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第一章:突然の気持ち
第3話 出会っちゃった - その2 -
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「あらあら、しっかりしてるのね……そのバッジ、架橋中学のかしら?」
早紀が、いたずらっぽく、それでいて好奇心に満ちた瞳で覗き込んできた。
襟元の校章を確認するその距離、わずか数センチ。
(ち、近い……っ!)
ふわっ、と鼻先を掠めたのは、洗いたてのシャツのような清潔感と、熟した果実のような甘い香りが溶け合った、大人の女性特有の芳香だ。
その仕草は、まるで迷子の子どもをあやす母親のような慈愛に満ちていて、倖輔の心臓はファンタジーRPGのボス戦直前のような、激しい鼓動を刻み始めていた。
「は、はい……三年です」
「美咲ちゃんは、もうお家?」
「はい、先に帰っちゃってて」
「あら、お家はどのあたりだったかしら?」
「留岡町です」
それを聞いた瞬間、早紀さんは「まあ!」と、少女のように驚いた表情を見せた。
「あらぁ、そうだったのね。遠いのに……」
留岡町といえば、ここから電車を乗り継いで一時間はかかる。
そんな距離を、妹の忘れ物のためにわざわざ……。
感心したように、それでいてどこか潤んだ瞳で見つめられ、倖輔は猛烈に照れくさくなった。
彼女の驚く顔さえ、計算のない純粋な可愛らしさに溢れていて、思わず見惚れてしまう。
「暑かったでしょ? 上がって涼んでちょうだい」
促されるまま、廊下の奥のダイニングへ。
前を歩く早紀の後ろ姿に、倖輔の視線は吸い寄せられるように釘付けになった。
自分とほぼ同じ背丈。
けれど、Tシャツとスカート越しにもわかる、しなやかで肉感的な『女性』のライン。
歩くたびにポニーテールが揺れ、白いうなじが夕日に照らされて艶やかに光る。
その背中は、圧倒的な包容力を放っていた。
「はい、麦茶をどうぞ」
案内されたリビングは、シンプルながらも温もりのある空間だった。
キンキンに冷えた麦茶を一気に流し込む。
喉を通る爽快感と共に、少しずつ理性が戻ってくるのを感じた。
壁に飾られた、満面の笑みを浮かべる沙奈枝ちゃんの写真。
この温かい家庭の空気感が、倖輔の張り詰めた心を優しく解きほぐしていく。
が、その平穏は、早紀の次の一言で粉々に砕け散った。
「美咲ちゃんから聞いてたのよ。とっても頼もしいお兄ちゃんがいるって。でも……」
彼女は、猫が獲物を狙うような、茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべて身を乗り出した。
「実物を見ると、ちょっと守ってあげたくなる感じ? アイドルみたいで、凄くかっこいいわよね」
「ふぇっ!? そ、そうですか?」
不意打ちの称賛に、倖輔の脳内回路がショートする。
年上の、しかもこんなに綺麗な女性から直球で「かっこいい」と言われるなんて、どんな恋愛シミュレーションゲームでも未経験のイベントだ。
「あらぁ、ごめんなさい。……ちょっとからかいすぎちゃったかしら?」
早紀はクスクスと喉を鳴らして笑うと、隣の椅子に腰を下ろした。
そして、「ね?」と親愛を込めるように、倖輔のたくましくなり始めた二の腕を、柔らかい手で「ポン」と叩いた。
軽いスキンシップ。けれど、触れられた部分から熱が広がり、全身の血流が加速する。
「……っ」
太陽のように明るく、それでいて夜の帳のように妖艶な彼女の笑顔。
倖輔は、自分が今、ゲームの世界よりもずっと刺激的で、逃げ場のない『迷宮』に迷い込んでしまったことを確信していた。
早紀が、いたずらっぽく、それでいて好奇心に満ちた瞳で覗き込んできた。
襟元の校章を確認するその距離、わずか数センチ。
(ち、近い……っ!)
ふわっ、と鼻先を掠めたのは、洗いたてのシャツのような清潔感と、熟した果実のような甘い香りが溶け合った、大人の女性特有の芳香だ。
その仕草は、まるで迷子の子どもをあやす母親のような慈愛に満ちていて、倖輔の心臓はファンタジーRPGのボス戦直前のような、激しい鼓動を刻み始めていた。
「は、はい……三年です」
「美咲ちゃんは、もうお家?」
「はい、先に帰っちゃってて」
「あら、お家はどのあたりだったかしら?」
「留岡町です」
それを聞いた瞬間、早紀さんは「まあ!」と、少女のように驚いた表情を見せた。
「あらぁ、そうだったのね。遠いのに……」
留岡町といえば、ここから電車を乗り継いで一時間はかかる。
そんな距離を、妹の忘れ物のためにわざわざ……。
感心したように、それでいてどこか潤んだ瞳で見つめられ、倖輔は猛烈に照れくさくなった。
彼女の驚く顔さえ、計算のない純粋な可愛らしさに溢れていて、思わず見惚れてしまう。
「暑かったでしょ? 上がって涼んでちょうだい」
促されるまま、廊下の奥のダイニングへ。
前を歩く早紀の後ろ姿に、倖輔の視線は吸い寄せられるように釘付けになった。
自分とほぼ同じ背丈。
けれど、Tシャツとスカート越しにもわかる、しなやかで肉感的な『女性』のライン。
歩くたびにポニーテールが揺れ、白いうなじが夕日に照らされて艶やかに光る。
その背中は、圧倒的な包容力を放っていた。
「はい、麦茶をどうぞ」
案内されたリビングは、シンプルながらも温もりのある空間だった。
キンキンに冷えた麦茶を一気に流し込む。
喉を通る爽快感と共に、少しずつ理性が戻ってくるのを感じた。
壁に飾られた、満面の笑みを浮かべる沙奈枝ちゃんの写真。
この温かい家庭の空気感が、倖輔の張り詰めた心を優しく解きほぐしていく。
が、その平穏は、早紀の次の一言で粉々に砕け散った。
「美咲ちゃんから聞いてたのよ。とっても頼もしいお兄ちゃんがいるって。でも……」
彼女は、猫が獲物を狙うような、茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべて身を乗り出した。
「実物を見ると、ちょっと守ってあげたくなる感じ? アイドルみたいで、凄くかっこいいわよね」
「ふぇっ!? そ、そうですか?」
不意打ちの称賛に、倖輔の脳内回路がショートする。
年上の、しかもこんなに綺麗な女性から直球で「かっこいい」と言われるなんて、どんな恋愛シミュレーションゲームでも未経験のイベントだ。
「あらぁ、ごめんなさい。……ちょっとからかいすぎちゃったかしら?」
早紀はクスクスと喉を鳴らして笑うと、隣の椅子に腰を下ろした。
そして、「ね?」と親愛を込めるように、倖輔のたくましくなり始めた二の腕を、柔らかい手で「ポン」と叩いた。
軽いスキンシップ。けれど、触れられた部分から熱が広がり、全身の血流が加速する。
「……っ」
太陽のように明るく、それでいて夜の帳のように妖艶な彼女の笑顔。
倖輔は、自分が今、ゲームの世界よりもずっと刺激的で、逃げ場のない『迷宮』に迷い込んでしまったことを確信していた。
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