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第4部 帝国の終焉 ~滅亡をもたらすダークエルフ~
第170話 キャシーの今
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(どうしてこんなことになっちゃったの? みんな、ただ自由に生きたいだけなのに)
若い女性たちが制服を着た屈強な男達に抑え込まれ引きずられ、それでも叫びながら必死に抵抗している。その光景を前に、キャシーはそう思わずにいられなかった。
始まりは数か月前。
キャシーは王立魔法薬学研究所で見習い研究員として働き始めた。
キャシーはまだ正式にはグランドール魔術学校を卒業していなかったが、すでにとらないといけない科目の多くを修了していた。
卒業後に正式な研究員になれるかはわからないが、もしなれれば魔法薬学の道を志す者にとっては超エリートコースを歩むことになる。
それに、もちろん、正式に研究員になれば、キャシーはもう親に頼らず生きていける。
親に人生を支配されないということは、夢見た職業に就くのと同じくらい、キャシーには重要なことだった。
卒業後、家に帰れば、親はすぐに婚約の話を持ってくるだろう。
そして結婚させられてしまえば、キャシーは一流の魔導士になることも魔法薬学をさらに学ぶこともできず、ただ家の中のことをするだけの貞淑な妻となる。
そんな人生は絶対に嫌だった。
王立魔法薬学研究所の研究員たちはみんな親切で、キャシーは毎日楽しく仕事をしながら学んでいた。
その研究所で、キャシーはある日、所長の娘ミリーと出会った。
ミリーはキャシーを気にいって、すぐにふたりは仲良くなった。
「私はあなたのことを尊敬するわ。女だって男に負けずに働かないと」
いつもそう言っていたミリーは、じきにキャシーをある集会に誘った。
その集会には女性ばかりが集まっていた。
良家の子女が多いが、良家の女性たちがいつも話しているような社交界の話はそこでは一切出てこなかった。
彼女たちは代わりに、女性の地位向上と参政権について熱く議論していた。
「どうして女だからって選挙権が与えられないのでしょう」
「我々には爵位や家を相続する権利もありません。長男と同じ権利が長女に与えられてもよいではありませんか」
「父親に進学先も結婚相手も決められる人生なんて、おかしいではありませんか。私は私の人生を自ら決めたいのです」
そこで議論されることの一つ一つに、女性たちの主張の一つ一つにキャシーは同意した。
今までキャシーはずっと同じことを思っていた。だけど、誰もそんな話、聞いてくれなかった。
キャシーが同じようなことを家で言えば、父親に即座に否定され激しく馬鹿にされただろう。
他の女子に話しても、たいてい興味はなさそうで、一応賛成はするけれど、すぐに憧れの男性の話を始めたり、流行の小物や新しくできたお店の話を始めたりしていた。
だけど、この集まりに参加して、キャシーは同じ思いを持つ女性たちがこんなにいるのだということを初めて知った。
こうしてキャシーはアグラシア婦人解放協会の活動に参加するようになった。
婦人解放協会のメンバーの多くは、貴族や富裕層の令嬢や貴婦人だった。
婦人解放協会の活動には、集会での議論や講演会のほかに、女性参政権を求めた街頭での演説会やチラシ配り等もあった。
街頭演説やデモ活動は、帝国では違法行為だ。
だが、革命主義者がテロリストとして苛烈に弾圧された一方、婦人解放運動は良家の女性たちの活動だったために扱いが全く違った。
男性警察官たちは周囲を囲み、手は出さずに監視するだけ。
そういう対応が長年続いていたらしい。
ところが、状況が徐々に変わっていった。
キャシーが加わった頃には、治安当局は、婦人解放運動を含めすべての政治活動を厳しく取り締まるようになっていた。
演説していた婦人解放運動の活動家が逮捕されることも増えた。
逮捕されても、貴族の娘や妻だったりするので、すぐに釈放はされる。だけど、家で監禁状態に置かれるメンバーも出てきた。
しかし、厳しい状態に置かれても、婦人解放運動が下火になるわけではなかった。
家族の反対で活動から遠のく人がいた一方、活動自体はむしろ弾圧されればされるほど過激化していった。
