転生しました。

さきくさゆり

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第三章

なんて生徒だ……(クーテ=クアル先生視点)

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 初めてパストのことを聞いたとき、私はこんな生徒だとは思っていなかった。

 前代未聞の学科オールS。
 魔力無しでも腐ることなく、勉学に励み、奨学金を得て高等まで上がってくるその姿勢。
 きっと素晴らしい大人びた生徒がくるのだろうと期待した。


 入学式の日、教室を見渡すしながら自己紹介する。

「クーテ=クアルだ。一年間、君達の担任になる。何かあれば遠慮なく申し出てくれれば必ず助けになろう」

 そう言うと、まばらな拍手が響き渡る。
 正直、悪くない。

 拍手している生徒の中に、金色の髪を短く刈り上げた男子生徒がいた。
 その時は、きっとこの男子生徒なのだろうと思ったが、自己紹介でその男はチェニックと名乗った。

 なんだ違ったか。
 まあ、よく見れば少し子供っぽすぎるな。
 というか両側にいる女生徒は何故あんなにくっついている。
 えーと……リーシャとナナか。

 離れろと言うと、渋々と言った様子で離れる。
 全く……。

 そして、自己紹介があと少しで終わるというところで、立ちあがった生徒。
 金髪の髪の毛を適当に伸ばし、制服をだらしなく着た男子生徒。

「パストでーす。よろしくー。おわり」

 私は耳を疑った。

「え?パスト……君がパスト=オリガか?」
「はい、そうですが。会ったことありました?」
「い、いや、無い。まあ、座っていいぞ」

 首を傾げつつ座る。
 傾げたいのは私の方だ!
 なんだこの生徒は!
 なんてだらしない!
 そして、その目!
 なんて目をしている!
 死んでるなんてもんじゃない!
 死、そのものと言っても過言ではない程に、濁りきってるではないか!
 この男が学科オールS?!
 ああありえん!

 そう思っていたが、この男。
 勉学に関しては文句無しの成績だった。
 むしろこちらが教わる時すらあった。

そして、魔法に関しても、身体強化は他の生徒の誰よりも上手く、私と比べても遜色無いくらい見事なものだった。

これでも、学生時代はギルドに所属していて、かなりの実力者だったと自負しているし、今も衰えるどころかさらに研鑽されていると思っていたが……。
パストの身体強化を見て、これは少し修行しなおすべきかと真剣に考えた。


 そんなパストのことが少し気になり、少しだけ調べてみると、やはりと言うべきか、街での評判は悪くない。
 愛想が悪いし、事務的な会話しかしないらしいので、特別仲がいいという住人はいないが、仕事は正確でなおかつ速い。
 なので、街ではちょっとした有名人的な扱いらしいが、本人はその辺をどう考えているのか。

 逆に学内での評判は頗る悪い。
 特に中等学園に知り合いがいる生徒は「親に迷惑をかけ続けている穀潰し」という噂を広めているようだ。

 どう見ても迷惑をかけているとは思えないのだがな。


 入学式が終わって二ヶ月後。
 私は頭を抱えていた。

 遠征試験の為に五人以上のパーティを組めと言ったはずが、パストだけ自分の名前のみを書いて提出してきていたのだ。

 それに気づいたのは遠征試験二週間前。
 私は担任なのに知らなかったのだ。
 パストには友人どころか話せるような人自体が学園にいないことを。
 教師失格だ……。

 慌ててパストを探すと何故か旧校舎と本校舎の間の通路を歩いていた。
 なんだ、珍しく上機嫌だな。
 口笛なんて吹いている。
 こうやって見るとなかなか可愛いところもあるでは……じゃない今はそんなことよりも!

「パスト!」
「あ、先生。こんなところで奇遇ですね。どうしました?」
「どうしたもこうしたもあるか。討伐遠征試験のことだ。まさか一人でやるつもりだったのか?」
「討伐遠征試験?え?一人でやりますけど」

 私は頭が痛くなった。
 いや、知らなかった私が悪いのかもしれないが……。
 だが、今はそういうことを言ってる場合ではない。

「おかしいなパスト。確か私はクラス長に五人以上のパーティを作って紙に書いて提出するよう全員に伝えさせたはずだが?」
「先生、クラス長に言っても伝わりませんよ。俺はクラス長どころかクラスの人々から忘れられた存在と化してるんですから」

 ……は?

「……お前この二ヶ月間学園にいたよな」
「失礼な。無遅刻無欠席の皆勤賞です先生」

 それは担任である私が知っている。
 まさか、クラス内でそこまで浮いた存在になっていたとは……。

「まあいい……。とにかくお前だけ討伐遠征試験のパーティが決まってないんだ。どうするつもりなんだ?」
「今さらですか?しかも俺のせいじゃないのに俺が頭下げるんですか?」

 まあ、確かにこれは私の責任でもある。
 いや、私の責任だ。
 もっと生徒一人一人に向き合っていればこんなことにはなっていなかった。
 だが、自分のことを棚に上げるようで悪いがな。

「お前が友人を作らないのが悪い」

 あえてこう言わせてもらおう。
 いじれられる方にも原因があるとは言わないが、この男はいくらなんでも周りに関わろうとしなさすぎる。

「クラス長には言っておくからとにかく入れてもらえ」

 とりあえずは、選り好みしなさそうなあのチェニックの中に入れてしまおう。
 もしかしたら何かいいことがあるかもしれないからな。
 まあ、あの周りの女生徒が少々問題だが……。

「一番嫌なんですけど。どうせパーティってことはあいつとその他ハーレムメンバーなんでしょ?嫌だよそんなとこに入るの。なあ先生、俺はギルドで討伐も遠征も経験あるんだし一人で行かせてよー。最低限の点数取れればいいからさあ。頼むよー」

 それは知っている。
 魔力無しのはずが何故かとんでもない実力の持ち主だということも。
 だが、この試験に関してはそれでは駄目なのだ。
 パーティで挑むというのがルールとして定められているのだから。

「うるさい。とにかくだ。クラス長には言っておくから、そのパーティに入れ。経験あるんならお前が色々と教えてやれ」
「もっと嫌だよ!あいつらのパーティどんななのか知ってて言ってるの?!パーティ全員から好意寄せられてるのに気づいてない上、女子どもは蹴落としあいしてんだよ?!あんなとこに俺が入ったら何されるかわかんねえよこええよ……」
「とにかく決まりだから。以上」

 私はチェニックにパストのことを話しに行った。
 何か言っているが聞いていてはキリがないからな。

 チェニックは教室にいたのですぐに要件を済ませる。
 すぐにチェニックは走り去っていった。
 ……行動的なのはいいんだが、少し馬鹿なのがなぁ。


 *****


 遠征試験の報告をしているパストを呼び止め、楽しかったか聞くと、ウンザリした顔をしつつも満更でも無さそうな様子だった。

 友達ができたようで嬉しいよ。

 これで、学園生活も楽しく過ごせるだろうと、この時私は安心しきっていた。
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