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第4部 帝国の終焉 ~滅亡をもたらすダークエルフ~
第205話 ウラジナルの最期
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ウラジナルは笑った。
「不死者の王ほどではないが、これは我が魔導技術によるゴーレム兵の最高傑作だ」
ゴーレムの腕や体は何かの金属でできていた。その金属はユウリの放った風魔法では傷をつけることすらできなかった。
さらに強い魔法を放とうとするユウリをイーアはとめた。
「ユウリ! 待って!」
巨大なゴーレム兵の胸のところに、何かが埋め込まれていた。人の顔が見える。
「あれは……ナミン先生!」
ゴーレムの巨兵の胴体に、生気のないナミンの顔が埋めこまれていた。
「……でも、先生はもう……」
ユウリがすべて言うまでもなく、イーアも一目見てわかっていた。
ナミンはすでに死んでいる。
あそこにはすでに魂のない死体が埋め込まれているだけだ。
魔導装置が作り出す障壁の向こうで、ウラジナルは狂ったように笑った。
「ただの装飾以外の何物でもないがな。せっかくだ。すべての元凶、滅亡の予言者ラムノスの肉体を使わせてもらった」
イーアは思わず叫んだ。
「元凶? すべての元凶はあなた達でしょ!」
ナミンは何もしていない。やったことといえば、孤児達の面倒をみただけだ。
帝国が踏みにじってきた大勢の人達がいなければ、革命は起こり得なかった。
ウラジナルの命令で<白光>がガネンの民を虐殺しなければ、イーアはここでウラジナルと対峙していない。
帝国もウラジナルも勝手に自らの業で滅んだのだ。
「むだだよ。あの人には理解できない」
ユウリは冷たい声で言った。
「あの人たちは命を何とも思わない。人の命は国のために使い捨てる消耗品。自分達にとって邪魔な者は消す。そんな考えが、行いが、結局帝国を滅ぼすんだって、気づくことさえできなかったから、こうなったんだ。いまさら気づけるはずがないよ。今、できるのは、ウラジナルを倒して、この戦いをしっかり終わらせることだけだ」
ゴーレム兵が巨大な斧を振りかぶった。
それはただの斧ではなかった。ふりおろされた斧は強烈な風魔法をまとっていて、振り下ろされたところから壁まで、あらゆるものを切り裂いていった。
イーアを守るように壁をつくっていたモンペルさえ、直撃をうけたものはまっぷたつに割られてしまった。
ウラジナルは叫んだ。
「古代メラフィスの遺物を修復したその斧は、ただの斧ではないぞ」
ユウリは風の防御魔法を自分自身とイーアの周囲にまとわらせた。
「軽減できるはずだけど、直撃は避けて。ふせぎきれない」
「うん」
イーアはティトを見た。ティトはすでに光の力をためおえている。ティトはうなるように言った。
『攻撃はまかせろ』
「ユウリ、ゴーレムの動きをとめて」
「わかった」
ユウリが操る渦巻く風がゴーレムを取り囲み、しばりあげていった。ゴーレムは斧を持ったまま両手を挙げた状態で動けなくなった。
そくざにティトのしっぽから光線が放たれゴーレムのあたまを撃ち抜いた。
ゴーレムの頭はうちくだかれた。だけど、砕かれた岩は再び集まり、ゴーレムの頭を形づくっていく。
『あれは、モンペルに近いな』
ティトは悔しそうにうなった。
『いくら攻撃しても、あのゴーレムは壊せないってこと?』
『ああ』
「ゴーレムの核がどこかにあるはずだ。核を破壊しないと」
ユウリがそう言うと、障壁に守られた安全地帯でウラジナルは笑った。
「教えてやろう。核はゴーレムに埋め込まれたラムノスの体の中だ。見つけたければラムノスを切り刻め。防御壁は厳重にはってあるがな」
そんなことできない、とイーアは思った。でも、
『だろうと思ったぞ』
そう言ってティトが、イーアが何かを言う前に、ためらいなく再び光線で攻撃をした。ようしゃなくナミンの顔めがけて。
ティトの光線が当たった瞬間、強烈な光があたりに広がり、うす暗かった砦の中が光で満ちた。