ミリーは「弾圧に負けずに闘いましょう!」とますます闘志を燃やしていた。
キャシーは危険を知ってからは迷いながら活動を続けていた。
貴族のような良い家柄の出身ではないキャシーは、逮捕されれば確実に将来がなくなる。
だから、本音ではもう活動から離れたかった。
だけど、ミリーや他の仲間たちから裏切り者とは思われたくない。
それに、たまに父親の顔が浮かぶのだ。
家族には婦人解放運動のことは何も言っていない。言えば絶対に反対するから。
そして、その反対するであろう親のことを思い出すと、キャシーの闘志に火が付いた。
父親に自分の人生を支配されたくない。
自由に自分の人生を選び、生きたい。
そのための権利を。
すべての女性にそのための権利を勝ち取るための闘い。
その闘いから逃げるなんて、絶対に嫌。
そう思って、キャシーは活動を続けていた。
やがてミリーが逮捕された。
ミリーと他の仲間たちは、今回はすぐには釈放されなかった。
ミリー達は監獄でハンガーストライキを始めた。命をかけて訴えるために。
仲間が命がけで闘い苦しみの中にいるのに、何もしないでいられるわけがない。
婦人解放協会は、ミリー達の釈放を求めて抗議活動を行うことを決定した。
キャシーにとって、参加しないという選択肢はなかった。
抗議集会は帝都の繁華街の一等地で行われた。
女性たちがビラを配り、不当逮捕を叫び、女性の権利を叫ぶ。
それだけの活動だ。今までも何度も行ってきた。
だが、今回は、警官隊が襲ってきた。
婦人解放運動家の令嬢たちが屈強な警官達に腕力でかなうわけがない。女性達は次々に組み伏せられていく。
次々に仲間の女性達が逮捕されていく中、キャシーは必死に逃げようとした。
だが、もみくちゃにされながら逃げようとした時、キャシーは腕を捕まれた。
振りほどこうとしたところで、声が聞こえた。
「こっちだ。来い」
自分の腕をつかんでいる警官の制服を着た男の顔を見て、キャシーは息をのんだ。
腕をつかまれ連れていかれた先は、薄暗い路地だった。
路地に入ると警官は帽子を投げ捨て、キャシーと向かいあった。
「よう! 元気そうだな。街中で警官相手にガチのケンカかよ。おまえのこと見直したぜ!」
「なんで、あんたがここにいるの? オッペン!」
「なんでって、そりゃ、ほっといたらおまえが逮捕されるじゃねーか。それに、イーアがおまえに会いたがってんだよ。ほら、早く行こうぜ。逮捕されちまう前に」
若い女性たちが制服を着た屈強な男達に抑え込まれ引きずられ、それでも叫びながら必死に抵抗している。その光景を前に、キャシーはそう思わずにいられなかった。
始まりは数か月前。
キャシーは王立魔法薬学研究所で見習い研究員として働き始めた。
キャシーはまだ正式にはグランドール魔術学校を卒業していなかったが、すでにとらないといけない科目の多くを修了していた。
卒業後に正式な研究員になれるかはわからないが、もしなれれば魔法薬学の道を志す者にとっては超エリートコースを歩むことになる。
それに、もちろん、正式に研究員になれば、キャシーはもう親に頼らず生きていける。
親に人生を支配されないということは、夢見た職業に就くのと同じくらい、キャシーには重要なことだった。
卒業後、家に帰れば、親はすぐに婚約の話を持ってくるだろう。
そして結婚させられてしまえば、キャシーは一流の魔導士になることも魔法薬学をさらに学ぶこともできず、ただ家の中のことをするだけの貞淑な妻となる。
そんな人生は絶対に嫌だった。
王立魔法薬学研究所の研究員たちはみんな親切で、キャシーは毎日楽しく仕事をしながら学んでいた。
その研究所で、キャシーはある日、所長の娘ミリーと出会った。
ミリーはキャシーを気にいって、すぐにふたりは仲良くなった。
「私はあなたのことを尊敬するわ。女だって男に負けずに働かないと」
いつもそう言っていたミリーは、じきにキャシーをある集会に誘った。
その集会には女性ばかりが集まっていた。
良家の子女が多いが、良家の女性たちがいつも話しているような社交界の話はそこでは一切出てこなかった。
彼女たちは代わりに、女性の地位向上と参政権について熱く議論していた。
「どうして女だからって選挙権が与えられないのでしょう」
「我々には爵位や家を相続する権利もありません。長男と同じ権利が長女に与えられてもよいではありませんか」
