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第4部 帝国の終焉 ~滅亡をもたらすダークエルフ~
第201話 オッペンの呼び出し
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時は少しさかのぼる。
オッペンとマーカスはイーアよりも一足早く、帝都に戻っていた。
二人は魔法薬学研究所にずかずかと入っていった。
研究所内には今は研究員はいなかった。
すでに反帝国同盟の帝都攻略作戦は始まっており、帝都は陥落寸前、研究所の所員は全員自宅待機になっていた。
今、研究所内にいるのは、娘が投獄されたままで心労で憔悴《しょうすい》しきった表情の所長と、数人の婦人達、そしてキャシーだった。
「監獄にいる仲間たちは、ミリーは、私が助けます」
そう主張するキャシーに、所長は力なく首を横にふった。
「無理だ。戦時の混乱の中では、女性が外を歩くというだけで危険だ。君たちまで犠牲になることはない」
帝都陥落の混乱の中では、投獄されている婦人解放運動の女性達に何が起こるかわからない。だから、キャシーは投獄されているメンバーを救出しようとしていた。
「ミリーを見捨てることなんてできません!」
「おうよ。仲間を見捨てるなんてありえねぇよな」
その声に、キャシーはおどろいてふりかえった。
「オッペン!?」
「うっす。ヒーローがやってきたぜ!」
完全に戦闘装備をととのえたオッペンと、一見ただの普通の少年に見えるマーカスが立っていた。
「ここで待ってろ。囚われのレディーたちは、おれらが救出……」
オッペンが最後まで言う前に、キャシーがぴしゃりと言った。
「私も行くに決まってるでしょ! 行きましょ!」
キャシーはずんずんと外に向かって歩き出した。
「お、おう……いそがねぇとな」
オッペンとマーカスはおとものようにキャシーの後に続いた。
キャシー、オッペン、マーカスの三人は帝都のはずれにある監獄に向かった。その監獄は政治犯を多く収容していた。
そのため、三人が着いた時には、帝都で蜂起した民衆によって監獄の重たい巨大な門はすでに開かれていた。
三人は婦人解放運動の女性たちが捕まっている牢へと急いだ。オッペンの占術のおかげで、目的の場所へ迷いなく進める。
「こういう時、占術士の能力って本当に便利ね」
キャシーがそう言うと、オッペンは得意げに胸をたたいた。
「だろ? 占術戦士は最強なんだぜ」
女性達が捕まっている棟の警備はまだいきていた。
警備兵や看守の目を逃れてひとまず隠れながら、「このマスクをつけて」と、キャシーはオッペンとマーカスにマスクを渡した。
「なにする気だ? 敵なら、おれとマーカスが倒すぜ?」
「あの人達に罪があるわけじゃないでしょ。あたしが穏便に眠り薬で処理するわ」
「俺はいらないはず……」とつぶやきながらマーカスもいちおうマスクをつけた。
マスクをつけたキャシーは、丸い爆弾のような噴霧式の眠り薬を看守たちの方に投げた。あたりに煙が立ちこみ、警備兵や看守たちは数秒後には倒れこみ寝息をたてはじめた。
眠りこける敵の間を走り抜けながら、オッペンがつぶやいた。
「薬学ってこういう風に使えんのか」
「当たり前でしょ。薬学は万能よ」
「なんやかんや言ってふたり似てるよな」と、マーカスがぶつぶつつぶやいていたが、幸い、オッペンもキャシーも聞いていなかった。
看守や警備兵をすみやかに制圧し、三人は女性達が閉じ込められている牢についた。
「ミリー!」
「キャシー?」
ミリーは痛々しいほどに弱りきり、粗末なベッドに伏していたが、キャシーを見ると体を起こした。
オッペンは看守から奪っておいた鍵を使って、女性たちを次々に牢から出した。
歩けないほどに衰弱しきっている女性が何人もいた。
キャシーは回復薬を飲ませたが、全員分はなかったため、歩けないままの人はマーカスが浮遊魔法をかけて背負って運んだ。
女性達を連れての避難は大変だったが、なんとか日が暮れる頃には全員を無事に魔法薬学研究所まで連れていくことができた。
研究所ではキャシーの仲間達だけではなく、連絡を受けて集まった家族達が待っていた。
解放された女性達が仲間や家族と抱き合っている光景を見て、キャシーはおもわず流れた涙を手でぬぐった。
「ありがとう。オッペン、マーカス」
「別にこれくらい。たいしたことじゃないさ」
そうマーカスが顔色の変わらない顔でちょっと照れたように答える横で、オッペンは妙な顔をしていた。
その時、オッペンにはアスカルの声が聞こえていたのだ。
「オッペン! 聞こえるかオッペン!」
「ししょー?」
その声はオッペンにしか聞こえていなかった。<念話>と呼ばれる、声を介さず相手の精神に直接話しかける占術系の魔法だ。
「オッペン! すぐに<星読みの塔>に戻ってくれ。塔が崩壊する」
