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第1章 アラーテ立志編
第9話:常識に囚われない発想や行動
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「きゅるわああっ!?」
まさか目の前に剣が突き刺さるとは思ってなかったのか、メタスラは驚いたように声を上げ、思い切り後ろに飛び退いた。
飛び退いた先にいるのは……私!
大チャンス!
「せりゃあああっ!!!!!」
気合い一閃、私は向かってきたメタスラめがけて渾身の正拳突きを放った。
ごん、という重い音が響く。
「いってええええええええ!!!!!」
「きゅるわあ……」
メタスラをぶん殴った痛みに私が悶える中、最後の一撃を喰らったメタスラは落下し、消滅した。
「すごいよアラーテ!」
「やったやん!」
リストとコヤが駆け寄ってきた。私は痛みに耐えながら、「やったね……」と苦笑いを返す。
ちくしょー! さっきショップで買ったノーマルフィストグローブとやら、装備してるのに全然痛みを和らげてくれないじゃん!
てか、よくよく考えたらあれだけ硬そうなメタスラをぶん殴った私、ヤバすぎ!
あーもう何なの11拳って(泣)
その時、でれでれーん、というレベルアップのBGMが鳴り響いた。
「この音は何なん?」
「レベルアップの音だよ。メタスラを倒して沢山経験値を手に入れたからね。そうか、コヤは初めてのレベルアップか。ウィンドウを開いてごらん」
「分かったわ!」
コヤはウィンドウを開き、「おおおおお!」と嬉しそうに声を上げた。
「一気にレベル12まで上がっとるやん!」
「すごいでしょ? だからなんとしてもメタスラを倒したかったんだよ。アラーテ、ありがとう。最後の一撃を入れてくれて」
リストは私に朗らかな笑みを向けてそう言った。
あ”あ”あ”あ“あ”その笑顔やばい! 反則! イケメン! 大好き!
「いやあそんな……というか、私よりもコヤの方がすごいと思うよ。コヤが剣を投げてメタスラの動きを止めてくれなかったら、絶対倒せなかったと思うから」
これは本心だった。コヤのあの行動が無ければ、確実にメタスラに逃げられていたはずだ。
「ウチとしては、そないに大したことをしたつもりはないんやけどなぁ」
「いやいや、大したことだよ。私やリストじゃ、剣を投げるなんて発想は思いついてなかった気がする。というか、そもそもMSOの世界で剣を投げてどうこうできるって知らなかったし。何であんな行動思いついたの?」
うーん、と言ってコヤは首を捻った。
「咄嗟に思いついた、としか言われへんなぁ。ウチはちっさい頃から野球をやっとるから、肩に自信があったのもあるけど」
「ふーん……」
咄嗟に思いついた、かぁ……。
あ、もしかして、MSO初心者で先入観が一切ないコヤだから、剣をぶん投げるなんて奇想天外な行動を思いついたのかも?
MSOは某有名バトルアクションゲームやRPGゲームの要素を多分に踏襲しており、私を含む重度のゲーム好きは基本的にそれらのゲームはプレイ済みなため、感覚が似ていることからMSOを楽しみやすい、順応しやすいという側面は強い。
しかし今のコヤの行動を見て、それはデメリットにもなりうる、と気付いた。
つまり、元々プレイしていたゲームの感覚や常識に囚われてしまっているのだ。
アイテムを投げるのではなく、持っている武器(本来投げることを想定されてないやつ)をぶん投げてどうこうするなんて、今までプレイしてきたゲームでは出来なかった。
今後もコヤの常識に囚われない発想や行動に助けられるかもしれないな、と私は何となく思った。
「ステータスも上がっとるやん。なるほどな、MSOってこないな感じなんやなぁ。楽しいやん!」
「楽しいと感じてくれたなら何よりだよ。僕にステータスを見せてもらってもいい?」
「ええで!」
リストはコヤに近づき、コヤのウィンドウを覗き込んだ。
あ、そうだ、私もレベルアップしたはず。ステータスを見てみよ。
私は左手の人差し指をさっと振り、ウィンドウを出現させた。
【LVアップ! LV6→LV19
LV19/1000
HP:368(+201)
SP:76 (+41)
MP:0 (+0)
物理攻撃力:97(+56)
魔法攻撃力:19(+4)
物理防御力:81(+51)
魔法防御力:76(+49)
素早さ :95(+51)
筋力 :88(+49)
運 :20(+5)
知力 :29(+11)
スキルポイント12 を獲得しました
新しいスキル『水拳』を習得しました
スキルポイントを割り振りますか?
