眉目清秀な劇団座長は、宿屋の平凡娘になぜか弱い。

ゆずまめ鯉

文字の大きさ
53 / 59
番外編・央央アタック大作戦

六.危機【1】

しおりを挟む
 つい先日、琳家まで央央を尋ねてきた婦人を占った結果、またまた次の日には的中してしまい、久方ぶりに恋人ができたとお礼を告げられた。手相と生年月日から、恋愛に関する運気が高まっていると央央が解釈しただけで、婦人も琳有も元々は魅力的な人物だ。
 そんな彼女が友人らに宣伝したことから、琳家には央央の占い目当てで訪れる者が日に日に増え、困ってしまった琳有は宿屋の居場所を教えてしまい、連日、宿屋に押し寄せるようになってしまった。女将も驚いたほどだ。けれども、女将には商魂があったので、央央が気に入って食べた料理として、串焼きや包子を勧めたところ、これが飛ぶように売れたので却って喜ばれた。その点はよかった。
 凄腕の易者は、もうすぐ帝都へ帰ってしまうということで、付加価値がさらについたようだ。我先にと行列ができていた。
 午前中に訪問してきたのは、二十代後半になっても息子にいい人が現れず、見合いをするも振られてしまい、後継者問題に直面しているという相談内容だった。実際に本人を連れてきてもらい、人相と手相、そして出生日時を駆使して彼の性格を把握し、釣り合いの取れるような最適なお見合い相手を助言した。上手くいくか保障はないものの、心当たりはあると大金を払い満足気に帰っていった。
 占ったすべてが的中するわけではない。嘘つきだと返金を求められたことも、一度や二度ではない。だから、定期的に占っている帝都とは違い、霜北府では楓流軒の住所を伝え、占った結果、なにか気になることがあれば書簡を出すようにと名刺を渡している。

「……ここでいいのかしら?」

 午前中、他の夫人の相談の最中、前金として五百文もの大金と住所を置いて行った老婆がいたらしい。央央は姿を見ていなかったが、女将が教えてくれた。
 さすがに依頼内容も知らずにそんな大金、受け取る理由がないため、本人へ返しに行こうと住所を頼りに宿屋を出発した。町外れにいる農夫に紙を見せ、場所を尋ねると、霜北府を出て道なりに進んだ先にある古びた一軒家だという。そんなところに住む老婆が、わざわざ霜北府の宿屋に来て、ぽんと五百文という大金を置いて立ち去るのはなんだか妙だ。後々、面倒ごとに巻き込まれないとも限らないため、相談内容を事前に言えない人や、挙動不審な人からの相談は一切引き受けていない。
 晋高に相談するべきか悩んだけれど、今日は用事があるらしく、遠くから央央を見守っているのは伯父だ。楽天的な伯父ならば、きっと気のせいだと背中を押しそうだと思った央央は、相談することなく金を返却することにした。
 町の外れで聞いた通り、道なりにしばらく歩くと古びた一軒家がそこにはあった。ところが、外観がぼろぼろすぎて、とてもじゃないけれど人が住んでいるようには思えなかった。
 土地の値段が比較的安価な町の外で暮らすには、治安や防犯の都合で、七軒も八軒も民家を密集させ、小さな集落を形成するものだ。夜盗が現れても、助け合うためだ。それなのに、ぽつんと一軒しか見当たらないので、央央は不思議そうに首を傾げる。

(……こんな建物、来るときにあったかしら?)

 紺色の幌に覆われた馬車に揺られていたが、外の情景を眺めた際に、古びた一軒家を見た記憶はなかった。景色を眺めるのが好きで央央は道中、暇があれば前方や後方を見ていた。
 とりあえず、家の外から声をかけ、老婆らしき声がするのならば、五百文を置いて帰ろう。央央は小さく頷く。

「ごめんください。誰かいますか?」

 外から央央が何度か声をかけても、中からは一切、音がしなかった。扉を開けるまで時間がかかるだろうかと待ってみたものの、しんと静まり返っていた。本当に人が住んでいるのかどうかも不明だ。このまま金を置いて帰るか、日を改めるか、央央は頭を悩ませる。
 明日の朝には宿屋を出発し、帝都に向けて移動する予定だ。その途中、もう一度立ち寄り、やっぱりいなかった場合は五百文をどうするべきか、央央には考えなければならないことが多すぎる。

(……仕方ない。少し待ってみよう)

 不在ならば買い物に出かけている線も捨てきれない。まだ日中で暗くならないので、一時辰ほど待ってみることにした。
 ところが。央央が家の前でしゃがみ込んでからそれほど経たずに「ガシャーン」と、家屋の裏から割れるような物音がした。

「え、なに!?」

 確認するべきか、諦めて帰るべきか。

(……もしも中で倒れた音だったら、大変よね……?)

 急病かなにかで家主が転倒した可能性を捨てきれず、央央は一軒家の裏から様子を窺うことにした。この時の判断を、後から悔やむことになるとは思いもよらなかった。
 裏側に移動して家屋の様子を見ようとすると、そこにいたのは刀を手にした大男だった。数日前に、央央を乗せた馬車を襲った匪賊だ。先ほどまでは誰もいなかった裏庭に、五人の男の姿があった。隠れていたのかもしれない。

「ひっ……!」

 背筋がゾッとしてくる。刀を振りかざして硝子を割ったらしく、辺りには散っていた。
 今すぐ逃げなければ──。
 粉薬は持参しているものの、風向きが安定していない日は使えない。逃げるしかない。

「俺の嫁、見ィつけた!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛

春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。 2/26 番外編を投稿しました。 読んでいただけると嬉しいです。 思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。 とてもとてもありがとうございます!!   

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...