剣と魔法のゲーム世界に閉じ込められた私は、オリジナル格闘ジョブ【11拳(イレブンフィスト)】でクリア目指して勝ち上がる

五月雨前線

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第1章 アラーテ立志編

第7話:たこ焼き

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 コヤの言動から、なんとなく初心者感が漂っていることは感じていた。
 ニブルヘイムダンジョンの最初のボスの名前、というMSOプレイヤーにとって常識ともいえる情報を知らなかったし。

 しかし、まさかコヤのプレイ開始が今日から、だったなんて!
 ゲーム開始僅か10分でデータリセットに巻き込まれた少女だなんて、予想出来るわけないじゃん!
 
「落ち着いて。もう1回基礎の動きを反復してみよう」

「嫌や! ウチは難しいことを考えるのが苦手やねん! 難しくてしょーもないから練習はもうせぇへん!」

 コヤはリストの言葉にそう返し、ぷいっとそっぽを向いてしまった。投げ捨てた剣を拾おうとすらしない。

「うーん……どうしよう……」

 さしものクールでイケメンなリストも、コヤの態度に手を焼いているようだ。

 MSOの世界では、基本的にプレイヤーは武器を装備する(あ、私は例外ね。11拳だから)。
 剣や刀、槍にハンマーや杖など武器の種類は多種多様。
 剣と魔法の世界、と言いつつ剣以外の武器もちゃんと揃っているのがMSOの人気の理由の1つとも言われている。

 そして、全ての武器にはベースとなる動きがある。型、と表現した方が分かりやすいだろうか。
 型通りに武器や体を動かすことでシステムのアシストが効果的に発動し、常人離れした動きが簡単に再現され、バトルを優位に進めることが出来る。
 というか、強いモンスターとバトルをする場合、アシストに逆らう動きをするのは自殺行為に近い。これはMSO内の殆どのプレイヤーの共通認識といえる。

 型を崩してはいけない、というわけでは決してないのだが、野球や卓球のフォームが基本の型をベースにしているように、型通りに体を動かした方が楽だし戦いやすい。
 そんな極めて重要な型だが、実は最初に会得する上では感覚的な部分が重要になることが多い。

 「どうやって型を会得したの?」と聞かれても「なんとなく」としか答えようがない。補助輪なしで自転車に乗る感覚を掴む時と同様、感覚を掴む以外道はないと私は思う。
 データリセット後、私がリーフスライムやシルバータイガーといきなり戦えたのも、無意識の内に11拳の型の感覚を掴んでいたからだと思うし。
 まあ、私が空手と合気道を長年やってきたのも大きいと思うけど。

 そして、聞くところによると最初の型の会得でつまずくプレイヤーは意外と多いらしい。
 とはいえ、コヤは多分大丈夫だろう、と思ってたんだけどね……。

「コヤ、大丈夫だよ。今度は出来るって」

「練習はもうせぇへんって言うたやん!」

 パーティーのリーダーであるはずのリストに声をかけられても、コヤは態度を崩さない。
 あ、さてはこの子、我が強いタイプだな?

「それは困るよ。これからコヤは僕たちと一緒に戦っていくんだから、型は身につけてもらわないと」

「戦うんはかまわへんけど練習は嫌や! もう訳分かれへんねんもん!」

「練習は嫌、って……参ったなぁ」

 リストは私に視線を向け、お手上げ、とばかりに両手の掌を上に向けた。

 困った。どうすればいいんだろう?

 いくらコヤが聖騎士という強力なジョブを授かったとはいえ、基本の型が身についていない状態ではモンスターと戦うことなんて出来やしない。
 うーん、コヤは感覚派のはずなんだけどなぁ……。

 このフィールドに向かう途中、コヤが私たちにべらべらと喋っていた内容を思い返す。
 コヤはどうやら、現実の世界では勉強は苦手な一方で運動は大得意だったらしい。あらゆるスポーツを器用にこなし、多くの運動部から勧誘された、と自慢げに話していた。

(その話の中でコヤがJKだって分かっちゃったのはここだけの秘密。MSOでは、現実世界の情報を詮索するのは基本的に御法度だからね!)

 コヤは運動が大得意で難しいことを考えるのが苦手。ならば、理論派ではなく感覚派としか思えない。
 感覚派の人は、きっかけさえ掴めばすぐに上達出来るはずなんだけど……難しいなぁ。

 ……あ、そうだ。こんなのはどうだろう?

