エリュシオンでささやいて

奏多

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第8章 Loving Voice

 18.

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「ふふ、お客様を浄化を意味する水晶が呼んでいるのかもしれませんね。ライトニングクォーツは雷が落ちても生き延びた石。モリオンと同様にパワーがあります。でしたら、小さめのパーツでオリオンとライトニングクォーツを二カ所ずつ、あとはスクリュータイプの水晶にして……個人的な石をと仰られましたね。少し大きめのそちらをひとつ混ぜましょう。あとは様子を見て、金や銀の飾りを入れてみましょう」

 ここから先は小林夫人の独壇場。
 あたしははぁとしか言えない。
 宝飾店で指輪とかネックレスとかを乗せるようなケースを複数出してくると、そこにイメージとばかりに円状に石を置いていく。

「お揃いで色々な色がある石ってなにかありますかね?」

「そちらも水晶にするのでしたら、ルチル(針水晶)がありますが」

 夫人が出してきたのは、水晶の中に黒、青、赤、ピンク、金、銀など、色つきの細い針のようなものが入っている玉だった。

「ご覧下さい。色々な色の針がはいっているでしょう?」

 ひとつ摘まんで見てみると、確かに細い繊維のようなものが見える。

「うわあ、面白いですね。なんで水晶の中に入るんだろう」

「ふふふ、針は針状結晶と呼ばれていて、その成分によって色が変わります。針は運を呼び込むアンテナのように思って下さい。針が多くはっきりとしているものがいいものとされています」

 お店の玉はとてもいいのか、針がたくさんはっきりと見える。

「たとえばこれは、ゴールドルチルの中でも針が太く多い、タイタンルチル。ルチルの王様と呼ばれています。効能はオールマイティーです」

 言われたのは、中でも金色の針がごっそりと入っているもの。
 王様、か……。
 だったらもう、須王しかないよね。

 その後、色々と違いについて説明を受けた。
 その結果、あたしが須王に選んだのは、やはり王様のゴールドタイタンルチル。

 あたしは、ゴールドと対になるシルバールチル……人運を豊かにしてくれ女性らしさがアップするらしい。

 裕貴くんは、エネルギッシュと勇気を与えるレッドルチル。
 女帝は恋愛運をアップするらしい、ピンクルチル。
 
 棗くんは、感情を癒やすらしいブルールチルにした。
 小林さんは、音楽を生業にしているのだからインスピレーションが冴えるという、グリーン。

 結構皆のために作られたかのようにぽんぽんと決まったのを、夫人が石と石の間に飾りを入れてくれたりと、提案されたのは嫌味がないシンプルなもので、とても気に入った。

「ねぇ、どうかな。どう思う?」

「いいんじゃね? でもひとつ、リクエストしていい?」

「いいよ、なに?」

「お前とだけに同じ石いれてぇな」

 須王の眼差しが柔らかくなる。

「別にペアリングを買えばいいんだけど、なんだかお前それに凄い入れ込んでるから、まずはこっちで便乗してぇんだ。いい?」

「い、いいけど……」

 お揃いなんてと照れてしまうと、須王は笑ってあたしの頬を指で触る。

「ずっと続く恋愛のお守りのような石、ありますか?」

 すると夫人は複雑そうに笑いながら、言った。

「ではガーネットがよろしいかと。昔から変わらぬ愛と深い絆を意味すると言われています」

 見せられたのは、深紅の石。
 
「別名、柘榴石といいます」

 柘榴……。

 あたしは須王と顔を見合わせた。
 牧田チーフだけではなく、記憶にひっかかる不吉な名前を持つ石だ。

 だけど、エリュシオンに柘榴が関係があるというのなら、須王を引き合わせてくれたのもまた、エリュシオンなんだ。

 そう考えたら――。

「意味ありげで俺はいいと思う。お前は?」

「同感」

 あたしは笑った。

 小林夫人は手慣れた手つきでぱっぱとブレスレットを作っていく。
 ひとつひとつ包装してくれて、印もつけてくれて。

 少し値引きをしてくれたとはいえ、値段はかさんだけれど、あたしはこのブレスレットがいいと思ったから、無駄遣いではないと思う。

「ありがとうございました」

 丁寧に頭を下げる夫人。
 売り上げに繋がるからだけとは言えないくらいに、石に関しては嫌がらず辛抱強く聞いてくれたし、入ったばかりだという新しい石を見せてくれて、あたしに選ばせてくれた。

 きっとこういう親身になってくれるところを、小林さんは好きになったのだろうな。

 いつか旦那の腕にあるブレスレットを見て、なにかを感じてくれるといい。
 あたしが真剣に選んだ石が、どうか小林さんだけではなく、奥様にもパワーをもたらしますように――。



 病室で皆に渡すと、皆大喜びで感謝された。
 寝たきりの小林さんも、自分にあたるとは思っていなかったらしく、ちょっと照れながらつけてくれた。

 女帝と裕貴くんははしゃいで、効能カードを真剣に見ている。
 そして、ひとりぽつんと座って書類を見ていた棗くんは――。

「私、そういうの、しないから」

 ぷいと顔をそむけてしまった。
 せっかく中身が見えるように包みを開けてあげても駄目。
 
「そんな、棗くん。棗くんにいい石を選んできたんだよ、全部ひとつひとつ」

「あら、ごめんなさいね」

 お仕事中なのかつーんと棗くんに、須王が笑ってあたしにこそこそと耳打ちをした。

「……照れてるんだ。こっちに来い」

 あたしを連れて棗くんのところを立ち去り、そして須王に言われるがまま、影から棗くんを見た。

 ちら。

 棗くんは置かれたままのブレスレットに目を向けて、頭を横に振って書類を見る。

 うう、惜しい。

「大丈夫だ。興味津々だよ、あいつ」
 
 その数十秒後、不意に手を伸ばして効能カードを手に取り、それに目を通して元合った場所に戻し、また書類内容を見つめる。

「もうこっちのもんだ」

 須王が笑って言ってから、さらに数秒後。
 棗くんは書類を見たまま手を伸ばして、ブレスレットを手に取り、手首につけてくれた。

 ……なんだろうね、我が子が初めて歩き出したようなこの感動。

 つけたのを見た棗くんが嬉しそうに笑ったのを見て、あたしは須王と両手を叩き合った。あたし如きでは棗くんのツンデレに敵わない。

「あいつ、仕事以外に皆でお揃いというものが初めてなんだ」

「須王とお揃いは、ないんだ?」

「男のお揃いは気持ち悪いだろ」

 確かに。女の子なら、小者とかをお揃いにしてきゃっきゃするかもしれないけれど、それがどんなにイケメンであっても、男同士なら異質だ。

 初めて須王とお揃いの、仲間の印。
 棗くんはなにを思うだろう。

「棗姉さーん、棗姉さんはどんなの、見せて!!」

「ジャーン。いいでしょう棗、私のピンクの石はより女性的なのよ」

 ……最初はとってもうるさそうに追い払っていた棗くんだったけれど、やがてふたりのブレスレットと、彼のブルールチルのブレスレットを見比べるようにして、はにかんだように微笑んだ。

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