4 / 32
三・発情期の訪れ
しおりを挟む
レインと初対面を果たしてから十一年。リオールは三歳から十四歳になっていた。平均よりも小柄だった体躯も、今では立派に成長している。それでも、五つ年上の兄よりも若干だが視線が下がるので、牛乳を飲んだり、魚がいいと情報を仕入れれば限界まで魚を食べたりと努力を重ねている。
レインは初等教育を終え、中等教育の途中で国家騎士団に入団したため、家庭教師に切り替えて日々忙しく過ごしていた。辛うじて夜は一緒に眠れているが、会話はめっきり減ってしまった。面白くなかった。
たまの日曜日くらい、ゆっくり休めとグウェンソードに休暇をねじ込まれたレインから、大衆演劇でも観に行かないかと誘われた。久しぶりだ。約束した待ち合わせ時刻は午後一時。鑑賞したあとは早めに夕食を済ませ、湖畔にあるボートに乗ろうねと笑っていた。
それなのに、城門で待っていてもなかなか姿を現さなかった。急に仕事が入ってしまうことはよくある。だから、城近くに建てられた国家騎士団の本部と宿舎を覗いてから、城内にある三階の私室まで見に行くことにした。すると、慌てた様子のラクセルに呼び止められた。
「あ、いたいた、よかった。あのね、兄さんからの伝言なんだけど、今日はちょっと出かけるのが難しいんだって。だから代わりに僕と行こう」
「――なにかあったのか?」
「別に、ナニモナイヨ?」
「目が泳いでるぞ」
明らかに様子のおかしいラクセルを、リオールは胡乱な眼差しで一瞥した。詳細を言わずに腕を引っ張り、城外へ連れ出そうとするのだ。なにかあったに違いない。それに妙な胸騒ぎもしていた。
(……レインに会ってやる)
そう決意したリオールは、街には向かわず踵を返した。焦ったラクセルが掴んでいた手の力を強めるも、鍛えているので簡単に振り解く。
「もう、だめだって言ってるのに!」
無視してレインの部屋がある三階へ急いだ。後ろからついてくるラクセルは「ああ、どうしよう」としきりに繰り返している。
到着するなり、部屋の前には侍従が待機していた。リオールの姿を見るなり慌てて会釈したものの、ラクセルと同様に視線を逸らされた。後ろめたいことでもあるのだろう。
皆が皆、挙動不審になるので、また負傷したのかもしれない。レインは、十九の若さで三番隊に入隊してから、大小様々な傷が増えた。右足に大きな裂傷を負ったときも、リオールが傍にいると落ち着かないだろうから、一人で休ませろとグウェンソードに締め出されたことがあった。
一緒に寝られない期間は、レインに頼まれたラクセルと同室で寝ることになったので、今回ばかりは断固拒否してやるつもりだ。三歳からほぼ毎晩一緒に寝ていたので、一人にさせることが心配だったようだ。扉の前に護衛がいても、レインは譲ろうとはしなかった。
リオールが中へ入ろうとすると、当然ながら止められてしまった。
「グウェンソード隊長から、今日は誰も中に入れるなと指示されておりますので……」
けれど、立場は国家騎士団の一番隊隊長よりも、王子であり次期後継者でもあるリオールの方が上だ。少し睨むと怯えた様子で退いた。
ノックをせずに扉を開け放つと、そこには思いもよらぬ光景が繰り広げられていた。
「……なにをしている!? グウェンソード!!」
リオールの目に飛び込んできたのは、頬を赤らめているレインに覆いかぶさるグウェンソードの姿だった。なにをしようとしているのか、十四歳だろうともはっきりわかる。
「約束を反故にしてセックスしようとしてたのか……!」
カッと頭に血が上り、咄嗟にグウェンソードの肩を掴んでレインの上から引き剥がす。このまま見過ごすわけにはいかない。怒りを抑えきれず、腸が煮えくり返りそうになる。
「あーあ。やっぱりだめだったか、ラクセル」
「そりゃそうでしょ。こと兄さんに関することで、リオールが妥協することなんてまず奇跡だし、僕には無理だよ!」
「はは、ばれたらしょうがない」
二人の会話から推測すると、秘密裏に結託していたらしい。一体どういうことなのか、今すぐ説明してほしい。このままでは、問答無用に殴りかかってしまいそうだ。
「とりあえずベッドから下りろ!」
「へいへい。役得だと思ったんだけどな~」
覆いかぶさっていたグウェンソードを引っ剥がすと、潤んだ眸をしているレインと目が合ってしまった。明らかに様子が変だ。頬を赤く染めて、熱でもあるのかやけに色香が漂っている気がする。怒りで気づくのが遅れたが、甘い花の蜜のような匂いが鼻腔を擽って落ち着かない。時折、レインの身体から香るものよりも強烈だ。
「……なにがあったんだ」
「見てわかんないのか? このフェロモンで気づかないとか、おまえ、もしかして鈍い?」