はい/いいえ 】
「おおお……!」
上がったステータスを確認し、私は思わず声を漏らした。
レベルアップの瞬間は、ゲーム好きにとってはたまらない瞬間でもある。
そして、さすが経験値稼ぎの御用達モンスター、メタスラ。倒せば一気にレベルが上昇する。
やっぱり11拳は、物理攻撃力と素早さ、筋力の伸びがいいジョブなんだなぁ。
知力が全然伸びてないのはちょっとだけムカつくけどね!
言っておくけど私は馬鹿じゃないから! そこそこ偏差値の高い私立大学に通ってるんだからね!
「特にコヤに拘りが無ければ、獲得したスキルポイントは全て『聖騎士』のスキルに割り振った方がいいと僕は思う。強力なスキル攻撃を幾つも覚えられるからね」
「ふーん……この『物理攻撃力アップLV1』ってスキルには割り振らんくてええん?」
リストとコヤの話し声が聞こえ、私は2人に視線を向けた。どうやらスキルポイントの振り方について話し合っているようだ。
「スキルポイントの割り振り方は人それぞれだけど、物理攻撃力は武器を強化したり守護札を装備したり、バフの魔法をかけたりしても上げられるからね。それよりも1つでも多くスキル攻撃を覚えられるようにした方がいいと思うな。アラーテはどう思う?」
「私も同意見。聖騎士の真骨頂は強力なスキル攻撃だし。あ、あと、たしか聖騎士に100ポイント振ればHP自動回復の特性がもらえるんじゃなかったっけ」
「あーそうだった。だったら尚のこと聖騎士に振った方がいいね」
HP自動回復は、読んで字の如くHPを自動で一定の割合回復する、とても強力な特性だ。
絶対にHPがゼロに出来ないこの状況を考えても、HP自動回復は習得しておいた方がいいと思う。
「よう分かれへんけど、取り敢えず聖騎士に全部振ったらいいんやね! 今すぐやるわ! えーっと、スキルポイントの割り振りは……」
コヤにスキルポイントの割り振り方を教えようとしたその時、がさがさ、と遠くの草むらが揺れた。
草むらの影には、光を反射して輝きを放つメタリックなボディ。
メタスラだっ!!!
興奮を抑えながら私はコヤとリストに視線を向けた。
コヤとリストもメタスラの出現を察したようで、アイテムボックスを操作してノーマルストーンを発現させた。
「あ、まずい……!」
私は思わず呟いた。メタスラがよたよたと移動を始めてしまったのだ。
「どないすんの? さっきみたいに3方向から取り囲むのは難しいんやあれへん?」
「うん。でも折角メタスラが出現したんだから、見逃すのは勿体ない。取り敢えずノーマルストーンを当てて、後は追いかけて意地でもあと一撃入れよう」
リストはそう言い、ノーマルストーンを握る手に力を込めた。
勝算はかなり低いだろうが、やるしかない。
私、リスト、コヤはタイミングを合わせ、思い切りノーマルストーンを投げた。それとほぼ同時に私は勢いよく駆け出した。
「きゅわあああっ!?」
ノーマルストーンが命中し、攻撃を察知したメタスラが案の定逃走を図る。私は全速力でメタスラを追いかけた。
あ、このメタスラ、さっきのやつと比べて少し動きが遅い!
MSOの世界では無限にも等しいモンスターが出現するが、性能は一律ではなく、同じモンスターでも性能に個体差がある。
チャンス! 頑張ればあと一撃入れられる!
