小さい奴隷は恋をしない

かふか

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初めての発見

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あの後、なぜ外に出たのだとウォルハイドに問い詰められ、事の詳細を包み隠さず全て話してしまった。
ヘルツとヘルティマは両方揃ってルーダにこっ酷くお説教されて、本来なら数十人がかり行う庭の掃除を二人でやるようにとお仕置きを食らった。

傷だらけでウォルハイドに抱き抱えられ帰ってきたヘルティマを見たルーダとヘルツはゾッとしていて、すぐに手当てをされた。
ごめんよ!ごめんよ!と謝ってくるヘルツはなかなか帰ってこないヘルティマが心配で門の前でうろちょろしていた。

その姿になにやら心配をかけてしまったと申し訳なく思った。


「ヘル!なにその傷は!」

何も知らずいつも通り訪れたフェンデルもまたヘルティマの顔の傷を見るとルーダとヘルツと同じ顔をした。
今日も綺麗な服を着ているフェンデルに少しばかり見惚れると、綺麗な顔はじっとヘルティマを見つめていた。

「少しヘマをしてしまって。お見苦しいものをお見せしました。」

「馬鹿!そんな事ちっとも言ってないじゃないか。ただ心配なだけだよ…無事でよかった。」

詳細は後から、後ろで手を組んで壁にもたれかかっているウォルハイドに聞いたらしい。
フェンデルが優しく頭を撫でるとコホンとわざとらしく咳込む男がいた。
じりじりと視線が痛かった。

なんとなく自分が邪魔かもしれないと思ったヘルティマはまだ仕事が残っていますのでと言ってそそくさと部屋から出ていった。

中からは二人の話し声が聞こえた。
ため息をつくとトレーを持ったヘルティマは部屋を後にした。


一方、ヘルティマが去った部屋は真冬のような寒気さが漂っていた。

「あれほど気をつけるべきだと言いましたよね。」

二人きりになった部屋でフェンデルは責めるように冷たくつぶやいた。
ウォルハイドは椅子に座ると手を組んで、はぁと息を吐いた。

「街でヘルティマを見た時、生きた心地がしなかった。」

同じように目の前に座ったフェンデルは用意されたティーカップを口につけこくりと飲んだ。
フェンデルの瞳はいつものヘルティマに向けるもと違って酷く冷酷なものであった。

「大厄災の戦犯がこの国でどう扱われるのかは、僕も何度もこの目で見てきました。…それはそれは酷いものですよ。口に出すのも悍ましいほどに、ね。」

貴方の方がよく知っているでしょう?と言うフェンデルに苦虫を噛み潰したような顔をした。

ウォルハイドの頭によぎるのは傷だらけでボロボロだったヘルティマの姿。全てに絶望した、何もかも諦めたような目をしたヘルティマは壊れた人形のように動かなかった。
ヘルツもルーダも最初こそ、フルガ奴隷であるヘルティマを良くは思わなかったが、健気に光を取り戻そうとする姿に心動かされていた。
仕事一筋で子供のいなかったルーダはまるで息子のようにヘルティマを育て、ヘルツは弟のように可愛がった。
そしてウォルハイドも。

「それにしても、よく耐えられましたね。てっきり皆殺しにでもしているかと。」

「…失礼なやつだそこまで狂ってはいない。しかし、まぁ危なかったと言えばそうだろう。」

やれやれ困った人だとわざとらしく首を振ったフェンデルはこつりとカップを置くと腕を持ち上げすっとウォルハイドの頬をその細い指でなぞった。

「ならばその熱、覚まして差し上げましょう」

色気のあるその声はウォルハイドと共に溶けていった。




春の朝はまだ肌寒い。
ヘルティマとヘルツは朝から箒を片手にえっさほいさと庭を掃除していた。
昨日の夜は大変なことがあって、まだまだ寝足りないのだが朝から行わないと今日中に間に合わないのだ。

執事長ルーダは鬼だ、そう易々と終わらせられるような仕事は押し付けない。
少し離れたところで掃除をしているヘルツはこくりこくりと睡魔と闘いながら手を動かしていた。

グランツ邸の厨房の方からはいい匂いがしてくる。
コックらはこんなに早く起きているのかと尊敬した。

すると、ヒュッヒュと中庭の方から何やら空気を切る音が聞こえた。なんだろうと思いゆっくり覗いてみるとそこには汗を流し素振りをしているウォルハイドの姿があった。

理想的な引き締った身体に白い肌、そこには勲章と呼ばれるのだろう深い傷痕が所々ついているのが見えた。汗がツーと体を伝いドキリと心臓が飛び跳ねる。
なんてことを考えているんだと頭を振ると、ウォルハイドは物陰に隠れていたヘルティマに気づいたようだった。

「おはよう。珍しいな、こんな朝早く」

「お、おはようございます。ご主人様。えっと、昨日のことで…」

そう言えば、ウォルハイドは、あぁルーダの仕置きかと納得したように頷いた。
なかなかハードな仕事をくれたようだなと目を細めた。

笑っているのかな。
ヘルティマは頭二個分程も違うウォルハイドを見上げてぽかぽかと嬉しくなった。

「ご主人様も、朝からご苦労様です。毎日、この時間に鍛錬を?」

「あぁ、平和になったからと言って怠けてちゃ何かあった時に対応できないからな。」

軍人のお手本のような回答にヘルティマはなんて格好いい人なんだとギュッと噛み締めた。毎朝、起きるのが早い人だと思っていたがまさか鍛錬を欠かさず行なっていたなんて。ヘルティマの中で敬意の念が一層膨れ上がった。

すると、ウォルハイドはまたもや目を細めると、ヘルティマの頬にある傷をじっと見つめた。

「…傷は、痛むか?」

軽傷であったためあまり気にしていなかったヘルティマはウォルハイドの言葉に驚いた。まさか、心配してくれていたとは、いいや優しいウォルハイドのことだいくら使用人だからと言って蔑ろにしないのが彼だった。

ヘルティマは安心させるようににこりと笑って平気です、ご心配ありがとうございます。と言って頭を下げた。

ウォルハイドの腕は謎に宙に浮くとそのまま何もせずに引っ込んだ。
そのことに気が付かなかったヘルティマはお邪魔しましたとその場を去った。


ウォルハイドから離れると、ヘルティマは真っ赤になった顔を手で隠した。

「ひやぁ、かっこいいよ。すごく近かった、汗をかいているのにいい匂いがした。」

ボッの頭が沸騰するのを我慢することに必死でろくにウォルハイドの顔を見て話すことができなかった。
昨日、あの身体に抱き抱えられたのだと思い出すとますます顔が熱くなって何故だか羞恥心を掻き立てられた。

もうすぐでフェンデルが起きる時間だ。
あの人に抱かれたフェンデルはいつも腰を痛そうにしていた。まったくもぅ、と毎朝その痛みと闘っているフェンデルにヘルティマはいつも羨ましく思っていた。

なんて下品な想いなのだろうと真っ赤になる顔。
しかし、思うことぐらいなら許されるだろうかと密かに恋焦がれていたのだった。


その日ごつりごつりと頭を屋敷の柱に打ちつけるウォルハイドが発見された。

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