「いいから説明しろ!」
「そのまんまだよ。レインに発情期がきた! それだけだ」
「…………ヒート」
「学校で習ったろ? レインはΩだからな」
グウェンソードの言う通り、中等教育の一環で性に関することは習っている。人間には六種類の性があり、α性とβ性とΩ性の男女が存在する。
αは、国家騎士団や王族、貴族の大半を占めており、肉体的にも頑丈で知能も優れ、優秀遺伝子を多く引き継ぐ。まさに生まれながらのエリートだ。両親がαならば高確率でαになるが、α同士だと妊娠する確率は低い。十人中、二人がαとして誕生している。
βは外見や運動能力などすべての値が平凡で目立った特徴もなく、十人中、七人がβとなる。βが出産すると、相手はどの性であれ高確率でβになる。この世にいるのはほぼβだ。
そしてΩは、劣勢遺伝子を引き継ぐとされており、見た目は美しいが華奢だ。頭脳や運動能力はαやβに劣ってしまう。
けれど、Ωにはヒートと呼ばれる期間があり、十八歳から二十歳の間に発現するとされている。一か月から三か月に一度、七日間だけは甘くて濃厚なフェロモンを発し、より強い遺伝子を残そうとαを誘惑する。人類滅亡の危機を乗り越えるために、男でも妊娠可能になった時世なので、種を存続させようという本能なのだろう。
ヒートを起こしたΩにαが近寄ってしまうと、αはラットを引き起こしてしまう。ラット期になれば理性を失い、たかが外れたように一心不乱にΩの身体を貪ってしまう。そのまま避妊せずに性交すると、ほぼ確実に妊娠する。
ヒートになると、誰かと交わることしか考えられなくなってしまうため、Ωは愛玩動物のような扱いを強いられてきた性でもある。生まれてしまえば金銭で売られ、一生、性奴隷として幽閉されるということが、何百年も前にまかり通っていたらしい。
百年ほど前から少しずつΩの人権が認められるようになり、現在では努力をすればレイン――ラザのように、国家騎士団として働くことも可能になっている。十人中、一人しかおらずαよりも希少な存在だ。
(……レインはΩだったのか)
学校で習っていたとはいえ、普段と様子の違うレインを目にして、リオールは人知れずショックを受けていた。けれどそれと同時に、どうしようもない征服欲が心の奥底から湧いてくる。今すぐにでも組み敷いて、支配したくなる。こんな感情は初めてだ。
「――で、どうするんだリオール。初めてのヒートでレインは抑制剤の効きが悪い。慰めてやらないと、外にいるαに襲われかねないぞ?」
苦しそうにベッドの上で身じろぐレインと視線がかち合う。申し訳なさそうに逸らされムッとする。他の誰かとセックスさせるくらいなら、自分が奪ってしまいたい。
「…………俺がやる」
「あーあ、言うと思ったよ。まあリオールならいいか。乱暴にしないでよ? 兄さんをよろしくね」
この場にいるαはリオールとグウェンソードだけだ。ラクセルはβだし実の兄弟なので平気だが、外にいる使用人らはそうとは限らない。早急に誰かが慰める必要がある。
「なあレイン。本当にリオールでいいのか? 俺は他のΩとも経験あるし、なにより上手いぞ?」
「いいから出てってくれ!」
「へいへい、わかったよ。頑張れよ、リオール」
往生際の悪い男にリオールが一喝すると、ラクセルに引っ張られながらグウェンソードは退散した。邪魔されたくないので、すかさず鍵を閉めた。
やけに緊張する。幼い頃とは打って変わり、初等教育を終えてからは背もぐんぐん伸び、少年というよりも青年に一歩近づいた。その急激な成長からか同性・異性を問わずに色目を使われる機会が増えた。次期王位継承者という後ろ盾もあるからだろう。今更、好きだ惚れただの告白されても、散々邪険に扱われた過去があるので、同年代や世代の近いものに対して好意を寄せられても迷惑なだけだった。それゆえ交際したことはない。これが初体験となる。
「……リオール、ごめんね……」
「……なにを言ってる。優しくする……間違ったら教えてくれ」
「……うん。ありがとう」
セックスする寸前にレインが出した条件は二つ。
――首の後ろは噛まないこと。
――必ず避妊すること。
ヒート中のΩの首を、αが噛みながら体内に射精すると、二人は番になってしまう。番になると、そのΩのフェロモンは一人のαにだけ有効となり、他者からは襲われなくなる。
一見、利点のようにも思えるが、恋人や夫婦でもない限りヒート期間中にずっと一緒にいることは難しく、レインの場合は仕事もある。もしも野営中に抑制剤が効かなくなり、ヒートがきてしまえば任務に支障を来たすだろう。