「メタスラ待てえええええ!!!!!」
「きゅるわああああああああ!!!!!」
私とメタスラの鬼ごっこが始まった。後ろからリストとコヤの叫び声が聞こえるが、振り返る余裕はない。
「おりゃああっ!!!」
私は素早くウィンドウを操作し、ノーマルストーンを発現させて投げたのだが、これはぎりぎりでかわされてしまった。
「くそっ……! やっぱりメタスラ、速いっ……!」
全速力で追跡しているものの、さすがは逃げのスペシャリスト、少しずつ離されてしまう。
無我夢中で追いかけたのだが、最終的には加速したメタスラについていくことが出来ず、振り切られてしまった。
「はあ……! はあ……! 逃した……くそっ……!」
私はその場で両膝をつき、大きく息を吸い吐いして乱れた呼吸を整える。
MSOでは一応スタミナの概念があり、ずっと全速力で走り続けると今みたいにスタミナ切れを起こしてしまう。
強いモンスターとの戦いの中でスタミナ切れを起こしてしまうのは致命的なため、スタミナ管理もまた重要なテクニックの1つだ。
「折角の経験値が……って、あれ? ここどこ……?」
呼吸が整った私は、周囲に視線を向けて呟いた。
メタスラを追いかけている内に知らない場所へ辿り着いてしまったようだ。
目の前には綺麗な青色の水で満たされた湖、さらに両方向には湖に沿った道が広がっている。
「はあ……なんか疲れちゃったなぁ」
私は湖に近寄り、湖面を覗き込んだ。
茶色がかった髪色のショートボブ、卵形の顔、アイドルかと見紛うほど整った顔立ち、ぱっちりと大きな茶色の瞳。
見事な二重瞼、すっと通った鼻筋、桜色の唇、均整の取れた引き締まった体。
決して大きすぎず、しかし小さくはない胸の膨らみ(私の理想はDカップだから! ここ重要!)。
そして、纏う防具はノーマルファイターシリーズ一式、装備しているのはノーマルフィストグローブ。
つまり、黒いカンフー服を纏った、ナイスバディの超絶美女。
「つくづく現実の私とかけ離れてるよなぁ……」
MSOの世界でそんなことを考えるのはナンセンスだとは思いつつも、ついそう考えて苦笑を浮かべてしまう。
……ああ、私、本当にMSOから出られなくなっちゃったんだぁ……。
大学通えないじゃん。単位落としちゃうよ。留年は嫌だなぁ……。
お父さんとお母さんはきっと悲しんでるよね。一人娘がゲームの世界に囚われちゃったなんて知ったら……。
「これからどうなるんだろう……」
私は呟き、その場に座り込んだ。
脱出を叶えるための手段は2つ。
ラスボスのインフィニティドラゴンを討伐すること、もしくはこの世界のどこかに潜んでいるウイルスの開発者であるプレイヤーを殺害すること。
謎の男の言葉が脳裏に蘇る。
インフィニティドラゴンの討伐には……時間がかかるだろう。最短でもゲーム内時間で1年はかかると私は思ってる。
なら、ウイルスの開発者であるプレイヤーを殺すのが手っ取り早い? 殺すってどうやって? ダンジョンエリアで無理やり1on1を挑んで殺すってこと?
……ていうか、そもそも、誰がウイルス開発者なのか分からなくない?
「……こわ」
背筋に冷たいものを感じ、私は思わず呟いた。
そうだ、誰が開発者か分からないじゃないか。見た目は善人ぶっていても、中身はウイルスを開発した黒幕、ってパターンもあるわけでしょ?
例えば、今パーティーを組んでいるリストやコヤが黒幕の可能性も……
「そんなわけ……ないじゃんっっ!!!」
私は叫び、意味もなく自分の腿を拳でぶっ叩いた。
はああ、と私は盛大にため息をつく。
駄目だ。こんなことを考えていると確実に気が滅入る。
考えてもしょうがないことは考えないようにしよう。考えすぎちゃったら、隕石が落ちてくるから、と考えて外に出ない人と同じだ。
考えない考えない!
「あ、そうだ、2人にメッセージを……」
自分の位置情報をリストとコヤに共有しようと、ウィンドウを操作しようとしたその時。
殺気を感じ、私は起き上がると同時にファイティングポーズをとった。
「しいいい……」
モンスターの低い鳴き声が響く。
藍色のメタリックなボディを見せつけるように、3体のモンスターが私を取り囲んでいた。い、いつの間に……。
Cランクモンスター【アイアンカマキリ】。巨大なカマキリのようなモンスターで、物理攻撃にめっぽう強く、魔法攻撃にめっぽう弱いという極端な性能で有名だ。
そして私は11拳。ゴリゴリの物理アタッカー。
……あれ、これけっこうまずくない!?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
お気に入りの追加やいいねで応援していただけると泣いて喜びます!
