姫君の憂鬱―悪の姫君と3人の王子共―

Chiyuki.

文字の大きさ
7 / 36
#1 姫君の憂鬱

Ep.6 ヒーローのカラクリ

しおりを挟む
Ep.6 ヒーローのカラクリ

「なんっでお前がここにいるんだよッ!」

「金髪うるさい。小っさい犬みたい。」

榛名聖に頼まれて窓辺の観葉植物の水やりをしている私を指差して、金髪はぎゃんぎゃんと吠える。
一瞥もくれずに一刀両断したら、余計うるさく喚いてきた。

ここは旧校舎、2階。最奥の空き教室。
私が足蹴にされた忌まわしきあの場所だ。

「まあいいじゃないのまーくん。
あ、藤澤ちゃん水遣りありがと~。」

「……別に、このくらい。」

榛名聖が差し出した手に、空になったジョウロを渡す。
その様子を見ていた金髪が、偉そうな態度で鼻を鳴らした。

「…まあ、あの気持ちわりぃ喋り方しなくなっただけいいけどな!」

「え~金髪うるさい♡」

「やっぱこいつ今すぐ追い出せえええ!」

「……わぁ、なんか賑やかになっちゃったねぇ。」

私に掴みかかろうとする金髪を榛名聖が押さえつけて「まぁまぁ~」と宥めている。
その間に喧騒も我関せずと言った調子でソファを陣取り読書に勤しむ近江涼介に、私は静かににじり寄る。

背凭れの辺りまで来ても、気付いてないのかシカトなのか、近江涼介は微動だにしない。
さらっさらの黒髪だけが、ひと束流れたぐらいだ。

「あり、…がとう、ね!」

つむじに向かってお礼を言うのも変な感じだけど。面と向かってよりやりやすいか。

『お前、結構やるな』

――なんでだかわからないけど、嬉しかったから。

ちょっと気恥ずかしくて、下唇を噛んで返事を待つ。
ゆっくりと力強くて、何処か気怠げな双眸が私を捉えた。

「――なんだって?」

「ちゃんと聞いとけよ。」

信じらんない。
私が、この私が勇気を振りしぼって言ったお礼を聞き逃すなんて!

「なんて奴!」
「お前がな。」

近江涼介は嘲る様に鼻で笑う。

前言撤回!
やっぱり、こいつはヤな奴だ。

「別に、礼を言われる様な事してない。」

「え…。」

ちゃんと聞いてたの?どっち?

すでに奴の視線の先は本。……掴みどころ皆無だな。
思考も感情も何も読めない不自然なほど真っ直ぐ艶やかな黒髪が隠す後ろ頭をじっと見つめる。

失礼で無礼でヤな奴だけど、まぁ悪い奴ではない気がした。


「そう言えば、なんで私があそこで揉めてるってわかったの?」

疑問だった。だってあそこはここの次位に人の通らない場所だから。

それとも、奴らには少女漫画のヒーロー的直感が搭載されてたりするとか?