それに、αは一方的に番を解除することができるが、噛まれてしまったΩはそれができない。一生、一人で苦しむことになる。仮にαやβに慰めてもらおうにも、番以外との性的接触は拒絶反応が強く、吐き気を催すほどだと言われている。
避妊は言うまでもなく。義理の兄弟間で子供を作ってしまえば、世間体にも悪く、国王の顔に泥を塗ることになる。養子として引き取られた恩があるため、裏切りたくないようだ。
それを守った十四歳のリオールは、纏っていた衣服をすべて取っ払うと、一思いに義理の兄であるレインの身体を抱いた。お膳立てされたことは癪だったが、初めてをグウェンソードに奪われなくてよかったと、終わってから安堵したのも事実だ。
このときはまだ、リオールの身体が未発達だったためにαのラットが起こることはなく、懸念されていた妊娠はなかった。
しかし、それから五年。抑制剤が効かない場合に性処理を手伝ううちに、当時とはまた違った感情に悩まされるのだった。
レインは初等教育を終え、中等教育の途中で国家騎士団に入団したため、家庭教師に切り替えて日々忙しく過ごしていた。辛うじて夜は一緒に眠れているが、会話はめっきり減ってしまった。面白くなかった。
たまの日曜日くらい、ゆっくり休めとグウェンソードに休暇をねじ込まれたレインから、大衆演劇でも観に行かないかと誘われた。久しぶりだ。約束した待ち合わせ時刻は午後一時。鑑賞したあとは早めに夕食を済ませ、湖畔にあるボートに乗ろうねと笑っていた。
それなのに、城門で待っていてもなかなか姿を現さなかった。急に仕事が入ってしまうことはよくある。だから、城近くに建てられた国家騎士団の本部と宿舎を覗いてから、城内にある三階の私室まで見に行くことにした。すると、慌てた様子のラクセルに呼び止められた。
「あ、いたいた、よかった。あのね、兄さんからの伝言なんだけど、今日はちょっと出かけるのが難しいんだって。だから代わりに僕と行こう」
「――なにかあったのか?」
「別に、ナニモナイヨ?」
「目が泳いでるぞ」
明らかに様子のおかしいラクセルを、リオールは胡乱な眼差しで一瞥した。詳細を言わずに腕を引っ張り、城外へ連れ出そうとするのだ。なにかあったに違いない。それに妙な胸騒ぎもしていた。
(……レインに会ってやる)
そう決意したリオールは、街には向かわず踵を返した。焦ったラクセルが掴んでいた手の力を強めるも、鍛えているので簡単に振り解く。
「もう、だめだって言ってるのに!」
無視してレインの部屋がある三階へ急いだ。後ろからついてくるラクセルは「ああ、どうしよう」としきりに繰り返している。
到着するなり、部屋の前には侍従が待機していた。リオールの姿を見るなり慌てて会釈したものの、ラクセルと同様に視線を逸らされた。後ろめたいことでもあるのだろう。
皆が皆、挙動不審になるので、また負傷したのかもしれない。レインは、十九の若さで三番隊に入隊してから、大小様々な傷が増えた。右足に大きな裂傷を負ったときも、リオールが傍にいると落ち着かないだろうから、一人で休ませろとグウェンソードに締め出されたことがあった。
一緒に寝られない期間は、レインに頼まれたラクセルと同室で寝ることになったので、今回ばかりは断固拒否してやるつもりだ。三歳からほぼ毎晩一緒に寝ていたので、一人にさせることが心配だったようだ。扉の前に護衛がいても、レインは譲ろうとはしなかった。
リオールが中へ入ろうとすると、当然ながら止められてしまった。
「グウェンソード隊長から、今日は誰も中に入れるなと指示されておりますので……」
けれど、立場は国家騎士団の一番隊隊長よりも、王子であり次期後継者でもあるリオールの方が上だ。少し睨むと怯えた様子で退いた。
ノックをせずに扉を開け放つと、そこには思いもよらぬ光景が繰り広げられていた。
「……なにをしている!? グウェンソード!!」
リオールの目に飛び込んできたのは、頬を赤らめているレインに覆いかぶさるグウェンソードの姿だった。なにをしようとしているのか、十四歳だろうともはっきりわかる。
「約束を反故にしてセックスしようとしてたのか……!」
カッと頭に血が上り、咄嗟にグウェンソードの肩を掴んでレインの上から引き剥がす。このまま見過ごすわけにはいかない。怒りを抑えきれず、腸が煮えくり返りそうになる。
「あーあ。やっぱりだめだったか、ラクセル」
「そりゃそうでしょ。こと兄さんに関することで、リオールが妥協することなんてまず奇跡だし、僕には無理だよ!」
「はは、ばれたらしょうがない」
二人の会話から推測すると、秘密裏に結託していたらしい。一体どういうことなのか、今すぐ説明してほしい。このままでは、問答無用に殴りかかってしまいそうだ。
「とりあえずベッドから下りろ!」
「へいへい。役得だと思ったんだけどな~」