「な、なんだこれは?」
ウラジナルにとっても予想外だったみたいだけど、イーアにも何が起こっているのかわからなかった。
『ティト?』
『おれじゃない。光はあのゴーレムからでてる』
辺りになつかしい声が響いた。
「イーア、ユウリ。久しぶり。この言葉が届いたということは、私はすでに死んでいるはずですが」
「ナミン先生!」
「こうなることを知ってて、先生は自分の体に術をかけていた……?」
ユウリがそうつぶやいた。イーアの呼びかけには答えないが、ナミンの声は続いている。
これはナミンが残したメッセージのようだ。
「あなた達にはすべてを教えず、ずっと申し訳ないと思っていました。これが最善と信じて行ったことではありますが。特にユウリには酷なことをしました」
「謝らないで。僕はナミンの家で育ってよかったと思ってる。そうでなかったら、<白光>の一員としてイーアと殺しあっていたはずだから」
ユウリはゴーレムの胸のところから放たれる光に向かってそう言った。
「かつて私は最善の未来を望み、運命の糸の中にあなた達を見つけ未来を託しました。ですが、私が本当に望むものは、あなた達の幸せな未来です。イーア、ユウリ、あなた達の行く末に幸あれ」
光が一度さらに強まり、その光がおさまっていくにつれ、ゴーレムの体が崩れ落ちていった。
ウラジナルの前の防御結界も消えていった。
光が消えた時、イーア達の前に残っていたのは、ウラジナルだけだった。
ウラジナルは杖をにぎりしめた。
その年老いた顔には悲愴な表情がうかんでいた。
ウラジナルはこの国最高の魔導師の一人だったが、古代魔術は戦闘には向いていない。
一方、相対するのは、まだ年若いとはいえ、もっとも戦闘に特化した魔法、召喚術と自然魔法の最高峰の使い手二人。
戦う前から勝敗は決していた。
ティトは歯をむき出しにし、低い声でうなった。あと数秒もすれば、ティトの体にふたたび光の力がみちる。
ユウリは小さな声で呪文を唱えていた。無詠唱でもいくらでも魔法をはなてるが、この間に人を粉塵にかえるほどの強力な魔法の準備をしていた。
だが、全員がナミンの光と相対する敵に気をとられていた間に、いつのまにかこの空間にはもう一人、人影があらわれていた。
イーアは気がついた。
ウラジナルの斜め上の空中に、道化師のような銀仮面をつけた白装束の魔導士が片手に毬のような球体をのせて立っていた。
その手の上の人の頭ほどの大きさの球体は血の臭いのする呪符でおおいつくされ、禍々しい気配を放っていた。古代魔術系の呪具のようだ。
「ベグラン……!」
ウラジナルの表情はひきつった。
「汚れ仕事は俺の役目と相場が決まっててね。ま、あんたには戦って死ぬなんて立派な死に方はもったいない」
次の瞬間、道化師の仮面をつけた男の手の上の球体が、ウラジナルの頭といれかわった。
頭部が不気味な毬にかわったウラジナルの体は、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。
「ベグラン!」
かたき討ちを邪魔された、というようにユウリが叫んだ。
「文句は心配性のバルトルさんに言いな。それに、俺にだってこれくらいの権利はあるんだぜ?」
ウラジナルの頭を手にのせたまま、銀仮面の魔導士は崩れ落ちたゴーレムの岩の山を見て、それから道化師の不気味な銀色の笑顔を残像のように空中に残して姿を消した。
倒れたウラジナルの体の向こうへと、ユウリは無言で歩いていき、そこにある台座の上の『支配者の石板』を持ち上げた。
「これだね」
「うん」
『支配者の石板』は穴の開いた状態だった。補完部品でおぎなっていた部分が壊れてなくなっているのだろう。
イーアは『支配者の石板』を受け取ると石板をバラバラに崩した。
そして、『友契の書』を通して精霊達に言った。
『エラスシオ、ヤゴンリル、奪われた石板の欠片を持ち帰って。他の欠片は、わたしがそれぞれの守護精霊に届けに行くよ』
それを聞いて、ティトが大きなため息をついた。
『これを全部届けるのか? 大変だな』
