もふもふ精霊に愛された召喚士、実はエルフだった!? ~精霊の森の生き残りはやがて英雄となる~

しゃぼてん

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第4部 帝国の終焉 ~滅亡をもたらすダークエルフ~

第202話 <星読みの塔>の崩落

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 オッペンが<星読みの塔>に着いた時、塔の中ではあわただしく占術士達が駆け巡っていた。
 占術士達は貴重な魔道具をなんとか少しでも多く避難させようとがんばっているみたいだ。

 慌てふためく人達の中で、車いすに座った<星読み>のエレイは、ひとり静かにたたずんでいた。

「エレイ!」

 エレイは微笑んだ。

「やぁ、オッペン。今日も元気そうだね」

 リリファは他の占術士に早口で指示を出しながら、ふりかえってオッペンに叫んだ。

「オッペンさん、すぐにエレイ様と避難を開始してください。なるべく遠くまで塔から離れ、アスカル様の次の指示があるまで、誰にも同行しないで山中に身を隠してください」

「もうししょーはいないんだな」

 オッペンがたずねると、エレイは静かな声で言った。

「うん。アスカルは行ってしまったよ」

「エレイ様、早く避難してください! あまり時間がありません!」

 リリファが叫ぶので、オッペンはエレイの車椅子をつかんだ。

「よっしゃ! 避難するぜ」

 オッペンはエレイの車椅子を押して塔を出て、そのままどんどんと山道を進んでいった。
 転移をした方が一瞬で遠くまで行けるのだが、エレイはこの山道を行くことを選んだ。

 エレイの車椅子は椅子に組み込まれた魔道具でわずかに宙に浮かぶようになっているため、山道でも進むのはそれほど難しくない。
 オッペンは一度塔の方を振り返ってエレイにたずねた。

「エレイ、どんくらい逃げればいいんだ?」

「もう少し離れないと。だけど、そろそろ遭遇するはずだよ」

 エレイの言葉が終わらぬうちに、行く手に白銀の鎧を着た戦士達があらわれた。
 闇の中ではっきりと姿は見えないが、オッペンには見覚えのある白いマントをまとった戦士達だった。
 戦士のリーダーらしき男が前に出て言った。

「<星読み>どの。救助に参った」

 オッペンはエレイの前にまわり、戦士達に向かって言った。

「エレイはどこにも行かねぇよ。誰にもついていくなって、ししょーに言われてんだ」
 
「我々は国王陛下の指示を受けてきたのだ。ご同行願う」

 重々しい口調で言う戦士に、エレイが静かな声で答えた。

「僕らは<星読みの塔>塔主アスカルの指示を受けているから、君達には同行できないよ。陛下なら、アスカルに一番に指示を伝えるはずだけど」

「おう。どうせお前ら、国王じゃなくて<白光>の奴らだろ? とっとと帰れ」

 オッペンがそう言うと、戦士達はいっせいに剣を抜いた。

「ウラジナル団長の意志は国王陛下の意志と同じ。我々は指示を受けているのだ。力づくでも<星読み>を連れてくるようにと」

「お前らにゃ無理だぜ。ここにおれがいるからな」

「戦う術をもたぬ占術士ふぜいが何を言う」

 オッペンは魔導銃剣をとりだしながらにやりと笑った。

「おれは占術戦士だ。今んとこ、世界に一人だけのな」

 オッペンは左腕のドゥラシンドの腕輪に手を触れ、ささやいた。

 <予知能力を2日分犠牲にささげる。4秒先までの予知能力を5分間与えよ>

 オッペンはそのまま敵の中へと突っこんでいった。
 今は4秒先までの未来を確実に見ることができる。
 戦士の攻撃を見極めるには長すぎるくらいの時間だ。オッペンは確実に剣戟けんげきをかいくぐり、敵の急所に攻撃を当てていった。

 敵の最後の一人をオッペンが魔導銃剣の魔法攻撃で吹き飛ばした時、エレイが言った。

「行こう、オッペン。あまり時間がないんだ。ここだとまだ塔の崩壊に巻きこまれるかもしれない」

 オッペンは、あわててエレイのもとに戻り、車椅子をつかんだ。
 車椅子を押しながら走っていると、少し開けた場所にでたところで、夜空を巨大な流れ星のように流れていく光が見えた。

「あ!」

 激しい光と燃え上がる炎が、<星読みの塔>の方角に見えた。
 轟音とともに塔は崩れ落ちていった。すべてが崩れ落ちるまでに十秒もかからなかった。
 オッペンとエレイはそのあっけない光景を無言で眺めていた。

 静かになった後、オッペンは目をこらして、塔があった場所をよく見ようとした。
 すでに夜の闇に包まれはじめているのではっきりとは見えないが、後に残っているのは塔を形作っていた石の山だけのようだった。

