死ぬ予定の魔王をスキル誉め殺しで最強に育ててみた

的場カフカ

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 こうなると問題はあの女将をどう打ち負かすかだけになった。 
 ふむ、と顎に指を当ててぐるぐると部屋の中を歩き回る。

「ニル、ご飯にしようよ。今日はね野菜炒めを作ってみたんだ。近くの八百屋で安く買えたんだよ。口に合えばいいけど。」

 キッチンからいい匂いがすると思ったらシオンが両手に皿を持ってボロの机の上にこつりと置いた。
 皿は汚くフォークも先が欠けて不揃いになっているが、目の前で光り輝く野菜炒めを見てしまえばそんなことどうでもよくなってしまう。
 ニルはフォークを握ると一目散に口の中へかき込んだ。

「んん!うまい、うまいよこれ!すごいな、料理の才能があったんだ。」

「才能って、別にたいしたことじゃないと思うけど。喜んでもらえてよかったよ。」

 にこりとシオンは優しく笑うとギギッと椅子を引いて自分もフォークを手に取って食べ始めた。

 あの日、初めて出会った日からシオンはニルの部屋の居候になった。
 この狭い部屋で二人暮らしをするにはいささか容量不足だと思ったが、荷物の少ないシオンはするっと隙間に収まるように見事にこの部屋に入り込んでみせた。
 毛布一つで床にくるまって寝るシオンに申し訳なく思ったが「これまでの生活と比べたら毛布と屋根があるだけで最高だよ。」と言い返されてしまったため心が苦しくなった。

 シオンに金をやりこれで好きなものを買えと言うと、彼は食材を買って来て少しでも恩返しがしたいと料理を作り始めた。
 最初は止めたが頑なに作ろうとするので言うに言えなくなってしまった。
 それに、まさかシオンに料理スキルがあったなんて思っても見なかった。

「料理は昔から得意だったんだ。でも、金がなければ食材も買えなかったから…ニルには本当に感謝してる。」

 昔、というのはあっちの世界での話なのだろう。シオンは何かを思い馳せながらぼうっと一点を見つめてそんなことを話した。
 未練があるのだろう、原作のシオンもずっと元の世界に戻りたいと言っていた。それも永遠に叶うことはなかったが。

「なぁ、待ってろよ。俺があの女将を打ち負かして早くこの狭い部屋から出してやるから。そしたら一緒に強くなろう、冒険者になってうんと稼ぐんだ。」

「…ねぇ、なんでニルはそこまでして僕を助けてくれるの?」

 困った顔をしながらニルを見たシオン。
 ここには風呂がないため水に濡らした布で体を拭くしかないが、それでも幾分かマシになった。
 ストレスで白髪の散った頭、長い前髪が目を隠し外界を拒絶しているように見える。
 シオンはニルより五歳年下だ。浜中零の歳を合わせればもっとになる。シオンは弟みたいなものだった。
 辛い経験を持ち人間により追い詰められたシオン、それでも人間に縋らずを得ない彼は心苦しく、見ているのも辛い。
 誰にも救いの手を伸ばされず一人異界を彷徨うシオンを幸せにしてあげたいと思うのは普通ではないだろうか。

「そんなの、当たり前じゃん。シオン、君が助けを求めていたからだ。」

 シオンは言葉を失った。
 城を追い出されてから何度も何度も助けを求めて、誰にも相手にされなかった。死にたいと思ったりもしたがそんな勇気自分にはなくて、当てつけのようにただ他人に対する恨みが増すばかりの日々を送っていた。
 この世界も、僕を見下してきた同級生達も、弱いくせに何もできない自分も、大嫌いだった。

 でもニルだけは、違った。

 無条件でシオンを助け、食事をくれた。
 僕の声に答えてくれた。
 そんな彼の言葉がグサリと心臓に突き刺さり、止まった心臓がドクドクと動き始めるように思えた。血が流れ頭に登る、ニルが目を細めてニカッと笑った途端息が上がるような息苦しさを感じた。

 あぁ、僕はニルにこの身全てを捧げよう。

 この世界でただ一人、僕の味方をしてくれた人。

 シオンは一つ息を吸って吐くと、ニルと同じように笑った。

「ありがとうニル。ほんとに、ありがとう。」

 ポタポタと流れる涙に、ニルはまた笑う。「おいおい、ほんとお前泣き虫だな。」と適当に布を持って来てシオンの目元を拭った。
 その光景はまるで泣き虫な弟の世話をする兄の姿だった。
 シオンは自分の気持ちを軽々しく表に出すような男じゃないのはニルがよく知っていた。だから、気持ちを素直に発信してくれたシオンの姿にニルは嬉しくなった。
 ぽんぽんと背中を叩き、落ち着かせる。
 魔王として威厳を放っていた原作のシオンとは大違いの今の姿にニルは満足していた。
 本当は年相応のただの青年なんだ。重積を背負わされ、辛い思いをさせられた十七の青年なんだ。

 魔王シオンを幸せにしたい。
 浜中零がかつて本当に言いたかった感想はただそれだけだった。



 ◇



「お前最近、こそこそとなんかしてるね?」

 ビクッと体を大袈裟に震わすとピクリと女将のこめかみが動いた気がした。

 まずいこの女の勘は異常に当たるんだ。
 そして女将はそれを自覚していた。

「な、なんのことですか。別にこそこそしてたっていいじゃないですか。」

「とぼけんなよ。最近部屋で話し声が聞こえんだよ。ここはペット禁止っていったよな?」

 般若のような形相で両手にオタマと鍋を持ち睨んでくる女将ほど怖いものはない。
 開店前の店はガランとしていて貧相な内装が一層よく見える。
 女将はとんでもなくケチだ。客に使わせる椅子やテーブル、鍋やキッチン用具はなるべく格安の物を揃え自分の為だけに湯水の如く金を使う為もう六十にもなるのに肌は少女のようにピチピチで髪は枝毛ひとつなく、腹だけが肥えていた。
 まるで成金貴族連中と一緒だとニルは早々に呆れていた。使用人一人に十分な給料を払うぐらい余裕はあるというのにそれすらもまともにくれない女将にうんざりして数ヶ月、初めの頃は食ってかかっていたがどうしても力で勝てるわけがなく渋々この薄給労働地獄を飲み込んだのだ。
 それだからシオンにいい物を食わせられないし、出ていくとしても数日足らずで金は底をつく。

