した」

「あの基地が?」

 ・・・ 

 帝都から遠く離れた荒れ地、共和国との戦場に近い位置に、革命軍が「物見やぐら」とコードネームをつけた、その帝国軍基地はあった。
 基地内の高い塔には周辺の戦場全体をカバーする最新鋭の魔導技術を駆使した通信設備があり、その中に、囚人兵の首輪を管理する装置もあった。
 もしも囚人兵部隊が監督部隊を襲ったら、あるいは、監督部隊が消滅すれば、この基地から囚人兵部隊の首輪を爆破する信号を送れるようになっていた。

 囚人兵には帝国への反逆者が多く、革命主義者の若者も多かった。
 そのため、囚人兵の解放はずっと革命軍の大きな目標だった。
 だが、この軍事基地を落とすのはほとんど不可能に近かった。

 ケイニスは革命勢力の精鋭を集めたが、まったく力不足だということを認識していた。
 だが、一刻も早く成し遂げなげれば、囚人兵は次々に戦場で、あるいは監督部隊に殺され、死んでいく。
 だから、ケイニスはイーアに頼んだのだ。

 イーアと別れた後、ケイニスは基地近くの廃村に身を隠し「物見やぐら」の監視を続けていた。
 突然、日暮れではないのに、あたりが急速に暗くなっていった。
 暗く厚い雲が空を覆っていく。
 雷雲だ。

 望遠鏡で基地の監視をしていた仲間が、ケイニスを呼んだ。

「見てくれ」

 帝国軍基地の塔の上に、何かが乗っていた。

「なんだ、あれは?」

「あれは……」

 辺りが暗くなっているせいで、はっきりと見えなかったが、なにか巨大な黒い生物のように見えた。
 だが、基地の上にそんなものが存在するはずはない。

 ケイニスが不思議に思った瞬間、激しい光と轟音《ごうおん》が轟《とどろ》いた。
 雷が基地に落ちた。何度も、何度も。
 耳をつんざく轟音と強い光に本能的な恐怖を掻き立てられながら、ケイニスは、冷静たれと自分に言い聞かせながら観察を続けた。
 そして、雷の光に照らしだされたものの姿をケイニスは見た。

(あれは、ドラゴン……?)

 基地の塔の上にいたのは、ドラゴンだった。
 轟く雷音で破壊の音はかき消されていたが、ドラゴンが爪をたて、基地の塔の上部に穴をあけていた。

 今のアグラシアで、ドラゴンはもっぱら物語と図鑑の中の存在だった。
 ドラゴンは異界に近い最果ての地にいるものであり、高山ならともかく、こんな場所に出没する存在ではない。
 当然、ケイニスはその目でドラゴンを見たことはなかった。
 荘厳さをたたえ畏怖の感情を引き起こすドラゴンの姿に、ケイニスは思わず見入った。

「ケイニス! 通信が入っているぞ」

 仲間の声で、ケイニスは望遠鏡から目を離した。
 基地内部に潜りこませていたスパイから、ケイニスのもとに連絡が入った。
 ケイニスは魔工技師の仲間とともに魔法技術を使った独自の通信機器を作り、各地の仲間に渡していた。だが、潜入作戦中の仲間は緊急時以外は通信機を使用しないはずだった。

「おい、何をやったんだ? 俺はどうすればいい? 指示をくれ」

 兵士として潜り込んでいる仲間は、混乱していた。普段は冷静沈着な頭の回転の速い男だったのにも関わらず、通信機を通して聞こえる声は怯え混乱しきっていた。
 ケイニスは驚きながら冷静を装いたずねた。

「落ち着け。俺達の作戦じゃない。基地内はどうなってる?」

「何かが嵐のすきに侵入したみたいだ。兵士がたくさん倒れている。何が起こっているのか、わけがわからない。何が起こっているんだ? うわぁ! ああ。怖い、やたら怖いんだ」

「落ち着け。精神錯乱系の魔法をかけられていないか?」

 疑問形でたずねたが、ケイニスは間違いないと確信していた。

「わからない。何もわからないんだ。体が重たい。動けない。まともに考えられない。助けてくれ。俺はどうすればいい?」

「俺達も突入を検討する。大丈夫だ。心を落ち着け身を守る行動をとってくれ」

 ケイニスは通信を切り、仲間に指示を出した。

「突入準備。ジャルバンに連絡してくれ。事態が急変した。これから「物見やぐら」に突入する。至急、監督部隊への対応を準備してくれ、と」


 基地の塔の上では、巨大なドラゴンが屋根に開いた穴から中を覗き込むようにしていた。
 誰かの指示を待つようにタワーの上でたたずんでいたドラゴンは、やがて頭をあげた。

 降り注ぐどしゃ降りの雨が空中で大きな塊となり、空を流れる急流の川のようにドラゴンがあけた穴から塔の中へと流れこんでいった。
 その川の流れに鋭い爪の光る手を入れ、ドラゴンは笑うように口角を上げ、水流に雷撃を加えた。


 ケイニス達の突入準備ができた頃。通信機が鳴り、ジャルバンから連絡が入った。ジャルバンは各地の囚人兵部隊とその監督部隊への対応を担当している。

「兄弟、さっきから囚人兵部隊が解放された、監督部隊が潰された、という連絡が次々に入ってくる。何が起こっているかわからないが、これはチャンスだ。今、「物見やぐら」を落とせば、みんなを解放できる。突入してくれ」

「了解。先刻ドラゴンが「物見やぐら」を襲撃した。好機だ。攻撃をしかける」


 ケイニス達が出発した時、すでに雷の音はなりをひそめ暗雲は去っていた。
 空は再び明るく晴れはじめている。
 すでに、ドラゴンの姿はどこにもなかった。
 すべて幻だったように。

 ケイニスは革命軍の精鋭とともに基地へ乗りこんだ。
 だが、ケイニス達を迎撃する敵兵はほぼ存在しなかった。
 基地内の人間も魔導装置もすでに壊滅していた。
 ケイニス達の仕事は、すでに破壊されている装置を、念のために解体し持ち去ることだけだった。

 ケイニス達は囚人兵解放の過程で多くの犠牲が出ることを覚悟していた。
 だが、この日、囚人兵解放作戦は、ほとんど犠牲をだすことなく成し遂げられた。
 ケイニス達は正体を知らない何者か、誰も確かに姿を見ることはできなかった何者かの力によって。

 ・・・ 


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。  どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!  スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!  天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

【完結】不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。 日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。 フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ! フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。 美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。 しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。 最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...