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第一章:突然の気持ち
第2話 出会っちゃった - その1 -
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バス停を降りると、そこには燃えるような茜色と、夜の気配を含んだ紫色のグラデーションが広がっていた。
「……ここか」
異世界へのゲートをくぐる前の主人公のような心持ちで、倖輔は一軒の家の前に立つ。
表札には『高岳』の文字。そしてその横に並ぶ『早紀』という名前。
(……早紀さん。沙奈枝ちゃんのお母さん、だよな)
深呼吸を一つ。
最近のフルダイブ型RPGでも、これほどリアルな緊張感は味わえない。
意を決してインターホンのボタンを押し込む。
「は~~い」
スピーカーから溢れ出たのは、夕暮れの空気を震わせる、鈴の音のように弾んだ声。
それは若々しく、けれどどこか聴く者を包み込むような不思議な温かみを含んでいた。
直後、カチャリとドアが開く。
「どなた?」
逆光の中に現れたその女性を見て、倖輔は言葉を失った。
(……え? お母さん……だよな?)
そこにいたのは、落ち着いた雰囲気を纏いながらも、瞳の奥に少女のような煌めきを残した一人の女性。
胸元にさりげなく英語のロゴが入った白いTシャツ。
そして、膝上丈の涼しげな淡い水色のスカート。
「あ、あの……猪草美咲の兄です! すみません、妹の忘れ物を取りに……っ」
動揺のあまり、台詞を噛みそうになる。
そんな倖輔を見て、彼女――早紀は、花が咲くような笑顔を浮かべた。
「あらぁ、美咲ちゃんとこのお兄ちゃん! 暑い中ごめんなさいね、わざわざ来てもらっちゃって」
その笑顔は、まるで太陽のようだった。
中学生男子が抱く理想を形にしたような、どこか親しみやすいバスガイドを彷彿とさせる清潔感。
そして、Tシャツ越しにも伝わってくる、包容力に満ちた柔らかな曲線。
「いえ! 全然、だいじょうぶですから! こちらこそ、ご迷惑をおかけして……」
慌てて頭を下げる倖輔。
早紀から漂うシトラス系の柔軟剤の匂いと、ほんのり甘いシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。
初めて会ったはずなのに、なぜか「ずっと前から知っている憧れのお姉さん」と再会したような、懐かしくも胸が締め付けられる感覚。
「ふふっ、そんなに固くならないで。さあ、今冷たい麦茶を持ってくるから。ちょっと上がって待ってて?」
「えっ、あ、はい……お邪魔します」
早紀の、頼りがいのある大人の女性としての余裕と、時折見せる年上の幼馴染のような親しみやすさ。
その二重奏(デュエット)に、倖輔の理性という名の防御魔法は、早くも崩壊の危機に瀕していた。
「……今日、ゲームやる時間、あるかな……」
玄関に足を踏み入れながら、倖輔は自分でも驚くほど高鳴っている鼓動を必死に抑えようとしていた。
「……ここか」
異世界へのゲートをくぐる前の主人公のような心持ちで、倖輔は一軒の家の前に立つ。
表札には『高岳』の文字。そしてその横に並ぶ『早紀』という名前。
(……早紀さん。沙奈枝ちゃんのお母さん、だよな)
深呼吸を一つ。
最近のフルダイブ型RPGでも、これほどリアルな緊張感は味わえない。
意を決してインターホンのボタンを押し込む。
「は~~い」
スピーカーから溢れ出たのは、夕暮れの空気を震わせる、鈴の音のように弾んだ声。
それは若々しく、けれどどこか聴く者を包み込むような不思議な温かみを含んでいた。
直後、カチャリとドアが開く。
「どなた?」
逆光の中に現れたその女性を見て、倖輔は言葉を失った。
(……え? お母さん……だよな?)
そこにいたのは、落ち着いた雰囲気を纏いながらも、瞳の奥に少女のような煌めきを残した一人の女性。
胸元にさりげなく英語のロゴが入った白いTシャツ。
そして、膝上丈の涼しげな淡い水色のスカート。
「あ、あの……猪草美咲の兄です! すみません、妹の忘れ物を取りに……っ」
動揺のあまり、台詞を噛みそうになる。
そんな倖輔を見て、彼女――早紀は、花が咲くような笑顔を浮かべた。
「あらぁ、美咲ちゃんとこのお兄ちゃん! 暑い中ごめんなさいね、わざわざ来てもらっちゃって」
その笑顔は、まるで太陽のようだった。
中学生男子が抱く理想を形にしたような、どこか親しみやすいバスガイドを彷彿とさせる清潔感。
そして、Tシャツ越しにも伝わってくる、包容力に満ちた柔らかな曲線。
「いえ! 全然、だいじょうぶですから! こちらこそ、ご迷惑をおかけして……」
慌てて頭を下げる倖輔。
早紀から漂うシトラス系の柔軟剤の匂いと、ほんのり甘いシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。
初めて会ったはずなのに、なぜか「ずっと前から知っている憧れのお姉さん」と再会したような、懐かしくも胸が締め付けられる感覚。
「ふふっ、そんなに固くならないで。さあ、今冷たい麦茶を持ってくるから。ちょっと上がって待ってて?」
「えっ、あ、はい……お邪魔します」
早紀の、頼りがいのある大人の女性としての余裕と、時折見せる年上の幼馴染のような親しみやすさ。
その二重奏(デュエット)に、倖輔の理性という名の防御魔法は、早くも崩壊の危機に瀕していた。
「……今日、ゲームやる時間、あるかな……」
玄関に足を踏み入れながら、倖輔は自分でも驚くほど高鳴っている鼓動を必死に抑えようとしていた。
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