 だからニルは考えていたのだ。
 女将のポケットから金をぶんどる手立てを。
 しかし今シオンの存在がバレてしまえばい元も子もない。なんとかしてシオンを隠さなければいけないというのに、俺のポンコツめ!小説ばっか読んで、演技力がクソ雑魚だ、少しは映画で演技を学んでおけばよかった!!

 しかし、後悔先に立たず。今はこの鬼神をどう鎮圧するかそれだけだ。

「す…すみません。実は猫を拾いまして、可愛いから部屋に置いていたんですが。すぐに戻して来ます。」

 かりかりと首を掻きながらクイっと首を傾けた。この女は自分の駒が勝手するのが気に食わないのだ。だから言うことを聞くただの奴隷で居なければならない。

「猫だ?ふざけるな私は小動物が大嫌いなんだよ。とっとと捨ててこい。」

 そう言ってばこっとニルを殴り、その勢いで足がよろける。いつになっても慣れないこの躾で女将はニルを恐怖支配下に置いた。
 それは原作だけの話だと思ったが、そうでもないらしい。
 今も女将の圧と頬に感じる痛みで足が震えていた。

「さっさと準備しろ。仕事が始まる。」

 そうやってスタスタと腹を揺らしながら歩いて行ってしまった。
 ニルはチッと舌打ちをして胸糞悪い気持ちをそのままにさっさと仕事を始めた。




「ニルっ、ど、どうしたのその傷。」

 割れ物を扱うようにシオンは恐る恐るニルの左頬に触れるとピリリとした痛みが広がった。
 思わず難しい顔をすればシオンは焦りながら「ごめん」と謝って来た。

「別に、痛くないから。……でも、思い出したらクソむかついてきたな。あのデブ女、事あるごとにすぐ殴りやがって。」

「…きっと僕のせいだよね、あの人にバレたらニルがどんな目に遭うか…やっぱり」

「あー。いいんだよ。どうせすぐにあいつの金全部ぶんどってここから出ていくんだから。こんぐらい屁でもないさ。」

 ネガティブだだ漏れのシオンの肩をポンと叩くとニルはにこりと笑った。
 そんなニルの姿を見てようやく勘弁して言葉をつぐんだシオン、まだ納得していないところもあるようだがこの男に喋らせると自分の嫌な部分を箇条書きにして読み上げる勢いなので早々に口を塞ぐ必要があった。
 いくら推しでもそれは勘弁だ。

「もう少しの辛抱だ。な?」

 そう言えば大人しくこくりと頷いてくれた。
 聞き分けの良い弟を持つってこう言う事なんだと、一人っ子だったニルはしみじみ思っていた。



 ジャッジャッと金の入った袋を持ち舌なめずりをした女将はニルに「戸締りしとけよ。」と言ってそのまま三階に上がって行った。
 ずっと前から女将が所有している三階建てのこの家は村の中でも屈指の立派な建物だ。どうやら金にがめつい女将が不動産屋を脅して安値で買い取ったという噂があるが、原作にも書かれていない詳細だったので確証はない。
 だが、あの性格ではきっとやりかねない。噂は本当なのだろう、自分の上司ながら人間の風上にも置けない女に呆れてものも言えなかった。

 ニルはこっそりと女将の後をつけた。忍足で女将の部屋の前まで行くとラッキーなことに扉がほんの少し開けられたままだった。
 その隙間からちらりと部屋の中を見る、贅沢三昧の女将の部屋は家具からなにまでニルの部屋とは大違いだった。
 これがただの女の子の部屋だったら罪悪感で押しつぶされているが、あの女将にそんな心ちっとも現れなかった。

「ちっ、あの野郎どもめ。落としていく金が少なすぎるんだよ。一番安い飯ばっか頼みやがって。」

 なんて女だ。女将のまずい飯をわざわざ食べにきてくれるだけありがたいと思え。たしかにあの客達は下品で煩くてしょうがないが、女将に比べれば何倍もマシだ!

 ニルは隙間から見ながらどこまで腐ったやつなんだと苛立った。
 女将は金の入った袋を重厚な黒塗りの金庫に入れて鍵をかけた。その鍵をポッケの中に入れると一仕事終えたかのようにふぅ、と息をつきベッドに腰掛けた。女将の巨体にギシッと悲鳴を上げたベッドが可哀想に思える。
 金のありかがわかったニルはすぐに退散しようと腰を上げるとあろうことか床がギギッと鳴ってしまった。

 しまった!

「誰だ!!」

 バキンッッと扉が人を殺す勢いで開く。
 女将はのしのしと歩きながら扉の前にグインっと顔を出した。まるで『音を立てたら即死ーー。』の某人気映画の副題かそのまま付けられそうだ。
 ジロジロと右左を見る金の亡者。しばらくすると哀れなネズミがチュウと女将の目の前に飛び出てしまい、女将はそれを鷲掴むとポイと外に放った。

「ちっ、なんだネズミか。」

 扉の外にはニルの姿はなかった。間一髪のところでニルは逃げ出していたのだ。


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