たしかに、石板の欠片はたくさんある。守護精霊はみんなすごいところにいるから、きっと大変な冒険になるだろう。
でも、イーアは言った。
『楽しそうだよ。きっと、色んな精霊に会えるもん』
「不死者の王ほどではないが、これは我が魔導技術によるゴーレム兵の最高傑作だ」
ゴーレムの腕や体は何かの金属でできていた。その金属はユウリの放った風魔法では傷をつけることすらできなかった。
さらに強い魔法を放とうとするユウリをイーアはとめた。
「ユウリ! 待って!」
巨大なゴーレム兵の胸のところに、何かが埋め込まれていた。人の顔が見える。
「あれは……ナミン先生!」
ゴーレムの巨兵の胴体に、生気のないナミンの顔が埋めこまれていた。
「……でも、先生はもう……」
ユウリがすべて言うまでもなく、イーアも一目見てわかっていた。
ナミンはすでに死んでいる。
あそこにはすでに魂のない死体が埋め込まれているだけだ。
魔導装置が作り出す障壁の向こうで、ウラジナルは狂ったように笑った。
「ただの装飾以外の何物でもないがな。せっかくだ。すべての元凶、滅亡の予言者ラムノスの肉体を使わせてもらった」
イーアは思わず叫んだ。
「元凶? すべての元凶はあなた達でしょ!」
ナミンは何もしていない。やったことといえば、孤児達の面倒をみただけだ。
帝国が踏みにじってきた大勢の人達がいなければ、革命は起こり得なかった。
ウラジナルの命令で<白光>がガネンの民を虐殺しなければ、イーアはここでウラジナルと対峙していない。
帝国もウラジナルも勝手に自らの業で滅んだのだ。
「むだだよ。あの人には理解できない」
ユウリは冷たい声で言った。
「あの人たちは命を何とも思わない。人の命は国のために使い捨てる消耗品。自分達にとって邪魔な者は消す。そんな考えが、行いが、結局帝国を滅ぼすんだって、気づくことさえできなかったから、こうなったんだ。いまさら気づけるはずがないよ。今、できるのは、ウラジナルを倒して、この戦いをしっかり終わらせることだけだ」
ゴーレム兵が巨大な斧を振りかぶった。
それはただの斧ではなかった。ふりおろされた斧は強烈な風魔法をまとっていて、振り下ろされたところから壁まで、あらゆるものを切り裂いていった。
イーアを守るように壁をつくっていたモンペルさえ、直撃をうけたものはまっぷたつに割られてしまった。
ウラジナルは叫んだ。
「古代メラフィスの遺物を修復したその斧は、ただの斧ではないぞ」
ユウリは風の防御魔法を自分自身とイーアの周囲にまとわらせた。
「軽減できるはずだけど、直撃は避けて。ふせぎきれない」
「うん」
イーアはティトを見た。ティトはすでに光の力をためおえている。ティトはうなるように言った。
『攻撃はまかせろ』
「ユウリ、ゴーレムの動きをとめて」
「わかった」
ユウリが操る渦巻く風がゴーレムを取り囲み、しばりあげていった。ゴーレムは斧を持ったまま両手を挙げた状態で動けなくなった。
そくざにティトのしっぽから光線が放たれゴーレムのあたまを撃ち抜いた。
ゴーレムの頭はうちくだかれた。だけど、砕かれた岩は再び集まり、ゴーレムの頭を形づくっていく。
『あれは、モンペルに近いな』
ティトは悔しそうにうなった。
『いくら攻撃しても、あのゴーレムは壊せないってこと?』
『ああ』
「ゴーレムの核がどこかにあるはずだ。核を破壊しないと」
ユウリがそう言うと、障壁に守られた安全地帯でウラジナルは笑った。
「教えてやろう。核はゴーレムに埋め込まれたラムノスの体の中だ。見つけたければラムノスを切り刻め。防御壁は厳重にはってあるがな」
そんなことできない、とイーアは思った。でも、
『だろうと思ったぞ』
そう言ってティトが、イーアが何かを言う前に、ためらいなく再び光線で攻撃をした。ようしゃなくナミンの顔めがけて。
ティトの光線が当たった瞬間、強烈な光があたりに広がり、うす暗かった砦の中が光で満ちた。
「な、なんだこれは?」
ウラジナルにとっても予想外だったみたいだけど、イーアにも何が起こっているのかわからなかった。
『ティト?』
『おれじゃない。光はあのゴーレムからでてる』