「はぁ!? 塔が崩壊? あんでそんなことに?」
<星読みの塔>には、ちょっとやそっとの攻撃では壊れない、かなり強力な防衛結界が張られているはずだった。
「原因はどうでもいい。エレイを含め、複数の塔の占術士が予知した。今日の内にほぼ間違いなく起こる。エレイは今から1時間以内と予知している。すぐに塔に戻って、エレイの避難を手伝ってくれ。混乱に乗じてエレイを誘拐しようとする輩が寄ってくるかもしれない。エレイの護衛をたのむ。絶対にどの勢力にもエレイを渡すな!」
未来予知の力を持つ<星読み>は常に狙われている。しかも、アグラシアが内戦状態の今は、どの勢力も<星読み>エレイをほしがっている。
<星読みの塔>には、よそ者の侵入を防いだり攻撃を防ぐための仕組みが沢山あるため、塔の中にいる限りは安全だが、塔の外にでればエレイを守るものは何もない。
<星読みの塔>の占術士は占術に特化しているため、戦闘力を持つ者はほとんどいない。例外は、オッペンだけだった。
状況は理解したものの、オッペンは当惑した。
「すぐっつってもさ。おれ、今、帝都にいるんだぜ?」
すぐにアスカルのどなり声が返ってきた。
「塔に戻るための転移水晶を渡しておいただろうが!」
「転移水晶? えーっと……」
「お前のペンデュラムにつけてある。<塔へ転移>のフレーズで起動だ」
オッペンはいつも使っている占術用ペンデュラムを取り出した。たしかにペンデュラムの鎖の根本、持ち手の部分に小さな水晶がつけられている。
「お、これか。さっすが、ししょー。おれが忘れるって予知してたんだな」
「お前なら忘れそうだと思ってそこに付けたが、本当に忘れるとは……」
苦々しげにそう言った後、アスカルは真剣な声で言った。
「いいか。エレイは頼んだぞ。私はもう塔を離れる。お前達の塔との契約は私がすべて破棄した。これで、お前達は何でもできる、何でも言える。お前もエレイもこの先は自由に生きろ」
アスカルの言葉はそこで終わった。
「ししょー? ……切れちまった」
キャシーとマーカスがオッペンを見ていた。
オッペンは声にだしてしゃべっていたので、だいたいの事情は二人に伝わっていた。
オッペンはペンデュラムの転移水晶を手にとり言った。
「おれは<星読みの塔>に行かなきゃなんねぇ。じゃあな。レディーたちを助けられてよかったぜ」
キャシーはオッペンの手をつかんで言った。
「オッペン、絶対にまた帝都に戻ってきてね。今日のお礼をするから」
「おうよ。ヒーローは人助けで超忙しいけどな。そのうち寄るぜ」
マーカスが「すぐ戻れよ。バカだな、お前は」と言ったが、その言葉を終いまで聞かずに、オッペンは「じゃあな」と言って転移した。
オッペンとマーカスはイーアよりも一足早く、帝都に戻っていた。
二人は魔法薬学研究所にずかずかと入っていった。
研究所内には今は研究員はいなかった。
すでに反帝国同盟の帝都攻略作戦は始まっており、帝都は陥落寸前、研究所の所員は全員自宅待機になっていた。
今、研究所内にいるのは、娘が投獄されたままで心労で憔悴《しょうすい》しきった表情の所長と、数人の婦人達、そしてキャシーだった。
「監獄にいる仲間たちは、ミリーは、私が助けます」
そう主張するキャシーに、所長は力なく首を横にふった。
「無理だ。戦時の混乱の中では、女性が外を歩くというだけで危険だ。君たちまで犠牲になることはない」
帝都陥落の混乱の中では、投獄されている婦人解放運動の女性達に何が起こるかわからない。だから、キャシーは投獄されているメンバーを救出しようとしていた。
「ミリーを見捨てることなんてできません!」
「おうよ。仲間を見捨てるなんてありえねぇよな」
その声に、キャシーはおどろいてふりかえった。
「オッペン!?」
「うっす。ヒーローがやってきたぜ!」
完全に戦闘装備をととのえたオッペンと、一見ただの普通の少年に見えるマーカスが立っていた。
「ここで待ってろ。囚われのレディーたちは、おれらが救出……」
オッペンが最後まで言う前に、キャシーがぴしゃりと言った。
「私も行くに決まってるでしょ! 行きましょ!」
キャシーはずんずんと外に向かって歩き出した。
「お、おう……いそがねぇとな」
オッペンとマーカスはおとものようにキャシーの後に続いた。
キャシー、オッペン、マーカスの三人は帝都のはずれにある監獄に向かった。その監獄は政治犯を多く収容していた。
そのため、三人が着いた時には、帝都で蜂起した民衆によって監獄の重たい巨大な門はすでに開かれていた。
三人は婦人解放運動の女性たちが捕まっている牢へと急いだ。オッペンの占術のおかげで、目的の場所へ迷いなく進める。
「こういう時、占術士の能力って本当に便利ね」
キャシーがそう言うと、オッペンは得意げに胸をたたいた。
「だろ? 占術戦士は最強なんだぜ」
女性達が捕まっている棟の警備はまだいきていた。