「コヤ、ちょっといい?」

「何やねん! 練習はせぇへんから!」

「違う違う、別の話。コヤ、もしかして日本の大阪出身なんじゃない? あ、リアルの話になるから、嫌だったらやめるけど」

 急にどうした、とばかりにリストが訝しげな視線を向けてくる。
 大丈夫だから見てて、とばかりに私はリストにウインクを返した。

「え? たしかにウチは大阪出身やけど、何で分かるん?」

 案の定、コヤは僅かに態度を軟化させ、私に視線を向けた。
 よしよし、この調子だ。

「その喋り方ですぐに分かるよ。大阪弁でしょ? MSOでの喋り方を大阪弁に設定するくらい、コヤは大阪が好きなのかな、って気になっちゃって」

 MSOは、世界中の誰もが快適に遊べるよう、あらゆる言語を基本言語に設定出来る。
 例えば私が日本語、リストが英語を基本言語に設定していた場合、私が日本語で喋るとそれがすぐ英語に翻訳されてリストに伝わる。
 リストが英語を喋る時も同様に翻訳が行われる。このシステムによって、MSO内のあらゆるプレイヤーは言語の違いを気にせず交流が出来るというわけだ。

 そしてMSOはさらに凝っていて、日本語の中でも標準語や方言などを細かく選んで使用出来る。
 標準語ではなくわざわざ大阪弁をチョイスしたコヤは、地元愛に溢れているのではないかと私は踏んでいた。

「好きに決まっとるやん! 大阪はウチを育ててくれた場所やさかい! 大阪は日本の首都! 日本の聖地! 大阪こそが日本一の都道府県やで!」

 コヤは破顔し、さも嬉しそうに言った。

「そ、そうなんだ……」

 やや思想が強い。だが、コヤが大阪を愛していることはよく分かった。それなら……

「コヤ、たこ焼きは好き? 大阪といったらたこ焼きだよね」

「当たり前やん! ウチは3度の飯よりたこ焼きがめっちゃ好きやねん!」

「そっか。ならさ、難しいことを考えず、たこ焼きをイメージして型を練習してみたらどうかな?」

「何を言うてんねん?」

「たこ焼きって生地を流して、たこと天かすを入れて、生地を区切って、って流れがあるでしょ? 色々な動きを連動させてるよね。たこ焼きを作る際の自然な流れとか、動きの連動を意識して体を動かせば、自然と型が身につくんじゃないかな」

 何じゃそれ、とばかりにリストはあんぐりと口を開けている。
 今、即興で思いついた説明だ。さて、効果はどうだろう?

「お……おおお! なるほど、なるほどな! そういうことか! なんか分かった気ぃするわ!」

 コヤは地面に落ちていた剣を拾い上げ、構えた。

「たこ焼き……天かす……紅しょうが……」

 ぶつぶつ呟きながら、コヤはひゅんひゅんと剣を操った。

 ……う、動きが格段に良くなってる!!!

 すごい! さっきとはまるで別人だ! これがたこ焼きパワーなの!?

「アラーテ、こないな感じで合ってるんかな?」

「合ってる! めちゃくちゃ合ってる! すごいよコヤ! 偉いよ!」

 思わず手放しの賞賛が私の口から飛び出す。

「えへへ……そこまで言われるとなんか照れてまうな。なるほど、こういう感じでやったらよかったんやな。やっと感覚が掴めたわ。もう少し練習してええかな?」

「勿論! 今ここで全部の型を体に叩き込んじゃって! 感覚を掴んだコヤならすぐに出来るよ!」

「分かった、頑張るわ!」

 コヤは満面の笑みで返し、再び剣を振り回し始めた。

 ……うん、いい感じだ。確実に感覚を掴んでる。この調子なら、基礎を全て身につけるのにそこまで時間はかからないだろう。

「アラーテ、これはどういうマジックなの?」

 様子を見守っていたリストが私に声をかけてきた。
 ふふん、と私は自慢げに胸を張る。

「マジックじゃないよ。少し機転を利かせただけ」

「機転を利かせる……すごいね、タコヤキを利用するなんて、僕には出来ない芸当だよ。アラーテは本当にすごい」

「いやあ、そんな……」

 大好きなリストに褒められ、思わず私の頬が緩んだ。

 やった~リストに褒められた!! 嬉しい~!!

 その後、時折アドバイスをしながら私とリストは15分ほどコヤの練習を見守った。
 コヤは天性の感覚派なのか、15分ほどでほぼ全ての型をマスターしていた。ついさっきまで苦戦していたことを考えると、とんでもない進歩だ。

 コヤの苦労を労おうと、一歩足を踏み出したその時。

 がさがさ、と草が揺れる音。私は音のする方へ視線を向け、息を呑んだ。

 草むらの影には、リーフスライムとほぼ同じ形状で、金属のボディを煌めかせる一体のモンスターがいた。

 あれは……経験値稼ぎの御用達モンスター、【メタリックスライム】だっ!!!

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