執筆のモチベーションに繋がりますので、どうかよろしくお願いします!
まさか目の前に剣が突き刺さるとは思ってなかったのか、メタスラは驚いたように声を上げ、思い切り後ろに飛び退いた。
飛び退いた先にいるのは……私!
大チャンス!
「せりゃあああっ!!!!!」
気合い一閃、私は向かってきたメタスラめがけて渾身の正拳突きを放った。
ごん、という重い音が響く。
「いってええええええええ!!!!!」
「きゅるわあ……」
メタスラをぶん殴った痛みに私が悶える中、最後の一撃を喰らったメタスラは落下し、消滅した。
「すごいよアラーテ!」
「やったやん!」
リストとコヤが駆け寄ってきた。私は痛みに耐えながら、「やったね……」と苦笑いを返す。
ちくしょー! さっきショップで買ったノーマルフィストグローブとやら、装備してるのに全然痛みを和らげてくれないじゃん!
てか、よくよく考えたらあれだけ硬そうなメタスラをぶん殴った私、ヤバすぎ!
あーもう何なの11拳って(泣)
その時、でれでれーん、というレベルアップのBGMが鳴り響いた。
「この音は何なん?」
「レベルアップの音だよ。メタスラを倒して沢山経験値を手に入れたからね。そうか、コヤは初めてのレベルアップか。ウィンドウを開いてごらん」
「分かったわ!」
コヤはウィンドウを開き、「おおおおお!」と嬉しそうに声を上げた。
「一気にレベル12まで上がっとるやん!」
「すごいでしょ? だからなんとしてもメタスラを倒したかったんだよ。アラーテ、ありがとう。最後の一撃を入れてくれて」
リストは私に朗らかな笑みを向けてそう言った。
あ”あ”あ”あ“あ”その笑顔やばい! 反則! イケメン! 大好き!
「いやあそんな……というか、私よりもコヤの方がすごいと思うよ。コヤが剣を投げてメタスラの動きを止めてくれなかったら、絶対倒せなかったと思うから」
これは本心だった。コヤのあの行動が無ければ、確実にメタスラに逃げられていたはずだ。
「ウチとしては、そないに大したことをしたつもりはないんやけどなぁ」
「いやいや、大したことだよ。私やリストじゃ、剣を投げるなんて発想は思いついてなかった気がする。というか、そもそもMSOの世界で剣を投げてどうこうできるって知らなかったし。何であんな行動思いついたの?」
うーん、と言ってコヤは首を捻った。
「咄嗟に思いついた、としか言われへんなぁ。ウチはちっさい頃から野球をやっとるから、肩に自信があったのもあるけど」
「ふーん……」
咄嗟に思いついた、かぁ……。
あ、もしかして、MSO初心者で先入観が一切ないコヤだから、剣をぶん投げるなんて奇想天外な行動を思いついたのかも?
MSOは某有名バトルアクションゲームやRPGゲームの要素を多分に踏襲しており、私を含む重度のゲーム好きは基本的にそれらのゲームはプレイ済みなため、感覚が似ていることからMSOを楽しみやすい、順応しやすいという側面は強い。
しかし今のコヤの行動を見て、それはデメリットにもなりうる、と気付いた。
つまり、元々プレイしていたゲームの感覚や常識に囚われてしまっているのだ。
アイテムを投げるのではなく、持っている武器(本来投げることを想定されてないやつ)をぶん投げてどうこうするなんて、今までプレイしてきたゲームでは出来なかった。
今後もコヤの常識に囚われない発想や行動に助けられるかもしれないな、と私は何となく思った。
「ステータスも上がっとるやん。なるほどな、MSOってこないな感じなんやなぁ。楽しいやん!」
「楽しいと感じてくれたなら何よりだよ。僕にステータスを見せてもらってもいい?」
「ええで!」
リストはコヤに近づき、コヤのウィンドウを覗き込んだ。
あ、そうだ、私もレベルアップしたはず。ステータスを見てみよ。
私は左手の人差し指をさっと振り、ウィンドウを出現させた。
【LVアップ! LV6→LV19
LV19/1000
HP:368(+201)
SP:76 (+41)
MP:0 (+0)
物理攻撃力:97(+56)
魔法攻撃力:19(+4)
物理防御力:81(+51)
魔法防御力:76(+49)
素早さ :95(+51)
筋力 :88(+49)
運 :20(+5)
知力 :29(+11)
スキルポイント12 を獲得しました
新しいスキル『水拳』を習得しました
スキルポイントを割り振りますか?