辺りになつかしい声が響いた。
「イーア、ユウリ。久しぶり。この言葉が届いたということは、私はすでに死んでいるはずですが」
「ナミン先生!」
「こうなることを知ってて、先生は自分の体に術をかけていた……?」
ユウリがそうつぶやいた。イーアの呼びかけには答えないが、ナミンの声は続いている。
これはナミンが残したメッセージのようだ。
「あなた達にはすべてを教えず、ずっと申し訳ないと思っていました。これが最善と信じて行ったことではありますが。特にユウリには酷なことをしました」
「謝らないで。僕はナミンの家で育ってよかったと思ってる。そうでなかったら、<白光>の一員としてイーアと殺しあっていたはずだから」
ユウリはゴーレムの胸のところから放たれる光に向かってそう言った。
「かつて私は最善の未来を望み、運命の糸の中にあなた達を見つけ未来を託しました。ですが、私が本当に望むものは、あなた達の幸せな未来です。イーア、ユウリ、あなた達の行く末に幸あれ」
光が一度さらに強まり、その光がおさまっていくにつれ、ゴーレムの体が崩れ落ちていった。
ウラジナルの前の防御結界も消えていった。
光が消えた時、イーア達の前に残っていたのは、ウラジナルだけだった。
ウラジナルは杖をにぎりしめた。
その年老いた顔には悲愴な表情がうかんでいた。
ウラジナルはこの国最高の魔導師の一人だったが、古代魔術は戦闘には向いていない。
一方、相対するのは、まだ年若いとはいえ、もっとも戦闘に特化した魔法、召喚術と自然魔法の最高峰の使い手二人。
戦う前から勝敗は決していた。
ティトは歯をむき出しにし、低い声でうなった。あと数秒もすれば、ティトの体にふたたび光の力がみちる。
ユウリは小さな声で呪文を唱えていた。無詠唱でもいくらでも魔法をはなてるが、この間に人を粉塵にかえるほどの強力な魔法の準備をしていた。
だが、全員がナミンの光と相対する敵に気をとられていた間に、いつのまにかこの空間にはもう一人、人影があらわれていた。
イーアは気がついた。
ウラジナルの斜め上の空中に、道化師のような銀仮面をつけた白装束の魔導士が片手に毬のような球体をのせて立っていた。
その手の上の人の頭ほどの大きさの球体は血の臭いのする呪符でおおいつくされ、禍々しい気配を放っていた。古代魔術系の呪具のようだ。
「ベグラン……!」
ウラジナルの表情はひきつった。
「汚れ仕事は俺の役目と相場が決まっててね。ま、あんたには戦って死ぬなんて立派な死に方はもったいない」
次の瞬間、道化師の仮面をつけた男の手の上の球体が、ウラジナルの頭といれかわった。
頭部が不気味な毬にかわったウラジナルの体は、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。
「ベグラン!」
かたき討ちを邪魔された、というようにユウリが叫んだ。
「文句は心配性のバルトルさんに言いな。それに、俺にだってこれくらいの権利はあるんだぜ?」
ウラジナルの頭を手にのせたまま、銀仮面の魔導士は崩れ落ちたゴーレムの岩の山を見て、それから道化師の不気味な銀色の笑顔を残像のように空中に残して姿を消した。
倒れたウラジナルの体の向こうへと、ユウリは無言で歩いていき、そこにある台座の上の『支配者の石板』を持ち上げた。
「これだね」
「うん」
『支配者の石板』は穴の開いた状態だった。補完部品でおぎなっていた部分が壊れてなくなっているのだろう。
イーアは『支配者の石板』を受け取ると石板をバラバラに崩した。
そして、『友契の書』を通して精霊達に言った。
『エラスシオ、ヤゴンリル、奪われた石板の欠片を持ち帰って。他の欠片は、わたしがそれぞれの守護精霊に届けに行くよ』
それを聞いて、ティトが大きなため息をついた。
『これを全部届けるのか? 大変だな』
たしかに、石板の欠片はたくさんある。守護精霊はみんなすごいところにいるから、きっと大変な冒険になるだろう。
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