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八・新たな火種と再会②
しおりを挟む隣国のアルトハウゼンまでは馬車で片道五時間かかる。護衛として任命されたのは、急だったこともあり二番隊にいる数人だ。レインがラザだと知らない隊員が選ばれた。声でばれてしまいそうだが、レインとはあまり接触する機会がないため平気だろう。
移動中の様子を窺うと、リオールはずっと不機嫌なままでレインが気を使って話題を振っても、返事はあったりなかったりとまちまちだった。ローズマリーの住む、ハワード公爵邸に向かっていたとき以上に表情が読めないため、レインもどうすればいいのか悩んでいた。
領地をしばらく進むと、車窓からは一面のバラ園が広がりはじめ、農夫が剪定しているのか枝きりばさみ片手に歩いている。切り売りもしているようで、観光客らしき親子が楽しそうに積んでいる。
道なりに走っていた馬車はやがて停車し、目的地に到着したのか運転手が扉を開く。緊張した面持ちで地に降り立つと、レインやリオールが住む古城よりも真新しく頑丈そうな城門の前だった。案内されるままに潜ると、赤煉瓦を積み上げたようなシンプルな外壁をしている城が眼前に広がる。ゴシック建築を見慣れているせいか、洗練されたオーソドックスな城の佇まいを目にするのは久しぶりだ。失礼ながらむかし読んだファンタジー小説に出てくる、魔王の居城のようだなとレインは感嘆の声を漏らす。
「ようこそ来てくれたね、レインくん、リオールくん」
三階にある王座まで連れられると、アルフォンス国王が二人の訪問を歓迎してくれた。この前、挨拶ができなかったことを詫びてから、自国から持参した土産のワインを差し出す。
「我が国はどうだい? レインくん」
「そうですね、バラ園がいくつもあって綺麗だなと感激しました。我が国ではここまでの規模のものはありません」
「うんうん。私もいくつか個人的に所有しているから、あとで見学してみるかい?」
「ええ、ぜひ!」
当たり障りのない会話を繰り広げる。リオールはと言うと、黙ったまま談笑に参加することなく、隣で仏頂面のまま突っ立っている。こんなに愛想が悪いのに、外交などよく任命されるなと首を傾げたくなるほどだ。
弟の非礼を詫びながら、紅茶を淹れるというアルフォンスに誘導され、ソファとテーブルの置かれた応接間に招かれた。リオールと並んで腰をおろしていると、国王が柏手を二回打ち、奥からワゴンを押してくる黒髪の青年とともに、きちんとした身なりの少年が姿を現す。
「そちらは……?」
「ああ、我が弟であり第二王子のアルスと、見習い執事のリカルドだ。挨拶しなさい」
蝶ネクタイの似合う王子は十四、五歳のまだあどけなさ残る風貌をしていた。アルスは小さく会釈をしてから、国王である兄の隣に座る。一方、ワゴンを押している執事見習いの青年は、ぴったりとした燕尾服を上品に着こなし、ティーカップをセットしている。顔を確認しようとしたレインは、視界に飛び込むリカルドという名の青年の姿を目にした途端、雷に打たれたような衝撃を受けて硬直した。口を開けたまま身動きが取れない。
年齢は二十歳前後で背も高く、黒髪だというのに、視線が合ってもにこりともしないのに、なぜか釘づけになって逸らせなかった。目元がじんわりと熱くなる。
(────うそ、なんで、そんなッ)
レインに凝視されても気にならないのか、人数分の紅茶を注いでいる。仏頂面のリオールとは異なり、無表情だというのにちっとも気にならなかった。
(目の前にいるんだ……五年間、探したラクセルが……!)
そう思うと、逸る気持ちが抑えられなかった。今すぐ名前を呼びたい。話しかけたい。レインが口を開こうとした瞬間。どういうわけか、上半身からは力が抜けてしまい、身体を支えられなくなってしまった。
「…………レイン!?」
せっかくラクセルらしき人物を見つけたというのに、尋ねる前に急激な眠気に襲われた。隣に座っていたリオールと、執事見習いであるリカルドが、レインが真横に崩れ落ちるよりも先に身体を支えた。
「大丈夫かい、レインくん!」
アルフォンス国王が慌ててテーブルに身を乗り出す。
「すみませんが、兄を少し休ませてもいいですか?」
「ああ、部屋は用意してある。リカルド、案内をお願いしてもいいかな?」
「わかりました」
せっかく、リカルドと呼ばれる青年が至近距離で声を発したというのに、レインはゆっくりと瞼を閉じた。
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