彼女は義妹の友達のお母さん

矢暗六九徒

文字の大きさ
3 / 8
第一章:突然の気持ち

第3話 出会っちゃった - その2 -

しおりを挟む
「あらあら、しっかりしてるのね……そのバッジ、架橋中学のかしら?」

早紀が、いたずらっぽく、それでいて好奇心に満ちた瞳で覗き込んできた。
襟元の校章を確認するその距離、わずか数センチ。

(ち、近い……っ!)

ふわっ、と鼻先を掠めたのは、洗いたてのシャツのような清潔感と、熟した果実のような甘い香りが溶け合った、大人の女性特有の芳香だ。
その仕草は、まるで迷子の子どもをあやす母親のような慈愛に満ちていて、倖輔の心臓はファンタジーRPGのボス戦直前のような、激しい鼓動を刻み始めていた。

「は、はい……三年です」

「美咲ちゃんは、もうお家?」

「はい、先に帰っちゃってて」

「あら、お家はどのあたりだったかしら?」

「留岡町です」

それを聞いた瞬間、早紀さんは「まあ!」と、少女のように驚いた表情を見せた。

「あらぁ、そうだったのね。遠いのに……」

留岡町といえば、ここから電車を乗り継いで一時間はかかる。
そんな距離を、妹の忘れ物のためにわざわざ……。
感心したように、それでいてどこか潤んだ瞳で見つめられ、倖輔は猛烈に照れくさくなった。
彼女の驚く顔さえ、計算のない純粋な可愛らしさに溢れていて、思わず見惚れてしまう。

「暑かったでしょ? 上がって涼んでちょうだい」

促されるまま、廊下の奥のダイニングへ。
前を歩く早紀の後ろ姿に、倖輔の視線は吸い寄せられるように釘付けになった。
自分とほぼ同じ背丈。
けれど、Tシャツとスカート越しにもわかる、しなやかで肉感的な『女性』のライン。
歩くたびにポニーテールが揺れ、白いうなじが夕日に照らされて艶やかに光る。
その背中は、圧倒的な包容力マザー・フォースを放っていた。

「はい、麦茶をどうぞ」

案内されたリビングは、シンプルながらも温もりのある空間だった。
キンキンに冷えた麦茶を一気に流し込む。
喉を通る爽快感と共に、少しずつ理性が戻ってくるのを感じた。
壁に飾られた、満面の笑みを浮かべる沙奈枝ちゃんの写真。
この温かい家庭の空気感が、倖輔の張り詰めた心を優しく解きほぐしていく。

が、その平穏は、早紀の次の一言で粉々に砕け散った。

「美咲ちゃんから聞いてたのよ。とっても頼もしいお兄ちゃんがいるって。でも……」

彼女は、猫が獲物を狙うような、茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべて身を乗り出した。

「実物を見ると、ちょっと守ってあげたくなる感じ? アイドルみたいで、凄くかっこいいわよね」

「ふぇっ!? そ、そうですか?」

不意打ちの称賛に、倖輔の脳内回路がショートする。
年上の、しかもこんなに綺麗な女性から直球で「かっこいい」と言われるなんて、どんな恋愛シミュレーションゲームでも未経験のイベントだ。

「あらぁ、ごめんなさい。……ちょっとからかいすぎちゃったかしら?」

早紀はクスクスと喉を鳴らして笑うと、隣の椅子に腰を下ろした。
そして、「ね?」と親愛を込めるように、倖輔のたくましくなり始めた二の腕を、柔らかい手で「ポン」と叩いた。

軽いスキンシップ。けれど、触れられた部分から熱が広がり、全身の血流が加速する。

「……っ」

太陽のように明るく、それでいて夜の帳のように妖艶な彼女の笑顔。
倖輔は、自分が今、ゲームの世界よりもずっと刺激的で、逃げ場のない『迷宮』に迷い込んでしまったことを確信していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

体育館倉庫での秘密の恋

狭山雪菜
恋愛
真城香苗は、23歳の新入の国語教諭。 赴任した高校で、生活指導もやっている体育教師の坂下夏樹先生と、恋仲になって… こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載されてます。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...