姫君の憂鬱―悪の姫君と3人の王子共―

Chiyuki.

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#5 偽装恋人大作戦!?

Ep.23 いざ決戦の時

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静かで長い廊下もようやく終わりを迎える時、金箔が散る高そうな襖の前で立ち止まる。

金髪母が徐に襖の前に膝をつき戸口に手を掛けたところで、毅然としているのにどこか緊張した面持ちの金髪が急に振り返って小声で私に囁いた。

「悪い、先に謝っておく。」

「は?何を――……」

「――こちらです。」

金髪母が、客間の襖をそっと開ける。

――瞬間、窓も開いてないから風なんか吹き込む訳もないのに、体を押し潰すような険しい圧を感じた。

「失礼します。父さん、帰りました。」

「…失礼致します。」

絶対に物音を立ててはいけない――そう本能が警告するから一歩踏み出すのにも勇気がいる。
金髪からも萎縮した緊張感をビシバシと感じるから、余計に、だ。

広い部屋には何やら豪華な生花や掛け軸、高そうな壺なんかが飾ってある。だけどそれに気を取られる隙もない、

――だって、そこに君臨する部屋主の威圧感が半端ないから。

「………紹介します。こちら、僕がお付き合いしている藤澤姫さんです。姫さん、こちらは僕の父です。」

「……藤澤姫と申します。」

慎重に圧を発する金髪父にゆっくりと頭を下げる。上品にお腹の辺りで重ねた手に汗が滲んだ。

部屋の主は何も言わない。仏頂面で鎮座しているだけだ。顔立ちはなんとなく金髪を感じさせるけど、恐怖を覚える険しい表情は似ても似つかない。
きっと大企業トップとして厳しい世の中を渡り歩いてきた年の重みなのだろう。

「座りなさい。」

言われるまま、金髪と私は金髪父の向かいに座った。
距離が縮まると余計に怖くて今にも逃げ出したい気持ちになった。

金髪母はこの部屋に入った途端、完全に無色透明になって、静かにお茶出しをしている。
 まるで“この部屋では存在してはいけない”と心得ているように。

――少しの沈黙が永遠にも感じられる。
居心地の悪さを誤魔化すように、ぎこちない所作で出されたお茶を静かに啜った。

え、これどうするのが正解?

下手な話題は余計に場の空気を地獄にしそうで、とりあえず微笑んでおくことしかできない。

隣で金髪の喉が小さく鳴ったのが聞こえる。
大きく息を吸い込んだ気配がして、金髪が意を決したように話し始めた。

「――父さん、見ての通り僕にはお付き合いをしている方がいます。
ですから今回の婚約の件は正式に取り下げてください。」

金髪が直球勝負で沈黙を破る。
そのキッパリとした言い切りに、私の緊張もほんの少しだけ緩んだ。

「真さんとは真剣にお付き合いをさせていただいています。
……私からもどうか、お願いいたします。」

両手を床につき、恭しく首を垂れてから金髪父をまっすぐ見つめる。

見よ、この健気な瞳を……!
これで心動かない奴なんていないでしょ?

「君は、一般家庭のお嬢さんのようだね。」

低い声が畳を震わせる。
たった一語で空気が冷えた。

「そう、ですが………。」

近江涼介とはまた別の迫力にドキッとする。
揺り戻った恐怖に心臓が凍りついて、金髪父を見つめていた目を思わず逸らした。

「真は由緒ある広瀬家の長男でね。将来広瀬グループを背負って立つことを約束されている。
その妻たるもの、それ相応の家の出でなければ認められない。――故に、悪いが交際は認められない。」

厳しい言葉に息を呑む。何を言っていいかもわからず固まってしまった私の隣で、金髪はテーブルを叩いて勢いよく身を乗り出した。

「父さん!そもそも僕は跡を継ぐことを決めていません!だから僕は――……」

「黙れ。」

声を荒げた金髪を、たった一言で金髪父は鋭く制する。
その眼光は鈍く光り、睨んだものを刺し殺すような威力があった。

金髪は反射的にグッと押し黙り、やるせなさそうに眉を顰める。
力強かった瞳がみるみるうちに諦観を滲ませ、乗り出した体はゆっくりと元に戻っていった。

「広瀬家の長男に選択肢があると思うな。
たまに我儘を通してやったと思ったらこれだ。恥を知れ。」

反論も言い訳も許さない厳しい抑圧。
金髪父は睨みつけるように金髪を見据えて不機嫌そうに立ち上がり、部屋を後にしてしまった。

――金髪は下を向いて悔しそうに歯を食いしばっている。

こんな表情初めて見たから、また何を言っていいのかわからなくなった。

「真さん、姫さんにお庭を案内して差し上げたら?」

重い空気を断ち切るような優しい声。見れば金髪母の表情もその声と同じく穏やかだ。

「……そうします。」

絞り出すように金髪はそう言うと、私を庭へと連れ出した。
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