「父親に進学先も結婚相手も決められる人生なんて、おかしいではありませんか。私は私の人生を自ら決めたいのです」
そこで議論されることの一つ一つに、女性たちの主張の一つ一つにキャシーは同意した。
今までキャシーはずっと同じことを思っていた。だけど、誰もそんな話、聞いてくれなかった。
キャシーが同じようなことを家で言えば、父親に即座に否定され激しく馬鹿にされただろう。
他の女子に話しても、たいてい興味はなさそうで、一応賛成はするけれど、すぐに憧れの男性の話を始めたり、流行の小物や新しくできたお店の話を始めたりしていた。
だけど、この集まりに参加して、キャシーは同じ思いを持つ女性たちがこんなにいるのだということを初めて知った。
こうしてキャシーはアグラシア婦人解放協会の活動に参加するようになった。
婦人解放協会のメンバーの多くは、貴族や富裕層の令嬢や貴婦人だった。
婦人解放協会の活動には、集会での議論や講演会のほかに、女性参政権を求めた街頭での演説会やチラシ配り等もあった。
街頭演説やデモ活動は、帝国では違法行為だ。
だが、革命主義者がテロリストとして苛烈に弾圧された一方、婦人解放運動は良家の女性たちの活動だったために扱いが全く違った。
男性警察官たちは周囲を囲み、手は出さずに監視するだけ。
そういう対応が長年続いていたらしい。
ところが、状況が徐々に変わっていった。
キャシーが加わった頃には、治安当局は、婦人解放運動を含めすべての政治活動を厳しく取り締まるようになっていた。
演説していた婦人解放運動の活動家が逮捕されることも増えた。
逮捕されても、貴族の娘や妻だったりするので、すぐに釈放はされる。だけど、家で監禁状態に置かれるメンバーも出てきた。
しかし、厳しい状態に置かれても、婦人解放運動が下火になるわけではなかった。
家族の反対で活動から遠のく人がいた一方、活動自体はむしろ弾圧されればされるほど過激化していった。
ミリーは「弾圧に負けずに闘いましょう!」とますます闘志を燃やしていた。
キャシーは危険を知ってからは迷いながら活動を続けていた。
貴族のような良い家柄の出身ではないキャシーは、逮捕されれば確実に将来がなくなる。
だから、本音ではもう活動から離れたかった。
だけど、ミリーや他の仲間たちから裏切り者とは思われたくない。
それに、たまに父親の顔が浮かぶのだ。
家族には婦人解放運動のことは何も言っていない。言えば絶対に反対するから。
そして、その反対するであろう親のことを思い出すと、キャシーの闘志に火が付いた。
父親に自分の人生を支配されたくない。
自由に自分の人生を選び、生きたい。
そのための権利を。
すべての女性にそのための権利を勝ち取るための闘い。
その闘いから逃げるなんて、絶対に嫌。
そう思って、キャシーは活動を続けていた。
やがてミリーが逮捕された。
ミリーと他の仲間たちは、今回はすぐには釈放されなかった。
ミリー達は監獄でハンガーストライキを始めた。命をかけて訴えるために。
仲間が命がけで闘い苦しみの中にいるのに、何もしないでいられるわけがない。
婦人解放協会は、ミリー達の釈放を求めて抗議活動を行うことを決定した。
キャシーにとって、参加しないという選択肢はなかった。
抗議集会は帝都の繁華街の一等地で行われた。
女性たちがビラを配り、不当逮捕を叫び、女性の権利を叫ぶ。
それだけの活動だ。今までも何度も行ってきた。
だが、今回は、警官隊が襲ってきた。
婦人解放運動家の令嬢たちが屈強な警官達に腕力でかなうわけがない。女性達は次々に組み伏せられていく。
次々に仲間の女性達が逮捕されていく中、キャシーは必死に逃げようとした。
だが、もみくちゃにされながら逃げようとした時、キャシーは腕を捕まれた。
振りほどこうとしたところで、声が聞こえた。
「こっちだ。来い」
自分の腕をつかんでいる警官の制服を着た男の顔を見て、キャシーは息をのんだ。
腕をつかまれ連れていかれた先は、薄暗い路地だった。
路地に入ると警官は帽子を投げ捨て、キャシーと向かいあった。
「よう! 元気そうだな。街中で警官相手にガチのケンカかよ。おまえのこと見直したぜ!」
「なんで、あんたがここにいるの? オッペン!」
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