「紙が落ちてたんだよね~、涼ちゃん?」

いつのまにやらこっちに移動していた榛名聖が私の肩を抱いて、ぐしゃぐしゃになった紙切れを目の前で靡かせる。

「あ…それ!」

慌ててポケットの中を確認。
やっぱり、無い。

「こぉんな面白いもの拾ったら行くしかないでしょ~?ね、涼ちゃん。」

「…だな。」

小さく頷く近江涼介に榛名聖は満足げな笑みを浮かべる。

「でもって、集団リンチってのも珍しいから暫く見学してたんだよ。」

へんっとでも言いそうなくらい得意げに、仁王立ちした金髪が続ける。

「そんなこと言って~。
涼ちゃんが止めなきゃ真っ先に飛び出してってたでしょ、まーくん。」

「なっ…ちげーよ!あれは最前線で見てやろうとだな…っ!」

微かに顔を赤らめて否定する金髪の頬を、榛名聖が面白がるようにつつく。

金髪もやっぱり悪い奴ではない。むしろいい奴。
絶対言わないけど。

……ところで、“暫く観戦”ってことは、やっぱりいいタイミングを見計らってたわけだ。

少女漫画の見せ場のカラクリ、暴いたり。
嘆かわしい、とばかりに額に手を当て盛大に溜息を吐いた。

「私がブチ切れるのを待ってたってわけね……女共全員の王子様ってのも大変ね。」

「何言ってんだお前。」

無機質で淡白な声が嘆きをバッサリ切り捨てた。
そして、近江涼介は続ける。

「俺達が止めに入ったら、お前ずっとあの気持ち悪い女のままだっただろ。」

曇り空が晴れて窓いっぱいに光が差し込む。

――私は一体、何度驚けばいいんだろう?

「気持ち悪い訳ないでしょ、私のぶりっこは世界一可愛いんだから!」

「言ってろ、ブス。」

…だから私も、動じてないフリをしてやる。

「今に見てなさい!“姫様にメロメロです”って言わせてやるんだから!」

「…………。」

「無視!?」

折角腰に手を当てて指差しまでしてビシッと決めたのに!

金髪は本気で気持ち悪がってるし、榛名聖は一言余計。
近江涼介に至っては完全無視ときた。

「ほんと、失礼な奴ら!」

でも、満更でもない私がいる。

なんでそんな気持ちなのか――よくわからないけど、とりあえず。

もうちょっとだけ、私の復讐に付き合ってもらうね?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな
恋愛
「覚醒しなければ、生きられない———       しかし、覚醒すれば滅びの呪いが発動する」 100年前、ヴァンパイアの王家は滅び、純血種は絶えたはずだった。 しかし、その血を引く最後の姫ルナフィエラは古城の影で静かに息を潜めていた。 戦う術を持たぬ彼女は紅き月の夜に覚醒しなければ命を落とすという宿命を背負っていた。 しかし、覚醒すれば王族を滅ぼした「呪い」が発動するかもしれない———。 そんな彼女の前に現れたのは4人の騎士たち。 「100年間、貴女を探し続けていた——— もう二度と離れない」 ヴィクトル・エーベルヴァイン(ヴァンパイア) ——忠誠と本能の狭間で揺れる、王家の騎士。 「君が目覚めたとき、世界はどう変わるのか......僕はそれを見届けたい」 ユリウス・フォン・エルム(エルフ) ——知的な観察者として接近し、次第に執着を深めていく魔法騎士。 「お前は弱い。だから、俺が守る」 シグ・ヴァルガス(魔族) ——かつてルナフィエラに助けられた恩を返すため、寡黙に寄り添う戦士。 「君が苦しむくらいなら、僕が全部引き受ける」 フィン・ローゼン(人間) ——人間社会を捨てて、彼女のそばにいることを選んだ治癒魔法使い。 それぞれの想いを抱えてルナフィエラの騎士となる彼ら。 忠誠か、執着か。 守護か、支配か。 愛か、呪いか——。 運命の紅き月の夜、ルナフィエラは「覚醒」か「死」かの選択を迫られる。 その先に待つのは、破滅か、それとも奇跡か———。 ——紅き誓いが交わされるとき、彼らの運命は交差する。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる

若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ! 数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。 跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。 両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。 ――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう! エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。 彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。 ――結婚の約束、しただろう? 昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。 (わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?) 記憶がない。記憶にない。 姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない! 都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。 若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。 後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。 (そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?) ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。 エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。 だから。 この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し? 弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに? ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

嫌われ公女に転生したけど、愛されたい願望を捨てたら全員がデレてきた

桃瀬さら
恋愛
嫌われ公女ナディアは、婚約破棄され学園で孤立し、家族からも見放されていた。 どれほど努力しようが周囲からは「嫌われ公女」と蔑まれ、誰も味方なんていない。 「もういい。愛されたいなんて、くだらない」 そう心に誓った瞬間から、状況が一変した。 第二王子が婚約破棄を撤回し跪き、寡黙な騎士団長が「君を守りたい」と熱く迫ってくる。 そして、冷ややかな兄まで「婚約など認めない。家を出ることは許さない」と……。 愛されることを諦めた途端、なぜか執着される。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...