はい/いいえ 】
「おおお……!」
上がったステータスを確認し、私は思わず声を漏らした。
レベルアップの瞬間は、ゲーム好きにとってはたまらない瞬間でもある。
そして、さすが経験値稼ぎの御用達モンスター、メタスラ。倒せば一気にレベルが上昇する。
やっぱり11拳は、物理攻撃力と素早さ、筋力の伸びがいいジョブなんだなぁ。
知力が全然伸びてないのはちょっとだけムカつくけどね!
言っておくけど私は馬鹿じゃないから! そこそこ偏差値の高い私立大学に通ってるんだからね!
「特にコヤに拘りが無ければ、獲得したスキルポイントは全て『聖騎士』のスキルに割り振った方がいいと僕は思う。強力なスキル攻撃を幾つも覚えられるからね」
「ふーん……この『物理攻撃力アップLV1』ってスキルには割り振らんくてええん?」
リストとコヤの話し声が聞こえ、私は2人に視線を向けた。どうやらスキルポイントの振り方について話し合っているようだ。
「スキルポイントの割り振り方は人それぞれだけど、物理攻撃力は武器を強化したり守護札を装備したり、バフの魔法をかけたりしても上げられるからね。それよりも1つでも多くスキル攻撃を覚えられるようにした方がいいと思うな。アラーテはどう思う?」
「私も同意見。聖騎士の真骨頂は強力なスキル攻撃だし。あ、あと、たしか聖騎士に100ポイント振ればHP自動回復の特性がもらえるんじゃなかったっけ」
「あーそうだった。だったら尚のこと聖騎士に振った方がいいね」
HP自動回復は、読んで字の如くHPを自動で一定の割合回復する、とても強力な特性だ。
絶対にHPがゼロに出来ないこの状況を考えても、HP自動回復は習得しておいた方がいいと思う。
「よう分かれへんけど、取り敢えず聖騎士に全部振ったらいいんやね! 今すぐやるわ! えーっと、スキルポイントの割り振りは……」
コヤにスキルポイントの割り振り方を教えようとしたその時、がさがさ、と遠くの草むらが揺れた。
草むらの影には、光を反射して輝きを放つメタリックなボディ。
メタスラだっ!!!
興奮を抑えながら私はコヤとリストに視線を向けた。
コヤとリストもメタスラの出現を察したようで、アイテムボックスを操作してノーマルストーンを発現させた。
「あ、まずい……!」
私は思わず呟いた。メタスラがよたよたと移動を始めてしまったのだ。
「どないすんの? さっきみたいに3方向から取り囲むのは難しいんやあれへん?」
「うん。でも折角メタスラが出現したんだから、見逃すのは勿体ない。取り敢えずノーマルストーンを当てて、後は追いかけて意地でもあと一撃入れよう」
リストはそう言い、ノーマルストーンを握る手に力を込めた。
勝算はかなり低いだろうが、やるしかない。
私、リスト、コヤはタイミングを合わせ、思い切りノーマルストーンを投げた。それとほぼ同時に私は勢いよく駆け出した。
「きゅわあああっ!?」
ノーマルストーンが命中し、攻撃を察知したメタスラが案の定逃走を図る。私は全速力でメタスラを追いかけた。
あ、このメタスラ、さっきのやつと比べて少し動きが遅い!
MSOの世界では無限にも等しいモンスターが出現するが、性能は一律ではなく、同じモンスターでも性能に個体差がある。
チャンス! 頑張ればあと一撃入れられる!