警備兵や看守の目を逃れてひとまず隠れながら、「このマスクをつけて」と、キャシーはオッペンとマーカスにマスクを渡した。
「なにする気だ? 敵なら、おれとマーカスが倒すぜ?」
「あの人達に罪があるわけじゃないでしょ。あたしが穏便に眠り薬で処理するわ」
「俺はいらないはず……」とつぶやきながらマーカスもいちおうマスクをつけた。
マスクをつけたキャシーは、丸い爆弾のような噴霧式の眠り薬を看守たちの方に投げた。あたりに煙が立ちこみ、警備兵や看守たちは数秒後には倒れこみ寝息をたてはじめた。
眠りこける敵の間を走り抜けながら、オッペンがつぶやいた。
「薬学ってこういう風に使えんのか」
「当たり前でしょ。薬学は万能よ」
「なんやかんや言ってふたり似てるよな」と、マーカスがぶつぶつつぶやいていたが、幸い、オッペンもキャシーも聞いていなかった。
看守や警備兵をすみやかに制圧し、三人は女性達が閉じ込められている牢についた。
「ミリー!」
「キャシー?」
ミリーは痛々しいほどに弱りきり、粗末なベッドに伏していたが、キャシーを見ると体を起こした。
オッペンは看守から奪っておいた鍵を使って、女性たちを次々に牢から出した。
歩けないほどに衰弱しきっている女性が何人もいた。
キャシーは回復薬を飲ませたが、全員分はなかったため、歩けないままの人はマーカスが浮遊魔法をかけて背負って運んだ。
女性達を連れての避難は大変だったが、なんとか日が暮れる頃には全員を無事に魔法薬学研究所まで連れていくことができた。
研究所ではキャシーの仲間達だけではなく、連絡を受けて集まった家族達が待っていた。
解放された女性達が仲間や家族と抱き合っている光景を見て、キャシーはおもわず流れた涙を手でぬぐった。
「ありがとう。オッペン、マーカス」
「別にこれくらい。たいしたことじゃないさ」
そうマーカスが顔色の変わらない顔でちょっと照れたように答える横で、オッペンは妙な顔をしていた。
その時、オッペンにはアスカルの声が聞こえていたのだ。
「オッペン! 聞こえるかオッペン!」
「ししょー?」
その声はオッペンにしか聞こえていなかった。<念話>と呼ばれる、声を介さず相手の精神に直接話しかける占術系の魔法だ。
「オッペン! すぐに<星読みの塔>に戻ってくれ。塔が崩壊する」
「はぁ!? 塔が崩壊? あんでそんなことに?」
<星読みの塔>には、ちょっとやそっとの攻撃では壊れない、かなり強力な防衛結界が張られているはずだった。
「原因はどうでもいい。エレイを含め、複数の塔の占術士が予知した。今日の内にほぼ間違いなく起こる。エレイは今から1時間以内と予知している。すぐに塔に戻って、エレイの避難を手伝ってくれ。混乱に乗じてエレイを誘拐しようとする輩が寄ってくるかもしれない。エレイの護衛をたのむ。絶対にどの勢力にもエレイを渡すな!」
未来予知の力を持つ<星読み>は常に狙われている。しかも、アグラシアが内戦状態の今は、どの勢力も<星読み>エレイをほしがっている。
<星読みの塔>には、よそ者の侵入を防いだり攻撃を防ぐための仕組みが沢山あるため、塔の中にいる限りは安全だが、塔の外にでればエレイを守るものは何もない。
<星読みの塔>の占術士は占術に特化しているため、戦闘力を持つ者はほとんどいない。例外は、オッペンだけだった。
状況は理解したものの、オッペンは当惑した。
「すぐっつってもさ。おれ、今、帝都にいるんだぜ?」
すぐにアスカルのどなり声が返ってきた。
「塔に戻るための転移水晶を渡しておいただろうが!」
「転移水晶? えーっと……」
「お前のペンデュラムにつけてある。<塔へ転移>のフレーズで起動だ」
オッペンはいつも使っている占術用ペンデュラムを取り出した。たしかにペンデュラムの鎖の根本、持ち手の部分に小さな水晶がつけられている。
「お、これか。さっすが、ししょー。おれが忘れるって予知してたんだな」
「お前なら忘れそうだと思ってそこに付けたが、本当に忘れるとは……」
苦々しげにそう言った後、アスカルは真剣な声で言った。
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「ししょー? ……切れちまった」
キャシーとマーカスがオッペンを見ていた。
オッペンは声にだしてしゃべっていたので、だいたいの事情は二人に伝わっていた。
オッペンはペンデュラムの転移水晶を手にとり言った。
「おれは<星読みの塔>に行かなきゃなんねぇ。じゃあな。レディーたちを助けられてよかったぜ」
キャシーはオッペンの手をつかんで言った。
「オッペン、絶対にまた帝都に戻ってきてね。今日のお礼をするから」
「おうよ。ヒーローは人助けで超忙しいけどな。そのうち寄るぜ」
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