覆いかぶさっていたグウェンソードを引っ剥がすと、潤んだ眸をしているレインと目が合ってしまった。明らかに様子が変だ。頬を赤く染めて、熱でもあるのかやけに色香が漂っている気がする。怒りで気づくのが遅れたが、甘い花の蜜のような匂いが鼻腔を擽って落ち着かない。時折、レインの身体から香るものよりも強烈だ。
「……なにがあったんだ」
「見てわかんないのか? このフェロモンで気づかないとか、おまえ、もしかして鈍い?」
「いいから説明しろ!」
「そのまんまだよ。レインに発情期がきた! それだけだ」
「…………ヒート」
「学校で習ったろ? レインはΩだからな」
グウェンソードの言う通り、中等教育の一環で性に関することは習っている。人間には六種類の性があり、α性とβ性とΩ性の男女が存在する。
αは、国家騎士団や王族、貴族の大半を占めており、肉体的にも頑丈で知能も優れ、優秀遺伝子を多く引き継ぐ。まさに生まれながらのエリートだ。両親がαならば高確率でαになるが、α同士だと妊娠する確率は低い。十人中、二人がαとして誕生している。
βは外見や運動能力などすべての値が平凡で目立った特徴もなく、十人中、七人がβとなる。βが出産すると、相手はどの性であれ高確率でβになる。この世にいるのはほぼβだ。
そしてΩは、劣勢遺伝子を引き継ぐとされており、見た目は美しいが華奢だ。頭脳や運動能力はαやβに劣ってしまう。
けれど、Ωにはヒートと呼ばれる期間があり、十八歳から二十歳の間に発現するとされている。一か月から三か月に一度、七日間だけは甘くて濃厚なフェロモンを発し、より強い遺伝子を残そうとαを誘惑する。人類滅亡の危機を乗り越えるために、男でも妊娠可能になった時世なので、種を存続させようという本能なのだろう。
ヒートを起こしたΩにαが近寄ってしまうと、αはラットを引き起こしてしまう。ラット期になれば理性を失い、たかが外れたように一心不乱にΩの身体を貪ってしまう。そのまま避妊せずに性交すると、ほぼ確実に妊娠する。
ヒートになると、誰かと交わることしか考えられなくなってしまうため、Ωは愛玩動物のような扱いを強いられてきた性でもある。生まれてしまえば金銭で売られ、一生、性奴隷として幽閉されるということが、何百年も前にまかり通っていたらしい。
百年ほど前から少しずつΩの人権が認められるようになり、現在では努力をすればレイン――ラザのように、国家騎士団として働くことも可能になっている。十人中、一人しかおらずαよりも希少な存在だ。
(……レインはΩだったのか)
学校で習っていたとはいえ、普段と様子の違うレインを目にして、リオールは人知れずショックを受けていた。けれどそれと同時に、どうしようもない征服欲が心の奥底から湧いてくる。今すぐにでも組み敷いて、支配したくなる。こんな感情は初めてだ。
「――で、どうするんだリオール。初めてのヒートでレインは抑制剤の効きが悪い。慰めてやらないと、外にいるαに襲われかねないぞ?」
苦しそうにベッドの上で身じろぐレインと視線がかち合う。申し訳なさそうに逸らされムッとする。他の誰かとセックスさせるくらいなら、自分が奪ってしまいたい。
「…………俺がやる」
「あーあ、言うと思ったよ。まあリオールならいいか。乱暴にしないでよ? 兄さんをよろしくね」
この場にいるαはリオールとグウェンソードだけだ。ラクセルはβだし実の兄弟なので平気だが、外にいる使用人らはそうとは限らない。早急に誰かが慰める必要がある。
「なあレイン。本当にリオールでいいのか? 俺は他のΩとも経験あるし、なにより上手いぞ?」
「いいから出てってくれ!」
「へいへい、わかったよ。頑張れよ、リオール」
往生際の悪い男にリオールが一喝すると、ラクセルに引っ張られながらグウェンソードは退散した。邪魔されたくないので、すかさず鍵を閉めた。
やけに緊張する。幼い頃とは打って変わり、初等教育を終えてからは背もぐんぐん伸び、少年というよりも青年に一歩近づいた。その急激な成長からか同性・異性を問わずに色目を使われる機会が増えた。次期王位継承者という後ろ盾もあるからだろう。今更、好きだ惚れただの告白されても、散々邪険に扱われた過去があるので、同年代や世代の近いものに対して好意を寄せられても迷惑なだけだった。それゆえ交際したことはない。これが初体験となる。
「……リオール、ごめんね……」
「……なにを言ってる。優しくする……間違ったら教えてくれ」
「……うん。ありがとう」
セックスする寸前にレインが出した条件は二つ。
――首の後ろは噛まないこと。
――必ず避妊すること。