「メタスラ待てえええええ!!!!!」
「きゅるわああああああああ!!!!!」
私とメタスラの鬼ごっこが始まった。後ろからリストとコヤの叫び声が聞こえるが、振り返る余裕はない。
「おりゃああっ!!!」
私は素早くウィンドウを操作し、ノーマルストーンを発現させて投げたのだが、これはぎりぎりでかわされてしまった。
「くそっ……! やっぱりメタスラ、速いっ……!」
全速力で追跡しているものの、さすがは逃げのスペシャリスト、少しずつ離されてしまう。
無我夢中で追いかけたのだが、最終的には加速したメタスラについていくことが出来ず、振り切られてしまった。
「はあ……! はあ……! 逃した……くそっ……!」
私はその場で両膝をつき、大きく息を吸い吐いして乱れた呼吸を整える。
MSOでは一応スタミナの概念があり、ずっと全速力で走り続けると今みたいにスタミナ切れを起こしてしまう。
強いモンスターとの戦いの中でスタミナ切れを起こしてしまうのは致命的なため、スタミナ管理もまた重要なテクニックの1つだ。
「折角の経験値が……って、あれ? ここどこ……?」
呼吸が整った私は、周囲に視線を向けて呟いた。
メタスラを追いかけている内に知らない場所へ辿り着いてしまったようだ。
目の前には綺麗な青色の水で満たされた湖、さらに両方向には湖に沿った道が広がっている。
「はあ……なんか疲れちゃったなぁ」
私は湖に近寄り、湖面を覗き込んだ。
茶色がかった髪色のショートボブ、卵形の顔、アイドルかと見紛うほど整った顔立ち、ぱっちりと大きな茶色の瞳。
見事な二重瞼、すっと通った鼻筋、桜色の唇、均整の取れた引き締まった体。
決して大きすぎず、しかし小さくはない胸の膨らみ(私の理想はDカップだから! ここ重要!)。
そして、纏う防具はノーマルファイターシリーズ一式、装備しているのはノーマルフィストグローブ。
つまり、黒いカンフー服を纏った、ナイスバディの超絶美女。
「つくづく現実の私とかけ離れてるよなぁ……」
MSOの世界でそんなことを考えるのはナンセンスだとは思いつつも、ついそう考えて苦笑を浮かべてしまう。
……ああ、私、本当にMSOから出られなくなっちゃったんだぁ……。
大学通えないじゃん。単位落としちゃうよ。留年は嫌だなぁ……。
お父さんとお母さんはきっと悲しんでるよね。一人娘がゲームの世界に囚われちゃったなんて知ったら……。
「これからどうなるんだろう……」
私は呟き、その場に座り込んだ。
脱出を叶えるための手段は2つ。
ラスボスのインフィニティドラゴンを討伐すること、もしくはこの世界のどこかに潜んでいるウイルスの開発者であるプレイヤーを殺害すること。
謎の男の言葉が脳裏に蘇る。
インフィニティドラゴンの討伐には……時間がかかるだろう。最短でもゲーム内時間で1年はかかると私は思ってる。
なら、ウイルスの開発者であるプレイヤーを殺すのが手っ取り早い? 殺すってどうやって? ダンジョンエリアで無理やり1on1を挑んで殺すってこと?
……ていうか、そもそも、誰がウイルス開発者なのか分からなくない?
「……こわ」
背筋に冷たいものを感じ、私は思わず呟いた。
そうだ、誰が開発者か分からないじゃないか。見た目は善人ぶっていても、中身はウイルスを開発した黒幕、ってパターンもあるわけでしょ?
例えば、今パーティーを組んでいるリストやコヤが黒幕の可能性も……
「そんなわけ……ないじゃんっっ!!!」
私は叫び、意味もなく自分の腿を拳でぶっ叩いた。
はああ、と私は盛大にため息をつく。
駄目だ。こんなことを考えていると確実に気が滅入る。
考えてもしょうがないことは考えないようにしよう。考えすぎちゃったら、隕石が落ちてくるから、と考えて外に出ない人と同じだ。
考えない考えない!
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自分の位置情報をリストとコヤに共有しようと、ウィンドウを操作しようとしたその時。
殺気を感じ、私は起き上がると同時にファイティングポーズをとった。
「しいいい……」
モンスターの低い鳴き声が響く。
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そして私は11拳。ゴリゴリの物理アタッカー。
……あれ、これけっこうまずくない!?
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なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
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ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
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