「本当に塔がぶっこわれちまった。ほとんどなんも残ってねぇぜ」

「あんなに多くの人の生を縛りつけていた塔も、終わりの時はあっけないね」

 エレイは淡々とそうつぶやいた。

「あれ? 離宮の方も光ってるぞ」

 その場所からは湖畔こはんの美しい城に火の手があがるのもよく見えた。
 反帝国同盟軍の一部がすでに離宮にたどり着き、攻撃を開始しているようだ。
 巨大な霊獣が城の入り口付近で炎を吹いていた。
 その近くに、反帝国同盟の兵士らしき一団が見える。おそらく、あれはザヒがひきいるギアラド人部隊なのだろう。何百年もの絶望と怨みを戦意に変えて炎とともに城へと押し寄せようとしていた。

 その様子を、見えない目で見ながら、エレイは静かに言った。

「オッペン、僕はもうだいじょうぶだから、アスカルのところへ行ってあげて」

「んなわけにはいかねーよ。ししょーはおれをエレイの護衛につけたんだ。エレイを狙ってまた誘拐犯が襲ってくるだろ? それに、今、大混乱だから、そのへんの悪い奴にたまたま襲われるかもしんねぇ」

「大丈夫。今夜は、このままここにいれば、僕は大丈夫。それより、君はこの<浮遊羽>を使って離宮に行ったアスカルをたすけてあげて」

 飛行移動魔法用の魔道具をエレイから受け取りながら、オッペンは首をかしげた。

「ししょーが離宮に行った? でも、ししょーだって、自分の未来くらいわかるだろ? <星読みの塔>の塔主なんだから」

「アスカルに未来予知の力はないよ。<宣告>の力を得るために、解くことのできない<制約>で全部犠牲ぎせいにしているから」

 エレイは当たり前のことのように言ったが、オッペンにとっては初耳だった。

「はぁ? 予知能力を全部ぎせいにした!? おれには<制約>で未来予知の力をしばるなって言っといて!」

「だからだよ。犠牲にしたものの大きさはアスカルが一番よく知っている。<宣告>を得れば塔主になって塔を変えられる、という未来を知って、アスカルは<宣告>を選んだ。占術士としての能力のほとんどを犠牲にして」

「むちゃくちゃすげぇ力だと思ったら、そういうことかよ」

 得られる能力は犠牲にしたものに比例する。

「アスカルは後悔していないというけれど、失ったものの大きさは知っている。だから、君が軽々しく同じことをしてしまわないように、ドゥラシンドの腕輪を渡したんだ。国宝級のものだから、本当は渡してはいけないんだけど」

 オッペンは腕輪をつけた手で頭をかいた。

「マジかよ、ししょー。おれには何も言わねぇで。でも、未来のことは、占術士の誰かがししょーに教えてるだろ?」

 エレイはうなずき、いつも通りの穏やかな声で言った。

「うん。今日、アスカルはあの離宮で死ぬかもしれない、と僕は伝えたよ」

「なっ。死ぬって、エレイが予言してんのに、ひとりで王城に行っちまったのかよ!? なんつー、むちゃだよ!」

 エレイは静かな声で言った。

「アスカルは今日死ぬ覚悟を決めているんだ。でも、僕らにはまだアスカルが必要だ。だから、オッペン、アスカルを迎えに行って」

「おう。ぜってぇ、おれがししょーを助ける!」

 オッペンは<浮遊羽>を握りしめて移動魔法を唱え、夜空を飛んでいった。
 エレイは車いすに座ったまま、そのまましばらくそこで火の手の上がる城を、見えない目で見ながらたたずんでいた。
 山道を歩いてくる足音が聞こえていた。
 
「なんという幸運。任務失敗かと思いきや。<星読み>どの、ご同行いただけますね?」

 <白光>の戦士の生き残りが、エレイの背後に迫っていた。

「やぁ。良い夜だね」

 エレイはふりかえらずにそう言って、ただ静かに座っていた。

「では……」

 <白光>の戦士はそこまで声を出したところで、激しい風に吹き飛ばされ、山の斜面を転がり落ちていった。
 エレイは、いつの間にか横に立っていた闇に溶けこむ黒いローブ姿の男にほほえんだ。

「ありがとう、ガディオン。ようやく君の本名が呼べるね」

「ケガはないか?」

「うん。とてもいい気分なんだ。今ならどこへでも行ける気がするよ」

 黒竜のような黒衣に身を包んだ男はいつも通り、夜のように暗い声で淡々とたずねた。

「どこに行きたい? どこへでもつれていってやる」

「君の一番好きな場所につれていって」

「それは、異界だ」

「うん。いいよ。つれてって」

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