ヒート中のΩの首を、αが噛みながら体内に射精すると、二人は番になってしまう。番になると、そのΩのフェロモンは一人のαにだけ有効となり、他者からは襲われなくなる。
一見、利点のようにも思えるが、恋人や夫婦でもない限りヒート期間中にずっと一緒にいることは難しく、レインの場合は仕事もある。もしも野営中に抑制剤が効かなくなり、ヒートがきてしまえば任務に支障を来たすだろう。
それに、αは一方的に番を解除することができるが、噛まれてしまったΩはそれができない。一生、一人で苦しむことになる。仮にαやβに慰めてもらおうにも、番以外との性的接触は拒絶反応が強く、吐き気を催すほどだと言われている。
避妊は言うまでもなく。義理の兄弟間で子供を作ってしまえば、世間体にも悪く、国王の顔に泥を塗ることになる。養子として引き取られた恩があるため、裏切りたくないようだ。
それを守った十四歳のリオールは、纏っていた衣服をすべて取っ払うと、一思いに義理の兄であるレインの身体を抱いた。お膳立てされたことは癪だったが、初めてをグウェンソードに奪われなくてよかったと、終わってから安堵したのも事実だ。
このときはまだ、リオールの身体が未発達だったためにαのラットが起こることはなく、懸念されていた妊娠はなかった。
しかし、それから五年。抑制剤が効かない場合に性処理を手伝ううちに、当時とはまた違った感情に悩まされるのだった。
11
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
貧乏子爵のオメガ令息は、王子妃候補になりたくない
こたま 療養中
BL
山あいの田舎で、子爵とは名ばかりの殆ど農家な仲良し一家で育ったラリー。男オメガで貧乏子爵。このまま実家で生きていくつもりであったが。王から未婚の貴族オメガにはすべからく王子妃候補の選定のため王宮に集うようお達しが出た。行きたくないしお金も無い。辞退するよう手紙を書いたのに、近くに遠征している騎士団が帰る時、迎えに行って一緒に連れていくと連絡があった。断れないの?高貴なお嬢様にイジメられない?不安だらけのラリーを迎えに来たのは美丈夫な騎士のニールだった。
『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―
なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。
――はずだった。
目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。
時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。
愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。
これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。
「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、
年上αの騎士と本物の愛を掴みます。
全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
出戻り王子が幸せになるまで
あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
初恋の相手と政略結婚した主人公セフィラだが、相手には愛人ながら本命がいたことを知る。追及した結果、離縁されることになり、母国に出戻ることに。けれど、バツイチになったせいか父王に厄介払いされ、後宮から追い出されてしまう。王都の下町で暮らし始めるが、ふと訪れた先の母校で幼馴染であるフレンシスと再会。事情を話すと、突然求婚される。
一途な幼馴染×強がり出戻り王子のお話です。
※他サイトにも掲載しております。
オメガはオメガらしく生きろなんて耐えられない
子犬一 はぁて
BL
「オメガはオメガらしく生きろ」
家を追われオメガ寮で育ったΩは、見合いの席で名家の年上αに身請けされる。
無骨だが優しく、Ωとしてではなく一人の人間として扱ってくれる彼に初めて恋をした。
しかし幸せな日々は突然終わり、二人は別れることになる。
5年後、雪の夜。彼と再会する。
「もう離さない」
再び抱きしめられたら、僕はもうこの人の傍にいることが自分の幸せなんだと気づいた。
彼は温かい手のひらを持つ人だった。
身分差×年上アルファ×溺愛再会BL短編。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる